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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十三章 魔獣と精霊

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千三百三十四話 正義と悪

 味方のフリをして情報を流したり、戦闘員に紛れ込んで和睦の使者を撃ったり、金や権力をチラつかせて裏切らせるのは、紛争や政治を意のままに操ろうとする悪の常套手段だが、これを正義がしてはいけないなどというルールはない。


 というか実は正義も同じようなことをおこなっている。


 メタい話をするなら敵の人柄や悪事を知る必要があるので情報収集も兼ねて敵のアジトに潜入し、子供を助けるために不意打ちし、過去に出会った者や所持品が実はすごく重要なものだったり『絶対助けてやる!』的なセリフで気持ちを動かす。


 そこにある意志の問題だ。


 ただ人の想いほど難しいものはない。


 創作物であれば明確な善と悪が存在するし、正義が勝つことが多いし、ハッピーエンドになることが多いが、現実はそこまで甘くない。敵か味方か最後まで判断出来ないこともある。これ等を悪にやられて正義が負けることも多い。


 創作物なら法では裁けない悪の権力者を暗殺したり、自分や親友を見殺しにしたパーティメンバーを不幸な目に遭わせたり、己の正義を貫くために悪に手を染めるダークヒーローと化すが、これも現実では難しい。


 人の欲望は果てしない。悪は栄えるものなのだ。例え1つの悪が滅んでも必ず次の悪が生まれる。そしてそれは必ず強くなる。失敗から学ぶのは正義だけではない。バレないように、悪と呼ばれないように、ルールを作り変えていくのだ。


 そんな悪に対して正義は変わらない。


 ペンは剣より強いという言葉は、大衆心理を制した者が強いという世情を指す言葉であり、正面からぶつかると大なり小なり被害が出てしまう悪は持てる力のすべてを使って真実を隠そうとする。


 強くなる悪と変わらない正義。


 どちらが勝つかは言うまでもないだろう。


 悪は滅びないし、正義は負けるし、ルールはいいように使われるし、どれだけ正しさ訴えても誰も反省なんてしない。表に出るのは憶測のみ。真実は闇の中。


 それが現実。


 怒りを買うような露骨な悪政ならともかく、ちょっと理不尽だけどまぁ仕方ないかな程度の圧政なら受け入れられる。何故なら世間は勝者を歓迎するから。面倒事は御免だから。楽、大歓迎。


 例え世のため人のためになろうと自分が苦しむならやらない。


 それは当然の倫理観と言えよう。


 支持を得るために必要なのは如何に世間を騙すか。如何に不満の矛先を自分から逸らすか。


 そのために必要なものが悪。


 そのために利用されるのが力無き者。


 正義が悪の常套手段を使えるように、悪も正義の常套手段を使うことが出来る。情報を流している者は大体悩みを抱えているので解決して改心させたり、スパイの証拠を見つけて王や民衆に伝えて「なんだそうだったのか」と納得させたり(訊いてもいないのに自ら進んで語る場合もある)は、正義の専売特許ではない。


 気に入らない者達を反逆者に仕立て上げ、自らの罪と共に闇へ葬り、『今後こういうことがないように~~』『私こそが正義だ!』と悪が栄えるための礎にする。


 ダークヒーローはうってつけの存在だ。


 悪代官として世間から非難されていた者でも、それ以上に悪を滅ぼすために頑張っていたことにすれば死後英雄になれる。命からがら逃げ延びた者がダークヒーローを名乗ることも出来る。罪を擦り付ければ悪は正義になれる。


 そんな世の中が俺は嫌いだ。




「正義のためのおこないだろうと悪事は等しく裁かれるべきだし、そういった容赦のなさが悪の芽を摘むことに繋がると思うんだよ、俺は」


「そ、そうか……」


 ケータイを弄りながら店から出ると、子供の胴ほどもある太い二の腕に何のマークかはわからないが入れ墨を入れたゴロツキAがたじろぐ。


 俺は気にせず話を続ける。


「ダークヒーローの中には悪者の子供や甘い汁を吸っていたモブ、それによって生まれた新たな悪に苦しめられている村人に殺されたりもするけど、お涙頂戴の美談になることが多いじゃん。

 襲われる時のセリフはこうだ。『お前さえ……お前さえいなければ……っ!』。

 そして9割方こう返す。『へ、へへっ、やっぱ悪いことはするもんじゃねえ……な……』。で、腹から血を流して絶命」


「よ、よくある展開だな……」


 ゴロツキAほどではないがはち切れんばかりの筋肉をしたゴロツキBも狼狽えながら返答する。


 別に求めていないが嫌悪することでもないのでこれも無視。


「でもこれって悪がやってもいいわけじゃん? 襲われたことにしたら次の争い始められるし、証拠でっち上げたら邪魔者潰せるじゃん? しかも本人外国でのうのうと暮らしてたりするよな? ああいうのってホント嫌いだわぁ」


「「…………」」


 淀みなく歩を進める俺に対し、2人は助けを求めるように周囲に目をやり、しかし全員から目を逸らされて絶望した顔になる。


 質問を投げ掛けているわけだし、これまでで一番返答しやすい内容のはずだが、答える様子もない。


「まぁそれはそれとして、やっぱ力に頼らないとどうしようもないことってあるよな。自分が正しいと思ったことをするために外敵を排除するのって当然じゃん? そん時に自分は正義って言いたいじゃん?」


「つ、つまり……?」


「な、何が言いたいんだ……?」


 2人は辛うじてといった様子で言葉を絞り出す。


「ふっ……あくまで白を切るつもりか。いいだろう。この場で言ってやるよ」


 俺は深く深呼吸して、ゴロツキ共を睨み、ビシッと指を突きつけ、


「お前等が魔獣を操って悪いことしてることなんてお見通しだ! その責任を俺達や魔獣を擁護する連中に押し付けてることもな!」


「「「…………はい?」」」


 ゴロツキ以外にも何人か首を傾げた者がいた気がしたが一旦置いておこう。


「お前等の計画はこうだ。まず魔獣を擁護する連中を潰すために、町中で魔獣を暴れさせて大衆に魔獣は悪だと思わせる。ただいくら嫌悪しても力がないからどうしようもない。拡大する被害。壊される平和。親とはぐれ、巨大なドラゴンに食われそうになる子供。命を諦めたその時、颯爽と現れた正義の冒険者がドラゴンを瞬殺!

