千二百七十六話 続々1000年祭6
「んで、イブがどうしたって? 何が予想通りなんだ?」
男女三人組で友情と恋愛を両立させるという並大抵のことでは実現しない願いを胸に秘め……ているかどうかはさて置き、思春期の男子と前向きに付き合っていく気になったことだし、これ以上この話を続けるとワンが彼女に恋心を抱いていることがバレてしまう恐れがあるので、次なる話題へ。
とっくにバレてる気がするし、周りの大人達はヤキモキしてるだろうし、もしかしたら本人達もそれを望んでいる可能性もあるが、どれも確定情報ではないので部外者が身勝手に事態を動かすべきではない。
これからもいいお友達でいましょうENDを迎えた俺とアリスのようになれれば良いが、傍に居る時間も必要性も桁違いのあいつ等がそうなる可能性は低い。
告白の返事を先延ばしにされてギクシャクしたり、付き合い始めたはいいが残った1人と気まずくなって疎遠になったり、そのせいで仕事に影響が出たり、男女三人組あるある展開になってからでは遅いのだ。
それがわかっているからこそワンは一歩踏み出せずにいたわけだし、他2人……何ならワン自身もまだしばらく3人でバカやってたそうなので、ニコの意識改革をはじめとした色々な地盤が整うまでは大人しくしていた方が賢明だろう。
(……って、あ~、だからニコは下ネタ禁止令を出したのか。男連中は馴染ませようとエロを取り入れて、彼女は進展させまいとエロを否定したと)
ふとそんな考えが脳裏に浮かんだ。
どちらが正解というものではないし、目的地は同じだが、進み方の違いがおこちゃま達の関係に影響を及ぼしているのかもしれない。
(ま、それもまた思春期の貴重な経験だよな。悩め悩め。苦労は買ってでもするものだぞ)
今の関係を崩すほどのものでなければ存分に進展していただきたい。
罰ゲーム感覚でデートに誘ったり、裸体ないしアイドルの写真を見せながら「スタイル良いよなぁ」とセクハラしたり、恋人が出来た時のもしもトークで盛り上がれば良いと思う。
既にやっているかもしれない。セクハラ魔神のスーリなんかは、「いや~お陰でムスコが元気いっぱいだぜ」とか言いながらテント見せ付けてそう。
間違ってたらゴメンね。昔、踊ってる最中にニコの服を破いて、下品なフォローをした事実から想像しただけで何の根拠もないよ。でもエロいことを否定する要素がないから仕方ないよね。真偽は定かじゃないけど今でもたまに武勇伝聞くし。
話は変わるが俺は『若い内の苦労は買ってでもするもの』という言葉が嫌いだ。
苦労が大切っていう事実に年齢や立場は関係ないじゃないか。いくつになっても頑張れよ。今の自分に見合った努力しろよ。それっぽいこと言って怠けようとしてんじゃねえよ。
「……話を振った割に別のことを聞きたそうな顔ですわね。もしくは自分で答えを見つけようとしている顔ですわね」
ほら、こんな察しの良い女性が何の理由もなく親友の言動を咎めるわけないじゃん。ちゃんと考えてんだって。
「後で本人に直接聞くから気にしないでくれ」
「否定しないですって!?」
「……………………」
申し訳なさから来る加害妄想かもしれないが、盛り上がる俺達の隣を無言で歩いていたイブが、睨みつけると呼ぶにはあまりにもプリチーな視線を向けてきた。
自分の、しかもおそらく予想もつかない話題なので、顔に出していないだけで実は楽しみにしていたのかもしれない。
「なぁ、謝っておいた方が良いんじゃないか? たぶん脱線したこと怒ってるぞ」
「それよりも話を戻す方が良いと思いますわ。あと脱線はルークさんが一方的にしたことでワタクシは無関係ですわ。ワタクシは話を進めようとしていました」
「じゃあ俺の脱線終わるの待ってないでさっさと進めろよ。口に出してたわけじゃないんだからいつでも近況報告に入れただろ。どう考えても最初の話題振りで俺のターンは終わってたぞ」
「ええ、ええ、ワタクシもそうしたかったですわ……過去に幾度となく聞いていなかったからと再説明を求められ、邪魔するなと怒鳴られたことすらある相手でなければね!」
「その時の閃きによって生まれた魔道具の世話になってるヤツに責める資格はない。再説明だってそうだ。面倒なら断れば良いんだ。でもお前は面倒臭さより俺の助言を選んだんだろ。なら文句言うな。相手に伝わるまで説明するなんて常識じゃないか」
「それならそうと一言言えば良いでしょう! 『まったく関係ないことだけど良い考えが浮かびそうだからちょっと待って』や『話は変わるけど○○についてどう思う』と! 急に自分の世界に籠るなんて、話が進んでいることを前提で動く我々が迷惑すると、何故わからないんですの!?」
「聞き流したい時に困るからだよ! 考え事してたって言えば総括を聞ける便利な世の中万歳! 鈍感系主人公最高! 好き勝手に脱線出来る語りやめらんねぇ!」
「……コホン」
咳払い、さっさとしろと、いう合図。
ルーク心の俳句。
「実は最近イブさんを頼る輩が増えていますの」
王都でイブとの間を取り持つ者として彼女の生活や仕事ぶり、成果の使い道に詳しいニコは、何かを思い返すように虚空を見つめて話し始めた。
