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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十章 ステーションⅢ

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閑話 ポテト戦争2

 体重が気になるお年頃(笑)の女性陣から太らないフライドポテトづくりを命じられた俺は、日々の努力を怠らないことを条件にこれを承諾。


 一同に実現可能なダイエット計画を立てさせている間、これを使えと言わんばかりに用意されていた素材の山に手を付けようと思っていたのだが……。


「ねぇ、二の腕を集中的に鍛える器具ってあったっけ? あ、引き締まって見えるやつ以外ね。あれ根本的な解決になってないし」


「美容ローラーで血行促進。ゴムを使ったトレーニングチューブ。ダンベル。近々ブルブル振動して脂肪燃焼させる魔道具も販売されるはずだぞ」


「お~っ! 楽しみだ!」


「じゃあ横腹を――」


 という具合に、女性陣が次から次へとアドバイスや情報提供を求めてくるので、一向に進まない。


 厄介なのは「無いなら作って」と依頼されること。


 彼女達は俺のことを神か何かと勘違いしていようだ。作業しながら相談に乗って別件の構想も練るなんて、聖徳太子にも出来ないことをやらせるんじゃないよ。


 既に自分なりのダイエット計画が存在している母さんやマリーさんに至っては、目的が『如何に自分の要望を叶えてもらうか』にシフトしてる気すらするし。


 専門分野ではないが開発に携わったことは何度もある上、身近な人間で頼みやすいのはわかる。実際、他企業・他業種でも新しい技術は自然と耳に入ってくる。


 しかし今やるべきことはそれではない。


 女性陣はそうでも俺は違う。


 作業中の人間を巻き込むな。自分達で考えろ。完成度下がっても知らんぞ。文句言ったら二度と協力しないぞ。


 やるからには全力で取り組みたいタイプの俺は、そんな気持ちを込めて話題転換をおこなった。


「そう言えばエルはどうした? 昼食の時は一緒だったじゃないか」


 体重増加は成長の証というポジティブシンキングや言い訳ではない生命の神秘を盾に出来る少女達や、好きなだけエネルギー消費が出来る強者フィーネがこのダイエット企画に参加していないのは納得だが、あの犬メイドはこちら側の人間のはず。


 このあと用事があるとも言ってなかったので簡単に誘えたはずなのに、何故母さんとシャルロッテさんだけが来たのだろう?


「ヤツは裏切り者よ。太っても構わないとほざいたの」


 受付終了への怒りか、同志の不甲斐なさに対する怒りか、あるいはその両方か、母さんが舌打ち交じりに答える。


 絶対に認めないし、認めさせる気もないが、自分が辿り着きたかった境地へいち早く辿り着いた者への嫉妬は間違いなく含まれている。


「何よ、その顔。私だって最初からそうなら何も言わないわ。でもエルは違うの。最近なの! 少し前までは切磋琢磨してたのに、もう誰かに見せることもないからって、急に現状を受け入れ始めたの! 許せるわけないでしょ!?」


「許す一択だわ。本人の意思を尊重しろ」


 度を越えた暴論を前にすると人間こういう気持ちになるらしい。これならまだ素直に「寂しい!」「羨ましい!」と言ってくれた方が助かる。


 数字に踊らされない人生を歩むのは良いことだ。


 開き直って好き勝手しているならともかく、エルはこれまでとなんら変わらない日々を過ごしてる。実際俺も母さんから教えてもらうまで彼女が心変わりしたことは知らなかった。


「女はいくつになっても美しくありたいものでしょ!?」


「自分の価値観を押し付けんな。そして美しさと体型はイコールじゃない」


「くっ……ああ言えばこう言うガキね……!」


 御宅の息子さんですよ。というかアナタ育てた張本人でしょう。


 家族の影響をほとんど受けずに育ったことは否定しないけどさ。


「あと切磋琢磨って、いつまでダイエットとリバウンドを繰り返すつもりだ。そろそろ自己PRに趣味ダイエット、特技リバウンドって書けるんじゃないか。エルはそんな日々に嫌気が差したんじゃないか」


