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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十二章 千年郷

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千三百十一話 スタンプラリー王都編1

 ユキが主催するスタンプラリーに参加することにした俺達は、対象店舗で購入金額が銅貨5枚以上になると貰えるというスタンプ(とカード)を求めて、シートの上に並べられた品々に目をやった。


 転売ヤーから奪い取ったのは場所だけのようで、そこには見覚えのない品がズラリ。手書きの値札が張られたアイテム達が、畳1枚分ほどの布の上に無秩序に置かれている。


「……なぁ。欲しい商品が、まっっったく、ないんだが?」


 だが興味を引くものは1つもない。


 購入意欲が湧かないのではない。


 ひび割れたガラスコップ、片方しかない手袋、使いかけのノートなど、ガラクタと言ってもいい代物ばかりなのだ。ラーメン皿が一番良かったまである。


 いくらワンコイン(500円玉が存在しないので枚数的には違うが気分的にはそうなのだ)とは言え、払いたくないし所持したくない。


 おそらくこの気持ちの極地が、唾やタバコのポイ捨てや、ガードレールやベンチにぶら下げられたコンビニの袋に入ったゴミ。


 俺はそんなことは絶対にしないしさせないが、捨てるとわかっていて購入するほど愚かでもない。知り合いだからと買う優しさや、新作のジュースを買うエンタメ&チャレンジ精神ではなく、これはただの無駄遣い。


「商売する気あんのか? フリーマーケットだってここまでじゃないぞ。実はラーメン皿も最初から壊れたんじゃないだろうな?」


「なんですかー。イチャモンですかー。ちょっと審美眼を手に入れたからって調子に乗らないでくださいー。他人のお店のやり方に口出ししないでくださいー」


 経営アドバイスおよび品揃えから推測した疑問、さらには妥協案の提示といった様々な気持ちをひとまとめにしてぶつけると、ユキは口をとがらせて真っ向から拒絶を示した。


「極東ノ珍シイ品バカリヨ」


「だからゴチャゴチャ言わずに金払えってか!?」


 そんなユキをフォローするように、イーさんがもはや営業スマイルにしか見えなくなったニンマリ細目顔で、会話に割り込んできた。


 あくまでもこのゴミをお値段以上で売りつけるつもりらしい。


 イヨは……まぁ当然のように首を傾げている。


 理解が追いつかないのではなく、子供はどんなものにも価値を見出す生き物なので、その辺で拾ったドングリでも知り合いなら金を払ってくれる的な思考なのだろう。児童が学校行事で出店した時のノリだ。


「嫌ナラすたんぷらり参加諦メテドッカ行クネ。銅貨5枚モ出セナイヨウナ貧乏人ニ用ナイアル。商売ノ邪魔ネ」


 さらにイーさんは、袖に仕舞い込んでいた腕を面倒臭そうに取り出し、パタパタと振って俺達……というか俺をお邪魔者扱いし始めた。


 たしかに人間はコスパや利害を考えて行動する生き物で、そこに不満があるなら参加しなければいいだけの話。決めるのは自分だ。


 が、しかし――。


「どっちも取るって選択肢もあるだろ」


「ナイアル」


 どっちやねん。


 いやまぁ『無い』んだろうけど。合わせる気も譲る気も皆無なんだろうけど。


「祭りの飲食物やイベント入場料みたいにボッタクってるなら文句はない。実際ヒカリが壊した皿のバカ高い値段設定だって受け入れた。満足さえすればいくらでも払うんだよ。

 でもこれは価格への不満以前の問題だ。邪魔にしかならないものを買えとか舐めてんのか。せめてまともに使えるもんを売れ。その辺で買ったペンとか食器とか。5倍の値段で買うから」


「ソンナ悪イコト出来ナイネ」


 変なところだけちゃんとした倫理観持ってやがる……。


「なら割れたラーメン皿を銅貨5枚で売ってくれ。俺達がスタンプラリーを達成出来たら返金。出来なかったら金貨20枚支払うってことでどうだ? いくら元が高価でもここまで粉々になったら価値なんてないに等しいだろ?」


「アルアル」


 どっちやねん。


 いやまぁ『有る』んだろうけど。じゃなくて無いけど従いたくないからそう言ってるだけなんだろうけど。


「コレハ極東ノ珍シイ品ヨ」


「さっきからやたら連呼してるけど、その言葉、アンタが思ってるほど万能じゃないからな!? どうせ極東で拾ったってだけだろ!? そして極東ってのもここからちょっと東に行ったところで、『西で暮らしてる人達からしたらここが極東』とか言うんだろ!? 世界地図基準じゃないんだろ!?」


「「「――っ」」」


 言った瞬間、イヨ達3人の体がビクンと震え、目が泳ぎ始めた。


 最初からおかしいと思っていたのだ。珍しい品ばかりと言っていたクセにラーメン皿以外は驚くほど安い……てかゴミで、客に対する嫌がらせとしか思えない品揃え。売れればラッキーぐらいの商売をしている。


