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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十二章 千年郷

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千三百十九話 千年郷

「た、助かった……感謝するぞ、お前達」


 愛する2人が呪文を唱えれば鏡の中から出られる。


 ベーさんだかユキだかのお遊びに付き合わされるのはシャクだが、やらないといつまで経っても話が進まないので俺とニーナで実行すると、どちらも間違っていたにもかかわらず世界の裏と表を繋ぐゲートが開き、みっちゃんが鏡の中から這い出してきた。


「感謝するなら金をくれ」


「ド直球だな!?」


 同情するなら金をくれのネタが通じないとは……これがジェネレーションギャップ!


 異世界でもそう言うのかは知らん。


 ちなみに俺は『生麦・生米・生卵』と正しい早口言葉を言い、ニーナは早口言葉が出来ずに生もめ辺りでふにゃふにゃになっていた。ベーさんに教えられた呪文は『生むみ生もめ生ままも』。


 さらに補足すると、ニーナとやる前にチラッとヘルガに視線を向けたが、無言で顔を背けられた。たぶん照れてた。人前で手を繋げないタイプだ。萌え萌えキュンだ。


「冗談だよ。あとで体まさぐらせてくれたらそれでいい。それより何やったら鏡の中に閉じ込められるんだよ」


「知らん。王都に行きたいと言うから運んでやったら、到着した途端閉じ込められたんだ。各所を転々として辿り着いたのがこのトイレだったというわけだ」


 せめて触れろよ。俺がセクハラしてるみたいになるだろ。


 まぁ気になるワードが出たからこのまま進めさせてもらうけど。


「各所を転々と? ベーさんが?」


「いや、コイツは後から運ばれてきた。ユキに袋詰めされてな。あのカバンがそうだ。ヘルガが出ていくまで個室で待機して、ニーナが1人になるやいなや襲い掛かった。ニーナの動きを封じたのはヤツだ。そのままカバンに入れていた変装道具で他人に成りすましてトイレを後にした」


「なんだ、その誘拐犯が身代金の受け渡しで使う手口&アリバイ工作で使われがちな手口……」


 そんな活発なのはベーさんじゃない。


 疑問視した俺に、当然だなと納得する反応を示したみっちゃんが、詳しい事情……もとい手口を話し始めた。


 たしかにヘルガの後にトイレから女が出てきたけど。


「…え? 別に理由なんてありませんが? ユキさんにやってって言われて…面白そうだったので閉じ込めただけですが?」


 流石のベーさんでも全員から視線が集まると何かを求められていると気付いたようで、逆に何が知りたいのか問いかけるように全身からハテナを放出。やるべきことを教えてやると、当然のような口ぶりで言い訳を開始した。


 実に強者らしい行動理念だ。


 ベーさんにとって、大地から生まれた素材で作られた鏡をどうこうするなんて、朝飯前どころか息をするような手間なのだろう。




「金貨200枚です」


「は……?」


 公衆トイレの使用料のような訳がわからなそうで実際にありそうな支払いを求められるかと思いきやそんなことはなく、みっちゃんは1人満足気な顔をしているベーさんの両足を掴み、そのままリアカーのように引っ張っていった――。


 完全にそうなる雰囲気だったのだが、女子トイレから出た途端、ベーさんが俺の目を見て謎のセリフを放った。


「今『やっぱベーさんはスゲーな』『こんな超常現象アッサリ起こせるなんて強者って流石だな』『みっちゃんマジ雑魚ww』って褒めたところなんだが?」


「オイ……」


 人化した古龍のジト目とかご褒美でしかありません。


 あとそれ等はすべて賠償請求から逃れるためなので許してください。緊急事態です。思っていたのは本当です。少しは抗え。一応カテゴリ的には強者だろうが。


「お2人の愛と実力が足りなかったせいで鏡に宿した力が歪みました…もう誰かを閉じ込めて遊ぶことが出来なくなりました…弁償してください」


「なんでだよ! 譲るって言ってただろ!」


「それは鏡だけ…宿した力まであげるなんて一言も言ってません…」


「押し売りの常套手段やめろ! 一旦渡しておいて後から金を請求するとか、巧みな話術(笑)で実は別の条件があったことを後から明かすとか、契約書の隅の方にわかりづらい文言で書かれていることを持ち出して契約違反にするとか、詐欺あるあるやめろ!」