 町を救い、実はすべて魔獣を擁護してる連中によって引き起こされたことを伝え、皆で屋敷に乗り込むとそこには魔獣を意のままに操ったり強化する魔法陣や機械、そして魔獣被害によって失われたと思われた宝の山が。彼等が魔獣を擁護していた理由は自分達の役に立つから。

 ――と見せかけて、本当は自分達がしたかったけど先を越されたから、邪魔者を消すついでに魔獣にヘイトを向けて、戦乱の世でがっぽり金儲けって寸法だろ!」


「それお前だよな!? 擁護団体の部分を俺達アンチに変えたらまんま同じこと出来るよな!? ケータイでどっかに連絡してたよな!? 手回ししてたよな!?」


 まるで謂れのない批難を浴びたかのように吠えるゴロツキA。


 下っ端過ぎて知らない可能性もあるが、個人的には自分の信じたもの以外の正義を認めない盲信者な気がする。宗教と同じ。アンチ共に色々吹き込まれたのだ。


「魔獣が悪っていう意識は薄れる。子供を助けたのが魔獣なら、良い魔獣もいると思わせることも出来る。矛先は全部アンチに向く」


「こらこら、ニーナさんよ。キミはどっちの味方なんだい」


 ガラス戸なのでまったく意味はないが、扉に隠れるように顔を出したニーナが、いつものように淡々とアンチがおこなった場合について語り始めた。


 ゴロツキ2人も納得するように頷く。


 ちなみに上辺だけの出来事じゃ騙されないヤツもいるだろうから、アンチ共を洗脳して「な、何故ここがわかった! クソ! こうなったら貴様等諸共道連れにしてやる!」と言わせようなんて微塵も思ってないし、屋敷に仕掛けておいた爆弾のスイッチを押そうとするアンチの胴体を真っ二つに切り捨てれば円満解決だなんて考えたこともないよ。


「――だって」


 自分の姿が俺で隠れないよう、先程より若干首を伸ばしてゴロツキ共と目を合わせ、言葉を紡ぎ出す。


 こらこら、ニーナさんよ。会話に参加しやすそうだからって理由で敵側につくのはまだ許せたけど、読心術で俺の考えを読み取って暴露するのは流石にダメよ。


 基本的人権の1つ『思想の自由』を侵害してる。


「否定してるじゃん。考えたことないって言ってるじゃん。そういうことするヤツ嫌いって言ってるじゃん」


「ゴミ処理になら問題ないと思ってる」


「いやだって実際邪魔者っていうゴミだし。もちろんお前が言ったようなことはやらないけどね。あくまでそういう認識ってだけで」


「なにさらっと怖いこと言ってんだよ! 生きてるよ! 俺達もお前と同じ人間だよ!」


「生物学上はそうかもしれないけど危害を加えようとするゴミに優しくする必要とかある? それも信念もなく金のために動くようなヤツを」


 場の空気が完全にこちらに傾く。ゴロツキ共ですら『そ、それはそうかもしれないけど……』と反論する術を失っている。


 慌てている連中は全員敵と思っていいだろう。


(2……3……3人か。今夜王都から消える人数は)


 慌てているのは自分が悪者になることを恐れているだけ。数で圧倒されるのを恐れているだけ。彼等の倫理観は魔獣排除で一貫している。


 これがどうしようもない悪というやつだ。



「もうビビってくれなんて贅沢は言わない! せめてこの場だけで片付けてくれ! 手口がガチなんだよ! 全然子供っぽくないんだよ!」


「あ~、用心棒として名乗りを上げてお前等とバトったり、ネット界隈を荒らしてるそこの連中を口八丁手八丁で吊し上げたり、魔獣アンチ側のベーカー商会を巻き込んで料理勝負したりしろってか?」


「そうそう」


「わかってるじゃないか」


 獲物を狙う獣のような目をしていたのか、震えながら頼み込んでくるゴロツキBに免じて空気を和ませると、2人はようやくまともに話が成立したことを喜んだ。


 まぁありがちな展開だ。盛り上がるし嫌いじゃない。


「だが断る」


「何故!?」


「めんどい」


「そこをなんとか!」


「帰宅時間が迫ってる」


「保護者には俺達が説明するから!」


「それは無理だ。竜車の時間だ。遠方に帰るんだ」


「ならさっさと行ってくれ! 俺達とマクモス商店で続けるから! もちろん裏工作も無しで!」


「そうそう。魔獣被害なんて出ないに越したことないだろ? な。頼むよ。俺達の顔を立てると思ってさ」


 何故見ず知らずのゴロツキの顔を立てなければならないのか疑問に思わずにはいられないが、被害者が出ないに越したことはないというのはたしかにその通り。


 この策は魔獣を恐れる者が多少なりとも出てしまう……って実行するつもりないけどね。認めないけどね。


「人聞きの悪いこと言うな。名誉棄損で訴えるぞ。そういうの嫌いって言ってんだろうが」


「うんうん」


「そうだね」


 なんだその孫を見る年寄りみたいな目。ムカつくわぁ。

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