表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十章 ステーションⅢ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1537/1659

千二百七十三話 続々1000年祭3

「先月誕生日だったメイドさんのために魔道具作った」


「おっ、随分コミュ力上がってるじゃないか」


 俺としてはあのまま宿屋で語らっても良かったのだが、オリバーが『それに関してはもう十分だろう。ここからは俺の相手をしてもらう』と言わんばかりに愚図り始めたので、俺とイブはその場をシャルロッテさんに任せて町へと繰り出した。


 トークテーマは引き続きイブの周辺環境について。


 助言に従おうが従うまいがマウントを取られるなら、自分のしたいことをして有意義な時間を過ごすべきだ。


 これまでに何度も同じような経験をしている身としては今後に活かせる情報が手に入るかもしれないし、自主的に祝うことはおろか製作を依頼されても「それをして私に何の得があるの?」とバッサリ切り捨ててきた彼女が何を贈ったのか興味津々である。


「何か心境の変化でもあったのか?」


 まずは切っ掛けから。


「ただのお礼。特殊五行でお世話になったから」


「あ~、たしかにイブの属性的にそうなるか」


 世界を司る5つの理の内、イブは母子の関係、コーネルは物質の状態変化、パスカルは魂についての知識と力を得ている。


 プラズマを引き出す対価として特殊五行に干渉する力を差し出した彼等は未来永劫その力を失ったが、知識自体は残っているので話せる範囲で他者と情報交換をしたのだろう。修行中にアドバイスをもらった可能性もある。


 母子の関係……すなわち生命の神秘。


 おのずとその辺りのことを意識した年齢の女性と話すことになるが、そのためだけに見ず知らずの者に話し掛けることは難しく、身近な従者達と話した結果、愚痴や自慢が混じったロクでもない恋愛トークをする(聞かされる)ことになったと。


(な~にを他人事みたいに言ってるんですか~。ルーク君も14歳の誕生日に行使出来たはずの神力失ってるじゃないですか~)


 それは言わないお約束。


 みんなで仲良く人類の進歩に役立ったんだから良しとしましょうや。


(そもそも神力で鉄道をポンッと作っても「スゲー!」で終わってたと思いますよ。一から人の手で作るから良いんですよ。紙製造機とか塩製造機がそうでしょ。元々あった技術を超進化させたから受け入れてもらえたのであって、ゼロから作ってたら自分には無理だって諦めちゃいますよ。こういうのは真似出来るものじゃないと。理解出来るレベルじゃないと)


(神力に責任転嫁しないでください。そうなるようにルーク君が頑張れば良いだけでしょう。力を持った者が次に求めるべきは導く力ですよ~)


 流石神様。ぐうの音も出ない正論だ。


 まぁ過ぎたことをグダグダ言っても仕方がない。上手くいってるからそれで良いじゃないか。それこそ神力を使うより良い結果出せてると思うぞ。


 話を戻そう。


「何を作ったんだ?」


 昔からのトラウマもあってマイナスの方が大きかったようだがお礼はお礼。


 本人も割り切っているようだし、性能は間違いなく超一流だが、問題は相手やシチュエーションに相応しい品かどうか。気になる中身を教えていただくとしよう。


「マッサージ器」


「へぇ~。良いじゃないか。家事って結構肉体労働だからな」


 家事全般を担当するメイドさんへの贈り物としては、貴金属やインテリアより自室で使える手軽な疲労回復用品の方が喜んでもらえるはず。


 正直、作業効率が劇的に向上する魔道具より嬉しいと思う。


 ロア商会をはじめとした各企業が頑張っているお陰で大体改善されているし、機械化が進み過ぎたら職を失う恐れがある。何事もほどほどが一番だ。


「雇い主から宝石とか贈られても困るだけだしな。換金するわけにもいかないし、全員にあげないといけなくなるから見せびらかすことも出来ないし、かと言ってまったく身につけないと好きじゃなかったのかなと被害妄想されてしまう。

