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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十一章 ステーションⅣ

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千二百九十七話 犯人

「結局、自分の無知を痛感させられただけだったけど、それってまだまだ成長出来るってことだし、悪が滅びたお陰で心置きなく祭りを楽しめるってもんよ! 結果良ければすべて良し! ガーッハッハッハ!」


 知識と技術と推理力で犯人を特定するつもりだった俺としては素直に喜べない結果となったが、うじうじ悩むのは性に合わないのでポジティブに捉えることに。


 ほぼ確実に強者の仕業だし気にしてもしょーがない。


 ここから先は貴族や警察の仕事だ。


 やろうと思えばいつでも正義を執行出来たはずなので、何故このタイミングだったのかは気になるが、強者の行動理念を解き明かすのはあの魔法陣を解析するより難しいことなのでそれこそ気にしてもしょーがない。


「でもステーションには行くから」


「当然だな。僕達にとって重要なのは犯人の正体やその後の動向ではなく、自らを成長させられるかどうか。犯人が捕まろうが逃げようが死のうが栄えようが僕達には関係のないことだ。僕達の知らないところで始まるのは仕方ないが、僕達が何もしない内に終わらせるんじゃない。面白くないし何も得られないじゃないか」


「お2人の言う通りです。しかも間もなく、犯人から術式や生成方法を聞いた、未知を解き明かす鍵を持っているかもしれない人が来るのでしょう? これ以上ない成長のチャンスです」


「ったく、勝手にしろ」


 魔獣を調査してくれたユチ達は事件が発覚する前から諦めていたので再調査しないことに肯定的だが、魔法陣の解析を担った……もとい担うつもりだった連中は不満タラタラ。


 あのアホ貴族にそこまでのやる気や術式を理解する実力があるとは思えないのだが、万が一ということもあるし、期待するのはタダなので好きにさせることに。


 あ、もちろんアホ貴族が解析に役立つ情報持ってたら俺も同行するよ。たぶん持ってないから他の連中と祭りを楽しむことになるけど。




「酷い目に遭ったみゃ……」


 自宅で事件が起きて、被害者は国を巻き込んだ大悪事をおこなっていて、それは身近な人間で、自分も利益を得ていて、手を下した犯人は不明。


 事情聴取で数日拘束されてもおかしくない状況だが、宿屋にやってきたアホ貴族は面倒臭いクレーマーを処理した程度の疲労感を見せながら、何食わぬ顔で俺の正面に座った。


 語らう気満々だ。


「なんで自由に歩き回れてんだよ。そしてなんでここに来るんだよ。あとリサさんはどうした?」


 アホ貴族の傍にはミラさんと昨日も居た護衛の男が2人。


 リサさんの姿がない。


 普段なら別々に行動しているか休暇なのだろうと流すところだが、タイミングがタイミングなだけに気になる。一度は黒と認定した人だしな。あと俺の中ではミラ&リサは2人で1人の存在なので物足りなさから触れざるを得なかった。


「なんでもなにもセバスが倒れているのを見つけたのは深夜みゃ。徹夜で調べれば加担していたかどうかなんてわかって当然みゃ。証拠品の中にも儂等の名前はなかったしみゃ」


「わかって当然? バカ言うな。そんな簡単にわかるわけないだろ」


 ――と、取り調べの難しさを知らないアホ貴族を説教しかけたが、そこに様々な思惑が存在している可能性を感じ取った俺は口を紡いだ。


 後ろに(笑)が付こうとアホ貴族がリーダーの1人であることに変わりはなく、ただでさえ進行ギリギリなのに、本当の要が居なくなった上、1000年祭で忙しいこの時期にダラダラ取り調べなんかして作業に支障をきたしたら調査機関は犯人より叩かれること間違いなし。現場トラブルの責任まで取らされるかもしれない。


