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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十三章 魔獣と精霊

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千三百三十一話 1000年祭完結編10

 建国1000周年という歴史的瞬間を祝う祭りをしている王都中央。


 ニンニク増し増しの背油こってりラーメンに限界までチャーシューと煮卵をトッピングしたような、どう考えてもカロリーの高い場所で、俺達は目立っていた。


「マクモス商店自慢の新作。ご賞味ください」


「さい」


 売り子または客引きとしてあってはならないローテンションで宣伝文句を口にしているのは、イブとニーナのクーリッシュペア。


 こういうのは勢いが大事。


 いくら見た目が良くても客のソウルに響かなければ購買意欲は湧かないし、そもそも耳に届かなければ素通りされてしまう。愛嬌があるわけでもない。指示された通りのことを淡々とこなしているだけ。


 他のところが頑張らなければ、このマイナスを帳消しにするほどの魅力なコンテンツがなければ注目を集めることは難しい。彼女達は居ても居なくても一緒だ。


 ――となるのが一般的な売り子事情だが、前回も語ったように容姿とはすべてを超越し得るもの。この賑わいのほとんどが彼女達のお陰だったりする。


「え? あの2人ヤバくね? マブくね?」

「ああ。なんか神々しいぜ。見てるだけで元気になる」

「てか普通にナンパしたい。結婚したい」


 購買意欲? 素通り? そんなものを気にするのは二流だ。一流は何もしなくても注目を集められる。超一流はやること成すことすべてが感動に繋がる。


 具体的な話をするなら、美少女コンテストに応募するのが二流で、都会をうろついてスカウト待ちするのが一流で、噂が広まって地方までスカウトに来てもらえるのが超一流。スポーツなら地方大会で負けたけどプロ入りするヤツ。


 言うまでもなく超一流の容姿をしている彼女達は、白いエプロンと紺のワンピースというシンプルな給仕服にもかかわらず、ひと目見ようと次から次へと人が集まってくる。


 精霊術による演出も相まって凄まじい注目度だ。


(主にそちらですね)


(でもこれは彼女達の地の力あってのものだと思うんですよ。魅力って掛け算だと思うんですよ。美人力1や2の雑魚がどれだけ着飾っても素の彼女達の足元にも及ばないし、神々しさはブサイクが放ったら怒られるものだと思うんですよ)


 俺は心の中でフィーネからのツッコミに応戦する。


 好みは人それぞれだし、時として二流が超一流を上回ることもあるが、その多くはマニアック……すなわちここしかないという弱点を突いたことによるもの。


 ただその作戦は諸刃の剣だ。


 エロを前面に押し出せば楽に男の支持を得られるだろうが、女子供からは間違いなく嫌悪されるし、やり方次第では男からも引かれる。


 全方位からの支持を集めるならばエロより清楚系。嫌悪されないというだけで、他の集客要素の邪魔にならないというだけで大きい。彼女達はそれ。


 美人は3日で飽きるなんて言葉はブスの負け惜しみだ。このことわざは『ブスは3日で慣れる』に換えるべきだ。そっちの方がポジティブだろ。


 これを見た後ではミニスカートや胸元ぱっくりのメイド服なんて……いや、まぁそれはそれでありだが、これはこれでありだ。味噌ラーメンとそうめん。どちらが上か決めるなんてナンセンスとしか言いようがない。味の濃さや温冷なんてその日の気分次第。絶対の順位など存在するわけがない。


 そして人間というのは数の力に弱い。


 行列が出来ていれば「さぞ美味しいんだろうなぁ~」と勝手に盛り上がるし、人だかりが出来ていれば「メチャクチャ面白いことやってるに違いない!」と興味をそそられる。


 中には「ふんっ、俺は流行りなんかに流されないぜ」と賑わっているが故に興味を失う者もいるが、基本的には流されるし、逆張りした者もひと気が少なくなった頃にこっそり訪れたり裏で情報収集していたりする。


 つまり最初の数人を集めた時点で勝ち確。


 人だかりが人だかりを呼ぶ状態となる。


「でへへ……う、うまいな」

「うへへ……あ、ああ、うまい」

「ど、どうも……うまっ」


 そんな2人の集客力をさらに際立てているのが試食の存在。


 俺達が手伝っているはマクモス商会という最近人気になってきたハンバーガー専門店なのだが、そこの新作を彼女達が手渡してくれるのだ。


 正確には、2人が持っているお盆から一口サイズに切り分けられた超ミニミニバーガーを取るのだが、スプーンを口に入れた連中はまるで彼女達からあーんされたように、そしてお手製でも食べたかのように歓喜する。


 見目麗しいレジ係に釣銭を返す時に手を添えられてドキッとするアレと同じ。隣の席の女子が落とした消しゴムを拾ってあげて一瞬手が触れ合ってキュンとするのと同じ。道端ですれ違った女性の髪のニオイにソワソワするのと同じ。


 購入後も残っている客の多くは、これと、時々サービスタイムで売り子をするイブ達との交流を楽しみにしているように思う。


 メイド喫茶的なノリだ。


 絶世の美少女に試食を勧められて、美味しくて、感想を求められた後にすることなんて、気持ち悪い笑みを浮かべながら感謝して店先に並んだ商品を一通り買うこと以外にありはしない。


