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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十二章 千年郷

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閑話 続エロカルタ2

「あれって完成したはずじゃ……」


 14歳という思春期真っ只中の野郎共が集まっておよそ1時間。


 部屋の空気がエロ一色になったというか、したというか、はっちゃけても大丈夫な状況かつ強要されたという大義名分があるにもかかわらず、積極的とは程遠い態度のファイとピート。


 そろそろ本性を現してもらおうと楽しくエロトークが出来る遊びを提案すると、ファイが全身からやりたくないオーラを放ちつつ眉をひそめた。


 部屋に集まってから度々製作することを仄めかしていたのだが、初の指摘だ。空気感やメンツが似ているだけで、実際にやるとは思っていなかったのだろう。


「たしかにな。完成品送られてきたし、学校に持ち込んで遊んでるバカも結構見た。15禁なのにどうやって手に入れたんだか……」


 ファイと共に前回の会議に参加していたワンもこれに同意……しているかどうかはさて置き、何かを思い出して呆れた。


「へ、へぇ~、あれお前等の仕業だったのか。俺も見たことあるぞ。教師や女子にバレたら『な、なんだ、普通のカルタかと思ったぜ』って言い訳するんだよな」


 そのワンの話に心当たりがあったピートは完全に同意。


 だが俺にはわかっている。他人事のように語っているが当事者だと。エロカルタこそ所持していないものの休み時間に友人達と遊んだことがあると。この言い訳をしたことがあると。そしてエロカルタづくりに乗り気だと。


 心の中では『そういうの待ってた』という想いが渦巻いている。何なら『どど、どうすんだ!? このまま流れちまうのか!?』と動揺している。エロトークは苦手でも一言二言考える遊びは好きらしい。


 そっちはそっちで興味津々に聞いていた……って今は勘違いを解くのが先だな。


「何言ってんだよ、ワン。あれは発禁モノじゃないぞ。推奨年齢が15歳以上ってだけ。絵もイラスト調だし、パッケージがちょっとエロいだけで普通の店でも手に入る代物だ」


「いや、そこはどうでもいいんだよ。俺が気になってるのは他にも持ってた発禁モノをどうやって手に入れたかだ」


「カルタが完成してるかどうかじゃなくて!?」


 一瞬ワンに同意しかけたファイだが、そこから続く疑問および欲望に対しては難色を示し、その気持ちをそのままの形で表に出した。


 ここまで来ると逆に心配になる。


 思春期の男子が性欲より優先することなどありはしない。言動にどれだけ矛盾があろうがまずはエロ。オカズの入手方法と発散方法だ。


(ははーん……さてはコイツ、友達の兄貴からエロ本を借りたり、毎日のように女子の言動を観察・考察したり、一足早く大人になった友達に詳細尋ねたり出来ないタイプだな。前にエロカルタ製作した時もやけに純情路線だったし。

 変態度5の雑魚め。オナニーしない女と一緒に性の何たるかは一から学び直せ。リアルに人生の半分損してるぞ)


「……未だかつてここまで業腹の目線を感じたことはないよ」


 俺とワンとスーリのことかあああああッ!!


 もしかしたら『マジか……コイツ、この流れでカルタのこと気にすんのか……』と引きながら同情的な視線を送っていたワンとスーリではなく、ピートの『え~? 聞こうぜぇ~、やろうぜぇ~』という仲間意識バリバリの視線のことを言っているのかもしれないので、髪を逆立てて戦闘力を50倍にするのはやめておく。


「ま、ファイ以外のみんな気になってるみたいだし、実は内心興味津々のファイのためにも触れておきますか」


「未だかつてここまで業腹の決めつけをされたことはないよ!」


 ええ~? 決めつけなんて大体こんなもんじゃね? ○○は××が好きに違いないとか、○○は××するべきだとか、身勝手な善意を押し付けてくるもんじゃね?