 よほどの証拠が見つからない限り釈放せざるを得なかったのだろう。


 そしてそこで役立ったのが執事を襲った犯人が残した証拠。あまりに完璧過ぎたので『ここに無いなら白かな』とか思ってそうだ。まぁ正解だけど。


「取材は? 報道機関には白か黒かなんて関係ないだろ?」


「『何も知らない』の一点張りで切り抜けたみゃ。事実だしみゃ。あと仕事があると言って追い払ったみゃ」


 確信犯か……小賢しい真似を……。


 サボるための言い訳や自分が得する力の使い方を心得ている権力者を目の当たりにして苛立ちを覚えたものの、悪と呼ぶほどのものではないことに加え、一応彼も被害者なので放っておくことに。


「ならステーションに直行しろよ。ここはお前の職場じゃねえ」


「そんな邪険にするんじゃないみゃ。おみゃあ等にとっても悪い話ではないみゃ」


 それでもいつもより当たりきつめに、ハエでも追い払うように手をパタパタさせると、アホ貴族はニチャっとした気色の悪い笑みを浮かべて食堂内を見渡した。


 そして改まったように神妙な顔になり、



「実はセバスの記憶がなくなっているんだみゃ」



「は……?」


「今更とぼける意味なんてないし、国の治癒術師が総出で調べて原因がわからなかったから、おそらく襲われた時に何かされたんだみゃ。もしかしたら一生このままかもしれないみゃ。だからあの魔法陣も謎のままみゃ」


「いや……え……なんで?」


「あ、その前にリサのこと説明させてもらっていい?」


 ミスとは思えないので意図してのことだろうが、記憶を奪う理由もわからなければ何故それを俺達に教えたのかもわからず、本当の意味で迷宮入りしそうな状況に戸惑っていると、ミラさんが割り込んできた。


「彼女が居ない理由は、第一発見者で私達より時間を掛けて調べられてるからなの。本人は何も知らなかったみたいだけど、セバスチャンから仕事に必要って言われてこっちの動向を逐一報告してたみたい。部屋に行った理由もそれだってさ」


「はぁ……」


 黒っぽく見えた理由はそれか。


 関係者だけど、悪意も情報も持ってない人間をどう評価したら良いかわからなかった精霊達は、グレーと判断したと。


 まぁ今となってはどうでもいいことだけど。


「で、サーバス……あ、私やリサと同じ元風俗嬢の従者なんだけど、その子はセバスチャンに協力してたらしいんだよね。しかも同じように記憶喪失になってるの」


「片っ端から消されてる!? 実は別の悪の組織の仕業だったりしない!?」


「それはわからないけど、問題はこっちは幼少期まで退行しちゃってるってこと。言葉を少し理解出来るぐらいの精神年齢になってたよ。検査してもらってるけど治療は難しいだろうって。こんなことは初めてだって」


 そりゃそうだ。記憶や肉体に刻まれた経験値を消し去るなんて、肉体や精神の構造を完全に理解していないと出来ないことだ。


 ホイホイ起きたら困る。


「ま、まぁとにかく犯人一味は記憶もろとも壊滅して、証拠は残ってたから捕まえられたけどそれ以上の進展が出来なくなったってことか……」


「その通りみゃ。現場に落ちていた証拠品の中にあった書類に『あの魔法陣がどのように生成されたものかは知らない』『そうなれば良いと思って弄っていたら偶然出来たもの』とセバスの文字で記されていたから、記憶が戻っても解明は出来そうにないが、現状は手掛かりすらないみゃ」


「で? それと朗報がどう繋がるってなんだよ? 結局なんでここに来たんだよ?」


「おみゃあ等に解析を依頼したいみゃ。この中に今回の件に興味を持った者がいるはずみゃ。一応セイルーン王国でも調査するらしいが、おそらく何も見つからず偶発的に生まれたものということになるみゃ。このままだと廃棄することになるみゃ。未知を未知のままこの世から消し去るのは勿体ないみゃ」