 でも実用品なら壊れてもそれだけ使ったんだと主張出来るし、周りと共有したり実際に役立ってるシーンを見せることが出来る。それはお互いの仕事のモチベーションや効率アップにも繋がる。そのままはもちろん、閃きを得た第三者が改良して商品化もあり得る。パーフェクトだ」


「そう。だから私は実用品しか贈らない」


 それはそれでどうかと思うが、他人のポリシーに口を挟んでまで変えさせるものでもないので、スルーさせていただく。


 置物や魔道具以外の品なら遊びと称して作れば良いしな。



「魔石を嵌めるタイプと魔力で動かすタイプの2種類」


 具体的な内容を尋ねるとイブは嬉々として説明に入った。


 やはり彼女は魔道具……それも自分が作ったり作ろうとしているものについて話す時の方が生き生きしている。次点で見聞きしたもの。


 実体験が伴わない恋愛トークはどうしてもたどたどしくなる。まぁ今だけかもしれないが。好きなこと限定でも話そうと思えば話せる人間は強い。どちらに転ぶかは彼女の気持ちと彼女を取り巻く環境次第だろう。


「ほう! 魔力を使えないほど疲れている時のことも考えて2つ用意するなんて、やるじゃないか!」


 問題だった気の遣い方を見事にクリアしたイブに称賛を贈る。


 誰かに相談したわけでもなさそうだし、これはもうコミュ障とは呼べないな。ただの面倒臭がりだ。


「少し違う。どっちも専用装置に接続していれば装置のエネルギーが切れるまで使い続けられる。離した時にどう使うかの差。挿す場所を間違えても大丈夫のように同じ蓄積方法にした」


「凄いなッ!」


 流石は天才発明家。当たり前のようにモバイルバッテリーや充電器を作り出している。しかも話の内容からしてのおそらく手持ちタイプ。


 今ある技術でも魔石や魔力を利用することで可能だが、充電しながらの使用や別種の同方法の充電技術はまだ確立していない。小型化など論外だ。


「でも変な要望があった」


「変な要望……?」


 近々現物を見せていただこうと脳内のメモ帳に書き込んでいると、イブは少し困った様子で呟き、頷き、説明に入った。


「体に貼り付けるようにしようとしたら、長さ20cm、太さ4cm前後の棒にして欲しいって言われた」


「別にそこまで変なことでもないだろ。貼り付けるタイプはどうしても刺激が弱くなる。自分で強弱を調整出来る手持ちタイプが好きって人もいるだろ。粘着力が低下するから長持ちしないし、かと言って王女様に消耗品を作らせるのも気が引けるだろうし」


「でも振動するのは先端だけじゃなくて全体って指定された。振動もコリを解すほど強力なものじゃなくて『くすぐったい』から『イタ気持ちいい』まで数段階に分けるように。2つって言ったのは、それと、外でも使えるように親指サイズの小さい物」


「それは……たしかに変だな」


 一抹の不安を覚えたものの、流石にそんなことはないだろうと流して、僅かばかりのヒントから依頼者の用途を探ることに。


「あと使う場所はお風呂だから両方とも防水性にして欲しいって。これは一番大事だって。絶対条件だって。可能ならアタッチメントも付け替えられるようにして欲しいって言われた。凸凹から農具みたいなものまで色んな形の絵を描かれたけど、それは技術的に難しいから断った」


 ん~……もうツッコんで良い? まだ早い? 俺はアレだと思ってるんだけど。アレ以外に考えられないんだけど。


「エッチな下着もその時に教えてもらった。たしかにあれは魔道回路を通すのに丁度良いもの。靴とパンストを改造して、歩行することで発生する運動エネルギーを動力に変換、下着に取り付けた装置に流れるようにすれば常時蓄積が可能になりそう。スカートで隠れるから日常的に身につけられるし、いつでもどこでもマッサージ器を使える」


 …………もう良いよね?


