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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十一章 ステーションⅣ

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千二百九十二話 ステーションの乱14

「な、なんだ、あれ……」


 やたら力を入れている金持ち向けの豪華絢爛(になる予定orほぼ完成済み)な商店街を抜け、厳しめに見ても『普通』と言わざるを得ない庶民向けの区画を視察していた俺達の前に、突如ネオンの人工的な光が現れた。


 工事現場の照明や店先の看板のようなポツリポツリとしたものではなく、そこだけでクリスマスの町中を再現しているような派手派手なものだ。


 目を瞑っても意味がないほど煌々と輝くその建物は、建築途中にもかかわらず周りにある建物の数倍の大きさで、完成後はステーションの中でも有数の規模になることを予感させる。注目度であれば随一かもしれない。


 が、成金区画の高級感とは一味違う煌びやかな建物は、明らかに浮いている。


「みゃふふ、あれは賭博施設だみゃ!」


「あそこ! あそこにしょーこがあるわ! わたしのカンがそう言ってる!」


 戸惑う俺の問いに対し、アホ貴族とイヨがほぼ同時に、各々の解釈で導き出した答えを口にした。


 一方は待ちきれない様子でカエルのような笑みを浮かべて、もう一方は勝利を確信した笑みと共にはち切れんばかりの勢いで建物を指差す。


「甘いな。俺はもう見つけたぜ」


 俺が最初に触れたのは、イヨ。


 仲の良さにおいては勝負にならず、話題的にどちらの優先度が高いかと言われればある程度予想出来た用途より今にも見下してきそうな彼女の方。当然の結果だ。


 寂しそうにするデブなんて後回し確定だ。むしろ触れない選択肢すら生まれた。


 物資横流しの証拠という名の宝探しが、いつから勝負になっていたのかはさて置き、こういうのは後出しが強い。「実は気付いてた」は最強。子供だからと甘やかしてもらえると思ったら大間違いだ。俺は全力でマウントを取りに行く。周りから引かれても構うものか。褒めて伸ばすことだけが教育じゃないぞ。上下関係を教える良い機会だ。


「なにやってるのよ……」


「本人が引くのは違うじゃん!? そこは乗るか、無視するか、どっちかにして!」


「えぇ~? しかたないわねぇ」


 イヨは我がままを言う子供に接するような顔で溜息を吐き、一呼吸おいて気持ちを切り替えるように深々息を吐き、


「なんですって!?」


 素晴らしい演技力をもって要望に応えた。


「いや、そこは棒読みでやれよ。そんなレベルでお笑い芸人になれると思ってんのか」


「…………」


 言っただろ。俺は厳しいんだ。


「血縁も何もないただの近所のお兄さんが、将来就きたい職業の『し』の字も存在しない幼い子供に、なりたい様子なんて微塵も感じたことがない仕事に就かせるために厳しくするのは、ただの虐待よ」


「そういった甘えた考えが子供の将来性を狭めるんですよ。出来ないことを責めずに出来た時だけ褒める。周りの大人がそんなことをしているから子供は挑戦心を失い、安定志向で褒められる楽な道を選ぶんです」


「きゅ、急に真面目なテーマになったわね……」


「俺は自分が正しいと思われるためならなんだってやりますよ。脱線もお手の物です。そういった部分も含めて世の中に無駄なことなんて1つもないです。空気を読めなかったイヨはダメですけど、もっとダメなのはそれをフォローしなかったこと。相手を納得させるだけの言動を取れば責められたりしないんです。今回で言えば面白い返しですね」


「それってルーク君の基準でしょ。私はツッコミとボケを合わせた『棒読みにしろよ』でオチてると思ったわよ。その後の台詞が余計ね。終わった話を引き延ばそうとしてる感じがしたわ」


「プロの方ですか!?」


「少なくとも貴方よりは詳しいと思うわよ」


 くっ……こういうヤツほど鬱陶しいものはない。自分の価値観がすべてだから相手の意図を汲み取らず面白さを理解しないんだ。イチャモンばっかつけるんだ。


「おまいう」


「どこで覚えたんですか、そんなスラング!? い、いや、答えなくて良いですけど……とにかく! 自分の意見を押し付けることも時には大切なんです!」


 あぶねぇあぶねぇ。もう少しで彼女の身分を明らかにするところだったぜぃ。メリーさんは庶民だもんな。スラングぐらい知ってるよな。むしろ日常的に使ってるよな。


 というわけで気を取り直して――。


「主張と納得はコミュニケーションの第一歩にして最終到達点です。人間関係はそれを如何に上手くするかで決まります。避けては通れません。子供の将来を考えるならまずそこを育むべきです。勉学なんか最低限あれば良いです」


「ねぇ、あれってなんなの? 他とはふいんき全然ちがうけど」


 自分から振った話題にもかかわらずと言うべきか、自分から振った話題だからと言うべきか、不利な立場であることを悟ったイヨはマリーさんとさらに熱い討論を交わそうとする俺を無視し、アホ貴族に建物の説明を求めた。


