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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十章 ステーションⅢ

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千二百七十四話 続々1000年祭4

「なんだ、移動するのか?」


 俺とイブにこっそり相談したいことがあるからと、自分は王都の外れの宿屋周辺を活動地域に選び、放っておいたらトイレの外までついて来るワンとスーリには別地域を任せたニコは、相談に乗ることに承諾した途端、何も言わずに歩き出した。


 俺達は立ち話を気にする間柄ではない。混雑もしていない。姿勢を変えるだけなら3歩も移動しない。


 明らかにどこかへ向かおうとしている。


「見せたいものでもあるのか? それとも落ち着いて話せるカフェにでも行くとか?」


 てっきりこの場で悩みを打ち明けるものとばかり思っていた俺は、ついて来いと言わんばかりに一瞬振り向き、4歩目を踏み出した彼女に素朴な疑問をぶつけた。


「まさか。そんなところに行っても貴方達は落ち着きを通り越して退屈になるでしょう。今から行くのはお2人が逃げず、遊ばず、真面目に話を聞いてくれる場所ですわ」


「そんな場所は世の中に存在しないが?」


「ふふっ、目的地だけで考えればたしかにそうでしょうね。しかし道中を含めれば如何かしら? 退屈な話でもその先にある快楽のためなら我慢して聞けるのではなくて?」


「退屈な話なんかい……」


「言葉の綾ですわ。見せたいものがあると思っていただいて結構です」


 勝利を確信して笑うニコに、根本的に間違っていることを伝えるも、彼女は平然と反論してきた。


「ワタクシだって本当は立ち話がしたかったですわ。下手に動くとトラブルに巻き込まれてしまいますもの。しかし貴方達をそれを『退屈』や『面倒』と感じるではありませんか。御覧なさい。早々に飽きて意識を店頭に並んだオモチャに向けるイブさんの姿を。1分と経たずこれですわよ。相談など出来るはずがないではありませんか」


「そんなことはない。ちゃんと聞いてた。あれは見てただけ。私はマルチタスク。耳と目で得た情報をそれぞれ思考出来る女」


 名指しされた瞬間、イブは謂れのない批難を浴びたかのような顔で視線を戻し、ニコのターンエンド宣言と同時に言い訳を開始。


 一応フォローしておくと事実だ。彼女はそれが出来る人間だ。


 ただやるかどうかは別の問題。たぶんやらない。相談は聞くがそれをどうするかは俺に任せるに3000点。


「意識を分散させずに1点に集中していただくのが、しっかり傾向と対策を考えていただくのが、ワタクシの望みですわ」


「…………」


 流石はイブの最初の女友達にして王都でのサポート担当。


 察しの良さが俺並みだ。


 あとイブの世渡りの下手さはニーナ並みだ。


 嘘がつけない正直者とも言う。


「ちなみにどこ行くんだ?」


「露店市場ですわ。世界中から人が集まるこのお祭りのために専用エリアを設けましたのよ。きっと珍しい品々がてんこ盛りですわ」


「ほほぉ~、それはたしかに興味深いけど……そんな情報出てたか? てか町の外も似たようなもんじゃね?」


「知らなくて当然ですわ。元々あった露店街を一時的に拡張しただけですもの。イベントの有無で判断している方々は各国の名店が揃う中央闘技場やデパートに行きますし、町の外は無法地帯過ぎて散策に向いていません。これは地元民か現地に足を運ぶ人だけが知る隠しイベントなのです。

 というわけで、ひと気の少ない裏道を移動しながら相談に乗っていただきたいのですが、如何でしょう? お互い悪い話ではないと思いますけど?」


 答えは言うまでもないだろう。




「相談というのは他でもありませんわ。将来のことです」


「将来、ね……色々孕んでそうな単語だな」


 ワンと遭遇した下町に勝るとも劣らない(?)寂れた路地を歩きながら始まったニコの相談は、長引きそうなことこの上ない内容だった。


「察しが良くて助かりますわ。それでこそワタクシが頼りにする人物です」


「お世辞は良い。さっさと詳細を言え。今はまだワクワクが勝ってるけど、いつ面倒臭さが勝って話題転換するかわからんぞ」


「いつも通りルークさんがトークの節々に例え話や憶測を入れて、聞いている者達が自然と思考する内容にすれば大丈夫ですわ。ワタクシには良さが理解出来ませんが、イブさんをはじめとした一部の方々には好評のようですし、今回に限っては熱望していることなので本題を見失わない範囲で存分に脱線していただきたいですわ」


「もしかしてだけど……喧嘩売ってる?」


「まず1つ目は仕事のことです」


 聞けよ。てか答えろよ。


 そう訴えかけるように隣を歩くニコを睨みつけるも、距離を詰めなかったからか、ニコは気にも留めずに説明に入った。


「ルークさんも知っての通り、エリックス家は石材の生産から物流まで、セイルーン王国内外問わず担っている大貴族ですわ。

 お陰様で化学反応の国家試験にも一口噛ませていただきました。これまで見向きもされなかった素材の需要が増えて業績も右肩上がりです。本当にありがとうございます」


 礼儀正しすぎて嫌味に聞こえる。何より改まった態度が怖い。


 その件の礼は散々された。今更する理由なんて、このあと明らかになる闇を少しでも軽減する以外思いつかない。


「どーいたしまして」


 身構えるあまり態度がおざなりになる。元からとも言う。


「問題はその国家試験ですわ。ワタクシと違い、御兄弟に家業を任せるワンとスーリは運営として働くつもりなのですが、最近の劇的な変化についていけていないのです。このままでは何を基準にすればいいかわからず、素材の手配や情報を提供しているエリックス家にも影響が出てしまいます」