 俺は余裕の笑みを溢しながら3人に進言した。


「言いふらされたくなければラーメン皿を銅貨5枚で譲れ」


「そ、そんなぁ~。それじゃあ商売あがったりですよ~」


「知るか。こんな品揃えで稼ごうとするな」


「じゃあこうしましょう。ルークさんはその辺のお店でイヨさんの服を買ってきてください。イヨさんはそれを着るので、今着ている服を銅貨5枚でお譲りします」


「俺に損しかねーじゃねえか。いいからラーメン皿寄こせ。他にも欠けた商品あるんだ。大差ないだろ」


「これは全部オススメなんですよ~。安いですし、修繕用品を売っているお店もあるので、直したらちゃんと使えますから~」


「何言ってるかわかんねえよ。ラーメン皿でも出来るだろうが」


「コレハ極東ノ珍シイ品ヨ」


「~~~っ!」


「はぁ……もういいよ。わたしが払うから。テキトーに選ぶから」


 叫びたがっている心をなんとか抑えていると、ヒカリが手直にあったガラスコップ・どんぶり・手のひらサイズの小皿の『欠けシリーズ』を買い占めた。


「オ客サン、オ目ガ高イネ。コレモアゲルヨ」


「いらねえよ!!」


 俺はイーさんに差し出されたゴミ(ラーメン皿)を拒絶して、スタンプラリーを開始した。


 雇用に引き続き第二のマッチポンプとか思ったら負けだ。


 パズル楽しい。設定された値段ジャストに出来たら嬉しい。自分で直したら愛着が湧く。次の店のヒントももらえた。イエスポジティブ。



「……で?」


「『で?』とは?」


「言われた通り銅貨5枚以上支払ったんだからカードとスタンプ寄こせよ」


 いつまで経っても話を先に進めないイヨ達を不審に思い問いただすも、返って来たのは『何を訳のわからないことを』と言わんばかりの表情と声。


 横柄な態度に若干苛立ちながら詳細を尋ねると、


「まずカードを手に入れてくださいよ~。私ちゃんと言いましたよ。『スタンプは正解のお店で銅貨5枚以上買うと貰えます』と」


「ここはスタンプがもらえるお店」


「カードガ貰エル店ジャナイネ」


「詐欺じゃねえか!」


 ユキはいつも以上にヘラヘラ笑い、イヨとイーさんも負けじとヘラヘラしながら示し合わせたように畳みかけた。


「ノンノン。契約書をちゃんと読まなかったルークさんが悪いんです~」


「俺はちゃんとスタンプラリーに参加するための条件を訊いたぞ! 教えなかったのはそっちの落ち度だろ! 前提条件を隠すな!」


「言おうとしましたよ~。でもその前にルークさんが買っちゃったんです~。スタンプカードを手に入れる前……すなわちスタンプラリー参加前なので当然カウントされませ~ん。ルークさんはウチの商品を気に入って買った、ただのお客さんです~」


「そこすら!?」


 はした金でとやかく言いたくはないが、ここまで好き放題されるのは流石にイラっとする。


 こんなにイラっとしたのは、ホームセンターで働いていた頃に特注した品が届いたので客に電話をしたら「あ、それ要らなくなったからキャンセルで」と言われ、本来店に置くはずではない商品を陳列する羽目になった時以来だ。


 ちなみにホームセンターあるある。日常茶飯事。


 単管パーツや水道用品が返品された時に他社の商品が混ざっているとか、返品するのが面倒だからと本体を持ち込んで店内でネジを外す&締めるとか、木材カットしてるんだからこれも出来るだろと持参した机や椅子を加工させるとか、積載量や出幅が法律違反なのに結んで・載せて・やってと無理強いするとか。


 やりたい放題なのがホームセンターという場所だ。


 さらに言うとどれだけ丁寧に断ったり注意してもキレるヤツはキレる。


「やれやれ……仕方ありませんね。はい。これ。スタンプカード。もうこれっきりにしてくださいよ」


「なんで俺が悪いみたいになってんの!? クレーマーみたいになってんの!?」


 溜息交じりにカードを差し出してくるユキ。


 俺の心を読んだかのような絶妙な煽りだ。その感情は今自分が抱いていると言わんばかりのユキの様子に、俺はいつも以上に激しく声を荒げる。


「クレーマーはみんなそう言うんですよ。『俺に非はない』『店のためを思ってやってることだ』『当然の権利だ』って」


「じゃあなんでカード用意してんだよ! 最初から渡すつもりだったんだろ!」


「クレーマー対策ですよ。あ、言っておきますけど、スタンプの方はどんなにごねても1つしか押しませんからね。そこは譲りませんからね」


「だからなんで俺を悪者にしようとすんの!? カードの件も譲ってもらったわけじゃないし! お前等が説明責任を果たさずに隠蔽しようとした結果だろ! それ以上の追及を許さないための口封じだろ!」


 信念を重んじる俺なら拒絶すると思ったのか、ひったくるようにカードを受け取ったヒカリは、ニーナ・ユチと共に1つ欄が埋まったカードを凝視。


 カードを手に入れ、スタンプも押してもらい、次のヒントまで貰ったので目的は達成出来たわけだが、俺の気持ちは収まらない。


 スタンプラリー不参加も辞さない覚悟だ。


「ルークさん以外が納得してるんだから良いじゃないですか~。ルークさんもスタンプラリーに参加出来て嬉しいでしょう? win-winですよ、win-win。社会で一番求められているものです」


 出た出た。モラル崩壊の思考回路。


「そんなことだからモラルが失われるんだぞ。もはやルールは正義を守るためのものじゃなくて、自分が優位に立つための道具と化してるじゃないか。『その件には触れないのでこちらも……』がどれだけ溢れてんだよ。本当の意味で胸を張って生きてる大人がどれだけいるんだよ。俺は認めないし譲らないからな」


「と言われてもヒカリさんがカード受け取ってますしぃ~。これでこの件は無かったことにするって提案受け入れちゃってますしぃ~」


「返す!! 寄こせ!!」


 ゴスッ!


 ヒカリ達の手からカードを奪い取ろうとしたら無言で殴られました。脱線し過ぎたみたいです。痛い……。


 兎にも角にも、スタンプ1つ目、ゲットだぜ!

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