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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十一章 ステーションⅣ

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閑話 真相

「なんでこうも立て続けに災難に巻き込まれるんだみゃ……儂が何したっていうんだみゃ……」


 やりたい放題な人生から一遍。身内から重罪人を出したことで社会的信用も組織力も失い、そこで得た金銭まで返納することとなったヴュルテンブルク侯爵だが、そんなことは危機でも何でもないと思えるほど絶望的な状況を迎えていた。


「まぁまぁ。一緒に来たいって言うなら同行させてあげたらいいじゃないですか。迷惑になるわけでもなし。ついでですよ、ついで」


「バカ言うんじゃないみゃ! 実害被ってるみゃ! あの悪魔に護衛が2人消されたみゃ! 自分が乗るスペースがないからと危害を加えたみゃ!」


 侯爵は声を荒げて、隣でヘラヘラ笑うお気楽従者に数十分前の出来事を思い出すよう言った。


 悪事には加担していないため、ステーション計画さえ上手くいけば有能貴族であることが証明され、悲劇のヒロイン(?)の座を得ることが出来る。


 ずる賢い部分にだけ頭が回る男は、起死回生の一手を狙ってルーク達の下を訪れ、見事優秀な人材を連れ出すことに成功した。


 が、それは本当の不幸を招くスイッチでもあった。


 イブ、コーネル、パスカルの三賢者を引き連れてステーションへ向かおうとした矢先、ルークとの対話……もとい一方的にからかい満足したレイクたんが合流し、何故か自分も同行すると言い出し、勝手に席順を決め、今に至る。


「消し飛ばしたって……あの人なりのやり方で屋敷に飛ばしただけでしょ。大丈夫ですって。きっと庭で気絶してますよ」


「そこを明言しないのがもうダメみゃ! 質問すら許さないあの空気は完全に悪者のそれみゃ! あんな派手にしたのも自分の力を見せつけて文句を言えなくさせるためとしか思えんみゃ!」


「まぁ実際余裕で乗れましたよね。誰も口に出しませんでしたけど。たぶんですけど隣に座られたくないとかそんな理由でしょうね」


「あの悪魔め、儂まで追い出しおってぇ……」


 侯爵は忌々し気に背後の内と外を隔てる板……の奥に自分の代わりに座っているであろうレイクたんを思い浮かべて、拳を震わせる。


「私は話し相手が出来て助かりますけどね~」


 そんな主の気持ちなどどーでもいいとばかりに、ミラは皮肉を言いながらニヘヘと笑う。


 護衛達が居なくなったので代わりにミラが御者をすることになり、馬車の外と内を繋ぐ唯一の窓は固く閉ざされてしまったため、実質侯爵と2人旅だ。


「ここまでしてもし役に立たなかったら、今度こそビシッと――」


「うるさいですよ。御者は黙って馬を走らせておけば良いのです」


「み゛ゃっ!!」


 いくら呼び掛けても返事はなく、今なら何を言っても大丈夫と高級車の防音性を過信して退屈しのぎに愚痴を溢していたところへの不意打ちに、脂肪だらけの巨体がブルンと震えた。