「本体は無料だけど送料や付属品は別…とか?」


「まさにだな」


 このままテンションを上げていく予定だったが、絶妙に脱線していない話題かつ共感してしまう話題に、ついつい乗ってしまい怒りも薄れていく。


 コピー機がインクで元を取っているのはあまりにも有名な話。


 類似ケースとしては、食べ放題や飲み放題で元が取れない、性能は変わらないのにエコだから・みんな使ってるからと高価な品を買わされる(後に消費電力が少ないものや多機能なものが出て以下リピート)、企業が言う商品寿命がやたら短いなどがある。


「写真と中身が違っていたり…?」


「酷いのになるとそうだな」


 送り返すのも手間だし、食べられなくはない&使えなくはないので、利用者は諦めて受け入れる。不良品も似たようなものだ。よほどでなければ返品されない。


「それが当たり前になっていざ返品されるとブチギレる従業員…」


「言うな。彼等も店のためを思ってやってることだ。『これを受け入れたら次も同じことが起きる! ここで食い止めなければ!』『こんなゴミ野郎のために新品なんて渡したくない! 間違って買ったこいつが悪いんだ! 交換や注文なんて絶対にしてやるもんか!』って正義感の強いヤツも多いけどさ。周りは良いって言ってんのにな」


「正義感っていうより自尊心じゃない? 自分が負けるのが嫌なんでしょ。人間って実力ないクセになんであんな自分勝手なのかしら。群れてないと何も出来ないから社会に属してるのに、そこで自我を押し通すとか、無能がやっていいことじゃないでしょ」


 ヘルガが呆れながら畳みかける。


 俺のせいでまた1つ人類が馬鹿にされる要因が増えてしまったかもしれない。


「いやこれは褒めているぞ。ヘルガは『無能でなければ自尊心をもっても構わない』『大人しく社会の歯車になるなら無能にも存在価値はある』と言っているんだ」


「なんだよ。じゃあ素直にそう言えよ。ツンデレかよ」


「ごく一部の有能のために大多数の無能を褒めるなんて嫌よ。ハッキリ言わないと自分は出来てるって勘違いするのが無能でしょ」


 ごもっとも。


 中にはハッキリ言われても「それってお前の価値観だろ?」「この調子でやっていけばそのうち出来るようになるからさ」などとほざいて認めないヤツもいるが。


 あの手この手で利用者から金を搾り取ろうとする企業はどっちなんだろうな。


 最初の1ヶ月は無料だがその後は解約しないと自動的に引き落とされる(しかも解約までの手続きが非常にわかりにくい)サイトや、無料と言っていたのに制度が変わったので払えと言い出すテレビ局、通販はクーリングオフ対象外など、有能だからこそ思いつくのか、無能だからこそ不快感を与えず稼ぐ方法を思いつかないのか……。


 そしてベーさんはそれをやろうとしている。


(ふっ、残念だったな。接客業に従事し、ネット社会で生きていた俺は通用しない! 対抗手段をいくつも持ち合わせているんだぜ! これでも喰らえ!)


 俺は余裕の笑みをベーさんに向けて、語り掛けるように言い放った。


「すごく割りやすい鏡だった。破片も飛び散らなくて良かった。はい、この感想でチャラだ。利用者の意見ってのは何物にも代えがたい価値があるからな」


「鏡は売り物ですけど…能力は違うので…評価されてましても…」


 た、たしかに……!


 ならばこれはどうだ!


「そっちから絡んでくるなんて規約違反だ。そのスタンプは無効だ」


「スタンプ…? ああ、そういうイベントをしてるんですか…知りませんでした…でも面白そうです…そうだ、たまにはユキさんに意地悪してみましょう…スタンプ1つにつき金貨100枚引いてあげます…これで用意していたイベントが使えなくなって…ユキさん絶対困ります…ね」


「何故ユキが主催と知っている! 何故残る空欄が2つと知っている!」


「偶然…です…」


 おしまいだぁ……今度こそ本当に迷宮入りだぁ……しかも最悪な形で迷惑を被ることになっちまった。犯人に仕立て上げられたようなものだ。バッドエンドだ。


「それに…ルークさん言ってましたよね…スタンプラリーはあくまでもオマケ…達成出来るかどうかより…自然体でいることが大事だって…」


「だから何故知っている!!」


「私とルークさんの仲じゃないですか…ルークさんが思ってることなんてお見通し…です…」


「ベ、ベーさん……」


 目と目が合った瞬間に~♪ 恋が始まるとか始まらないとか~♪


 俺の脳内に某アイドル育成ゲームっぽい曲が流れ始める。


(あなたは今どんな気持ちでいるの~♪ わかっているわ~♪ あの女のことを考えているのね~♪ 許さない~♪ kill you♪)


