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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十一章 ステーションⅣ

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千二百九十六話 結末は突然に

「……は? アホ貴族が捕まった?」


 ステーションを視察した翌日。


 なんやかんやあって王都に帰ってきてからも休む暇がなかったにもかかわらず、普段通りの時間に目を覚まし、朝食をとるべく食堂を訪れた俺を待っていたのは、半日前まで仲良く(?)していた人間が捕まったという衝撃のニュース。


「勝手に省略しないでよ。捕まったのはルークが怪しいって言ってた執事の方。ほら」


 さらなる情報を出す前に俺の発言を訂正した通知者……もといレオ兄は、詳しいことは自分で調べろと言わんばかりの様子で新聞を差し出してきた。


「……どこだよ」


 僅か7年で紙文化も随分と様変わりしたものだ、と自分の功績を誇らしく思いながら目を通すも、そのような文言は見当たらない。


 騙すならもっと面白くしていただきたい。


 自然と強めの口調になるもレオ兄は気にすることなく、それどころか逆に責めるような口調で一面を飾っている写真を指差し、


「アホ貴族はルークが勝手につけたあだ名だろ。そんな名前で載るわけないじゃないか。ヴュルテンブルク侯爵だよ。あと執事はセバスチャンじゃなくてセガール=バスティね」


「おおっ、そう言えば!」


 言われて気付いてジャジャジャジャーン。


 エアコンディショナーをエアコン、パーソナルコンピュータをパソコン、フリーランスアルバイターをフリーターと略すのに慣れ過ぎて正式名称が出てこないように、指摘されるまでどちらも本名ではないことに気付かなかったぜぃ。たぶん教科書の正式名称が『教科用図書』であることを日本人の99%が知らないんじゃないか?


 俺にとってはそれレベルよ。侯爵ならワンチャンあった。


 あと、俺に伝わるように気を遣ったんだろうけど、ヤツのことをアホ貴族と呼んだレオ兄も悪い。それで勘違いするなっていう方が無理がある。目が完全に『ア』と『セ』で始まる文字を探していた。


 改めて逮捕記事に注目すると、たしかにそこには事件の詳細が書かれていた。


「え~、なになに……昨日の夜中、アホ貴族の執事が屋敷の執務室で昏倒しているのを従者が発見? 周りに悪事の証拠がばら撒かれてて、そいつが経営する企業でも似たような目に遭ってるヤツがいるぅ~?」


「これってどう考えてもアレだよね」


「アレしかないだろ」


 世間的には不可解な事件だろうが、俺達にとっては割とよくあること。俺とレオ兄は揃って容疑者(英雄?)達に疑い、そして窺いの視線を向けた。



「私は何もしていませんよ」


 真っ先に反応したのは、俺の隣でパンを一口サイズに千切っては口に運んでいたフィーネ。


 そのままかぶりつく、もしくは付け合わせのスープに浸す、百歩譲って千切るとしてもパン屑が散らばってかえって見苦しくなるものだが、彼女ほどになると物理法則など無視出来るらしくテーブルの上には塵1つない。流石だ。


 ところでアンパンはどうやって食べるのが正解なんだろう? 具材が乗っていない食パンやバターとかを後から塗れるパンはわかるけど、そういうのが出来ないものって味気ない部分が出るし、そもそも中身の餡はどうするんだ? すくうのか? ブニュってはみ出たり片寄ったりして逆に行儀悪くね?


「基本的に出ませんね。出るとしたら一口サイズに切り分けた状態で出ます」


「でもそれって家じゃ出来ないだろ?」


「私は千切って食べますね。中身の片寄りは精霊術で均等にするのでこぼれることはありません。端の部分はたい焼きと同じく口直しに使用します」


 反則クセェ……紳士淑女の皆さんはそれが出来なくて困ってるってのに。


 まぁマナーに困るようなもんを出すなってことなんだろうけど。皆でやれば怖くないの精神で切り分けたりかぶりついたりするのかもしれない。


 とにかくフィーネは犯人じゃないと。


 見逃した可能性は残っている……というか激高だが、どうせ訊いても教えてくれないのでスルーさせていただく。言うつもりなら今言っている。


「アタシも違うわよ」


 フィーネほど発想力や実力がなかったのか、下等種族にどう思われようと構わないのか、直前までジャムパンにかぶりついていたルナマリアだが、俺にからかわれるのだけは我慢ならないようで、秒で処理してサラダという誰が食べても同じになる無難オブ無難なものに逃げた……って本題はそこじゃないな。


 まぁわかった上で行くんですけどね!


