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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十二章 千年郷

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千三百七話 王都を守護するもの

 王城からこっち、ヨシュア側の地区だけとは言えメインストリートはそこそこ通った。売り物や出し物が似通っていることも確認済み。


 なら行ったことがない土地を新規開拓しようじゃないかという思考に至った俺達は、外壁の沿う形で存在する下町をブラブラし、気になったものがあれば参加・購入するという定番の行き当たりばったり計画を実行することに。


「イヨちゃん達にもオススメされたしね」


「そうそう。ヨシュアに帰るまでに来ようって話してたんだよな。格闘大会やクッキングバトルに途中参加するのもなんか違うし、参加したくても出来なかった連中に『あれは面白かったぞ~』って言うのもどうかと思うし、丁度良い機会だよ」


 初日にここへ赴いたイヨ達の話では、他の地区とは異なるイベントや出店があるとのことだった。そして楽しかったとのことだった。


 内外を隔てるこの壁は、安全性や手入れなどの問題から近くに建築物をつくることが許されておらず、道路ぐらいしか使い道がないため一応メインストリートにはなるのだが、中央を分断するように存在するものと違って一本横道に入ると住宅街となる場所。


 実際、裏路地とは違った下町の片鱗は既に見えている。


 隙間産業、もしくは地域密着型とでも表現すればいいだろうか。


 メインストリートが町をあげて大盛り上がりするハロウィンなら、こちらは地元の神社でほそぼそとやるお祭り。


 居住区ということもあって、猫の額ほどの小さな公園で地元の子供達が手に入れた品々を自慢し合ったり、スーパーボールやフリスビーを使った謎の遊びを始めたり、祭り会場近くの学校や神社裏みたいなノリだ。


 昼間だからしっぽりとしけこむヤツも居ない。


 中には「折角集まったんだし○○ん家でゲームやろうぜ」と、陰キャだか陽キャだかわからない行動を取る者もいる。当たり前だがテレビゲームなど存在しないのでカードゲームやチェスといったアナログゲームである。


「こういう落ち着いた雰囲気も良いよな。ニーナとかこっちの方が好きなんじゃないか? 騒がしい場所苦手だろ?」


 ここは、毎秒のように新しいことや楽しいことが提供されるメインストリートと違い、自ら動かなければ何も起きないエリア。


 足を踏み入れてから20分。


 なんとなくの空気感を掴んだ俺は、親友からちょっかいを掛けられてもローテンションで流したり、妹からの提案を拒否したり、俺が「人形みたいにひたすら同じ動作を繰り返す女って興奮するわ~」と妄想対象にしても無視したり、何も起きないことを望んでいるとしか思えない言動を繰り返すニーナに話を振った。


「何とも言えない。祭りは騒がしいものと割り切れば大丈夫。ここは人混みに疲れ果てて逃げた先のオアシス。ここ単体で評価するのは難しい」


 すると彼女は、自分が人であることを思い出したように小さく首を横に振り、予想とは異なる答えを提示した。


「たしかに休憩所が好きかどうか訊かれても困るニャ」


「朝食とって、知り合いの女装笑って、家族見送ってって、今のところ疲れる要素皆無だし、休む以外の目的で休憩所来てもねぇって感じだよね」


 そりゃそうだ。


 本編あっての外伝。主食あってのオカズ。意味がないとは言わないが、メインイベントをスルーして来たいかと言われたら、まぁ大体の人間がNOと答えるだろう。


「んじゃあメインストリートに戻るか?」


「……? なんで?」


「なんでって……見るだけで満足するタイプならともかく、俺達は自分で体験したいタイプだし、疲れた方が祭りを堪能してる感じがして良いかなと思って……」


「このままで良い。祭りの雰囲気を味わいながら雑談するの楽しい」


 どっちやねん。


 いやまぁどっちの方が好みかって尋ね方をした俺が悪いんだけどさ。現状に満足してるか訊けば良かったんだけどさ。体験したいタイプってのも俺とユチはケースバイケースだし。ニーナに気を遣っただけだし。



「それにしてもイヨちゃん達はここの何が気に入ったんだろうね。あの子達は騒がしい方が好きだと思うんだけど」


 というわけで雑談再開。


 ヒカリが、先程までいた場所と比べれば閑散としている周辺に目をやりながら、首を傾げた。


「もしかしたらメインストリートを堪能した後で来たのかもな。ここって手に入れた品々で遊んだり吟味するのに最適な場所だし。飲食の出店はそれなりにあるから楽しめるっちゃ楽しめるし」


「それにしてはここのことばっかり褒めてたよね。もしかして反対側とか外側だったのかな? 防壁周辺としか聞いてないし」


「他人の不幸は蜜の味ってことで俺達を騙した可能性もあるな」


「さ、流石にそれはないんじゃないかニャ……絶対復讐されるし」


「おいおい、ユチは俺のことを何だと思ってるんだ?」


「仕返しという大義名分を得たら何をやっても許されると思ってる極悪非道な男。肉体と精神が成長する過程を見るのが好きなロリコン。法律的にも倫理的にも問題なければカメラに収めたいと思ってる変態」


「言い方に悪意があるけど正解だ」


「なら引かれて当然ニャ」


 え? 本人が望んでるならセーフじゃないの? 『私は楽しかった』に対して『俺は楽しくなかった』って返せば期待を裏切られたことに出来るから存分にイジメてね、セクハラしてねっていう、イヨからのメッセージじゃないの?