 それが合ってたり成功に繋がったらドヤ顔して、間違ってたりそのせいで失敗したら知らんぷり。何なら当事者の実力不足を咎める。


 ノーリスクハイリターンの代名詞じゃないか。



「エロいものを手に入れるには大人に頼むのが一番だな」


「身近に居ない場合はどうしたらいい? 今すぐ手に入れたい場合は?」


成功者どうきゅうせいから借りる」


「中々順番が回って来ないんだ……」


「変装してエロコーナーに入る」


「バレた時のデメリットがデカすぎる。そこまでの覚悟はない」


「身の回りに溢れてるエロで我慢する」


「男……いや、漢としてそれはちょっと厳しい」


 贅沢なヤツめ。自分の性癖は自分が一番良くわかってるんだから、それに合わせた何かしらのアクションを起こすべきだろうに。


 まぁ妥協しながらもエロを求めた結果、変なものに欲情するようになるのはよくあること。友人がそうならないよう導くのはやぶさかではない。


「ちょ、ちょっと待て……まるで経験者のような口ぶりだけど、ルーク、お前、成人コーナーに入ったことあんのか?」


 脱線というか本題というか、どうやったら未成年がエロいものを入手出来るかについて議論していると、スーリが震えながら尋ねてきた。


「事故でな」


「あ、ああ……なんだ、事故か。なら仕方ないな。俺も何度か迷い込んだことある。わかりづらいよな。出口も入り口も。あと何故か小銭が落ちやすいんだよな」


「それと子供な。見ず知らずの子供とは言え、入ろうとしてたら連れ戻してやるのが年長者の義務だ。その時同じような子供がいないか、またその子の親御さんがいないか探すのも忘れちゃダメだ。じゃないと連れ出しても店内で1人途方に暮れることになる」


「当然の気配りだな」


 ワンからは『その手があったか!』と悔しそうな感謝するような感情が窺えるが、残る2人からは何も読み取れない。たぶん感謝してる。


 というわけでお待ちかねのエロカルタづくりだ!




「完成したかどうかで言えばしてる。ただあれはカルタを世の中に広めるための簡易版。言うなれば試作品だ。俺が取り組んでるのは濁点や半濁点を追加した完全版。そしてこれが完成しても本当の意味での完成じゃない」


「……? 意味がよくわからないんだけど?」


 そんな言い方をされるこっちも意味がわからなくなるんだけどな。


 簡易版のことを言ってるのか、完成の定義について言ってるのか、俺という存在そのものについて疑問を抱いているのか、具体的にどこがわからないのか言ってくれないと。それによって答え方が変わってくるし。


 まぁ対人スキルがカンストしてる俺は、自分なりに考えて前2つってことで話を進めてみるけど。間違ってても怒るんじゃねえぞ。


「アナログゲームはバージョンアップしてナンボだからな。前にやった時も泣く泣く諦めたワードあっただろ。そういうのを入れて『エロカルタVer.2』や、テーマを決めた『エロカルタ○○編』として売り出すんだ。そして各バージョンを混合したり拡張キットを使ったり、遊び方は無限に広がっていくから完成はない」


 カルタのように表面だけ使うカードゲームはもちろん、トランプの神経衰弱のように裏面で使用することがあるものはスリーブに入れれば問題ないので、バージョン別で区別がつくように裏面の柄は変える。


 そういうところが好きで買うヤツもいるし。


「それって完全版商法じゃ……」


「あんな詐欺まがいのもんと一緒にすんな! たしかに一部のあくどい完全版商法と同じく最初から作る前提で動いてはいた。でもそれは追加要素を思いつかなかったり技術や時間が不足していたり二重搾取するつもりじゃなくて、たくさんのユーザーに楽しんでもらえるように色々出した結果だ! 必須でもないしな!」


「もういいって。さっさと作ろうぜ」


「なんで僕がクレーム入れてるみたいな空気になってるの!?」


「当然だろ。俺達は全員エロカルタを作りたいと思ってる。残された時間は長くて6時間。そんな貴重な時間をどーでもいい疑問とプライドで邪魔してるのは、ファイ、アンタだ」


