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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十章 ステーションⅢ

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千二百七十話 続1000年祭11

「ああいうの好き」


 本人達に悪気が無かったとは言え騙されかけたことに変わりはないのであえてそう呼ばせてもらうが、詐欺イベントを終えて大混雑の町中を歩いていると、珍しくイブが周囲を気にせず話し掛けてきた。


 ファミールさん達の職場が割と都市部にあったので、彼女には静かな下町に到着するまでいつものように自分の殻に籠っていただき、落ち着いてからラヴルートへ向かおうと思っていたのだが、まさかの事態だ。


 だがそれは願ってもないこと。


「それはオブラート製作の話か? それともここまでの流れやカップルの話?」


 俺は動揺を表に出さないように話に乗った。


「全部」


「おっ、マジか。イブの恋愛観とか興味あるわ。こういう話全然しないし。具体的にどの辺?」


 祭りの空気ではないだろうと除外し、最有力候補を一番手に持っていって話しやすい流れを作り、それほどまでに伝えたいこととは何ぞやと尋ねると、まさかのラヴルート開拓。


 ワンがやろうとしていた共感性による雰囲気づくりを別口でおこなってしまったが、何はともあれ相手の方からフィールドに飛び込んできてくれたのだ。この絶好の機会を逃す手はない。


 俺は畳みかけるように話を膨らませていった。


 これだけ騒がしければ名前を呼んでも大丈夫のはず。イブのコミュ障は周知の事実。まさかこんなところで雑談しているとは思うまいよ。堂々としていた方がバレないのは確認済みだし。


「よくわからないからしないだけ。創作物の中での恋愛は好き。現実では嫌い。みんな愚痴か自慢だけで経緯を話したり客観的な情報を出してくれないから」


「あ~……難しい問題だな」


 コミュ障は周りから自然と人が居なくなるor自ら人の輪から離れるものだが、否が応にも寄ってくる王女にはどちらも不可能。


 その時点で人生ハードモードなのに、それに加えて身近な人間は嘘か本当か恋愛を面倒だと言い、愚痴り、寄ってくる者は自分がいかに優れた人間かをアピールをするために良い部分だけを伝える。


 状況を知ることも出来ず、テキトーに共感することも苦手で、リアルな恋愛に詳しくないイブが、好きになるわけがない。


「普通ならそういう時、詳しく話すように進言したり、『いや~それはお前が悪いよ』って否定したりするんだけど――」


「他に優先したいことがあるから会話を終わらせる」


「だろうな」


 こういう性格だから話してもらえないのか、話してもらえないからこういう性格になったのか、俺は苦笑しながら今更ながらの命題に頭を悩ませた。


「もしかして恋人になるまでの一部始終を見たのって今回が初めてだったり?」


「初めて」


「ほほぉ~。それで好きって言うってことは、現実の恋愛は想像より酷いものじゃなかったって思って良いのかな」


 百聞は一見に如かずだ。


 お互いが好きになるまでの経緯は回想だったが、相手のことを想っての行動からの告白、問題解決という創作物ばりの恋愛を生まれて初めて体験した少女がどう出るのか。


 小学生のように茶化すのか、中学生のようにドギマギするのか、高校生のように興味津々か、一部の社会人のように冷めた感じで行くのか。


 この様子ではいくら聞いたところでマイナスにしかならなかっただろうが、今回の件で彼女の中で恋愛に対する姿勢が変わった可能性は高い。


 運命の瞬間だ。


「ん。自分の幸せと相手の幸せが合致してた。みんな、愛は好きな人のためにどれだけ自分を犠牲に出来るかだって言ってたけど、あの2人の間に犠牲はなかった。お互いが自分のやりたいことをやって、それがお互いのためになって、ちょっとすれ違ったけどそのお陰でお互いの気持ちが伝わって、ハッピーエンドだった」


 並大抵の恋愛ではこうはならなかっただろう。


 しかし普通を知る必要はない。


 自分が望む恋愛をすれば良い。


「たぶんだけどこれまでイブに愛を語った連中の中にもそれを伝えたかったヤツは居たと思うぞ。そうじゃない連中のせいで偏見を持ってただけで」


「そうなの?」


「さあな。俺は神様じゃない。他人の本心なんてわかんないよ。ただそう思っといた方が会話に前向きになれるだろ。良いこと言ってるかもしれないから聞こうってなる。そしたら多少トーク力が足りなくても伝わるし仲良くなれる。win-winだ。

 どうやってもポジティブに捉えられなかったら逃げて良し。自分の価値観を曲げてまで他人の話を聞く必要はない。恋愛なら『相談相手間違ってる』と一蹴してやれ。もしくは『詳しく教えて』だな。前向きになったら自然と出来るようになるはずだ」