 もしくは今度こそ一矢報いれもかもしれないから怒られるの覚悟でやったろ。


 どちらにしても彼女は俺の反応を待っている。


「――って顔してるから一応ツッコむけど、違うと思うよ。絶対とは言い切れないのが凄いところだけど。ホント謎だよね、ルークとイヨちゃんの関係って」


「そうか? よくある関係だろ。近所の気の良い兄ちゃんと、その兄ちゃんに構ってほしくて堪らないクソガキって」


「たぶん向こうもまったく同じこと言うよ。心の中にはあったけど口に出さなかった『ダメ人間に頼られるから仕方なく付き合ってやってる』っていうのもね」


「つまり以心伝心。似た者同士。相思相愛だな」


「…………」


 嫁にしても良いけどあと10年は手を出すなよ、と釘を刺すような視線を向けられたことに苦言を呈す前に、ヒカリが話題を切り替えた。



「しっかし、この防壁も凄いよねぇ」


「たしかになぁ」


 どこまでも続く休憩所(誇張表現すればそんな感じ)に飽きてきたこともあり、俺はヒカリに導かれるまま、関心を右手にそびえ立つ巨壁に移した。


 これまでも何度も見る機会はあったが、こんなにも間近で、何百mにわたってゆっくり眺めるのは初めてのこと。


 サイズ、質、馴染み具合、お役立ちレベル。


 すべてが圧巻のそれに自然と尊敬の念が漏れる。


「……? 何が凄いの? 歴史?」


「違うぞ」「そうだよ」


 無駄とは思いつつも見放すのも違うので、微塵も情緒を感じさせない発言をしたニーナに、いつも通り呆れと優しさを織り交ぜた口調で説明しようとした瞬間。


 俺とヒカリの声が重なった。


 正反対の言葉で。


「ん?」「え?」


 思わず見つめ合う。


 俺が薄目になって唇を突き出したこととは一切関係ないと思うが、ヒカリが動いた。足や体ではなく言葉を発して事態を動かすという意味で。


「わたしはセイルーン王国建国当初から首都を守り続けてる歴史と、それを作ったベルちゃんの力と行動を考えて凄いなぁと思ったんだけど、ルークは違うの?」


「だって外見は何度も張り替えられてるんだから、歴史を感じるかと言われたら微妙じゃないか?」


 いつの間にか彼女の拳が握られていたこともあり、俺は一切の冗談を捨て去って真面目に返答した。せざるを得なかった。


「じゃあ何に感心したの?」


「壁が纏ってるオーラとか存在感」


 俺が成長したからだろうが、ただの小汚い石ころだった壁が実は原石で、加工されて美しい輝きを放つダイヤモンドになったぐらい劇的な変化がある。


 人類がつくった石壁では隠しきれない神々しいオーラが垣間見える。


「それってつまりベルちゃんの力と行動に感心したってことじゃないの?」


「ん~、まぁそう言えなくもないけど……」


 怠惰の悪魔ベルフェゴール。またの名を大地の神。


 やる気さえ出せばフィーネやユキより凄いことが出来そうな彼女だが、そのやる気が問題で、今のところ地べたを這いずり回る巨乳という印象しかない。


 本当に困った時には助けてくれるので、俺的頼りになる人ランキングでは不動の上位なのだが、普段なら頼みごとを断られても『まぁべーさんだし』としか思わない。


 どうやったのかは知らないがこの壁は彼女がやる気を出した例。1000年経ってもこれほどの力を持つ壁を、王都を囲う超規模で作るなんて、流石としか言いようがない。


「…………」


「あれあれ? もしかしてニーナさん、神獣のクセにこの壁の凄さが理解出来なかったりします? 話について来れなかったりします?」


 ニーナの口数が少ないのはいつものことだが、それは話を振られるのを待っていたり、脳内で会話を広げるシミュレーションをして楽しむコミュ障特有の状態なだけ。


 基本的には前向きだ。机に突っ伏すタイプだ。


 ただ今は『話し掛けるな』と後ろ向きだったり拒絶だったり、『これってそんな凄い壁かな?』という戸惑いだったり、さり気なく距離を取ったり、交流したくないので教室から出ていくマジのコミュ障を発揮している。


 イジるしかあるまい。


「言いづらいけどわたしもお姉ちゃん側だよ」


「同じくニャ」


「そ、そっか……」


 何かが出来るというのは凄いことなのに、周りが出来ないと知って不安になるのは、群集心理がすべての日本社会に染まっている証拠だろう。


 頑張ったヤツが凄いのではない。頑張らずに出来たヤツが凄いのだ。頑張って出来たところで他の者達が出来ないのならやらないから時間を無駄にしただけ。


 多数派こそ正義だ。


 そんな価値観はゴミだと思う。


 が、元日本人にして、神様から新人類と言われるほどおかしな精神状態から解放された俺が、微妙な気持ちになるのは致し方ないこと。


(イブ達が帰ってきたら訊いてみよ)


 もしかしたらこれは特殊五行を身につけた者だけに感じられるものなのかもしれない。


 だからなんだって話だけど。

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