「急いで詰め込んだせいで『ふぁたし』って言ってたぞ。あとパン粉を指につけたまま食器に触るんじゃない。1回お手拭きで綺麗にしろ。それをしないのは普段舐めて対処してるヤツだ。お前アイスの蓋を舐めるタイプだろ。ハンカチ忘れた時、手を洗った後に服で拭うタイプだろ。何ならハンカチ持ってても『どうせこのままポケットに手を突っ込んでも濡れるし、いっか』って服で拭うだろ」


「そ、そそ、そんなわけないじゃない!!」


 これを自供と言わずしてなんと言うって感じだ。


 普通に食べてた方が減点少なかったと思うし、とっさにその判断が出来ないコイツに淑女は無理だが、とりあえず事件の犯人ではないので釈放。


 ココとチコに食事の仕方を教えた時のクセで、とか言ってれば言い逃れ出来たかもな。900年以上慣れ親しんだ行動を、半年もしていない行動に塗り替えられる方が問題な気もするが……。


「同じくです」


「俺様もだ」


 子供達が食べ終わるのを待っていたクララ&フリーザのエルフ夫婦も犯行を否定。


 たしかクララさんは千切っていた。バターを塗るタイプのパンだったので断言は出来ないが、少なくともルナマリアよりは女子力が高そうだ。いつまでこっちに居るのかはわからないが、近い内にアンパンチャレンジさせてみようと思う。


 あ、そうそう。


 イヨとルイーズ、仲直りした。


 珍しいフライドポテトを1つ多く食べたなんていうくだらない理由だったので当然と言えば当然なのだが、1日頭を冷やしたらどうでも良くなったらしい。むしろあれより美味いものを探すぜってなもんよ。超えるべき壁として悪役にされちまったよ。別に良いけどさ。


「はぁはぁ……私も……知り、ませ、ん……」


 全身に無数の切り傷があり、ところどころ服が焦げていて、食事どころかコップに入った水を飲むことすらままならず、椅子にもたれかかって疲労困憊を体現したようなユキも違うと。


「事件は迷宮入りだな」


「そうだね」


「おいおい、セニョール。それはないぜ。もっとよく見てくれよ。口ではそう言ってるけど実は……ってよくある展開じゃないか。一目瞭然じゃないか」


 汚れも、傷も、服の破れも、一切合切一瞬で修復したユキは馴れ馴れしく肩を組み、申し訳程度に残した腕の切り傷を見せつけてきた。


 どう考えても無理がある。


「うるさい、黙れ。お前がそんなになる状況ってのがまずあり得ないんだよ。大体自分から演技だったことバラしてるじゃねえか。なんだその傷。血が滲んでないってどういうことだよ」


「CEROの関係です~」


 Computer Entertainment Rating Organization(特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構)だとぉ!? 家庭用ゲームソフトおよび一部のパソコンゲームを対象とする表現の倫理規定の策定及び審査を行う、日本の特定非営利活動法人の名前が何故ここで!? 流血はNGとかそういうことか!?


「あ、間違えました。『構って欲しくて偽装しただけで私も何もしてません』でした」


「どんな間違い方!?」


 ツッコミどころしかない。


 しかも、やるだけやって満足したらしく、何事もなかったかのようにアンパンにかぶりついてるし……やっぱそれだよな、一番美味しい食べ方って。


「ってそれ俺の!!」


 このアンパンもいつものように自分で生み出したものに違いないと気持ちを切り替え、自分の皿に注目すると、そこにはあるはずのものがなかった。


「最近太ってきたからダイエットしようかなって」


「そのセリフは当人しか言っちゃダメだし、俺は別に太ってないし、仮に太ってたとしても運動して痩せるから食事制限なんてしないし、どうしてもする必要があったとしても朝食は絶対に抜かない」


「御馳走様でした~」


 チクショウめ!




「ところで――」


 ユキが注文していたパンがアンパンとは似て非なるチョコパンだったことに苛立ちつつ、それ以外食べる物がないので仕方なく奪い、食べていると、「酸味の効いたドレッシングと合いませんね~。プププ~」と煽っていたユキが思い出したように話を切り出した。


「昨日夜遅くまでルークさん達を襲った魔獣の死体を調べても何も見つけられなかった無能の皆さんは、今日も今日とて調べたり、出来もしないのに未知の魔法陣を解析するためにこの後ステーションに行こうとしてましたよね?」


「言い方に気を付けろ。『いつまでも、あると思うな、他人の信頼』だ」


「失った信頼を取り戻す自信のない無能の言葉ですね~。嫌われる覚悟もない人は哀れですね~。人目を気にして遠慮する人生なんてつまらないですよ~」


「お前は全力出し過ぎだ」


「まぁまぁ。それよりどうするんですか? もしルークさんの予想通りなら、犯人の執事さんが魔獣洗脳や魔法陣改造のやり方を知ってますよね? 意味がないとは言いませんけど、その情報を待たずに見つかるかどうかわからない調査をするのって時間が勿体なくないですか?」


「む……」


 たしかにユキの言うように、昨日俺達は冒険者並みに魔獣の生態に詳しいヒカリ達素材調達班、死体を捌き続けて約10年のユチ達猫の手食堂チーム、作物を育て・食べ・改良し続けるモームさん達農林業組など、ロア商会の全精力(強者を除く)を使って魔獣の調査にあたっていた。当然セイルーン国の連中も一緒。


 が、おかしな点は見つけられなかった。


 気のせいということにされてブチギレたのは記憶に新しい。というか眠れなかった原因の大半がそれだ。


 アース式立体魔法陣も、俺達のために稼働させるのは申し訳ないのでイブ達研究者には口頭で伝え、その場で出来るだけのことをし、やはり現物を見なければどうしようもないということで、この後ステーションへ行く予定だった。


 犯人が見つかり、おそらくその方法を知っている今、どちらも無駄になる。


「役に立つかはわかりませんけどアホ貴族さんがこちらに向かってますよ~」


「……事情聴くかぁ」


 というわけで一旦待機。

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