 容姿・精霊術・場の空気・早く買わないと売り切れるかもしれないという焦燥感など、様々な相乗効果が生まれている今の状況ならホモや年増好きでも落ちる。


「あの……しゃ、写真……いいですか?」


「バッ、あの立て札見えねえのか!? 撮影禁止って書いてあんだろ! ロア商会に喧嘩売るとかお前正気か!?」


 彼等が暴走しない理由にして話題性に一役買っているのが、ロア商会が業務提携している店だから。


 このマクモス商店。どういう伝手かは知らないが、チェーン展開するにあたってロア商会の協力を取り付けたらしく、これまで使っていた香辛料をはじめ各種食材をより高品質に、安価に、大量に仕入れることが出来るとのこと。


 人気店が自信を持ってオススメする新作……しかも泣く子も黙るロア商会が協賛している品が不味いわけがない。高いわけがない。栄養ないわけがない。


 そして俺はともかく2人は素性がバレている気がする。王女や神獣という付加価値込みの賑わいな気がする。ロア商会が深くかかわっていることを証明するために手伝わされている気がする。


 もしかしなくてもフィーネがイーさんに無理言って労働させる流れに持っていったのだろうが、真実はどうであれ今更断ることは出来ないので気にしないけど。


「きゃはははっ! なにこの魔獣! へんなのー!」

「もふもふ! ものすごくもふもふ!」

「オラオラオラオラオラ!」


 だからどんなにうるさくても、どんなに殴られようとも、俺はこの着ぐるみを脱がないし脱がさない。言葉も発しない。マスコットになり切って愛想を振りまき続ける。


 見目麗しいイブとニーナが接客係を命じられたように、俺もマクモス商店のマスコットキャラクター『マッキーくん』の中に入ることを命じられた。


 言っておくが俺が美男だったとしてもこうなっていた。男の客を呼び込むには美女が効くように、子供の興味を引くにはマスコットが効果的なんだ。


 ……なに? 奥様方を呼び込んだ方が早い? リピーターになってくれる? 女子もカッコいい男が好き?


 ………………。


 …………。


 このマッキーくんというマスコット。


 聞いた瞬間、二足歩行のネズミを思い浮かべたが、ロア商会と同じく商品にちなんだ魔獣をモチーフにしたとのことで、ほとんどの商品のパティに使われている≪マクドモストカゲ≫という牛サイズのトカゲだ。


 詳しくは知らないが、背中に申し訳程度の羽根がついていることから察するに、トカゲというよりドラゴンに近い魔獣なのだろう。ただドラゴンの名を冠すると人類が勘違いするのでトカゲにしていると予想。


 そしてこれは仕方のないことなのだが、着ぐるみは動きやすさより見た目を重視しているため、マクドモストカゲだとひと目でわかるよう四足歩行っぽさを出すために手足は短く作られており、パタつかせることしか出来ない。


 ぶっちゃけ動きづらい。


 俺に出来るのは両手を団扇のように動かすこと、歩幅10cmのよちよち歩き、首(というか上半身)を左右に振ることの3つのみ。


 前後の動きすらダメ。頭が外れる。着ぐるみは構造上どうしても縦の動きに弱くなる。左右は肩で支えられるが前後は手と重心でしか支えられない。しかも見栄えの問題で顔の出っ張りが激しいので重心も基本ぐちゃぐちゃ。指先一つでパージしてしまう。


 そうならないために両手は基本顔。腹や背中をガードしたらトサカを後ろから引っ張られてアウトだ。やるとしても片手。この歩き方やポーズ可愛いしな。win-winの関係ってやつだな。これで納得するのは社畜か搾取され慣れた大人だけだろうが。


 一番の対処法は逃走だ。


 触れ合いの順番を譲らない子供達の間でも抗争が起きるので、アピールついでに新規団体様のところへ行くのが吉。



 とてとてとて――。


「わっ、わっ、こっちきた!」


 ばたばたばた――。


「手をふった!」


 そうすると大半の客は大喜びしてくれる。


 中には心無い言葉を放ったり表情を浮かべる者もいるが気にしてはダメだ。これも仕事。10人からバカにされようと1人を喜ばせられたら満足な価値観を持とう。


 俺が愛くるしい動きをすればするほど、マッキーくんのグッズ需要は増え、オマケ目当てでセット品を欲しがる子供が量産されるはず。



 以上4つの策に加え、単純に味も良いので、俺達の周りは大賑わい。防壁撤廃宣言前にも負けない人だかりが出来ている。


「マクモス商店自慢の新作……ご賞味ください……」


「さい……」


 イブとニーナの目が死んでいっているが気にしない。労働とはそういうものだ。金を用意出来なかった俺達が悪い。あと40分の我慢だ。


 あと、これは秘密だが、そんな2人を見てニンマリする俺がいる。


 美少女の困り顔って良いよね。それが正しいおこないによって起きるものならなおのこと。金がないなら体で払うしかないもんね。うんうん。仕方ない仕方ない。

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