「てめえええええッ!!」


「さあ! 儂等と一緒にステーションに来る者はいないかみゃ! 好きなだけ調べさせてやるみゃ! ついでに楽しい作業も出来るみゃ!」


 何を言おうとしているのかいち早く察した俺は、無駄とは思いながらそれ以上発言させないよう、そして他力本願なバカ野郎を批難するべく大声をあげるもやはり意味はなく、アホ貴族はまるでこの後の俺達の予定を知っていたかのようにイブ達に誘いを掛けた。


 コイツは昨日、調査を途中(超序盤)退場したが、本当の狙いは優秀な人材の確保だったのだ。


 俺が頼るということは俺に負けず劣らずの実力者ということ。


 そんな連中をスカウトしたとなれば間違いなくヤツの株は上がるし(というか上に立つ者の仕事がそれだし)、解明に成功すれば万々歳、失敗しても折角だからと作業への口出しを頼める。ワンチャン手伝ってもらえる。


 マリーさんも居れば完璧だっただろうが、生憎彼女はダブル犯人の調査で手一杯、もしくは王女の職務でてんやわんやのはず。


 視察に付き合ってくれただけでも奇跡だ。


「行く」


「ああ。丁度行こうと思っていたんだ」


「是非」


 当然のようにイブ達はこの誘いに乗った。


 まぁいいけどさ。



「それでサーバスなんだけど、私達で育てることにしたよ。赤ちゃんじゃないから難しくないしね」


 思い通りにならない赤ちゃんならやらないって言ってるようなもんだけど、悪気はないんだろうなぁ……。


「みゃふふ……慣れた者も捨てがたいが、無垢な者を汚すのも楽しいからみゃ」


 こっちも悪気はないんだろうなぁ……。


 肉体が大人で、しかも元々そういう仕事をしていたので犯罪ではないだろうが、モラル的には完全にアウト。ロリコンであり病人を虐げるなんて死刑待ったなし。


 ただ、普段通りの生活をしていたら記憶が戻るという話がある以上、それがどれだけ変なことでも治療として推奨されるべきだ。


 だからここは勇気のスルー。


「おやおや……久しぶりにお会いしたかと思えば、唯一の取り柄である嘘くさいまでの正義感すら失ってしまったのですか。周りに合わせて自らを退化・劣化させるとは、人間というのは本当にどうしようもない生き物ですね」


「……何しに来やがった」


 悪態をつきながらどこからともなく現れたのは、最悪の名に相応しい、深緑の悪魔。マンドレイクのレイクたん。


「誰みゃ?」


「たぶん執事を襲った犯人だ。ただ彼女の正体を知ったヤツで幸せになったヤツは居ない。何なら高確率で命がなくなる。ガチで。マジで。リアルに」


「もう騙されんみゃ。いつもの冗談だみゃ?」


「…………」


 やりたきゃやれ、という空気だけ纏って俺は弁解を放棄した。


 その方がリアリティが出る時もある。


 実際、アホ貴族には効果てきめんだったらしく、関係あることだけ後から教えろとだけ言って外に停めていた馬車に駆け込んだ。


 それを見届けると俺は再びレイクたんを睨みつけた。


「わたくしがここへ来た理由は、お察しの通り、悪意を糧に芽吹いたマンドレイクを回収したついでに新たな種を植え付けようと思ったからです。あの執事は悪意がたっぷり詰まった素晴らしい苗床でした」


「そこまでは察してねえよ!?」


「魔獣や動植物はダメですね。生存本能が強すぎて悪意が足りません。心が荒んでいる人類が最高です。ルーク様は御存知ですか? 性根が腐った者ほど綺麗な花が咲くという格言を。物は試しとやってみたところこれが中々見事な大輪が咲きまして、共存関係も捨てたものではないと心改めていたところです」


「それは共存じゃなくて一方的な搾取だ!」


「おかしいですね。苗床には対価として力を与えたのですが……皆さん喜んでおられましたよ。他者を虐げることに抵抗がなくなり、それでもなお叶えられないものがあると知り、これまで以上のストレスを感じるようになりました」


「最悪だあああああああああッ!!!」


「それと、勘違いしているようなので言っておきますが、わたくしは執事以外には手を出しておりませんよ」


 ……なに?

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