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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十二章 千年郷

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千三百二話 続続々1000年祭5

「本当は武道大会と各町対抗クッキングバトルを見るつもりだったんだけど、こんな素敵イベントを知っちゃったら参加するしかないじゃない」


 猫の手食堂で一番の姉御肌のアールは、武道派食堂としての誇りより自らの欲望を優先させたことを、恥じる様子もなく打ち明けた。


 友人の母親の親友という微妙なポジションかつ、仲良くすると熟女好きだのお母さんも落とそうとしてるだの謂れのない批難を浴びるのでプライベートで絡んだことはほとんどなく、職場では年上らしく一歩引いたところで肩を竦めているので、俺の中では完全に『やれやれお姉さん』だった。


 出会って10年目でようやく見せてくれた素の部分が女装男子好きって……しかも知り合いでもイケるって……。


 身近な人間をエロ小説やエロ漫画のネタにするのと同じぐらい業が深い。


「なんで俺を巻き込んだ? 見るだけじゃ満足出来なかったのか?」


 他人の趣味趣向をとやかく言うつもりはないし、もしも言うヤツが居たらぶん殴るが、そのせいでこんな目に遭っているのだからこのぐらいキツく言っても大丈夫なはずだ。お礼を求めても許されるはずだ。


「出来なかったわね」


「そ、即答ですか……」


「あ、勘違いしないでね。アタシだって本当は美少年が良かったわよ。でも素材が良いとガチになるから、ならざるを得ないから、だったらどう調理しても美味しくなるルークを選ぶことにしたのよ。頼みやすかったし。安上がりだし」


「俺はお料理教室で使われる安い素材かッ!」


「そうよ。苦肉の策ってやつね」


 だから即答やめて……何も言えなくなるから……あと選んだなら最後まで責任もって処理して。苦肉の策とか言わないで。妥協枠にしないで。


「一瞬でもネタ的な面白さを求めて参加したと言ってくれることを期待した俺が馬鹿だったよ。だったら勘違いしないでとか紛らわしいこと言うなよ。なんで好みの話に持って行ってんだよ。誰もそんなこと訊いてねえよ」


「一応言っておくと、急にお金が必要になったとか、主催者が知り合いで頼みを断りきれなかったとか、誰かと喧嘩になって売り言葉に買い言葉で参加することになったとかでもないから。120%アタシの趣味だから」


 くっ……このニャンコ、ことごとく俺の期待を裏切ってきやがる。


「どうせ心の中では、日頃から語尾に『ニャ』をつけて働いているのでそろそろプライベートでもふとした拍子に出るのではないかとワクワクしている俺のことを嘲笑ってるんだろ? だからそんな流暢に喋るんだろ?」


「獣人が全員そうなるとは限らないって知ってるでしょ。喋りやすいからそうしてるだけ。女の一人称が『わたし』『あたし』『あーし』『わし』と多種多様なのと一緒」


「『ウチ』を忘れるな」


「なんでキレてんのよ……あれは方言が可愛いから真似してるだけで言いやすさとは別。その証拠に中年になると使わなくなるでしょ。社会生活では邪魔だって気付いて修正するからよ。あーしもそうだけどファッションに近いわね」


「年代と共に変わっていくから?」


「そゆこと。子供が耳馴染むように『ママ』や『お母さん』と呼ぶようになるのもそうね。自分の意志じゃなくて周りに合わせる感じが堪らなく嫌いだわ」


「つまりアールは俺と結婚して子供が出来ても呼び方はずっと『ルーク』だと?」


「その通りだけど、無理矢理に争いの種を生み出そうとするのはやめて頂戴。いつまでもふざけてないでそろそろ真面目に恋愛しなさいよ」


「ハーレム願望は大事かなって。イケるとこまで行こうかなって。突っ走ろうかなって」


「無茶と無謀は違うわよ。食堂メンバーで可能性あるのヒカリとニーナだけだってわかってんでしょ。お礼の件もそっちに言いなさい。アタシとリリの権限で代行させるから何しても良いわよ」


 初耳だったらしく、アール達の代わりに感謝するよう命じられたヒカリとニーナは、驚きながらもどこか楽しみな様子で話を流した。


 一瞬歓喜しかけたが、よくよく考えればデートプランを審査されることになっただけ……どころか後でアール達に伝わることも確定しているので、絶対順守の命令をされたのはこちらということに気付いてちょっと凹んだ。



「これはこれでお祭りって感じするしニャ」


 プレッシャーを感じて焦る俺を慰めるように話を戻したリリは、嫌々どころか言われなければこっちから進言していたとばかりの様子でアールの話を肯定した。


 周りでも他の面々がコクコクと頷いている。


「たしかに学園祭ってこんな感じだけどさ……」


 お世辞にも完成度が高いとは言えない、もっと言うなら性的に興奮するのは難しい、笑いを重視した格好をした自分の姿を鏡越しに見ながら俺は溜息を漏らした。


 ただでさえ高いテンションをさらに高めるためにアルコール入れたバカ野郎が、勢いよく登壇したらさぞ盛り上がることだろう。


「むしろよく言ってくれたニャ。これこそ私達が求めていたものニャ。需要に応えるためのビジネス観光は正直微妙だったニャ」


「そだねー。武道大会も見るだけってのは流石にねー」


「ルークを弄る方が楽しい」


 俺に対して気を遣わないことで名高いヒカリ・ニーナ・ユチの少女トリオに至っては、お楽しみプランどころかこれまで築き上げてきた立場すら否定し始めた。


 まぁニーナは自分を犠牲にしてでも俺をからかいに来るし(返り討ちに遭うまでがデフォ)、ヒカリも面白いこと大好きだし、こと俺が酷い目に遭うことに関してはユキ並みに積極的で、ユチも賞金目当てだろうから納得しかないわけだが……。


 アニメオタクが恋人とのデートでは恋愛映画見て、本当に見たい作品は後日1人で見に行くのと同じなんだろうな。たぶん。


 わざわざ口に出す必要はないと思うけどな!


