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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十二章 千年郷

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千三百十五話 スタンプラリー王都編5

(どうすっかなぁ……)


 児童が売り子をする出店あるある『品数と在庫数が異様に少ない』により、休憩所に出店していたイヨ達の店で手に入れられたサイダー……というか飲料の数は、ユキのところの3割を下回った。具体的に言うと2本。


 3つ目のスタンプをゲットしたものの、その内の半分を子供達に飲まれてしまい、喉の渇きを満たせずにいた俺は、割と本気で悩んでいた。


 水を生み出すにしても、岩や樹木などの自然物に干渉して間接的に飲み水にするならともかく、そこまでの力のない俺は自らの手に生み出すしかない。それは感覚的には手汗を舐めるようなものだ。気持ち悪い。あと喉は潤っても魔力消費で体がダルくなる。


 参加者に配布するジュースを冷やすのに使っていた水をもらう。


 これは恥ずかしい。だったら近くの露店で買う。でもニャンコ達や少女達を置いて1人この場を離れるのは、なんか寂しいし悪い気がする。おいて行かれる可能性もある。


「ええ~? イヨちゃん達も浴衣着れば良いのにぃ~。絶対似合うよぉ~。もうお手伝い終わりなんでしょ? 一緒に選ぼ。お給料出たんなら余裕あるよね。何なら奢るし」


 いや……確実に置いて行かれる! ヒカリの目がそう言っている!


 頼みの綱の精霊術も何故か発動出来ない。


 まぁ変に空気を読む連中なので当然と言えば当然なのだが。親しくなればなるほど扱いが雑になる。人間関係と一緒だ。出会った頃の礼儀正しいキミはどこへいった。


(どうする……どうする……!)


「ようっ、な~にシケた顔してんだ! これでも飲んでテンション上げてけ!」


「サンキュー、おっちゃん! 助かったぜ!」


 そんな俺の下に、共に神輿を担いだ戦友の1人が現れ、使い捨てのプラスチックコップに入った小麦色のジュースを差し出してきた。


 当然俺は嬉々として受け取り、口にする。


「ごくごくごく! ぷはー! やっぱ汗を流した後に飲むジュースは格別だな!」


 ご褒美に群がる子供達の姿を見て神輿を担いだ参加賞を貰っていなかったことを思い出したものの、今更貰いに行くのもなんだかなぁ~という感じだったし、周りが俺を除け者にしててちょっと寂しかったし、何より潤いが欲しかった。


 一石三鳥の満たされ具合だ。


「……それお酒でしょ?」


 喉の渇きが満たされ、心と体に力が漲り、頭が沸騰するほどの高揚感が生まれ、元気百倍ルクパソマソになっていると、子供達とはしゃぎながらも困る俺を見て楽しんでいたヒカリが、確信を持った様子で尋ねてきた。


 俺は間髪入れずに答える。


「違うよ。神様から与えられたお礼の品だよ。一生懸命担いだから貰えたんだよ」


「答えになってないよ。わたしはその液体がどういう成分か訊いてるの。そもそも与えてくれたのは神様じゃなくて担ぎ手のオジサンでしょ。それも酔っ払いの」


「アルコールかどうかで言えばアルコールだ。でもここで飲んで良いかどうかで言えば飲んで良い代物だ。頑張った者にはそれ相応のご褒美をあげなきゃだし、羽目を外さない祭りなんて祭りじゃないし、何事にも例外は存在するからな」


 結婚式や正月のお神酒然り、協会でのワイン然り、社会のルールより風習が優先されるシチュエーションは多々ある。


 そしてそれ等は、体調管理を怠って病院送りになったり、浮かれすぎて周りに迷惑を掛けたりしなければ、問題視されることはない。


 重要なのは場の空気。皆がやっているからなどという言い訳じみたものではなく、古くからあるしきたりなら、それはもはや正義なのだ。


(打ち上げのカラオケで、全員歌うルールだからと無理矢理歌わされるのはありなんですか~?)


(戦争したいならそう言ってくださいよ。今すぐ神輿でそっちに乗り込みますから)


(敵襲ー! 全員敵襲に備えろー!)


 誰にも届かない援軍要請をおこなう神様を他所に、俺は人知れず溜息を漏らした。


 あれは例外。誰も得しない悪しき風習だ。せいぜい陽キャが焦る陰キャを嘲笑って楽しむだけのものだ。中には誘ってくれるのを待っている消極的なヤツや、ごく稀に凄まじい歌唱力で一同を魅了する者も居るが、基本的に苦しむだけなのでやめた方が良い。


(てか来てたんスか? 乗ってたんスか?)


(わざわざ私のために用意していただいたので~。気分だけですけど参加しました)


(神様専用……?)


(屋根の上に色々置かれてるじゃないですか。あれが誰のための神輿かを表してるんですよ。精霊なら擬宝珠、スイちゃんなら龍、鳳凰さんなら鳳凰という具合に)


 なるほど納得。向こうの神輿の方が豪華な気がしたのはそのせいだ。全体的な造りはこちらの方が豪華だが、屋根に鳳凰が乗っていた分、向こうの方が高く豪華に見えたのだ。


 そのことを意識した上で改めて自分達が担いでいた神輿を見直す。


(……何も置かれてないですね)


(それが私、神アルディア用の神輿なんです。屋根に乗るべきは神であり、余計なものは絶対に置かない。これはそういう意図で作られたものですから)


