千二百九十五話 ステーションの乱17
無能どもの教育はアホ貴族に任せて、窃盗犯の捕縛はマリーさんに任せて、めでたしめでたし……とはならない。
肝心の魔法陣問題もまだ片付いていないし、それ以外の問題や疑問がいくつも残っている。
「無能が無能を教育しても意味がないどころか間違った方向に進む可能性が高いので、そっちもメリーさんがやってください。もしかしたら役立つ案を出すかもしれないので、一緒に対策を考えても良いかもです。まぁ1人の方がマシでしょうけど」
「おい……」
「遠慮するわ。1人でもやらないわ。知り合いの専門家にお願いするから大丈夫よ」
「おみゃあも乗るのかみゃ!?」
1つ1つ片付けていこうと真剣な議論を始めるも、アホ貴族には冗談に聞こえたらしく、ツッコミんだかと思うと切っ掛けを作った俺を睨みつけ、何か言いたげな空気を纏った。
が、俺はマリーさんの発言が気になるのでスルーさせていただく。
知り合いの専門家って俺のことじゃないですよね? 俺の周りの人間もダメですよ。なんやかんやで引っ張り出されるので。
「いくら気付かれにくいと言っても、国家事業の妨害なんてリスクを負ってまでやることなのかしら? 盗むものもバレないように少量、しかも重要でないものでしょ? 売値なんてたかが知れてるじゃない」
先手を打って問いかける視線を向けると、マリーさんは話を逸らすように第二の問題『犯行動機』を切り出した。
「それは――」
「ちょっと待つみゃ。勝手に話を進めるんじゃないみゃ。おみゃあ等は間違ってるみゃ。教育する必要なんてないみゃ。だからその『どうせ出来ないだろうけど今のうちに対策考えとけ、無能が』と今にも言い出しそうな顔をやめるみゃ」
俺なりの答えはあったので、推測の域を出ないことを承知で討論に入ろうとすると、アホ貴族が割り込んできた。
「ほ~、面白いじゃないか。無駄と無能の集まりをどうやってフォローするつもりだ。言ってみろよ」
タイミングもさることながら、職務放棄を前提とした言い訳に怒りすら感じたものの、どういった主張をするのか気にはなったので耳を傾けることに。
するとアホ貴族は待ってましたとばかりに咳ばらいをし、
「これは余計なトラブルを避けるための必要経費なんだみゃ。効率良く作業するためには資材は余らせるべきもので、素材を仕入れ、製造し、廃棄するまでのすべてに費用は掛かるのだから、それだけ経済が回るっているということみゃ。無駄じゃないみゃ。儂等は『余り』という名の仕事を与えているに過ぎんみゃ。そのために国が金を使うのは当然のことみゃ」
「いや、一括で仕入れた中に不良品や柄・色が合わないものはどうしてもあるし、そんな時は予備の中から合うものを選ぶのはわかるけど、使用しなかったものを廃棄するのは違うだろ。勿体ないだろ。教育して無駄をなくすべきだろ」
久々のホームセンターあるある。
木や石なんかの自然物は特に多い。というかなきゃおかしい。
ただ、曲がっていたり割れているものでも加工して店の什器やインテリアとして使ったり、DIY初心者の練習に使ったり、細かくカットして廃材として売ったり小袋に分けて格安販売する。
つまり無駄にしない。
「それは同じ部署だから出来ることみゃ。おみゃあが思っているより他所への譲渡は手続きが面倒なんだみゃ。余ったからといってホイホイ渡せるようなものじゃないみゃ。そんなことをするぐらいなら追加投資してバッチリ合うものを用意するみゃ。その方が完成度は高くなるし、経済が回るからみゃ。
そもそも再利用出来てるみゃ。使わなくなった物を他のところで活用するという意味では、横流しも立派なリサイクルみゃ。むしろ推奨するべきものだみゃ」
「犯人確保ーっ!」
作業員を捕まえた時と同じく声高らかに叫び、比較的爽やかな作業員と違ってデブ中年には触りたくなかったので確保は周囲の人間に任せた。
……………………。
…………。
静寂が辺りを包む。
フィーネとマリーさんは当然として、こういう時にノリノリで参加するイヨも、肉体接触に慣れている美女達も微動だにしない。
「誰か捕まえてやれよ。可哀想だろ」
取り囲まれて「や、やめろよー。俺は何もやってねぇよー」とまではいかずとも、誰かしらは責めたり動いたりすると思っていたアホ貴族は、困ったような顔で立ち尽くしていた。
流石に哀れだ。
「ルークがやればいいでしょ。わたしはきもちわるいからイヤよ」
「俺だってヤだよ」
断固として譲らないイヨ。
まぁ歩き回ったせいで汗ばんでいる中年のブヨっと、グショっとした体なんて誰だって触れたくない。このフカフカは世界一不快なフカフカだ。PTSD待ったなし。
「そうだ。こういう時こそ2人の出番じゃないですか。ほら、いつも通りベタベタしてくださいよ。そのついでに拘束してくださいよ。俺、風俗嬢のそういう割り切ったところ尊敬してるんです。嫌々でも奉仕出来るのは凄いです。介護の仕事向いてます。俺だったら見ず知らずのブサイクの相手なんて死んでも嫌です。だからやってください。お金あげますから」
「わ、私達はご主人様側だから……」
「そーそー。やるならそっちの人達でやってよー」
「金額の確認すらしないとかガチで嫌がってるじゃないですか。まぁ上にあげて『はい、あげたー』って言うつもりでしたけど……とにかく! アホ貴族を構うのは貴方達の仕事でしょ! 捕まえなくて良いので触ってください! さあ!」
「いやいや、そっちこそ折角の機会なんだし、どうぞどうぞ」
「いやいやいやいや、どうぞどうぞどうぞ」
「譲り合うんじゃないみゃ! 余計悲しくなるみゃ! とにかく儂は関わってないみゃ! 論争に負けたからって話逸らすんじゃないみゃ!」
「チッ、たまに正論言いやがって……まぁ良いだろう」
アホ貴族の主張に間違いを見出せなかった俺は、大人しく引き下がることに。
例え相手が犯罪者だろうと良いことを言っていたら認めないとな。
「ただしそれを口実に水増し請求したり、無駄なものを仕入れたり、悪事に使われるのを承知で見逃してたら許さないからな。隠匿罪および虚偽罪で終身刑だ」
「ふざけるんじゃないみゃ!! 重すぎるみゃ!!」
「やらなきゃ良いだけの話だろ。心当たりがないならそう言え。知ってて見逃すのも同罪だ」
「た、多少の優遇や挑戦は必要なことだみゃ……」
絶対やってる。明言を避けるヤツは全員家宅捜査して良い。もちろん証拠が見つかったら濁した分だけ罪を増やして。
思いやりと勿体ない精神を大事にしやがれ。
まぁそれが出来ないorやりたくないから世界は平和で荒んでるわけだけどな。
心を見通す精霊裁判なんて言っても所詮はYES/NOしか発見出来ない無能審判よ。それが少しでも必要なことなら犯人の主張は間違いではなくなるのだ。
(世界はあやふやなぐらいが丁度良いんですぅ~)
(別に責めてないだろ。精霊にも他人にも自分にも甘えない心が大事って言ってるんだ、俺は。楽するために正義の心を忘れたら人間終わりよ)
(グレーゾーンは正義! キリッ!)
