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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十一章 ステーションⅣ

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千二百八十六話 ステーションの乱8

 ここ最近多発している職場トラブルの中でも特に酷いステーション建設現場のギスギスの原因が、環境そのものにあると予想した俺は、早速洗脳魔法陣(仮)を調べ始めた。


「ふむふむ……」


 地面から伸びる石柱をベタベタ。


「ほうほう……」


 それ自体も魔法陣としての役割を持ち、魔力を留めたり流れを作ったり立体魔法陣をつくる上で欠かせない骨組みにもなっている、特殊な刺繍が施された布をサスサス。


「なるほどなるほど……」


 内部の手が届かない場所や布の周囲を漂う魔力など、触れない方が良い部分は水槽の中を泳ぐ魚達を観察するように、ジッと凝視。


 直径20m。空に浮かんだ学校のプールを隅々まで調べるような苦労と楽しさを30分ほど味わった俺は、期待の眼差しを向ける一同に結果を告げた。


「ふ~む……わからん!」


「ふざけんな!」


「だ~か~ら~。この程度のことでイチイチ怒るな。最初に言っただろ。解明出来たらラッキーぐらいの気持ちでいろって。期待するのは勝手だし、どうせ無理とか言って諦めるのは違うけど、それを下回る結果になっても文句は言うんじゃない。期待と諦めの中間を心掛けろ。そして誰かを責めるのをやめろ」


 案の定、精神的に追い詰められている作業員数名がキレ散らかしたので、俺は彼等を宥めながら落ち込みそうになる自分の心を奮い立たせた。


 一部とは言え30分も作業中断させた挙句(作業員達が勝手に中断して眺めていた)、違和感の正体も突き止められず、視察としても研究者としても色々失敗したのだ。


 ネガティブゾーンでこれはマズイ。


 成長したら出来るようになるなんて夢物語よ。


 わからないものは一生わからない。


 それが現実だ。


 ――ってもうヤバい。失敗した言い訳とか考えちゃってる。末期だ。今の自分では解明不可能な事象と出会えた。目標が見つかった。素晴らしいことじゃないか。


「ぷぷっ。散々わたしのことバカにしたクセに自分だってわからないんじゃない! バーカ、バーカ、役立たずー」


 そんなことをしていると、舌打ち交じりに去って行った作業員達と入れ替わる形でイヨが笑いを堪えながら寄ってきて、目の前でそれを爆発させた。


 変な小躍り付き。


 彼女も作業員達同様、違和感の正体を突き止めてくれというポジティブな気持ちと、失敗しろというネガティブな気持ちを併せ持った眼差しを向けていたのは知っていたが、まさかダークサイドに落ちるとは……愚かな。


「何言ってんだ。同じ結果なら先に諦めた方がダメだろ。頑張った俺の方が凄いだろ」


 彼女は誰よりも先に調査を切り上げた敗北者。


 魔法陣を調べていたのは俺と彼女の2人だけだが、そんなことは些細な問題だ。


「あれはあきらめたんじゃないわ! 自分のじつりょくを理解してるから判断が早かったのよ! わたしはルークみたいに時間をムダにしたりしないの!」


「物は言いようだな」


 たしかに結果だけ見れば、俺は30分現場を止めて何も見つけられなかった悪者で、彼女はその判断を数分でした有能ということになる。


 粘ることはリスクだ。


 ただ彼女の主張には致命的な欠点がある。それを棚に上げて俺を貶めるのは許されない。


「な、なによ、その目と手は……いだだだだっ! ぼ、ぼうりょくはんたい! 八つ当たりはんたい!」


「俺とお前じゃ立場が違うんだよ。俺は理解出来たら褒められる人間。お前は理解出来て当然のエルフ。俺は加点式でお前は減点式だから同じ結果なら俺の方が上だ」


「あうううううッ!?」


 大人として、友達として、社会というものを教えるべく、俺は少女の頭を左腕一本で押さえ込み、そのままアイアンクロー。悲鳴という天然の防音室のお陰で彼女以外には俺の声は届かないので、遠慮なく説教を始めた。


 放っておいたら慰めてきかねない雰囲気だったのも大きい。


 そんなことをされるぐらいなら俺は死を選ぶ。


「さべつだわ! 今はコセイをソンチョーする世の中よ! 誰が何がにがてでもゆるされるのよ!」


 踏ん張らせないために持ち上げたのが功を奏したらしく、イヨは握力を何とかするより自重を支える方向にシフト。俺の手にしがみ付いたまま抵抗を開始した。


 それが痛みを長引かせるとも知らずに愚かなメスよ。


 まぁ俺は全然構わないのでこのまま話続けますけどね。


「それを言って良いのは、他人を見下したり自信満々に自分1人で十分なんて言わない、ましてや有益な情報を集められなかった方は罰ゲームなんて言い出さない、謙虚で他者の失敗を許せる心の広いヤツだけだ」


