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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
八章 ユキ物語
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九十八話 隣町2

まさかの続編。

『懸賞金をかけられた凶悪な盗賊がダアト近辺に居るらしい』


 今度はそんな噂を聞きつけ、アリシアとユキは再び隣町のダアトへ足を運んだ。


「わぁ! アリシアさん、また会いましたね!」


「・・・・誰だっけ?」


「ボクですよ! バンです!! 先週ダアトを案内したじゃないですか!」


 すると今回も帰郷していた少年『バン』に出会った。


 数時間も町を案内してもらったにも関わらず、アリシアは彼の事を覚えていないようだ。もし1戦交えていたら忘れることもないだろうが・・・・。



「バンの知り合い?」



 そんな印象の薄いバンの隣には彼の友人だろうか? 結構年上の少女が居た。もう女性と言ってもいい年齢かもしれない。


「うん、ツグミ。学校の先輩でアリシアさんって言うんだ。こっちはメイドのユキさん。

 ・・・・(ボソッ)計画には関係ないから、その話はしないように」


「そう・・・・初めまして、バンの幼馴染で無職のツグミです」


 学校卒業後の仕事が見つからなかったらしく、今は家事手伝いをしていると言う。


 どうでもいいが、初対面の相手に言う事ではない。


 もしかしたらバンから2人がロア商会関係者だと聞いて『職を寄こせ』と、暗に言っているのかもしれないが・・・・。




 そんなバンとツグミにダアトを訪れた理由を話すアリシア。


 地元民なら隠れ家に最適な場所を知っていると思ったのだ。あわよくば盗賊の情報も欲しかった。


「・・・・ってわけで賞金首を討伐しに来たのよ」


「「・・・・・・」」


 普通ならここで『危険だから止めなさい』とか『何も知らないなぁ』となるはずだったが、話を聞いた2人は明らかに様子が変わった。


 バンに至っては、吹けもしない口笛を吹きながら自らの声で『ヒューヒュー』言っている。当然2人ともアリシアと目を合わせようとしない。


「何か知ってるっぽいですね~?」

「絶対知ってるわよね?」


 そう確信したユキとアリシアは2人を捕まえて尋問を開始。



「まって! バンはどうなっても良いから、私だけは助けて!」


「知ってる情報は全部話します。だから賞金は9:1で! もちろんボクが9!!」



 尋問するための準備運動としてアリシアが拳で風を切っていると、2人から最低な発言が飛び出した。


 そしてそんなお互いの発言が原因となり言い争いを始める。


「はぁ? アンタ、自分だけ賞金受け取ろうとしてんじゃないわよ!」


「ツグミこそ、なんだよ! 普通『私はどうなってもいいから、バンだけは助けて』だろ!?」


 2人は周囲を気にすることなく取っ組み合いの喧嘩へと発展。



「・・・・あれ? 実は関係者とかそう言うことじゃないの?」


 アリシアの予想では2人のどちらかが盗賊を匿っている、もしくは町ぐるみで情報を隠しているはずだった。


 だからこそ無理矢理情報を聞き出そうとしたのだ。


「「え? 金が目当てですけど、何か?」」


 一方的にバンを殴っていたツグミと、隙あらば胸を触ろうと頑張っていたバンが声を揃えて答えた。


 2人とも討伐目的。つまり盗賊の敵であり、アリシアの味方だと言う。ちゃんと有力な情報も持っているらしい。


 結局、戦闘がしたいだけのアリシアは賞金を受け取らないと言うことになり、2人は満面の笑みで協力を名乗り出た。当然ユキの分け前も無い。




 バンが仕入れた情報によると、どうやら盗賊のアジトはダアト近くの山の中にあるようだ。


 バンに言われるがままアリシア一行は獣道を進みつつ、その場所を目指す。


「そう言えば2人ともどうやって盗賊を捕まえるつもりだったの? 強そうには見えないけど」


 アリシアのパンチにビビって全てを白状するほど貧弱な2人なのだ。とても賞金首を捕縛できるとは思えない。


「噂を聞きつけた冒険者が来て、この書類にサインしてくれたら協力するって言うつもりでした」


 そう言ってツグミが取り出したのは1枚の契約書。そこには賞金の分け方について書いてあった。


「・・・・普通の事しか書いてないじゃない。これなら私達が来るまでに誰か居たでしょ?」


 分けたとしてもそこそこの金額になるので、冒険者なら飛びついてきそうだ。


 さらに言えば盗まれた金品なら持ち主に返されるが、大抵の場合わからないため賞金と共に討伐者の物になる。もし持ち主が見つかったとしても金持ち貴族に恩を売れるのでメリットは計り知れない。


「いえいえ、アリシアさんも騙されてますよ。よ~く、よ~~く! 見てください。ここです」


 バンが指さす書面に目を凝らすアリシア。


 そこには豆粒のような小さな、本当に小さな字で『賞金は受け取らない』と書いてあった。


 読みにくくなっているが、要はこれ『ボランティアをします』という契約書。


「詐欺じゃない!」


「いえ、契約書を隅から隅まで読まない人が悪いんですよ。それに困っている人々のために奉仕する心も大切でしょ?