 予算の関係で置かない場合もありますけど、と皮肉だか愚痴だかを溢した神様は、最後に「祭りは楽しんでナンボですよ~」と有難いお言葉を残して脳内から姿を消した。



「誰?」


「神様」


「どんな会話!?」


 意識を脳内から世界に戻した途端、こういうことにやたら勘の働くヒカリが尋ねてきたが、そうなることを想定していた俺は平然と応じた。


 普段と違って今は神事だ。神輿を担いだ俺のところに来てもおかしくはない……はず。実際ヒカリもニーナも「あ、そ」ぐらいの顔をしている。


 ユチは思わず標準語になるほど驚愕しているのは、彼女が神輿が神のための乗り物という部分を信じ切れていなかったから。むしろ情けないまである。


 彼女の動揺を振り払うためにも説明を続けさせていただこう。


「折角の祭りなんだから酒はドンドン飲めってさ。皆がはっちゃけてる様子を見るのが楽しいらしい。何なら自分への感謝も必要ないって」


「荘厳な儀式を全否定する発言だね」


 正真正銘の世界のトップ、そして祭りの主賓から飲酒が認められたことを明かすも、ヒカリは気にした様子もなくツッコミを入れてきた。


 まぁそもそも俺のことを責めてたわけじゃないっぽいしな。


 どちらかと言えば「そんな方法で喉の渇き潤しちゃうの!? ズルい!」と俺を弄る計画が失敗したことを嘆いてる感じだ。


「神アルディアは本当にそんなこと言ってたの?」


「……もちろん」


 嘘ではない。


 今の俺が祭りを楽しむために必要なものは酒。すなわち祭りを楽しめという神の言葉は、酒を飲めと言われたも同然だ。


 ただ深く掘り下げられるとマズいので、話題を神様の行動理念に切り替えさせていただく。ヒカリも質問してたしな。


「まぁ気分次第なんじゃね? 粛々と崇め奉られたい時もあるけど、ワイワイ騒ぎたい時もある。絶対的な正解なんてなくて、気分に合わせて行き先を変える。人間と一緒さ」


「熱心な信者が聞いたら激怒しそうな考え方だね」


「知ったことか。そんなこと言うのは『自分の役に立つ神』を求めてるバカだけ。本人や他人の意志なんてどーでもいいって思ってるヤツだけだ。神託も下されないような連中に何言われたって気にしないよ。せいぜいその考えが神や知り合いにバレないようにコソコソ生きていくことだな」


「もう殺されてもおかしくないね」


「そん時は戦うだけだ。物理的にも精神的にもな」


『え? 神の意に背く異端者? 神に代わって成敗してくれる? 勝手に代理人名乗ってるだけですよね? 自分達の意志を押し付けてるだけですよね? 神様が言ったっていう証拠あるんですか? というか神託下されたことあります? 俺はありますけど』


 とか言えば大体勝てる。古の時代からレスバに勝ち続けたオタクを舐めるなよ。何ならどうにかしてまた神をこの身に降臨させてくれるわ。


 武力はたぶん大丈夫。




「お前等もどうだ?」


 飲酒の大義名分を得て、プラスチックのコップになみなみと入ったビールを飲み干した俺は、サイダーの時もそうだったように折角だからとヒカリ達に勧めた。


「「「神輿担いでないし喉も乾いてないから要らない」」」


 が、今回は全員拒否。


 これ以上ないぐらい単純明快な理由なだけに強く出ることも出来ない。酒を飲む楽しみや祭りの空気を共有したいだけで、アルコールハラスメントをしたいわけではないのだ。


「なんで参加しなかったんだよ? まさか最初から抜け駆けしようって決めてたんじゃないだろうな?」


 ただそれはそれとして、神輿担ぎに参加しなかった理由やいつの間にか浴衣に着替えていた理由は気になっていたので、掘り下げさせていただく。


「男限定ってわけじゃなかっただろ。女子も結構居たし」


「居たけど担いでなかったでしょ。神輿の周りで一緒になって盛り上がってただけでしょ」


 たしかにあの雰囲気で担げるかと言われればノーだ。女人禁制ってわけじゃないけど飛び入り参加はしづらいよな。18禁コーナーと似た空気がある。


 まぁ本題そっちの気で盛り上がる小学生男子を呆れ顔で見守る女子って感じがして、それはそれであり……というか自然だったけど。


 男女ではっちゃけ方の違いあるよな。


「――というのは建前で、本当はユキちゃんのお店にいたあの人が気になって探してたんだよね。他にもたくさんの強者が王都に来てるみたいだし。ルーク以外でも出会えるのかな~と思って」


「でも無理だったから通り掛かった浴衣屋に立ち寄ったと」


「え? ううん。スタンプラリー対象店舗2つ見つけたよ。買い物もした。カード持ってないって言ったら後から持ってきてくれれば押すよって」


「そ、そうなんだ……」


 知らないところで話が進行してるのちょっと寂しい。


 自分が特別じゃない感じがするし、仲間外れな感じがするし、予想が外れたし、色々寂しい。たぶんイベントも起きない。淡々とスタンプ押されて終わる。



「今の流れからしてあの人が神様かな~と思ったんだけど……違うみたいだね」


 俺の内心を探るような顔でこちらを見たヒカリは、いつも通りの俺の様子にガッカリして肩を落とした。


 どうやら、自分の知らないところで話が進行していることを嘆いているのは、俺だけではないらしい……って当たり前か。人生って自分が主人公だし。


「私的には浴衣屋でユキ様と一緒に店員してたキリストさんが怪しいけどニャ。なんか神々しかったニャ」


「わたしはたこ焼き屋の店員。ゼウスに一票」


 神ぃぃ~~!! それたぶん精霊使って何かやった神ぃぃ~~!!

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