 無視するのはここじゃないんだよなぁ~。


 まぁ耳を傾けるけど。


「それな。なんだよここ。カジノでも作ってんのか?」


 というか一瞬で気持ちを切り替えて絡んでいくけど。



「おみゃあ、カジノを知ってるのかみゃ?」


「ちょっと前にバルダルに行ったからな」


 人に尋ねる時は出来るだけ自分なりの答えを出す、というモットーに従い推察を述べると、アホ貴族は何故か怪訝そうな顔で聞き返してきた。


 格闘技・カードゲーム・競馬などなど、賭け事の文化は世界中に昔からあれど、確率変動魔道具を使った遊戯……しかも三店方式などという回りくどいやり方で合法的におこなうギャンブル『カジノ』はバルダル特有のものだ。


 その単語が出ること自体、バルダルにゆかりのある者である証。


 おそらくアホ貴族はその辺りを知りたいのだろう。


「どう思ったみゃ?」


「どうって……別に……搾取する者とされる者。知識や技術を持つ者と持たざる者。他とは違う形の競争社会だなって」


 賭け事がネガティブな印象持たれているのは、子供の頃の洗脳じみた教育と、いくら勝った、いくら負けた、勝つためにはどうしたらいい、と欲しか見えない利用者の言動が原因だ。


 もっと「台が面白かった!」「一緒に行った先輩のお陰でわかりやすかった!」「仲良くなれた!」と、ポジティブなこと言えば良いのに。どうせ勝っても「嘘つくな」「あ~あ、コイツの人生終わりだわ」とネガティブに捉えられるんだ。


 なにせ、搾取するシステムや悪意を嫌うならまだしも、そこに関わっている人々やコンテンツまで嫌う始末だ。


 そこにある嫌悪感はオタク趣味をバカにする精神とは桁が違う。


 同じ『楽しい』なのに、こちらは関わることすら禁忌とされ、まるで犯罪者のような扱いを受ける。


 そういった人間に限って触れたこともないんだ。


 一切合切禁止する前に楽しさと辛さを語ってみろってんだよ。


 なんで知識を蓄えることを禁止するんだよ。人生なんて周りに興味持ってナンボだろ。そこから自分に合った楽しみを見つけ出すんだろ。


 人間の基本理念だぞ。


 ギャンブル以上にヤバいものにハマったらどうするつもりなんだ。耐性をつける意味でも、世界最大級の娯楽を知って見聞を広めるって意味でも、それを使って交友関係を広げるって意味でも、一度は手を出しておくべきなんだ。


「『飲む・打つ・買う』って『食欲・性欲・睡眠欲』と同じだろ? 前者は自分が楽しく生きるための欲求で。、後者は種の保存のための欲求だろ? どっちも必要なもんだろ?」


 大酒を飲み、ばくちを打ち、女を買う。


 大昔からそれが男の楽しみと言われてきた。


 最近ではタバコも入るらしいが、正直あれは健康被害が大きいのであまりお勧めは出来ない。ストレス解消なら運動しろ。


 まぁそんな話はさて置き――。


 飲みニケーションがダメなら他2つに行くのが自然。


 なのにどうして交流を諦める? キャバクラ……は酒がメインなのでアレだが、メイド喫茶的な場所に行ったり、賭け事をしに行けば良いじゃないか。


 個人的には、新入社員との交流は、飲み会よりパチ屋に連れて行く方が良いと思っている。


 飲みはアルコールを摂取することが前提の楽しみなので飲めない者or弱い者には辛いだけだし、1対1では話題にも限度がある。かといって大人数だと居場所に困る。席替えとかもあるしな。


 対してパチ屋は演出を見て楽しめるし、勝てば嬉しいし、遊戯性や交換システム、周りにある台について話せる。アニメタイアップ機も多いので人によっては話しやすい。何なら話さなくても場が持つ。


 同じ5000円なら絶対後者だ。


 そして俺は、他者の息抜きを貶すことも、関係者を批難することも、搾取する側を責めることもしない。


 ……やり過ぎなければな。


「素晴らしい答えだみゃ」


 本心のままに答えると、アホ貴族は何やら満足し、同志でも見つけたような雰囲気で話を続けた。


「儂もこの前バルダルに行って感銘を受けたんだみゃ。あのカジノという場所は、『楽しさの先にある快楽』というサービス業の新たな形だみゃ。だから儂はその素晴らしさを広めるために、ここにカジノを建設することにしたんだみゃ」


「あ、これもセバスチャンの努力の賜物ね」


 無能のクセによくそんなこと出来たな。


 そう口にする前にミラさんから補足が入った。


 やはりアホ貴族は周りから無能と思われているようだ。もしくは俺という人間への理解が深まった。言われる前に言うのは素晴らしい配慮です。


「なんみゃ、その顔は。まさかとは思うが、おみゃあ、儂のことを無能だと思ってるみゃ?」


「そうだが?」


「疑問を抱くことすらおこがましいって顔をするんじゃないみゃ。これまでは苦手分野だっただけみゃ。儂の真価はここから発揮されるみゃ」


 そしてアホ貴族は自信満々に語り始めた。

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