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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十二章 千年郷

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千三百十四話 スタンプラリー王都編4

 神輿同士を激しくぶつけること6回。


 ライバル地区の神輿を破壊したり、担ぎ棒に乗ったリーダーを振り落とすことは叶わなかったが、それはこちらも同じであり、俺達はお互いの健闘を讃えるような空気で別れた。


 これは戦争ではない。


 正々堂々の戦い。維持と維持とのぶつかり合い。バカップルの喧嘩より厳正で確実な、時間が来たら後腐れなく仲直りする、楽しいイベントだ。


『もう少しで勝てた』

『あそこでもっとこう行っていれば』

『あっちの方が人数多くね?』


 そんなポジティブだかネガティブだかわからない感情は一切存在しない。ただただ楽しかったという気持ちと、心地良い疲労感があるだけだ。


「っしゃあ! もうひと踏ん張りだ! お前等、声出してけ!」


「「「おうっ!!」」」


 だがここで終わりではない。


 遠足は帰るまでが遠足。神輿も一度担いだ以上は休憩所まで運ぶのが礼儀。


 俺達はリーダーの檄に応えて震える手足を気合と根性で動かす。


 朝からずっと練り歩いているのか、途中参加した俺とは比べものにならないほど汗を掻いたり声をからしている者も多いが、俺より元気だったりする。アドレナリン全開だ。絶対明日筋肉痛だ。でもたぶん誰も後悔はしない。むしろ誇る。



 それから20分ほど掛けて休憩所という名の飲み会会場に到着。


 この後も担ぐ者達は『バカ騒ぎすれば体力が回復する』という謎理論で、俺のように一時的に参加した者達が選手交代しているところに乱入。一期一会に感謝し、惜しみ、忘れないよう、肩を組んだり酒を酌み交わしたり馬鹿みたいに笑ったり、戦友との最後のひと時を盛大に楽しんだ。


「いやぁ~、担いじまったぜ。いい汗流しちまったぜ……ってなんで浴衣やねん!」


 そんな時間もそこそこに、徒歩よりのんびりとした移動をしていた俺より何故か遅れて到着したヒカリ達の下へ向かうと、そこには浴衣に着替えた3人の姿が。


 ヒカリは黒を基調とした落ち着いた浴衣。ニーナは赤い金魚柄の浴衣。ユチは紫のアサガオ柄の浴衣。


 間違いない。遅れた理由はこれだ。


「何を今更……喧嘩神輿が終わった直後にわたし達が姿を消したことも、おじさん達とうぇいうぇいする様子を遠巻きに見物してたことも、気付いてたでしょ」


 まぁね。


「そんなことよりさっさと褒めたらどうニャ? 女を落とすにはまず褒めることニャ。あとは金と容姿と面白さがあって趣味趣向が合えば大体落ちるニャ」


「そりゃそうだろ! 逆にそれ以外のモテるために必要な要素なんだよ! 性の一致ぐらいしか思いつかないぞ! それも趣味趣向の範疇だし!」


 とツッコむのは簡単だが、的確な助言であることは確かなので、俺はユチ大先生の教えに従って恋愛対象2名、そして外堀を埋めるために彼女の浴衣を褒めることに。


 ふふふ、知ってるぞ。こういうのは1人に絞っちゃダメなんだ。一緒に居る友達全員を褒めて、その中でも特にって言い方をした方が良いんだ。


 まずはヒカリから。


「明るい元気な色も似合うけどそういう大人っぽい感じも良いな。ちょこんってウサギの尻尾みたいなポニーテールもグッドだ。活発でありながら清楚でもある。ギャップ萌えハンパない」


「はぁ……いつもみたいにテンション高く『どうして俺の居ないところで祭り楽しむんだ!』って話を広げてくれると思ったのに……期待外れだよ」


「ごめんなさい!」


 どうして人生にはセーブ&ロードと確実に正解が存在する選択肢がないんでしょう。一生掛けてもCG回収率100%にならないじゃないですか。未回収が増える一方じゃないですか。そんなんだからクソゲーとか言われるんですよ。


「……わたしは? 似合ってる?」


(くっ、この忙しい時に……)


 ニーナからの厄介極まりない要望に俺は思わず舌打ちしかけた。


 姉妹で求めているものが違うなど面倒臭いと言うしかない。


 恋愛漫画あるあるで例えるなら、ロリの幼馴染とツンデレのクラスメイトから迫られている主人公が、3人で町に出掛けた際、双方違う映画が見たいと言い出されたみたいなものだ。


 一番丸いのは主人公が見たい映画を見ることで、大抵の場合はどちらでもなかったりするのだが、今の俺の状況でそれは悪手。別イベントが発生してなぁなぁになることもなさそうだ。


 時間が掛かるものでもないので、ここは一旦ニーナの要望を叶えておいて、その後ヒカリへのフォローに回り、時間差一挙両得を狙うべきだろう。


「あ、それと、服入れるのに邪魔だったからサイダーの瓶捨てたけど良いよね。何かに使えるものでもないし」


「嘘……だろ……?」


 話の腰を折られたことに加え、宝物にするつもりだった瓶が失われたことを知った俺は、瞳孔をかっぴらいてヒカリを凝視。『それが何か?』と言わんばかりにきょとんとした顔をする少女に、絶望と怒りの入り混じった感情を抱くこととなった。


 これまで散々ネタにしてた間接キスなんてどうでもいいんだ。珍しい形をした綺麗な瓶を部屋に飾りたかったんだ。何なら彼女達の手で洗ってくれて構わない。


 俺はただ……眺めて楽しみたかったんだ……。



「そ、そんな落ち込むことなんだ……」


「当たり前だろ! なんで女ってそうなんだ! 大事なのは利用価値があるかどうかじゃない! 楽しめるかどうかだ! 本人が楽しんでることをなんで意味ないなんて言うんだ!」