その心がアウトだ、バカ野郎。
「窃盗・流通の件ですけど、バルダルやゼファールが絡んでると俺は睨んでます」
「というと?」
「見ての通りこのカジノはまだガラガラです。おそらく近々バルダルから大量に遊戯台が届くでしょう」
傍で話を聞いていたアホ貴族が頷く。
「ならそこに紛れ込ませれば大量に『魔道都市ゼファール産』の代物を仕入れることが出来ます。ここから持ち出した資材を積み荷がバレにくいサノア運河を使って魔道都市に流し、台のパーツと偽って隣国のバルダルに運び入れ、資材としてセイルーン王国に持ち込む。
台自体を魔道都市で製造してる可能性もありますし、産地偽装する必要のない横流しなんかも合わせれば、今は元手が取れなくても問題ないと思いませんか? 向こうとしても恩は売っておきたいでしょうし、カジノの文化が広まるのは願ったりかなったりでしょうし」
セイルーンから見て、魔道都市ゼファールはバルダルに奥にある。
産地偽装していた連中は魔道都市から持ってきたと言っていた。同じ方法、あるいは同じようなルートが使われた可能性は高い。
「でもちょっと待って。どこかでバレたら検査が厳しくなるんじゃない? そうなったら芋ずる式に見つかるわよ? そこまでの危険を冒す意味って何?」
「見つかろうが見つかるまいが得する輩が居るんですよ」
「……詳しく」
マリーさんの目が鋭くなり王女の貫禄が宿る。
「???」
イヨの目が右往左往し幼女の貫禄が宿る。
どちらも期待通りのものだ。
もちろん後者は無視させていただく。
「その前にいくつ質問があります。ステーション計画の検査を厳しくして得する人間ってどのぐらい居るかわかります? 作業が圧迫されるとか、運送業者を増員しないといけなくなるとか、納期ギリギリとか困る人間でも良いです」
「そうねぇ……得の程度にもよるけど500人は越えるんじゃないかしら」
「それは作業員も入れての数ですか?」
「人生に影響しそうな人の数よ。貴族の仕事としてなら金貨100枚以上が動くところ、一般人ならクビになったり新規雇用してもらえる人数」
そんなものを数秒で導き出せるマリーさんに恐怖すら覚えるが……まぁいい。
「そういうのって貴族や従者の経歴的にはどうなんですか? 外部の影響で失敗したとか成功したとか、後々に響いたりします?」
「そりゃあ響くでしょ。他者を見下し己を上げるのが貴族社会よ。噂だろうと容赦なくネタにされるわ」
「その相手が国だったとしても?」
「……何が言いたいのかしら?」
「例えば、悪徳商会が密輸していたのでチェックを厳しくした結果、物の流れが遅くなって事業は予定より長期化。その代わりとばかりに密輸の証拠がバンバン見つかり、多くの貴族が辞任または没落し、計画はさらに伸びる。これまで頻繁にあった往来がなくなり魔獣被害が多発。横流しが減った代わりに損害が増えるも誰も疑問に思わない。空いたところに入った者は、厳しいチェックをくぐり抜けて国に貢献したので、貴族に任命されて万々歳」
「ヴュルテンブルク侯爵の執事がそうだと?」
「それはわかりません。なにせ物的証拠がありません。ただ否定する要素もありません。目の前の物事を片付けるんじゃなくて、そういう裏の裏まで考慮しておいて損はないですよって忠告です」
「もし本当なら儂の立場が危なくないかみゃ!?」
「最悪命だな。まぁこれはあくまでも利用されてたらの話で、ただの良い人の可能性もあるからあんま気にすんな。あ、下手に調べようとすんなよ。執事の正体に関係なくバレたら即アウトだから。探られて良い気持ちになる人間なんて居ないし」
「どど、どうすれば良いみゃ!? 儂はまだ死にたくないみゃ!!」
(ふっ、掛かった……)
マリーさんに伝えていると見せかけて実は狙いはアホ貴族。
敵を欺くにはまず味方から。敵を騙すには味方に引き込む。
戦略の基本です。