「いや、なんで専門家になろうとしてんだよ……。試験官だろうと経営者だろうと化学反応に疎くても良いだろ」


「と言いますと?」


「例えば試験官なら、化学反応に詳しい人間が1人、あとの2人は受験者の人柄を見たり目標や成果をどう社会で活かすか考えるって具合にな。ワンもスーリも社会に詳しいんだから『アナタなら○○をどう改良しますか?』『○○の仕組みについてどう思いますか?』ってアドリブ入れてみたりさ。

 勘違いしてるけど無知ってのは武器だぞ。研究で一番難しいのは『難しいことを如何にわかりやすく説明するか』だ。本当に理解してる人間じゃないと出来ないし、そいつ等に理解させられないようじゃ世間に出しても意味がない。その基準になれるなら十分役立ってるよ。

 そりゃ詳しいに越したことはないし、どっちが不足してるかって言えば圧倒的に専門家だけど、そういう人間も必要なんだから無理することないって」


「面接ならそれでも良いかもしれませんが、問題は国家試験全体という点です。規則を作るべき機関の知識が追いついていないのは致命的です。出題内容も決められません」


「だから追いついてなくて良いんだって。劇的な変化を起こしたり、それについて研究するのは、基礎が出来てる連中。国家試験はそいつ等が本当に正しい知識を身につけてるか調べて許可を出すためのものだ。

 お前達がするべきことは、その物質がどういうもので、扱うためには何が必要か、基本的な知識や技術を試すこと。そしてそのためのルールを作ること。最先端の技術を扱えるようになることじゃない。

 新しく生まれた技術が危険なものかどうかは専門家に判断してもらえ。危険だったりそこに新しい基礎があったら規制して、それ用の試験を作る。その基準となるべきものをしっかり決めて、1つ1つルールを作っていくからこそ、国家試験は成り立つんだ。完成する時は永遠に来ない。常に新しくなるから」


「ですがその基準を作るべき人達も国家試験官ですよね? あまり知識や技術に差が開いても国の威信に関わりますし……」


「なんでだよ。別に外部でも良いだろ。国や地方自治体が率先して専門家を育てるのは当然として、外部の研究機関を支援してその対価に技術をいただくのもありだと思うぞ」


 成果を全部表に出さなきゃいけないなんてことはない。


 規制するのは誰かが発表してからでも遅くないはずだ。


「それこそ威信に関わるのでは? 『何もしてない』『悔しいから規制したに違いない』『あいつ等いつも後出しだな』と風評被害に遭いそうですけど」


「権利を独占してる機関なんてそんなもんだろ。下々の言うことなんてイチイチ気にすんな。ハゲるぞ」


「…………」


「睨むなよ。事実を言っただけだ。専門家を育てる方法はわからない、外部から引き込むのも嫌、でも批難されたくない。どうしろってんだよ。贅沢が過ぎるぞ」


「ロア商会独自の教育方法とかないんですの?」


「ない。素材調達班がテキトーに集めてきた素材を、研究員達が気紛れに弄って、出来た物を全員であーだこーだ議論して、商品化したらメチャ売れるだけだ」


「言えばドラゴンの牙でも取ってきてくれる。給料と待遇が良いから優秀な人材が集まる。優秀な人達が議論するから有意義。商品化する際は必ずと言って良いほどコスト削減のための魔道具が作られる」


「見事なまでの幸福スパイラルですわね!! ワタクシ達もそういうの欲しいですわ!! ですがどこから手を付ければ良いすらわかりませんわ!!」


 イブの補足を聞いてニコがキレた。


 八つ当たりなだけな気もする。


「なんで一国が一組織に負けてんだよ。もっと頑張れよ」


「国が欲と利権争いばかりのせいでアテにされないのが悪い。元々の信頼度が低すぎる。あと民衆の役に立ってない。立ってたとしても目立たなすぎ。勝てるわけがない」


 そうだね。ただ王女が言うことじゃないね。


 不満たらたらのニコのためにいくつか案を出すと、彼女の不機嫌は徐々に収まっていき、国家試験関係の問題は一応の終結を迎えた。


 あとのことは知らん。国と協力して頑張れ。




「次は王都の貴族社会の近況ですわ。すでに御存知のようですが、最近安価な商品を如何に上手に取り入れるかという遊びが流行っていまして、これまで見向きもされなかった場所にも貴族が足を運ぶようになりましたの」


「良いことじゃないか。それの何が問題だってんだ?」


 ポジティブとはかけ離れたニコの様子から相談事というのはこれに違いないと予想し、尋ねると、


「……下町というのは誘惑が多い場所ですわ」


「「???」」


 俺達はイマイチ要領を得ないニコの発言に首を傾げる。


「せ、成人向けのお店が多いと言っているんです!」


「あ~なるほどね。まぁ大通りと比べたら多いだろうよ。で?」


「『で?』ですって!? 大問題でしょう!? ワタクシ達は未成年ですわよ!? 規則というのは守るためにあるものですわよ!?」


 まるで俺が犯罪者を庇ったかのように罵倒してくるニコ。


 要するに無菌状態だった学生達が沼にハマってしまって困っていると。見せびらかしてきて困っていると。思春期の男子との付き合い方がわからないと。


 イブと言い、ニコと言い、なんで貴族子息ってのは世の中に関心薄いんだろうな。エロなんて興味持ってたら絶対辿り着く領域だろうに。中学生にパソコン渡したらもう秒でエロサイトよ。アクセス制限とか自力で解除するぞ。


 そこまでとは言わないからもう少し世の中に目を向けていただきたい。

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