「そ、それはそうかもしれないけど……僕なりに理解を示してるだけなんだ……ただあまりにも常識からかけ離れたものだからどうしていいかわからなくて……」


 哀れなヤツだ。パッションの出し方を知らないなんて。はっちゃけるべき時にはっちゃけられないなんて。オナニーを知らない人間ぐらい人生損してる。


 仕方ない。親友のために一肌脱いでやるか。


「てれれれってれ~♪ ちょっと頭のネジが緩むジュースと中々に頭のネジが緩むジュースに、特別な精霊術で混ぜた飲料~♪」


「な、何かな、そのドロッとした緑色の液体は……」


「てかなんでだみ声?」


 マナーだろ。


「飲むととっても素敵な気分になれるよ。これは『ちゃんぽん飲み』っていう歴とした酒の楽しみ方だから安心してね」


「安心って言葉を自分から言うヤツほど不安なんだよ!!」


「「「まぁまぁまぁまぁ」」」


「うわあああああああああっ!?」


 数の暴力に屈したように見せかけて終始ノリノリだったピートを含め、4人の男に押さえつけられたファイは、口に流し込まれた液体によって意識を失った。


 ――ってここだけ聞くとなんかBLみたいだな。




「『ヤリマンが、オタクに敗北、もうやめて』はどうだ?」


「ん~、あ~、僕かぁ『やめないで』が良いと、ういっく……思うね。抵抗されるより求められる方が興奮するんだ」


 ロッキングチェアでもないごく普通の椅子の上で、暇を持て余した子供のようにギッシギッシと揺れるファイ。


 ただエロトークにはノリノリで、普段隠している部分がポンポン飛び出し、注意しても聞かないので俺達は放置している。壊れても直せるしな。


 もちろん案は採用。正気に戻った時が楽しみだ。


「『騙された、媚薬じゃなくて、ビタミン剤』」


「あるあるだな。快楽に落ちた女に対して、にやけた笑みを浮かべた男が言っている光景がありありと目に浮かぶ」


 今度はスーリが真っ先に反応した。琴線に触れるものがあったらしい。


「…………」


 対してファイは目を瞑って何かを考えている。寝取られにもビッチにも繋がるワードなので、どちらが強いか悩んでいるのだろう。


 責めるのは好きだけどクンニは奉仕みたいだからしたくない。


 そんなサドの葛藤に近い気がする。


「有りだね!」


 次。


「『ロリの本、ツルペタじゃなきゃ、ゴミ箱行き』」


「仕方ないな。あくまで二次元にこだわる人間と、リアリティを求める人間っていう、絶対に相容れない派閥が存在するからな。年齢によっても好き嫌いがあるし」


「ロリだけはよくわからないんだよねぇ。肉感的な方がエッチだと思うんだけど」


「毛は?」


「下はある方が好きだねぇ。脇やお尻周りは無い方が好きだねぇ」


「剃ってる姿を見たら幻滅する、イエスかノーか」


「ノーだねぇ。手入れをしないといけないものだからねぇ」


 よし。どこかしらに入れてやろう。


 次。


「『さ』か……これは難題だぞ……」


「ああ……前回も『し』に続いて時間を割いたワードだな。真っ先に思い浮かぶのは催眠だが、一口に催眠と言っても完全催眠から意識が残っているもの。途中でバラすかどうか。それによってくっころ展開にするか否かまで、論争は無限だ」


「前回は『催眠に、かからないヤツ、結局落ちる』だった。だから今回はそれ以外のワードを使いたい」


「「「むむむ……」」」


 全員が難しい顔で悩むことしばし。


「さ、さ……『叫んでも無駄だ』とかはどうだ? 3Pや三角木馬もありかと」


「『ざ』ならザーメン一択なんだけどな」


「前も言ったけど直球はやめろ。スーリのもダメだ。『叫んでも無駄だ』は良いけど他は安直すぎる。このカルタの目的はあくまでもエロを表に出す切っ掛けづくり。そのためにも三角地帯とかサービスとか妄想掻き立てるものにしろ」


「厳しいなぁ」


「そういうルークは何かあるのかよ?」


 案を出さずに文句ばかり言う俺に対し、ピート、そしてスーリが苦言を呈した。


「俺は『さよならと、言ったが最後、寝取られる』を推す」


「な、なるほど……物語が始まる前の日常の一コマか、調教が始まってしばらく経ってからの決別のシーンか、落ちる直前のものか、考えられるシチュエーションは多いな」


「だろ? ファイは……オーケー。ダメなのはわかった。何か他の案あるか?」


 純情派のファイには当然受け入れてもらえなかった。めちゃ渋い顔してる。梅干し食べた後みたいな顔だ。


 でも淫乱化は良いと。


 難しい性癖をお持ちで……。


(てか酔ったらおもろいな、コイツ)


 普段のやれやれ系のツッコミも捨てがたいけど、ボケを求めるなら断然こっちだ。


「『さっき見た、清楚美人も、夜はメス』」


「「「おおっ」」」


 ここに来てまさかの新しい性癖の暴露に盛り上がる俺達。


 ワードも素晴らしいがストーリーがある。


 町中ですれ違った美女は全員やらしいことをしている。衣服の奥にはそれはそれは凄いものが潜み、頭の中にはそれはそれはエライものがあり、数時間前だか後だかにはそれはそれはとんでもないことになっている。


 そう思うだけでご飯3杯はイケる。


 清楚って部分もポイントが高い。ギャップ萌えだ。そういう人ほど燃え上がると凄いって男の妄想だか事実だかがあるしな。


「さて……そろそろ『し』いくか。触手、尻、ショタ、時間停止、潮吹き、子宮など、エロ単語は無数にある強力なワードだ。その中から1つを選ぶとなるとそれ相応の犠牲を払う覚悟が必要になる」


「前回はたしか『借金を、体で払う、俺の妻』『触手モノ、あらゆる穴に、突き刺さる』『尻の穴、使い込むと、ピンク色』の3つにまで絞ったんだよな」


「ああ。最終的には1番の『借金を、体で払う、俺の妻』になったな。2番はちょっとファンタジー色が強すぎて、3番は色が変わるべきっていう意見が出て荒れた」


「使い込んだら変わるべきだねぇ~」


「その心は?」


「自分色に染めてるっていう充実感と達成感がある。変わらないことが素晴らしいって人もいるけど、僕かぁ年齢と共に変わっていく方が好きだ」


 ファイは黒乳首賛成派、と。



 その後、俺達はエロトークとエログッズ製作、エロ遊具製作と、多岐にわたってエロについて語らった。


 とても有意義な旅行最後の夜だと思う。

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