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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十三章 魔獣と精霊

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千三百二十八話 1000年祭完結編7

 30分におよぶ試着祭りの末、示し合わせたかのように最初と最後のコーディネートを採用したイブとニーナは、服をそのまま着て帰る時間効率ムーブを実行。


 値段やら流れやら色々と気を遣われている気がしなくもないが、否定するのも違うし有難くはあるので、俺は何も言わずにそれ等の商品&商品タグをレジ台に乗せた。


「ん……っと……はい! 以上6点で銀貨8枚、銅貨3枚になります!」


 実家の手伝いか見習いか、俺達が入店してから一切レジから離れなかった十代前半の少女は、たどたどしい手付きで値札に書かれた数字をレジに打ち込み、表示された値段を元気よく読み上げる。


 責任感からくる緊張が滲み出ているので、おそらく新人。


 電卓すら存在していなかった頃に、レジスターを目の当たりにした知人達を彷彿とさせる光景だ。猫の手食堂では約1名ほど現在進行形でこんな感じだが。


 同僚から間違いを指摘されるまでがセット。混みあっていてそれが出来ない時は、精霊が代わりに注意したり、常連が表示された値段を無視して正しい金額を支払ったりしていると聞く。


 そして俺の目の前には、ニー……彼女と同じ間違え方をしようとしている少女が1人。今回は大丈夫だが今後会計ミスが起きる可能性が高い。


 俺は、売上アップとレジ打ち成功、2つの意味で微笑む少女に問いかけた。


「なぁ、バーコードは使わないのか? そっちの方が早いし確実だろ?」


「え? あ、えっと……」


 客からの突然の質問に戸惑う少女。


 思った通り新人のようだ。ニーナのように年齢詐欺でもなさそう。接客に慣れている者なら即座に答える。上の判断を仰いだりもしない。


 ――という少女の考察はさて置き。


 この雑貨屋で使用しているのは、台の上を通すだけで商品情報をスキャン出来るタイプのレジではなく、小型のスキャナをバーコードに当てて読み取るタイプ。手打ちのレジもあるにはあるが、彼女の手元に読み取るための機器がある。商品タグにも値段と縞模様状の黒線が混在している。つまり読み取れる。


 見習いなら頼らないのはおかしい。


 ロア商会の製品ではないので確かなことは言えないが、壊れた時のための交換品も売っているはず。連絡すれば修理しに来てくれたりもするだろう。そのための費用すら捻出できない店にも見えない。


「手打ちの方が楽な時もある」


「それはそうだけど毎日のように注文ミス・会計ミスしてるヤツに言う資格はないな。お前のためにどれだけ改良加えてると思ってるんだ。そろそろ使いこなせよ。もっと楽な方法があるって理解しろよ」


「わたしは初心者代表。わたしが使えるなら全員使える。品質の向上に必要な情報を提供してるわたしに感謝するべき。今のシステムはまだまだ改善出来る」


「ボタンを押し間違えるからメニュー表から直接読み取れるようにしたのにそれでも間違え、表示された商品名を読み上げるっていう基本作業も怠り、常備してるハンドスキャナに配膳場所を表示させても商品名を覚えてないから間違え、料理人達が『○○番席に運んで』と指示しても途中で呼び止められたら忘れ、簡易レシートを読み取るだけの清算作業すら失敗する無能のためにこれ以上何をやれと?」


「全自動化」


「それもうお前要らないじゃん……マスコット兼用心棒として店内練り歩いてるだけで良いじゃん……」


 いや、それは今もだけど。失敗に気付いて落ち込んでる姿は需要あるから良いんだけど。


 あと実現すると雇用問題が深刻化しそうだからやらないけど。てか出来ないし。セルフレジがせいぜいだ。それも事務的に会計するスーパーやコンビニだけ。いくら効率的で安上がりだからと言って、ユーザーの意見や感想を得られる貴重な機会を奪うのは違うからな。



「あのぉ……」


「あ、ああ、悪い。話を振っておいて無視はないわな」


「ならわたしも無視しないで」


「バーコードスキャナを使わない理由でもあるのか?」


 なんやかんや理由をつけて実現しないお前に非がある、と責任転嫁も甚だしいことを言ってくる無能ニーナを放置して、レジ担当の少女に意識を向ける。


「使いこなせなくて……」


「お前もかーい!!」


 盛大にズッコケたものの、ニーナと違って働き始めてそんなに時間は経っていないようだし、今後の成長に期待するに留める。


「あ……ち、違いますよ? 普段はちゃんと使えてるんですよ? ただ先日壊れてしまって……」


 心の中で応援する俺。仲間意識を持つニーナ。我関せずで商品タグを切り離しつつも早く店を出たいという空気を纏うイブ。何事かと注目する先輩従業員と客達。


 誰の視線かは不明だが、誤解されては堪らないと少女は慌てて言い訳を始めた。


「先輩は使い過ぎだろうって言ってました。新しいのを買おうとしたらしいんですけど、どこも売り切れてて……」


「あ~、なるほど。1000年祭で需要や使用頻度が増えたり、長距離移動で壊れたりしたのか。素材不足で供給が追い付いてないとかもあるかもな」


 納得の理由だ。


 少しの間売上集計や流行り廃りの把握が面倒にはなるが、レジ係として問題ない能力を持っているようだし、支払い金額が間違っているわけではないので、俺はそれ以上追及することなく金を差し出した。