「良いじゃん、楽しんでるんだから」


「おい、コラ、ヒカリ。俺の気持ちを勝手に代弁するな。しかも間違ってる。俺は悲しんでいるんだ。もしここに他の知り合いが居たとしても結果は変わらなかったという嘆かわしい現状を。用事をキャンセルしてでも駆けつける馬鹿しかいない人生を」


 おそらくアール……というか猫の手食堂の連中にBLや女装男子などという悪しき文化を布教したのも俺の知り合いだ。逆に彼女達が布教した可能性も十分ある。


 何故俺の周りにはそんな人間しかいないのだろう。


 楽しければ何でもいいみたいな連中ばっかりなのだろう。


「類は友を呼ぶんだよ」


「同族嫌悪って言葉もあるぞ。自分に都合の良い言葉を選びたがる人間の愚かな部分が出たな。ヒカリだけはそんなことないと思ってたのに……残念だ」


「どうする? お酒……じゃなくて米と炭酸で出来た、全身の魔力を暴走させて思考とか血流とかを乱すジュース飲んどく? 少しは気分が楽になると思うよ」


「……いただこう」


 無視されたことも、もう出番ということも、何をするかまったく決まっていないことも、すべてを受け入れて俺は手渡されたジュースをゴクリ……といくと化粧が落ちるのでストローでチューチュー吸って飲み干した。


 女装なんてそうでもしなきゃやってられんって。




『お前等、可愛い女子は好きかあああああああっ!!』


「「「うおおおおおおおおおおお!!」」」


 司会の男が会場に呼び掛けると、炎天下にもかかわらず集まった多くの男女(主に男)が、拡声魔道具に負けじと野太い声をあげ、両手を天につき上げた。


『綺麗な女は好きかああああああああああああっ!!』


「「「いええええええええあああああ!!」」」


『性格の良い女の子は好きかああああああああっ!!』


「「「当たり前だあああああああああああ!!」」」


『女装男子は大好きかあああああああああああああああっ!!』


「「「大っっ好きだああああああああああああああッ!!」」」


 それは徐々に勢いを増していき、最終的にテンション的にも内容的にも意味不明な盛り上がりを見せることとなったが、こういうくだらないことで盛り上がれる連中は嫌いじゃない。


 あえて苦言を呈させてもらうなら最後の台詞。


 イブに告白した時に使った言葉そのままだ。よくあるワードとは言え、なんか嫌。恥ずい。親と同じ名前の恋人が出来てしまったみたいなモヤモヤ感がある。


『よっしゃああ! それじゃあミスター美少女コンテストを始めていくぜ!!』


 そんな俺の気持ちなど知る由もなく、司会は勢いそのままに開会宣言をおこなう。


 と同時に、空にイベントを祝うかのように魔術が打ち上げられ、地上では先程に勝るとも劣らない歓声が沸き起こった。


 良い空気だ。これならやれる。


 俺はステージ裏からその様子を見てネタ枠が成功すること確信した。


『それではエントリーナンバー1! 名前と年齢、そして自己PRをどうぞ!』


 緊張、ワクワク感、過度な魔力摂取、ルールすら知らない現状への不安。


 全身の血液が躍動するような感覚に襲われつつも、俺は自分の名前が呼ばれるのを今か今かと待った。



『え~っと、アイです』


 一番手。俺とは反対側からステージに現れた女性(男性)は、俺が諦めた清楚系路線で行くようで、服装もさることながらおぼつかない足取りで中央まで歩いていき、震える声で名乗るという素晴らしい演技をみせた。


 中規模のイベントにしては金を掛けているらしく、個別の化粧室が用意されており、そこから直接ステージに出られる仕組み。


 よって俺が他の出場者を見るのはこれが初となるわけだが――。


「って、あれファイじゃね!?」


 ファイ=パトリック。


 声も横顔も纏っている空気も何もかもが違うが、元クラスメイトにして今なお一番の親友を見間違えるはずがない。


 俺の声が聞こえたのか、手持無沙汰でキョロキョロしていてたまたま見つけたのかは知らないが、こちらに気付いた時に一瞬絶望的な顔になったのが決定的だ。


「……お前等やったな?」


 仕組まれたことを悟って一同を睨みつけると、ヒカリが否定するようにプルプルと首を横に振り、


「いや、あれは本当に知らなかったよ。わたしが知ってるのはノルンちゃん達がここに来てるってことだけ」


「わたし、さっきトイレ行った時、シャルロッテと会った」


「へぇ~。私はここじゃないけどミドリちゃんを乗せたスケボーを引きずるラッキーちゃんを見かけたよ。お祭り楽しんでるのかなってスルーしたけど」


 全員参加じゃねえか!!

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