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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十一章 ステーションⅣ

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千二百九十四話 ステーションの乱16

(さ~て、どこから流れたんだぁ?)


 カジノ建設現場をざっと見ておおよその計画の流れを把握した俺は、イヨに言われるまでもなく怪しいと思っていたそこを、これまで以上に入念に調べ始めた。


 まずは今居る2階から。


 成金の自己顕示欲をそのまま形にしたような金と権力に物を言わせた、おそらくバルダルをライバル視しているであろう建築物は、完成を待つまでもなく華やかさが伝わってくる。


 当然のように広大で、1人で隅から隅まで調べようと思ったら何日掛かるかわからない上、悪事の証拠などという目に見えるかどうかも怪しい代物を探すとなると気が滅入るが、今俺の心にあるのはイヨへの対抗心のみ。


 ここに足を踏み入れる前におこなったマウントの取り合いの中で放った『俺はもう証拠を見つけた』発言を忘れたのか、最初から嘘だと見抜いていたのか、イヨは一足先に証拠を探し始めている。


 負けてはいられない。


 問題は証拠を見つけるかどうかではなく、相手より先に見つけられるかどうか。見つからないにしても頑張ったことをアピール出来るかどうか。


 俺達は頑張らないことを褒めたりはしない。頑張ったことを評価する。


 そんな当たり前のことを理解していないイヨはアース式立体魔法陣を調べた際に最後まで粘った俺をバカにしたので、アピールが足りなかったとしてもそれを指摘すればイーブンには持ち込めるのだが、圧勝した方が気持ちが良いし威厳も保てるので全力でいかせてもらう。


「キミっていつまでも少年心を忘れない大人になりそうだよね」


「その発言は、探求を楽しんでいることに対するものなのか、子供と同じ視線になれることに対するものなのか、どっちですか?」


 一同に生暖かい目を向けられる中、ミラさんが呆れという感情を表に出してくれたので絡むと、名推理でも披露するかのように「ふふっ、よろしい」と微笑し、


「両方だね。さらに言うなら、証拠を突きつけた時のご主人様の顔を思い浮かべてニタニタが止まらないことに対しても」


「ミラさん、アナタ、読心術使えたんですか!?」


「そんなもの使わなくてもわかるよ」


 流石は接客のプロ。


 こんな短時間で俺の行動理由を見抜いたのは彼女で……5、10……20人目ぐらいだ。シリアスパート以外で知り合ったほぼ全員が見抜いている。でもわかりやすいのって悪いことじゃないと思うんだ。


「ルーク君はわかりやす過ぎるけどね。わざとらしいぐらいに」


「ほほぉ~。よく気付きましたね、メリーさん。その通りです。俺は自分の本心を隠すために道化を演じているんです。本当の俺はもっとクールでエレガントでセンシティブでエキサイティングでアブノーマルなんです。だからこれまでの言動はすべて冗談ということにしてください。お願いします」


「冗談で済むなら処刑はいらないのよ」


「警備兵でしょ!?」


 今までの無礼を許してもらおうと頭を下げると、マリーさんは断固たる態度で拒絶の意を示してきた。やる気だ。


 まぁこれも『謝って済むなら』の枕詞なので間違いと言えば間違いなのだが、被害の出ていない冗談を刑罰の対象にするのは如何なものだろう。謝罪が必要になる前の段階だぞ。なんで悪化してんだよ。


「まぁ今は一旦置いておくわね」


「一生置いておいてください」


「わかりやすいのは本当よ。その悪い笑顔は楽しいからでしょ」


 無視……そして正解……。


 ダブルで悔しいです。


 自分に利益がある宝探しでも、悪を裁く証拠探しでも、実益皆無の興味本位の調べものでも、知らないことを知るのはワクワクするからだ。


 しかも今回は悪を裁くためのもの。


 そりゃあ悪い顔になりますって。


(まぁ今まさに悪代官みたいな笑顔を浮かべてるメリーさんには負けますけどね)


 口に出すのは怖いし、例え暴力を振るわれなくてもスルーされるだけなので、心の中で復讐するという陰キャあるあるでストレス発散した俺は、気を取り直してミラさんとの会話を続けた。


「いきなりやれって言われても難しいと思いますけどまずはチャレンジです」


「……何のこと?」


「え? 羨ましいから自分もやりたいってことじゃないんですか? ほら、よく女性は男のことを『子供っぽい』って笑いますけど、それって後先考えずに目の前のことに夢中になれてる証拠で、それに対して何か言うってことは呆れや怒りの感情の他に羨ましさも含まれてると俺は思うんですよ。ミラさんもそうなのかなって」


「べ、別にないけど……」


 否定するならともかく引くのはやめてくれません? 俺はちゃんと推理に乗ってあげたじゃないですか。ならこっちにも調子合せてくださいよ。



「すいませーん。ちょっと通りまーす」


「…………おい」


 普段ならぞんざいな扱いに対して苦言を呈し、脱線していくのだが、調査やイヨのサポートや俺の近くに居たくないなど何かしらの理由で距離を取っていた連中を呼び戻すのは面倒だし、本編そっちのけでやることではない。