「「「んなッ!?」」」


「文句は口で言え。手を出したら反論出来ないのを認めてるようなもんだぞ。追い出すなんて以ての外だ」


 部屋が殺意の波動で満たされるも、一同が動き出す前に牽制を入れることで、悲劇を回避。指摘を続ける。


「太るのは生産と消費が釣り合ってないからだ。忙しかったらから太った? なわけあるか。そんなすぐに変化は現れない。元々ギリギリだったんだ。皮下脂肪が大量にあって、もうつくところがないってんで一気に加速したんだ。定期的にそぎ落としてたらこんなことにはならない。日頃の怠惰のツケが表面化しただけだぞ」


「「「…………」」」


 現実を受け入れたくない女性陣が揃って目を逸らす。


 言うまでもなく部屋に居る全員だ。


(しっかし、母さんも40近いんだからいい加減気にしなくて良いと思うけどな。衰えを感じたら頑張るぐらい十分だろ。時間があるのに何もしないのはダメだけど。そしてその解決策を授けて怠惰を加速させようとしてる俺が言うのはアレだけど)


「何か思った!?」


「いいえ」


 ダイエット戦士の前では思想の自由すら許されないらしい。


 あと身内が卑屈なのはイヤなので、母さんの発言は諦めずに婚活頑張ってほしいという、20年近く付き合っている親友への叱咤激励と捉えておこう。




「そもそもフライドポテトってなんであんなにカロリー高いの?」


 説得の甲斐あって(?)個々にグラフやメモ帳と睨めっこを始めてしばし。


 作戦を練る必要がない母さんは、同じく手隙のマリーさんと運動器具や食品について語ったり、諦めたのか機を狙っているのか俺の作業風景を眺めたりしていた。


 その流れで出てきた話題がこれ。


「やっぱり油じゃない?」


「というより組み合わせだな。脂質と糖質と量が問題なんだ」


 先程までと違って片手間に出来る会話で、作っている魔道具にも深く関わっている内容なので、俺は2人の会話に割り込むことに。


 俺に投げ掛けた質問な気もするし。


「糖質は摂取すると血液中で糖質になって、各器官に運ばれてエネルギーとして利用されるんだ。これは何かの時に使えるように肝臓や筋肉に蓄えられる」


「ま、生命活動の基本ね」


「ただ糖質は一定量を超えると脂肪に変換されるんだ。この脂肪は糖質と違っていくらでも蓄えられてしまう。しかも取り除くのがメチャクチャ大変。だから際限なく太る。どのぐらい大変かは言わなくてもわかるよな?」


「「「…………」」」


 俺としては集合したダイエット戦士全員に向けたつもりだったのだが、全員が『私は違うよ?』という空気を纏って黙々と作業を進めたり話の続きを待ったり。


 そんなんだから手遅れになるんだぞ。


「某学会では成人男性で、炭水化物は1食につき40g前後、脂質は1食につき15g前後にすると体脂肪を増やさないって言われてるけど、さっきも言った通り個人差があるからあんまりあてにしないように。

 フライドポテトで例えるなら、大手チェーン店『モグド』のフライドポテトはSサイズなら大丈夫ってことになってるな」


「少ないわね……」


 マリーさんが不満げに呟く。


 この分だとプラスαで摂取してはダメという当たり前の思考すらなさそう。この数値はあくまでも他の物を食べない前提なのだ。


「一応、フライドポテトに足りない栄養を、たんぱく質は大豆製品や貝類やタコなどの魚介類で摂って、食物繊維やビタミンは野菜やきのこのサラダで摂って、食べ過ぎない、ケチャップやマヨネーズはつけない、食べる前に水をがぶ飲みする。これさえ守ればある程度は許容量オーバーしても大丈夫ですけど……」


『それは我慢しろと言っているのと同じだ』


 マリーさんの目からはそんな想いがヒシヒシと伝わってきた。


 まぁ小難しいことを考えなければならない時点でもう1つの太る原因『ストレス』が発生しているし、好きなだけ食べるという前提条件がクリアされていないので、言ってみただけだがな。


