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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十一章 ステーションⅣ

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千二百八十九話 ステーションの乱11

 魔法陣改造の犯人に繋がる人物の目星が付いたものの証拠はなく、話や意識を引き出そうにもこれまで一切触れてこなかった自分とは住む世界の違う大人の女性に急に質問の連打を浴びせるのはどう考えても不自然。


 ――と、普通なら悩むところだが、巧みな話術によって容疑者の私生活を探る流れを作った俺には関係のない話だ。


「ちょっとお聞きしたいんですけど……」


 魔法陣問題を完全に諦めた空気を出すのに5分。


 次なる視察場所までの道中を愚痴と他愛のない雑談に費やした俺は、そろそろ良いだろうと、建築資材の横流しの証拠を探しと視察、両方の片手間を装って美女達に探りを入れた。


「ヴュルテンブルク侯爵って普段どんな感じなんですか? やっぱり金貨以外は金じゃないとか言って横領したり報告書を書かなかったりするんですか?」


「おみゃあそろそろ名誉棄損で訴えるみゃ!?」


「うるせぇーッ! こんなバカみたいに豪華な建築物をつくるヤツは偏見持たれて当然だろうが!」


 片方だけだと不自然なのでAとB、両者に向けたのだが、真っ先に反応したのはどちらでもない第三者……というか本人。アホ貴族。


 実は探りと批難の割合が半々なのはさて置き、前回は貴族街ということで大人しく引き下がったが、第二弾も豪華絢爛、しかもより洗練された(もちろん皮肉)というのは温厚な俺でも怒鳴りたくなる。


 ここまでの言動もさることながら、成金の中でもごく一部しか喜ばないであろう、見ているだけで目が痛くなる高級の意味を間違えたホテルを絶賛する価値観が狂ったバカ野郎は、そのぐらい思われても仕方ない。


「なんだこの赤絨毯と大理石!? その辺に並んでる調度品も、どうせ骨董品だったり職人による細工が施された品なんだろ!? 高いんだろ!? せめて置くのは工事終わってからにしろよ! 意味ないだろ!」


 該当するものを指差すのが面倒になるほどそこら中に溢れる高級品の数々。


 実用性があって建築費もたかが知れているラブホテルの方がいくらかマシだ。


 この光景が視界に入った瞬間に頭を抱えなかっただけ有難いと思え。コイツが絡んで来なければ無視するつもりだった。


「これだから素人は困るみゃ。これは様子を見に来た貴族達へのアピールで役に立つんだみゃ」


「まさかの接待費ぃぃーーっ!!」


 現場に必要なのは、精度でも経費削減でも作業員達のやる気でもなく、出資者を満足させる接待。そのためなら多少作業が遅れようと構わない。何ならそれを見越して計画が練られている。


 チラッ――。


 これで良いのかと問いただす視線をマリーさんに向けると、彼女はそれが貴族社会だと諦めた様子で首を横に振った。


 そうやって悪しき風習は受け継がれていくのだろう。


「民衆にこの事実を伝えるぞ」


「好きにすればいいみゃ。力を持つ者が優遇されるのは当然のこと。下々の者達が思いやりの気持ちとやらを循環させるように、儂等は金と権力を循環させるんだみゃ。言わば将来への投資だみゃ」


「勘違いするな。俺が伝えるのはここに至るまでの過程だ。基本的人権を無視して計画段階から関わった人間全員の心の中を読んで、汚職の証拠見つけて、包み隠さず公表する」


「なんだとみゃ!?」


 そこまでは想定していなかったのか、余裕の笑みを凍り付かせたアホ貴族は、唾をまき散らしながら叫んだ。


 俺はエンガチョバリア(物理)で防ぎつつ、慌てふためくアホ貴族をジッと眺める。圧を掛けているとも言う。


「お、おお、落ち着くみゃ……悪を裁くために自分が悪になるのは違うみゃ。そういうのは役人に任せておけば良いみゃ。おみゃあの力は、企業努力の範疇にある些細な悪を見つけるより、もっと大きなことに使うべきみゃ。そんなことに時間を割くなんて勿体ないみゃ」