 フィギュア、カード、切手、ゲームなどなど、女性の多くは役に立たないものを隙あらばゴミ扱いして捨てようとする。集めたり眺めるのが趣味だと言っても受け入れてくれない。


 自分の領域を侵されたならともかくお互いのスペースで楽しむ分には問題ないじゃないか。その分の金を自分のために使えなんてわがままもいいところだ。


 ならまず自分が実行しろ。服もアクセサリーもそんなに要らない。各季節で4着あれば十分だ。売り払って記念日に豪華な料理つくってくれ。もしくは家族全員が喜ぶような便利な家電買ってくれ。


「じゃあそう言っておいてよ」


「言ったじゃん!」


「言い方が悪いよ。あれじゃあ、わたし達が口をつけた瓶を持ち帰りたいんだって、思春期特有のアホな思考だって、勘違いするよ」


 勝手に決めつけ、勝手に捨てたヒカリのミスでもあるのに、まるで俺が悪いみたいに言いやがって……。


「あーやだやだ。こういうこと言う女ほど、風俗やキャバクラに使う金を無駄だと思ってるんだぞ。その金を恋人のために使えとか、恋人作れば良いじゃんとか言うんだぞ。本人の気持ちを蔑ろにしてることに気付けっての。そういうの面倒臭かったり色々試したいから行くんだっての。楽しいから金を払うんだっての」


「はいはい、悪かったよ。あとでユキちゃんに言って同じの作ってもらうから機嫌直してよ」


「だからそういうのがダメなんだって! 同じ品なら問題ないなんて考えは捨てろ! 思い出が詰まったサイダー瓶はあれだけ! 代わりなんてないんだよ!」


「あそこで新しいの貰うのはダメ?」


 ……ん?


 地べたを這いずり回る勢いで駄々をこねていると、会話に割り込んできたニーナが、明後日の方向を指差した。


「ああ、子供神輿か」


 そこには、俺達とは別の神輿を担いでいた子供のために用意されたご褒美……お菓子とジュース配る大人の姿が。見覚えのある瓶を手にした子供もいる。


「ご当地サイダーって既製品だったんだね」


「みたいだな」


「あれならルークも満足する?」


 まぁ露店で購入した物とイベントの参加賞で手に入れた物で、祭りの思い出としてどちらが上からは人によるだろう。俺も一概には決められない。


 ただ――。


「あれは子供達のために用意されたもの。俺達が貰っていいものじゃないぞ。売ってくれってのもマナー違反だ」


「イヨ達がいるのに?」


「マジで? 祭り楽しんでんなぁ」


 俺と同じように飛び入り参加したのだろうか? スタンプラリーの方は飽きたのだろうか?


 そんなことを思いながら参加者の中にイヨ、および顔見知りの子供達の姿を探すも、一向に見当たらない。


「イヨ達が居るのは配給係の方」


「はぁ!?」


 視線を人だかりの方に移すと、そこにはたしかにイヨをはじめとした子供達の姿が。ココ・チコ・ルイーズ勢ぞろいだ。


 自分と同じか少し上の子供達にせっせと配っていた。


「誰が気付くんだよ……99.9%が神輿担いでる子供達のためのもんだって思うぞ。町内会費で賄ってるアレだろ。家に帰ったらテーブルの上にお菓子ぶちまけてどれから食べようか計画立てるんだろ」


 無理無理。これくださいなんて言えないって。間違ったらアウトじゃん。気まずさと恥ずかしさで「あ、あ、あ、すす、すいませんでした」ってドモるぞ。


 そんなリスクを負ってまでスタンプラリーをクリアしたくない。


 まさかの売り場に呆れつつ、俺は配り終えるのを待って、声を掛けた。


「サイダーとお菓子セットくーださい」


「え? あの、これうりものじゃないけど……」


 疲れた体には甘い物がよく似合う。


 そんな格言があるかどうかはさて置き、丁度小腹も空いてきたので注文すると、イヨは戸惑いながらここはそういう場所ではないことを告げる。


 だが甘い。俺の隣のガキが食べている5円チョコ(ここで銅貨チョコという名前だが)より甘い。3つ一気食い&練乳サイダーなる代物で流し込んでるヤツには流石に負ける。


「嘘だったらハリセンボン飲ました上でお前等全員『お兄ちゃん大好き!』って連呼させるぞ」


「きたない! さすがルークきたない!」


「ハッハッハ! 何とでも言え! 戦いは勝者こそが正義! 勝つために手段を選ぶなんて雑魚のすることだ! 正体を隠さなかった時点で貴様の負けは決まっていたのさ!」


 俺は、金とスタンプカードを渡しながら勝ち誇り、イヨ達を悔しがらせた。



「集めるつもりのないスタンプ集めてるのは負けだよね」


「負け」


「まぁまぁ。本人は触れてほしくないみたいだし、ここは気付かないフリしておくのが優しさニャ」


 それを本人の前で口に出すのは優しさじゃないけどな。お前等が瓶を捨てなかったらこんなことになってないわけだし。てか美少女が口つけた(つけてない)やつの方が良いし。


「おいしそう! 一口ちょうだい!」


「ったくしゃーねぇな。飲み過ぎんなよ。俺だって喉乾いてるんだから」


 受け取ったシンプルサイダーを飲んでいると、イヨが強請ってきたので、俺は申し訳程度に飲み口を拭って渡してやった。


「うまー!」


 そりゃようござんした。


 ……え? 幼女との間接キスは付加価値? 何言ってんだ。ご褒美どころか減点対象でしょ。丁寧に二度洗いするわ。何ならその部分思い出からカットするわ。

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