 俺はその辺りの不満を解消するために、こうして新しい調理方法を確立しようとしているのだ。



「油を変えたらダメなの? 最近はヘルシーなのあるじゃない」


 先程からなんとかして油を犯人に仕立て上げようとする母さんが、次なる話題を振ってきた。


「全然ありだぞ。植物性油は100gあたり約921kcalで、動物性油は約940kcalでほとんど変わらないから、やるなら飽和脂肪酸が少ないオリーブオイルか米油かごま油だな。一番は米油。飽和脂肪酸が少ないだけじゃなくて栄養満点で動脈硬化や血栓を防いでくれるし、熱に強いから栄養が逃げにくい」


「ほ、ほうわしぼうさん……?」


「中性脂肪やコレステロールを増加させる栄養素のこと。カロリー制限においては悪だけど、エネルギー源としては優秀だから勘違いしないように。人間が健康的に生きるために必要な栄養素だから、むしろ適度に摂取しないと痩せられないぞ」


「ならルーク君はどうやってフライドポテトを作るつもりなの? お鍋っぽい魔道具だけど」


 マリーさんも母さんと同じく油がカギになっていると思っていたらしく、俺の手元にチラチラ目を落としながら尋ねてくる。


 魔道具の完成系は見えているようだが、使い方や効能はわからないようだ。


「簡単です。油を使わずに揚げるんですよ」




 ゴォォ――。


 ノンフライヤー特有の空気を高速で循環させる音が、サッカーボールサイズの調理魔道具から響く。音量は扇風機と同じ程度だ。


「熱で『焼く』ならわかるけど『揚げる』なんてことも出来るんだねぇ~」


「言われてみればたしかに大体の食材にも油や水分は含まれてるし、それを使うっていうのは理に適ってるわよね」


 女性陣は、見えもしない魔道具内部を見ようとギリギリまで顔を近づけて、早くも口々に感想を述べる。


 安全性という意味でも、料理の出来栄えという意味でも、俺はよほど信頼されているらしい。一応説明しておくと出来立てホヤホヤの試運転中だ。


「言っとくけど普通のやり方じゃ無理だぞ。バスケットの底にある特殊な装置を使って空気の流れを加速させて、常時200度以上を保たせる、かつ均一に加熱する仕組みがあってはじめて可能になる方法だ」


「「「へぇ~」」」


 はいはい、わかってましたよ。どうせそんな反応だと思ってましたよ。皆が興味あるのは結果だけで過程はどうでもいいんでしょ。


 拗ねついでに説明しておくが、地球では揚げる・焼く・煮ると多彩な調理方法がノンフライヤー1台で可能だが、こちらでは揚げるオンリー。


 物理法則の差はどうにもならなかった。


 世界の法則を決めているのが熱アンチというのが大きいと俺は見ている。消費魔力も半端ないので食べ合わせによっては使えば使うほど痩せるまである。


「とにかくこれで脂質は大幅カットだ。味もほとんど変わらない。何より良いのは市場に影響が出ないってこと」


「市場ってオーブンとかコンロとかのこと?」


「そう。ノンフライヤーはたしかに便利だけど、大型食品には使えないし、大量加工も出来ない。でもオーブンやコンロは焼きにムラが味を出してるし、途中でも微調整出来るし、油が使えるから脂っこい感じが好きって人はこっちを選ぶ。つまり共存関係が成り立つってわけだ」


「あ~、たしかに油で揚げてるところって食欲そそるわよね。音とかニオイとか色味の変化とか」


 やはりカロリーは美味しさだ。


 そして食は五感で味わうものだ。



「「「うまああああああッ!!!」」」


 結果は言わずもがな。


「満足していただけたようで何よりです。んじゃあ俺はもう行くから。皆と祭りを楽しんでくるから。後は好きにしろ」


 これまでとは違ったサッパリ系のフライドポテト……というよりこれまでの3倍食べても平気なフライドポテトに狂喜乱舞する一同とノンフライヤーを置いて、俺は町へと繰り出した。


 おそらく彼女達は施設内の芋という芋を喰いつくし、まだ足りないと販売店や備蓄のある知り合いの屋敷を襲撃するだろうが、俺には関係のないことだ。


 めでたしめでたし。


 ――と思うじゃん? 実はまだ続くんだよ。むしろここからが本番だよ。ポテト戦争の幕開けだよ。

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