「それもそうだな。じゃあ調べるための魔道具作って信頼出来る人間に預けるわ。んで片っ端から企業や貴族を調べていってもらうわ」


「そ、そうだみゃ……それが良いみゃ……」


 と、出来もしない神具開発の可能性を示唆して脅し、改めて美女達に視線を向ける。


 技術的にも倫理的にも無理だ。そんなことをしたら世界が崩壊する。アホ貴族を庇うわけではないが、善と悪は紙一重の存在。悪から善になることもあれば、善から悪になることもある。その応用が利くグレーゾーンはないと詰む。


 まぁこれで多少はアホ貴族も大人しくなるだろうし、各界隈に広まってくれれば御の字なので、俺にとってノーリスクハイリターンだ。



「えー? どんなって言われても、あーし難しいことわかんないしぃ。興味もないしぃ。今が楽しければ後はどーでもって感じだしぃ」


「私も~。そういうの考えるのメンドーだから風俗嬢やってたわけだしね~」


 美女Bはプリンのような茶髪を掻きむしりながらケラケラと楽し気に、美女Aはおっとりとした様子で、頭を使うより体を使う方が得意であることを明かした。


 どちらも自分の過去を恥じらってはいない。


 そのお陰で今があるという意識高い系の思考ではなく、必死こいて勉強してたヤツより稼いでるぜm9(^Д^)プギャーという蔑みを感じるが、無視しておこう。


 過去に散々されたり言われたことだろうしな。


 過程や気持ちはどうであれ、自分の個性を活かして今の立場を勝ち取ったことは確かなのだ。誇っていい。出来れば容姿端麗に生んでくれた親に感謝してほしい。


「……黒だな。身近な人間にも知られないように悪いことをしてるんだな。気が付かない内に伝達方法に組み込まれてる可能性もある。装飾品の色とか触る場所とかタイミングとか」


「なんでそうなるみゃ!? 知らない=黒は偏見ですらないみゃ!? おみゃあ犯人でっち上げて事件解決させようとしてないかみゃ!?」


「ゴホン、ゴホン……んんっ……」


「隠す気ゼロみゃ!?」


 俺のわざとらしい咳払いにツッコミを入れてくるアホ貴族。


 もはや美女達もこの空気に慣れたのか、クスクス笑いながら見守るだけ。


 感情を表に出した時ほど心を探りやすくなるのだが、一向に新しい情報が引き出せない。というか読めない。


(ん~、この人、心当たりがあるだけで深くは関わってないっぽいな)


「? なにか用?」


 イカンイカン。油断したつもりはないのだが、どうやら美女Bは女性の中でも特に他者の視線に敏感な人らしい。


 まぁ偶然にも視線の先が下半身だったし、やたら尻が強調される服を着ているので、そっち方面で言い訳するとしよう。


「あ、いえ、俺の知り合いの美少女と足して二で割ってアナタを引いたら垂れた犬耳&尻尾が似合いそうな美人になるな~と思って」


「おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃん。ま~た性に目覚めたばっかの少年を魅了しちゃったかぁ。よくあるんだよねぇ。グシシ」


 品がないながらも素朴な笑みを浮かべる美女B。


 そこには『もう少し幼かったらお礼に触らせてくれたかも……』と貞操観念を崩壊させる何かがあった。頻繁にボディタッチしてくる下ネタトークも出来る女友達と言えば伝わるだろうか。