「それとあの程度のものは実害とは言いません。通行の邪魔になる小動物がいたのでつまみ上げただけです。わたくしなりの愛です。かわいがりです」


「なんだみゃ、その『愛情さえあれば許される』と言わんばかりの便利な言葉は!?」


 相手を成長させるために仕方なくおこなう『教育的指導』に代わる、暴力を正当化する言葉が生まれた瞬間である。


 無関係な第三者から皮肉で使われることもしばしば。


「おや? ここにもかわいがる必要がある下等生物が居ますね。それともお望み通り本当の実害というものを被っていただきましょうか」


「土下座かみゃ!? 土下座すれば許してもらえるのかみゃ!? 儂の土下座は軽いぞ!? 今なら何でもするぞ!? さあ、望みを言ってみろ!」


「なんでこっちが脅すみたいになってるんですか……」


「命を守るためなら誰だってこうなるみゃっ! というかなんで他人事なんだみゃ! ミラも儂と同じ劣等種族なんだから上位種族様に媚びへつらうみゃ!」


「それは別に良いですけど、望みはもう口にしてましたよ。『うるさい』って。それを無視してやんややんや言い続ける方が危険だと思いますけどね」


「…………」


 それ以降、ヴュルテンブルク侯爵は、ステーションに到着するまで一言も発しなかった。


 まぁ相方に求められたジェスチャーでの会話は楽しんでいたようだが……。




「さて……どこまで話しましたかね。各地のネガティブ魔法陣を暴走させ、セイルーン王国を壊滅させた跡地にマンドレイク千年郷をつくったところでしたっけ?」


「全然違う。なんだそのロクでもない計画は。まだ自己紹介しかしていない。何ならそちらの番がまだだ」


 かわいがりを終えて車内に意識を戻したレイクたんは、鳥も真っ青な速度で忘却し、都合の良いように改ざんし、コーネル達を唖然とさせた。


「目上の者への敬意を忘れてはいけませんよ。敬語を使いなさい」


「あ、え……す、すいません……てっきり強者特有の常識がない方かと。我がままで護衛を排除したところとか特にそんな感じがして」


 色々な意味で呆れたのも束の間。


 常識的な指摘にコーネルはすぐに腰を低くした。


「レイクたんは年下。地位も別枠。目上じゃない」


 そんな仕事仲間に対し、この場に居る誰よりもレイクたんのことに詳しいイブが、紹介を兼ねたフォローを入れる。


「そのようなことは些細な問題です。わたくしは世界の王。誰であろうと敬うべき存在です。わたくしが緑と言えば黒も白もすべて緑になるのです」


((あ~、なるほど、この人そういう感じだ……))


 そのやり取りを聞いた瞬間、コーネルとパスカルは、レイクたんの身勝手さと、それを可能にする実力を痛感した。


 やはり強者はどこまで行っても強者だった。



「で、では改めて、レイクたんさん」


「わたくしの名前はレイクです。『たん』付けは命の恩人および親の面した変態が広めたもの。今度その呼び方をしたら殺しますよ」


 コーネルが意図せず特大地雷を踏んだ瞬間、レイクたんから世界を揺るがす殺意の波動が溢れ出……ない。


「脅すなら殺意を振りまいて。いくらレイクたんにとって命を奪うことが息をするのと同じぐらい自然なことでも、やられた方は堪らない。覚悟をする時間ぐらい与えてあげて」


「イブさん……注意するところ違う……」


「そうですよ。そこは『自己紹介しなかったレイクたんが悪い』と言うべきでした。そうすればわたくしも、イブ様はわたくしが生まれる前から呼んでいたから仕方なく認めたことや、実力を認めた者には寛容になること。イブ様ほどではないにしろお2人が優秀な人材であることは最初から知っていて、間違った方向に導き、それによって魔法陣を暴走させるという目的があることなど話を広げられたのです」


「話が繋がっていただと!?」


「気が利かなくてごめんなさい」


「しかもツッコミどころ満載の内容をすべて無視して非を認めた!?」


「ただ今言ったことは嘘。レイクたんなら1人で暴走させられる。ルーク君に言ったことも嘘。執事を洗脳なんてしてない。力も貸してない。記憶を失った理由は別にある。あの魔法陣も本当に偶然生まれたもの」


「おや? そう思う根拠はなんですか?」


「…………」


 コーネル=ライヤー。


 ルークも認めるツッコミ職人である彼は、この日、自らの実力不足を痛感して嘆いたとか嘆かなかったとか。


 流れに逆らわず受け入れることも時には重要だと学べたので、成長したとも言えるのかもしれないが、帰還後、構ってちゃん(ルーク)から相手にするまでちょっかいを掛けられ、やはり諦めずに逆らい続けることも大切だと思い直し、その考えを捨てることになる。


 まぁそれはそれとしてレイクたんが同行した理由である。


「謎が多過ぎる。これまで強者がかかわった事件は多少なりとも納得する要素があったし、それは必ず誰かのタメになってた。でも今回はそれがない。いつもなら誰が不幸になろうと成長の糧・生命の正しい形として見過ごすのに」