「ルークのジョーシキを押し付けないで!」


「それを言えば何でも許されると思ったら大間違いだ。嘘だと思うなら後で他の大人達に訊いてみろ。ほとんどが俺の方が正しいって言うから。あ、でも俺が先に煽ったとかその言葉を引き出そうとしたとかは言うなよ。全然そんな気なかったから。お前が勝手にそう思ってるだけだから。ちゃんと自ら進んでやりたがった仕事を早々に投げ出して、暇潰しに色々考えてたら相手が悪に思えてきて、つい突っかかったって言えよ」


「きたない! 大人きたない!」


 予防線or逃げ道を確保するのが上手と言ってくれ。


 あと『言わない』って選択肢を真っ先に出さない辺り良い子。というかアホな子。自分を上げて相手を下げるなら今の脅迫も含めて全部言えば良いのに。


 まぁ愚直でからかい甲斐のあるイヨだから俺達は弄るのを止められないんだけどな。


「納得してないで放せええええーーーッ!!」


(なら精霊術使え)


(え? いいの?)


 突如頭痛が和らいだ理由も、禁止されていた遊びの許可を出された理由もわからず一瞬キョトンとしたイヨだったが、コンマ数秒後で復帰し、俺と同じく念話で確認してきた。


 この遊びが終わるのを残念そうにしながらも、新たなミッションが始まったことにワクワクした様子なのは言うまでもない。


 接触時は念話がしやすい。


 一定以上の実力(というか技術)を持つ者達にとっては常識だ。


(ダメ)


「…………」


(話は最後まで聞け。使っても良い。ただバレないように使え。それで俺の手を振りほどいてみろ。確かめたいことがある)


(……わかった)


 というわけで教育的指導への抵抗、テイク2。



「たあっ」


 イヨは頭を掴む俺の左手を軸に勢いよくバク中。顔面に蹴りを入れ、ひるんだ隙に逃げ出そうと手にも抓る・指折りなどの攻撃を仕掛けてきた。


 攻防一体の早業だ。


「……ざっこ」


「なんですってぇーーっ!!」


 が、威力は貧弱そのもの。


 乗ってくれると思っていたイヨは、俺の素の感想に怒りを爆発させた。


(ま、これでわかったな。あの魔法陣、精霊の活動を弱める感じだ)


 彼女が手加減したというのもあるだろうが、それにしたって弱かった。その後の割と本気の攻撃も痛くな……くはないが耐えられないほどではない。


 ゲシッ、ゲシッ、ゲシッ――。


「イッテェなこん畜生! いつまで攻撃続けてんだ!」


「うべっ」


 羽虫を叩き落とすようにイヨを地べたに投げつけると、べちゃりと鈍い音を立てて張り付く。大地の精霊を肌で感じられる貴重な体験だ。有難く思え。


 それにしてもまさか物理法則を無視して逆さま状態であの火力を出せるとは思わなかった。流石は腐ってもエルフ。早くも環境に慣れ始めて自然に結界(?)を突破する術を手に入れている。怒りの力で本来の実力を上回った可能性も微レ存。


「虐待?」


「ああ。虐待だな」


「通報しとく?」


「こんなのスキンシップだろ。見ろ。本人はまったく気にしてない。それどころか喜んでるじゃないか。自分達の価値観を押し付けるな。野生児はこのぐらい普通だぞ」


「「「汚い、流石大人汚い」」」


 何故だ……自分の都合の良いように言葉を使ってるだけじゃないか。誰もがやってることじゃないか。なんで俺だけそんな批難されなきゃいけないんだ。作業の手を止めてまでツッコまれなきゃいけないんだ。


 ――という冗談はさて置き、


「イタタタ……う、うでが……ダメ。痛くて動けない。誰かお医者さん呼んで。そしてこの人こーそくして」


「当たり屋ムーブやめろ。ガキがそれやり始めたら終わりだぞ。倫理観末期だぞ。そして時と場合を考えろ。こいつ等マジでやるから。ここそういう場所だから」


「さっきの仕返しよ。これでびょーどーよ」


 あと数秒、俺の指摘、もしくはイヨの発言が遅れていたら、俺は一同に揉みくちゃにされていただろう。


「てかお前散々蹴ったじゃん。結構痛かったぞ。イーブンどころかマイナスだわ」


「それはアイアンクローの分よ。投げられたのとは別」


「最初に煽ったのはそっちだが? 調査中も何度か邪魔してきただろ? あと俺のは確認したいことがあったっていう大義名分あるんだが?」


「わたし子供」


 チィ……まぁ良いだろう。女子供という切り札を頻繁に使うようなヤツなら教育的指導をしていたところだが、イヨは違うし、考察したいこともあるので、ここは痛み分けということにしておこう。


 次使ったら容赦しない。



 おそらくここでは精霊がまともに機能していない。


 アンチパワースポットとでも言うべき場所だ。


 自然の心地よさを極限まで殺し、リフレッシュの代わりに不快感が募り、負の感情が溜まりやすくなる場所。それがここ。一言で言えば精神衛生上よろしくない。


 全裸で虫プールに入るほど直接的ではないが、だからこそ気が付かない内に限界を迎え、怒りが自然に表に出る。


「ってところまではわかったんだけど……肝心の理屈がわかんないんだよなぁ」


 気を付けろと言われてどうにかなるようなものではない。


 だからこそ風水やら占いが流行るのだ。

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