「ん? 触る?」


「やめた方が良いですね。じゃないと死にますよ」


「どういうこと!?」


 世にも恐ろしいエルフ会長がスンゴイ殺意をアナタに向けているから……とは言えず、地元に居る彼女が怖いということにしておいた。


 追及に関してはおつむが弱くて助かったが、そんなところまで弱くなくて良いんだよ。「それあーし要らないじゃーん!」ってツッコんでくれ。


 会話の切っ掛けが欲しいんだ。



「キミって私達のこと気持ち悪がらないんだね」


 そんなことを思っていると唐突に美女Aから質問が投げ掛けられた。


 ナイスだ。内容もタイミングも完璧だ。そっちからというのも大きい。


「気持ち悪がるっていうとアレですか。風俗嬢」


 俺は気付かないフリをして応じる。


 女子供の前でこういう話をするのはどうかと思ったが、幸いイヨもマリーさんもフィーネ様の怒りを鎮めるために四苦八苦しているので、遠慮なくいかせていただこう。


「そうそう。そういう仕事してる人って世間から冷たい目を向けられがちじゃない? どうなの、その辺」


「どうって……別に……普通のサービス業じゃないですか?」


「ほほぉ~。詳しく」


 何かに期待するような視線を向けてくる美女A。


 それは取り入る隙であり、個人的に伝えたかったことでもあるので、俺はボケを封じて真摯に答えることに。


「モノではなくサービスを売りにした立派な仕事です。優れているとは思いませんけど、劣ってもいないですよ。皆さんが癒しを与えてくれるから頑張れるんです。それって社会の一員として機能してるってことでしょ。

 そもそも、サービスが悪いと罵倒するのに、良いサービスを提供していたら『女を売りにするな』『顔が良いだけで調子に乗るな』と批難するのが間違ってるんですよ。どうしろっちゅー話ですよ。

 そういう連中って結局は才能が嫌いなだけなんです。楽して稼いでるって言いたいだけ。自分にないものが羨ましいだけ。気にする必要もなければ共感する意味もありません。むしろそういう連中こそ罵倒すべきです」


「おーっ! 言うねー! じゃあじゃあ、自分の彼女や嫁、子供の嫁がそうだったらどう!?」


「ん~、それは流石に微妙ですね。その立場になってはじめて相手を批難する権利が生まれると思ってるので、何か気に入らないこと……例えば自分を昔の客と比べたり、武勇伝をひけらかしたり、言わなくても良いことをベラベラ周りに喋るようなら、十分別れる原因になります」


「いやいや、そんな人居ないって。居たらドン引きだよ」


「なら全然ありですね。実際テクニックのある人が良いってヤツ多いですし、色とか形とかプレイ内容とか実力差とかが許容範囲内ならむしろ需要あると思いますよ。何なら初めては色々面倒臭いからNGってヤツも居ます。俺は処女厨と百戦錬磨を求める人間の割合は半々だと思ってます。

 付き合った人数を自慢するのとかと一緒です。『0だと重い女と思われるから3人ぐらいって言っておこう』『童貞と思われたくないから未経験だけどあるって言っておこう』って偽るのはもちろん、振られたという事実は隠してこっちから振ったと言うでしょ。振られた場合は性格や価値観に難ありと判断されがちですけど、相手がそうだったと言えば自分には得しかありませんし」


「あるな~」


 何かを思い出すような顔で共感する美女A。過去に相手した男達に似たようなことを度々言われていたようだ。もしくはサイズ・時間・回数など申告と違うことに呆れっぱなしだったか。


 仕方ないね。人間は見栄を張る生き物だし。ましてや性欲なんて、客観になることも難しければ、それを赤裸々に打ち明けるのも難しいものだし。


「ちなみに俺はそっち系の女友達2、3人欲しいと思ってます。教えて欲しいです。もちろん実践抜きで。口頭とジェスチャーだけで」


「それもあるある。私も男女問わず友達によくお願いされる。そして結構な確率で引かれる」


「変態レベルが足りてない証拠ですね。快楽の前では恥じらいなんて邪魔以外の何物でもないというのに。俺ぐらいになると店で知り合いと会ったとしても一切動揺することなく普段より高度なプレイ依頼しますよ」


「それはそれでどうなの!?」


「どうもこうも興奮するシチュエーションでしょ。そういう仕事は絶対地元じゃやりません。運命の再会じゃないですか。ただの知り合いですらそうなのに、元クラスメイトや青春時代にオカズにしてた相手だったら最高に興奮するでしょ」


「キミ、ホントに未成年!? まるでその経験があるみたいに語るけど!?」


「まぁ全部妄想なので本当にそうなった時どうなるかはわかりませんけど……」


「取ってつけたような補足だね!!」


 未成年に風俗嬢の価値について質問するヤツに言われたくない。


 ただ、何やら気に入ってもらえたようなので、今後やりやすくなったのは確かだ。


 少年としては見てもらえそうにないが……。

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