「直してあげないの?」


 接客業に従事していた者のクセというか会計時のマナーとして『硬貨を種類別にまとめる&見やすいように広げる』をおこない、少女が数え終わるのを待っていると、首元についている商品タグをイブに切ってもらっていたニーナが不思議そうに尋ねてきた。


「俺は修理業者じゃない。偶然立ち寄った店で問題に直面したからって、時間があれば解決することを解決するほどお人よしでもなければ暇でもない」


「袋詰めしてる間に終わる」


「……まぁ出来なくはないけどさ」


 ハサミを返すついでに身を乗り出してレジスターの全体像を眺めたイブが、自分はやらないけど、と言わんばかりの様子で進言。


 俺は溜息と共にレジを凝視し、コードの接触不良もスキャナ内部の魔法陣欠損も、糸と紙……というか商品タグ一式で代用して短時間で直すことが出来ることを悟り、2人の提案を受け入れた。応急処置だが十分だろう。


「でもお支払いが……」


 別件(?)でロア商会の関係者だと言ったことが功を奏したらしく、少女は感謝・歓迎するような空気を出し、その直後戸惑った。


「そうだな。まずは会計済ませておいた方がいいな。あと責任者にも伝えておかないとな」


 例えボタン1つで保留と呼び出しが可能だろうと手間だし、レジ操作に慣れていない者ならリセットしてしまう可能性もあるので、俺は先にやるよう身振り手振りで促した。


 と、同時に件のエプロン姿の女性店員に視線を送る。


 今度こそ本当にかかわる時がきたようだ。


 まぁ二つ返事で許可を出してもらっただけなので語ることないんですけど……。



「6、7……はい。丁度いただきます」


 普段使わないレジの操作や臨機応変な対応は出来ずとも、定番の流れは慣れたもので、少女はレジ対応にありがちな間違いをすることなく会計を済ませた。


 金をレジに入れた少女が商品の袋詰め作業を始めると同時に、俺も修理作業に取り掛かる。


「デデン! ここで2人に問題! 今のシチュエーションで何をしていたら間違いだったでしょう!」


 某ターボ君のようにスキャナを固定しているネジを魔力で一斉に抜き、解体し、傷んだ魔法陣を取り去り、代わりに同じ性質を持たせた商品タグを挿入。


 硬化させた糸は接触が緩んでいるコードに突き刺し、そのままウネウネと動かして内部で結び、電線化して切り離す。


 ――という作業の傍ら、イブとニーナは袋詰めしてもらっている間の暇潰しに、クイズを投げ掛ける。


「硬貨の枚数を数え間違える」


「それは論外だ。もっとありがちなこと。お前以外で」


「丁度って言い方がよくない、とか?」


「ブッブー。ハズレ~。正解は、釣りが出そうな時は『お預かりします』で、返す金が存在しない時は『いただきます』と言うでした~」


 1回間違えただけで拗ねた上にそれっぽい回答が思いつかないアホの子と、良い線はいっているが世間知らずのお姫様故にやはりそれ以上の回答が出てこないイブをからかうように正解を告げる。


「だから『丁度お預かりします』や『~~からお預かりします』とかもダメ。どっちもお前はよくやってるけどな」


 ニーナを見てさらにからかう。


「『お預かりいたします』は?」


(あ~、そこに触れちゃうか……)


 もしかしたら食堂メンバーの誰かに教えてもらったことがあるのかもしれない。


 俺は頭を掻いて面倒臭さをアピールしながら、どういうことだと尋ねるような顔をする2人に、説明というか言い訳を開始した。


「諸説ある。ニーナが言ったやつの方が丁寧ではある。ビジネスシーンでは積極的に使うべきだ。ただどちらも間違いではないし、レジでそこまで丁寧にする必要があるかって考えたら、個人的には『お預かりします』の方がいいと思ってる。

 あとレシート。たまに『レシートのお返しです』っていうヤツ居るけど、レシートは返すもんじゃなくて渡すもんだから、『銅貨○枚のお返しとレシートです』や『こちらレシートでございます』でいい。これも丁寧過ぎるから個人的には前者推奨」


 まぁ『○○円とレシートのお返しです』はわかる。ひとまとめにしたくなるよな。たぶんその口癖がレシート単体の時も出てるんだろうな。


「お待たせいたしました」


「……レシートは?」


 流れ的にも会計的にもここで渡してくれるだろうと待っていたが、商品を渡されても出てこないとなると、もはや忘れているとしか思えない。


 念のために袋の中に入ってないことを確認し、家計簿の強い味方の行方を尋ねる。


「実はそれも壊れていまして……」


 もう知らん。



「というかそこは真っ先に直せ。値段や商品名の記載が定番化した昨今の世情では致命的だぞ。そんなんでよくこんなデカイ店やっていけるな。予備のレジぐらい用意しとけよ」


「あははっ、冗談です。あちらのお客様に『粘ればスンゴイ改良してもらえますよ~』『どれだけふざけても怒らないので図々しく行っちゃってくださ~い』と言われたので、つい……」


「あ、やっぱレシートいいんで、領収書ください。宛名はロア商会で。但し書きは『ユキのせいで修理させられた代』で」


「は、はぁ……」


 俺は受け取った領収書を紙袋の中に放り込み、そのまま無言でユキに投げつけ、イブとニーナと共に雑貨屋を後にした。

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