 冒険者は町民を救って感謝される、私達は金を受け取ってウハウハ。ほら素晴らしいことだらけ」


「ちなみに今までボク等が協力していなかったのは、バカで強そうな人が見つからなかったからです。ぶっちゃけ騙されてくれる人ですね」


 いけしゃあしゃあと自分は何も悪くないと言い出すツグミ。そして賞金のために平気な顔して人を騙すバン。


 なかなか気の合う幼馴染のようだ。


「そもそも金が無いのだって私を雇わない連中が悪いのよ。学校の成績が下の下だった私の希望条件が、初任給が金貨3枚、イケメンだらけの職場で3食昼寝付き、やりがいがあって、でも厳しくない楽しい仕事ってだけなのに。

 ちょっと難しい条件かもしれないけど私は妥協したくないの。だから誘いは全部断ったわ。今は理想の職場が生まれるまで待っている人生の待期期間ね」


 前代未聞の好待遇、ロア商会より条件が厳しかった。


 いくら待ってもそんな職場は出てこないだろう。あるとすればロア商会が発展して大商会になった時だ。


「ボクはそんな彼女の事を愛しているんです。結婚相手の条件は年収金貨100枚って言うので、こうして日々お金儲けに励んでいるわけです」


『愛する女のために金を稼ぐ』


 言葉にすれば立派なのだが、やっている事は犯罪ギリギリの行為で、彼自身も悪びれた様子も無いので根っからの詐欺師なのだろう。


 まぁお似合いのカップルである。




「あ、あれじゃないですか~?」

 

 詐欺コンビに納得のいかないアリシアとは違い、特に気にした様子の無いユキが洞窟を発見した。


 情報通りならあそこが盗賊のアジトなはずだ。


「「ィヤッホーッ! 金だ、金だーー!!」」


 罠があるなど微塵も思わない守銭奴の2人が飛び出していく。


 おそらく自分達が怪我するようなら護衛のアリシアに損害賠償を請求するのだろう。むしろそれ目的で飛び出した可能性すらある。


 アリシアとユキが盗賊達を捕えている間に、彼らが貯め込んでいるはずの金品を品定めするつもりなのだろう。


 まさに守銭奴、金の亡者。


 どこかの食堂ウェイトレスと気が合いそうだ。


(私はお客様に満足してもらってるよ~。一緒にしないでね~)


 何か聞こえたが気にせず話を進めよう。



 戦闘素人の2人が飛び出してしまったので、一応護衛のアリシアとユキも着いて行かざるを得ない。


「「ギャー! 落とし穴ぁぁぁあああぁあ!?」」


 そして当然、罠にかかった。



「水のクッションです~」


 ユキが慌てることなく魔術で落下ダメージを防いだので全員無事である。


 彼女なら落とし穴に落ちる前に3人とも救出することも出来ただろうが、今回はあくまでフォローに徹するようだ。


「ど、どどどどうしましょう!?」

「こ、こここ殺される!?」


 護衛が居れば安全だと思っていたので、想定外の事態に陥りワタワタと落ち着きのないバンとツグミ。


「ぼ、冒険だわ・・・・私、今、冒険してるわ!!」


 そんな慌てる2人とは違い、『敵の罠にかかりピンチになる』と言う体験をしているアリシアはテンションが高い。


 強敵とのバトルも楽しいが、こういう知的な脱出劇にも憧れているようだ。



「ここを知られたからには生かしておけんな」



 侵入者が罠に掛かったのでやってきた、これまた典型的な悪の盗賊達が落とし穴を覗き込んでいる。


 少数精鋭なのか、他の仲間は捕まったのか、数は3人と少ない。


「くっ・・・・私達をどうするつもり!?」


 この状況を完全に楽しんでいるアリシアがノリノリで進行していく。


「フハハハハ! 知れたこと! このままそこで溺れ死ぬがいいっ!!」


 盗賊の1人がそう言うと同時に落とし穴へ水が流れ込んできた。



「「ギャーーー!!」」


 悲鳴を上げたのはバンとツグミの守銭奴コンビ。


 そして助けを求めて盗賊達に懇願を始めた。


「わ、わわ、私を助けてくれたら大人なサービスしますよ! だから私だけでも!!」


「こちらのユキさん! 話題のロア商会の関係者ですよ! 身代金ガッポガッポですよ!! 一緒に儲けましょう!」


 だから自分だけは助けてと言う2人。


 そんな言葉を無視した盗賊は落とし穴にフタをして、どこかへ行ってしまった。


 こうしている間にも水は流れ込んでおり、このペースならあと1時間もすれば落とし穴は水で満たされて全員水死体になるだろう。




「でりゃ!」


ギイイイィィン。


「・・・・むぅ。壁を壊すのは無理そうね」


 アリシアが盗賊と戦うために持って来ていた剣を振るうが、落とし穴の壁は傷1つつかない。物理的に水を逃がすのは不可能のようだ。


 大人しく脱出するしか手は無さそうである。



「あ、ギブアップなら言ってくださいね~」


 それだけ伝えてユキは流れ込む水と戯れ始めた。



「え? ユ、ユキさん。この状況、もしかして打開できたりします? なら、あのバカな盗賊連中を捕まえて賞金を山分けにしましょうよ!」


「いやぁ~。さっきは奴等を油断させるためにあんな事を言いましたけど、ボクはロア商会大好きですからね!」


 手の平がクルクル裏返る2人。


 間違いなくユキ1人で解決できる状況なのだが、アリシアがギブアップするまでは手伝うつもりも無いらしい。


「愛と勇気と根性と、魔力と筋力があれば3人で何とか出来ますよ~」


 と助言(?)をして、流れ込んでくる水の中に居た精霊と世間話を始める。


 後半があれば間違いなく何とか出来るだろうが、今の3人ではどうにも出来そうになかった。



「ふんふん・・・・へぇ~。ウォルズ川でそんな事が~。

 ・・・・なんと! じゃあ今頃モントの滝ではイベント尽くしですね~」


 2人ほど楽しんでいる水責め真っ只中の落とし穴。


 バンとツグミの分け前は如何に!!

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