(そんな怖い曲をアイドルに歌わせるんじゃねえよ。すっこんでろ)


(時代はメンヘラ系ですよ~)


 ただの無能よりも遥かに厄介な、無能ムーブを楽しむ有能が無意味に負けず嫌いを発揮して消えた後、


「アンコール…アンコール…」


 そんな俺とユキのやり取りがベーさんにバカウケたが、それも無視した後、


「明日やろうはバカ野郎…私は今楽しみたいんです…スタンプラリーはいつでも出来るじゃないですか…1000年祭は今年いっぱいやるみたいですし…」


「それはこっちも同じことだ。この空気、このメンツ、この気持ちでやるスタンプラリーは今しか出来ないんだ」


「別にいいよ。スタンプラリーがなくても祭りは楽しめるし」


「……ヒカリ」


 最後の抵抗をしている俺の前に浴衣姿の子供達が現れた。


 あまりにも帰りが遅いので迎えに来たようだ。




「結局、皿の修繕用品って何だっただろうな」


「あの人に渡すことじゃない? いつのまにか直ってるし」


「たこ焼きに一票。店主に言えば特別な生地を作ってもらえた」


「いやいや、普通に考えたら浴衣と一緒に売ってた説が一番可能性高いニャ。下駄の修理キットは見たニャ」


 ベーさんとみっちゃんの指印を無理矢理に押され、スタンプカードから空欄が消滅した後。


 最終目的地に光が振り注ぐとか、謎空間に転送されるとか、新しいイベントが始まることはなく、俺達は元々浴衣購入後は別行動する予定だった子供組と別れ、町をブラブラしていた。


 スタート地点に戻る選択肢はない。


 どうせ歩いていたらその辺に現れる。というか具体的な期限などは決められていないのでいつでもいい。出会った時にコンプリートしたことを伝えれば賠償しなくて済む。


 高確率で首を傾げられるだろうけどな! こういうイベントがあったこと覚えてないだろうけどな!



『私は精霊を統べる者。そして1000年前、このセイルーン王国の建国に協力した者』



 突然、王都上空にやたら神々しい影が現れ、何かを訴え始めた。


 デカい。王都のどこに居ても目に入る大きさだ。


「……ユキ、だよな?」


「どう考えてもそうでしょ」


 これも祭りの一環と思っているらしく、動揺よりも喜びの色が強い周囲の人々を他所に、俺は底知れぬ面倒臭さを感じていた。


 おそらくこれが王都に強者を集めた理由だ。スタンプラリーはミスリードで、本当の狙いはこっちだ。何かデカいことをしようとしている。


 でなければ、王族ですら最近知った建国秘話をこんな大々的に明かす理由がない。


 真面目だろうが遊びだろうが強者は表舞台に立たない。


 その常識が今変わろうとしている。


『この1000年でお前達は十分に成長した。もう我々の手を借りずとも生きていける。グレートウォールを頼らずとも守っていける』


「あの壁、そんな名前だったんだ……」


 と、いつもの調子でツッコみそうになったが、続いて出てきた言葉があまりに衝撃的過ぎて俺はそのセリフを飲み込んだ。


『よって私は王都を解放する。今年の12月31日、23時59分59秒に聖なるルーンもろとも王都の壁は崩れ去る。それは我々との決別の時でもある。

 人類よ、自らの足で歩き出すがいい。精霊に守られる国から精霊と共に生きる国へ。子供から大人へ。これまで培ってきた知識と力で思うがまま生きるがいい』


「「「――っ!!」」」


 残された期限は半年。


 この日、セイルーン王国は守護者の存在を認知すると共に、歴史上もっとも激震した……かもしれない。


「だ、大丈夫だよな?」


「ま、まぁ国から発表あるまで待とうぜ。流石になんか知ってるだろ」


 やっぱ信じないヤツとか他人任せなヤツっているしさ。

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