「あ~、イブさんや」


「何?」


「それエログッズですやん!」


 と、叫ぼうとした次の瞬間、


「彼女達のあんな笑顔見たの初めて。私も嬉しかった」


「そ、そっか……その気持ち大切にしていこうな」


 無邪気に喜ぶイブの顔を見て何も言えなくなった俺は、真実を心の中にしまうことにした。


 用途はアレだけど仕組みは凄いしね。イブは『エッチなものも使い方次第で研究の役に立つ』と逆で捉えてるみたいだけど。


 余談だが、このプレゼント。マッサージはもちろんのこと、一定の振動を起こす器具として料理や研究用品にも使えるという宣伝文句で売り出したところ、世界中で大ヒットした。


 その裏で大人向けの店の定番品になったりもしたが、このことを彼女が知ることは一生無いだろう。あったとしても『使い方次第』という便利な言葉で解決よ。




「やはりそうですわよね……」


「ニコじゃないか。どうしたんだよ、溜息なんかついて」


 きわどい会話をしていたからだろうか。いつの間にか近くに居たニコが、会話が終わるのを待っていたかのようなタイミングで、構ってくれと言わんばかりの特大溜息をついた。


 珍しく1人だ。


「丁度良いや。今、イブの身辺調査してるんだけど、彼女の王都での生活を最も詳しく知る人間としての意見を聞かせてくれ。主に恋愛面で」


「溜息の件はスルーですの!?」


「いや、中々話さないから言いたくないのかなって」


「ワタクシの存在に気付いてから3秒も経っていませんわよ!?」


「はいはい、わかったよ。聞いてやるからさっさと話せ。その代わり面白くなかったら無かったことにするからな。どうせ悩んでる原因は、ワンとスーリのことか、今の俺達の話かのどっちかだろうけどさ」


「あ、相変わらず扱いが雑ですわね……」


 などと憎まれ口を叩きつつも話す気満々のニコは、「まぁ正解ですわ」と若干悔しそうに言い、お悩み相談という名のラヴルートの邪魔に入った。


「ワタクシ、先程までアリスさん達の案内をしていましたの。隅から隅まで見て回ると言っても催しをしていない場所も多いですし、同じ道を何度も通るのは時間の無駄ですので、親睦を深めるついでに最近の王都のことを語って差し上げましたのよ」


「へぇ~」


「……ワンとスーリもそれぞれに案内する班を決めていましたわ。今頃は王都代表してしっかり楽しい道案内・イベント紹介をしているはずです」


 そんな目をされても困る。本題の『ほ』の字も見えないのにそれ以外どう反応しろっていうんだ。


 あっ、安心はしたぞ。もし3人とも暇で、ニコとスーリには楽しい時間を過ごさせて自分はプレゼント探し、なんてことをしたら全力でアイツの恋愛偏差値をバカにする。


 そんなことするより今を大事にしろ。一緒に過ごせ。何ならスーリ排除しろ。


「あ、そうそう、ワンがサボって買い物してたぞ」


「……案内が終わったとか、置いていかれたとか、お前も楽しんで来いと言われたとかではなく?」


「どうだろうな。取り敢えず1人でひと気のない下町をうろついてた。あと俺とイブがイチャつけば自分もやりやすくなるからって恋愛路線に向かわせようと頑張ってた」


「…………」


 何とも言えない空気を纏うニコ。


 彼女の本心を探ることは出来なかったが、ここで読心術を使うのも違う気がするし、知ったところでな気もするのでスルーさせていただく。


 一切動じないよりはマシだろう。『ま、まま、まさかワタクシ以外に気になる相手が?』だったら良いね。リア充爆発だね。


 俺に出来るのはここまでだ。


 意識させた後どうするかはワンに任せる。



「…………実は皆様の案内はワタクシが提案したことなのですわ。お2人に相談したいことがありまして。こうでもしないとワンとスーリと離れられなかったので」


 保護者目線で若人の行く末を応援した直後、たっぷり時間を掛けて思案していたニコが神妙な面持ちで語り始めた。


 つまり俺達がここで会ったのは偶然じゃなかったと。単身で俺とイブに会うために王都の外れのエリアを選択したと。


 面白くなってきたじゃないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