 俺は目の前を通り過ぎようとする1人の若者を呼び止めた。


「はい?」


 ただでさえヤンチャな人間が多いのに、ネガティブ空間でさらに沸点が低くなった現場で珍しく礼儀を弁えていた若者は、年下からの乱暴な絡みにもほぼ戸惑うことなく対応。


「何やってんだ?」


 そのことに関心しながらも、俺は男が運んでいたハンドリフトの上の巨大な鉄の箱から目を離さずに尋ねた。子供のベッドほどの大きさだ。


「何って……見ての通り廃材処理ですけど……」


 今度は戸惑いを露わにする若者。


 当然だろう。見ず知らずの人間にいつもやっている仕事、しかも見ればわかる仕事について質問されたら、誰だってこうなる。


「それって本当に廃材なのか?」


「さぁ? 僕は指示されただけなので。詳しいことはわかりません。ただ余ったのは間違いないです」


「犯人確保ぉぉーーっ!!」


「な、なんですか、いきなり!? 僕は言われた通りやっただけです! 悪いことなんてしてません! してたとしても騙されてやったことです!」


 腕を掴み、自らの勝利宣言を兼ねて若者の腕を持ち上げると、男は堰を切ったように言い訳を始めた。


「落ち着け。アンタが悪くないのはわかってる。ただ、無能は罪であることをわからせるために、証言してもらいたいんだ」


「それはそれで嫌なんですが!?」


「協力しないと犯人になるぞ」


「どんな脅迫ですか!?」


 一応彼は悪くない。主張に嘘もない。というか誰も悪くない。いやまぁ悪くなくはないが悪意はない。ただ無能なだけだ。


「どうしたの?」


 と、犯人(仮)と格闘していると、騒ぎを聞きつけた仲間達(半分違うけど)が続々と集まってきた。


「メリーさん、こいつ等驚くほど無能です。ここでは使えなくても他のところでは使える資材を『ゴミ』と判定してしまったり、直し方を知らなかったり、廃棄所の警備が杜撰だったり、どこもかしこも無能だらけです。ゴミの搬送中に何も考えずに他人に渡してしまっている可能性もあります」


「な、なるほど……まぁこれだけ人材使い捨ててたら指揮系統も作業員の動きもメチャクチャになるわよね」


「ええ。しかもやる気のある連中も『言われたことしかやらない』と断言してました。おそらくそういったトラブルが起きてることすら気付いてません」



「見つけた!!」



 原因を突き止めてめでたしめでたし、となりかけた直後、少し離れた場所で犬のように地面をクンクン嗅ぎまわっていたイヨが、突然大声をあげた。


 変身してて良かったな。高貴なエルフ様がこんなことしてるなんて知られたら、王女が野ションしてるのと同じぐらい引かれるぞ。一部のマニアは狂喜乱舞するけど。あとそれ以上の奇行愚行が多発してるヨシュアでは普通に受け入れられてるけど。気にしたら負けみたいな風潮出来上がってるけど。


「わたしの勝ちね!」


 イヨはテンションそのままに駆け寄って来て、ここまでの流れも運び屋(と呼ばせてもらうが)の存在も無視して俺にビクトリーサインを突きつけてきた。


 身長差があるので実質目つぶし。


 まぁ距離があるのでダメージはないが。


「何を……って、悪意の横流しもあるんかい」


 今、勝ち負けについて語る理由は証拠を見つけた以外ありえないが、別の運び屋を見つけたとしても負けているし、あんな探し方で見つけられるわけがないので、何も持っていないということは証拠を見つけたに違いない。


 そう考えた俺はイヨがクンカクンカしていたエリアに目を向け、秒で答えを導き出した。


「ここってステーションの中でも特に貴族が大勢絡んでるじゃないですか。当然色んな現場の人間が出入りします。見ず知らずの作業員が居ても誰も不思議に思わないですし、さっき言ったように無能ばかりなので、よほど目立つ物でなければ無くなってても誰も気付きません。盗賊は好き放題やれます」


 さらに頭の上にハテナを浮かべるマリーさん達に説明を開始。


 どれだけ繰り返したのかは知らないが、地面には使い古された椅子のようにぼんやりとその者達の悪意の痕跡が残っていた。精霊術師特有の眼力で見えるやつ。


「あーっ! わたしのセリフー!」


「ふっ、残念だったな。教えられる前に言ったってことは、つまりあれは俺が見つけたってことだ。お前0、俺2。俺の圧勝だ」


 こうして俺は、悪討伐・勝利・尊敬、すべてを手に入れることに成功したのだった。



「うるさいうるさい! くたばれ、イヨレクイエム!!」


「ぎゃあああああああああああ!!!」


 以前とは比べものにならない威力となった必殺技もな。


 人の手柄を取るのはやめましょう。得られるもの以上に失うものが大きいです。バレなければ良いは犯罪者の考え方ですし、バレたのデメリットが大きすぎます。

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