「わたくしは人類を成長させようなどと考えたこともありませんが?」


「レイクたんの意志は関係ない。与えたヒントに気付けたら成長出来るように、強者が証拠なり要素なりを残すはず。今回はそれもなかった」


「わたくしの力が彼等を上回っただけでしょう」


「それなら頂点を奪いに来る。レイクたんはそういう人」


「では強者が本気を出していないのでしょう。協力しているのかもしれません。皆様がヒントに気付いていない可能性もありますね」


 答えを知っているイブと、はぐらかそうとするレイクたんの構図を理解したコーネルとパスカルは、事の成り行きを見守りながら自力で辿り着こうとしていた。


 一瞬早く閃いたのはコーネル。


「……ルークに言えないことがあるのか?」


「それも口に出すことすら憚られるようなことですね」


「はい? 別に言えますが? いつも、すべてをわかっているような顔で事態を語る小僧を騙すために一芝居打っただけのこと。

 あえて憚ることをあげるとするなら、傍観することが多くなり強者が関与している可能性を示唆出来るようになったことや、別件で忙しくて手出しできないタイミングを見計らったことでしょうか。

 中々答えが出なかったのはイブ様のトーク力の問題です。物事を順序立てて説明したがる理系あるあるです」


「「「…………」」」


 コイツ嫌いだ。


 コーネル達の心に怒りの炎が宿る。


 イブだけは照れの感情と半々だが……。



「要するに、強者の仕業だからと諦めたフリをしながらもシッカリ自分なりの答えを出すルークなら、今回の事件も裏の裏を読んでそれっぽい答えを見つけているから、散々引っ張った後で『それ違うよ』と明かしてガッカリさせたいと?」


「それだけではありません。教えを乞うても拒否され、自力で調べても答えは見つけられず、悶々としながら生きるルーク様のお姿を目に焼き付けたいのです」


 コーネルが話をまとめると、レイクたんは肯定しつつ、ロクでもない思想を垂れ流し始めた。もはや隠す気などないらしい。元々なかったとも言う。


「フィーネさんに焼き殺されないと良いですね」


「問題ありません。ルーク様の成長に繋がることでしたらあの方は喜んで傍観者となります。おそらく現段階でもバラしてはいないでしょう。であればルーク様は今回の事件が地下を開拓したせいで起きたと考えるはず。

 魔獣の件も、証拠品では『事故に見せかけるために仕向けることはあるが、それは飼いならしたものではなく自然界に蔓延っている魔獣で、特別な術式などは用いていない』ですが、彼の中ではわたくしの仕業ということになっているでしょう」


「ということは本当は違う?」


「はい。ルーク様が魔獣の心を読めなかった理由は読心術に失敗したからです。ただでさえ不安定な魔獣の精神を100%の確率で読むなど人間には不可能。しかしそれを推理要素の1つとして考えている彼は見事迷走しました。わたくしあれほど腹を抱えて笑ったのは初めてです。お礼に皆様に力を貸すことにしました」


「そんなロクでもない理由だったんですか……まぁ良いですけど。それで? 僕達に何をさせようと言うんです?」


「皆様にはこれから自力で魔法陣を解析していただきます。期限は今日1日。わたくしの言う通りにすれば大丈夫です。脳にマンドレイクの種を植え付けるだけで驚くべき力が手に入りますよ」


「誰か、フィーネさんを呼べ。コイツは敵だ」


「おやおや。良いのですか、そのようなことを言って。あの魔法陣に隠されている秘密はあなた方の今後に役立つものですよ。わたくしが協力するのは今回だけ。強者はこのようなことに力を貸しません」


「くっ……未来のために未来を差し出せというわけか……」


「恐れる必要はありません。ただ苗床になるだけで解析出来るのです。わたくしは皆様の記憶と経験と力をいただ……おっほん、覗かせていただき、皆様は将来のための力を手に入れる。win-winの関係でしょう」


 自分達に何かあったら全力で治療に協力すると誓え。


 よほど自信があるのか、イブ達が出した条件をあっさりのんだレイクたんは、一同の頭に手を掛けた。

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