「別に普通のことじゃね? 自分1人の力ではどうにもならない時に周りを頼るなんて当たり前だし、立場が立場だ。そうやって接点をつくろうとしても不思議じゃない。
それとも何か? 改善しないといけないほど多いのか? 日常生活の邪魔になるレベルなのか? もしくは悪用されてたり?」
「わかっていて言ってますわよね?」
「まぁね」
いくら最近周りと交流を持つようになったとは言え、自分中心の行動理念は変わっていない。邪魔者は排除あるのみだ。
悪用は論外。出来るものならやってみろレベル。もちろん自己責任で。
お互いの言葉の裏には『もとが低すぎる』というワードが隠れているが、ただでさえ鈍いイブが、初耳の情報に驚いている中で気付くことはないだろう。
「要するにイブは人並み……いや、厳正な審査が必要な助成金並みに頼られるようになったと。気楽じゃないけどリターンが大きいから申し込み殺到だと。
でも本人知らなかったみたいだぞ。それって頼るって言えるのか? 既出の情報を共有するならむしろウェルカムだろ? 技術が発展することで研究材料や話し相手が増えたら俺達はハッピーラッキーもんじゃ焼きだし」
「ルーク君の言う通り。私の知らないところで広めてもらえるのは嬉しい。限度は守ってくれてるし」
「もちろんですわ。アルテミス様をはじめとした方々が入念にチェックしています」
断言されて焦るのはやましい気持ちがある証拠。
明言されたわけでもないのにそれ以外の選択肢を持ち合わせていないイブは、ただ俺の意見に肯定するように頷き、ニコもその信頼に応えるように即答した。
最近見ないと思ったらそんなことをしてたのか、あの古龍。
直接イブのところに来ないように、イブの(というか俺達の)仕事が捗るように、彼女なりにサポートをしてくれているのだろう。有難いことだ。
「それなら問題なくね? なんで相談なんてしようとしてんだ?」
「そこで従者の話ですわ。これまでコミュニケーションを取ることが難しいからと諦めていた方々が、最近イブさんが他者との交流に積極的と知り、動き出したのです」
「自分達にもワンチャンあるって? バカだろ。むしろノーチャンスだわ。この作戦が失敗したらイブはこれまで以上に自分の殻に籠るってわかってるんだから、セイルーン王家は全力で妨害するぞ。厳重どころか全排除も辞さない審査するぞ」
やっとこさ通学してくれた不登校児を、その原因となったイジメっ子と同じ班にしたり、通常の授業を中止して歓迎会を開いたり、授業についてこれないことを怒鳴りつけたりするわけがない。
学校が楽しい場所だと思ってもらえるように全力を尽くす。何ならしばらく甘やかす。
「普段ならそうでしょうけど今は1000年祭で手一杯ですし……」
「逆にダメだろ。なんでチェックされなきゃセーフとか思ってるんだよ。ガーディアンが潰すか本人が潰すかの違いだろ。大体王家がダメでもロア商会や強者がいる。恩を売りたい他国が協力してくれるかもしれないし」
「その他国が名前を売りたくて協力していますわね」
「あ~」
思わず納得の声が漏れる。
やはり世の中は権力者を中心に動いているようだ。
「最悪ロア商会の方で何とかするけど、お前等はどう対処してるんだ? 解読するのが面倒になって正解を教えてもらおうとするゴミや、それなりの成果を出してイブのお墨付きを求める連中を」
「何も。『中途半端なものは気分を害すだけ』と脅して引き留めているだけですわ。長くはもたないでしょうけど、厳正な審査をする力も問答無用に突っぱねる力も持たないワタクシ達では、これが精一杯ですわ」
「あ~……もしかして全部の相談がそこに凝縮してる?」
こういう時こそ彼等国家試験官や貴族の見せ場だが、厳正な審査しようにも選出する実力がなく、話に聞いていたほど悪いものではなかった下町の品々のせいで「排除した中にもそういうものが眠っているかも……」と余計慎重にならなければならず、相手が強大過ぎるので本人達のモラルに任せるしかないのかも。
ニコの目的をそう仮定して恐る恐る尋ねると、
「そこに『ステーション計画』と『ケータイ事業』も加わりますけどね」
「発表会は!? そういうのをまとめて公表するための場所だろ!? 良い物があったらこっちから接触しに行くぞ!?」
「これまで一度もおこなわれていない『可能性』と、王女争奪戦やリニアモーターカー関係で『成功』した強引な接触。どちらを選ぶか考えるまでもありませんわ」
ごもっとも。
こちらから声を掛けたことも皆無ではないのだが、自慢話にするような連中ではなかったり仲間に引き込んだり、ニュースにならないものばかりだ。
世に出ないものは実在していないのと一緒。
「なぁ……今からでも間に合うと思う?」
「そのために市場に向かっているのですわ。お2人が企業が集まる発表会ではなく下町に目を向けていたとわかれば納得すると考えたので」
ニコさん……あなたって人は……。
もしも今年の神力が残っていたら、彼女の悩みを解決するための神具づくりをしていたことだろう。試験官を育成する教材とか、素材の品質測定器とか。
まぁ残ってないから思うだけだけど。来年分は別で使うし。てか来年も使える保障ないし。でも気持ちって大事だよね。