「前向きにならなくてもわかるようにしてほしい」


「それは贅沢」


 王女だしそのぐらい高望みしても良いのかもしれないけどさ。


「ちなみに俺達も同じ領域に居るんだぞ。あっちは進展する気満々で、こっちはそうじゃないってだけで」


「…………たしかに」


 どうやらそのことすら気付ていなかったようだ。


 ホント、あの2人が居てくれて良かったよ。


「あと勘違いしちゃダメだ。物語ならあそこで終わりだけど人生は死ぬまで続く。この先どうなるかは2人次第。ハッピーエンドになるとは限らないんだ」


「大丈夫。自分の好きなことをやってて幸せになれるなら無敵」


 人生そんなに甘くないし、人間そんなに単純じゃないけど、これは言わない方が良いな。


 努力は必ず報われる。


 好きなことは一生好きなまま。


 そのぐらいの夢は見ても良いじゃないか。



「というわけで俺は進展を希望する。イチャイチャしよう。いやさ、してください」


「……面倒じゃなければ」


 王の前で跪く騎士とも、消極的な女性にダンスを申し込む紳士とも取れる雰囲気で申し出ると、イブは差し出された手を軽く握って応えてくれた。


 十分過ぎる。『話を聞いている感じ面倒そうだからやらない』から『くっ付いてからが面倒だったらやめる』になったのは、赤ん坊が二足歩行にチャレンジしたぐらいの進歩だ。


「そしてそのまま進歩して思春期の性欲を理解、解消してくれ」


「失せろ」


 イブの言う『ああいうの』になるべく一歩踏み出した途端、驚くほどクオリティの高い俺の声真似をした精霊王が現れ、秒で消えた。


(お前空気を読めよ。たしかに大切なことだけど、今は心と体を開かせる前戯段階。結婚するまでは犬耳つけたイブの胸や尻を揉むだけで満足だ)


(むしろ本番よりハードル高いのでは?)


 はは、そんな馬鹿な。


 当然結婚後も3Pの無理強いはしませんよ。


「大丈夫。理解してる。精霊のことを知る時に人体についても学んだ。特殊五行でさらに詳しくなった。もちろんルーク君が義務感でイチャつこうとしてないこともわかってる」


「あ、そうなんですか。助かります。実は僕も丁度話そうと思ってたんですよ。良いですよね、性欲。生を実感出来ますよね。充実感ありますよね」


(手の平くるー)


(黙れ。空気を読めと言っただろう。今はそういう空気だ。相手の気持ちを考えずにいつまでも前戯やってる野郎は嫌われるぞ)


(イブさんは性欲に理解を示しただけで自分がやりたいなんて一言も言ってませんよ~。勝手に準備万端と判断して先に進んだルークさんの方が嫌われます~)


 ああ言えばこう言う年増め。


 だがお陰で流れは作れた。


 仕掛けるならここだ。




「膝枕中のカップルの会話。

 『この体勢でべろちゅーしたら舌が絡んで気持ちいいかな?』

 『……したいの?』

 『しない』

 『質問の答えになってない』」


「嫌いじゃないけど直接的過ぎる。自分ではどっちも難しいから31点」


「腐れ縁の同級生との会話。

 『ふふーん。残念だったね、巨乳とハグできなくて。A子のはでかいぞぉ。男子は柔らかい方が好きでしょ?』

 『そうか? そんなことないだろ』

 『じゃあ証明してみせて』

 『うーん……あっ』

 男は少し悩んで、女を自分の胸に引き寄せた。

 『っ!?』

 『どうだ? 俺のは全然柔らかくないぞ』

 『……そうだね。固い』」


「好き。ただ回りくどい。普通に抱きしめれば良いと思う。恋人になる前だから許されるシチュエーション。私には使えない。42点」


「恋愛相談。A君はB子ちゃんが好きだけど仲が良いわけでもなく、相談に乗っている間は話せるからと友達への告白の手助けをすることに。

 『思ったような人じゃなかった』 

 『そっか』

 が、結局B子はその友達を振る。

 『私、他に好きな人が出来たんだ』

 『そ、そうなんだ……また相談乗ろうか? 相手誰?』

 『鈍感だね』

 そういってB子はA君に突然キス。相談に乗ってもらってる内に彼のことが好きになっていたのだった」


「創作物としては素晴らしい。91点。ただ私がそれをするとルーク君以外とくっ付くことになる」


「大丈夫だ。今やってるのはあくまでもイブの理想の恋愛を知るための質問。絶対に自分でやらないといけないなんてことはない」


 具体例を交えつつ、第三者が目撃したら舌打ち必至のシチュエーショントークに花を咲かせること、数分。


 たしかな手応えを感じた俺は、さらに踏み込んだ質問をすることに。


「ほとんどの質問に『自分では難しい』って言葉を入れてたけど、逆に今のイブに出来そうなのはどんなのだ? やってみたいのはどんなシチュエーションだ?」


「……無理せずいつも通りが一番」


「いやいやいや! 勇気を出して一歩踏み出そうよ! 望みを口に出すのは恥ずかしいことじゃないぞ!」


「生物としての機能は理解していても、どうするのが良いのかはわからない。心っていう不確かなもので過程を考えるのは苦手。面倒臭い。ルーク君に任せたい」


「そ、そっか……まぁイブがそれで良いなら良いけどさ」


 早くも面倒臭くなった(というか飽きた)イブがリタイア宣言したので、元々そのつもりだったこともあり、俺は彼女の提案を受け入れた。


 流石に高望みし過ぎたようだ。


 あと受け身の女性も全然嫌いじゃないですし。


「ただ努力はしろよ。好奇心持てよ」


「もちろん」


 実は先程のシチュエーショントーク。バレないように口調を変えさせてもらったが、上から俺がやりたいこと、コーネルとユチがやってそうなこと、アリスとエリオットがこれからしそうなことだったりする。


 そして俺のは31点。最低点数。


 絶望はしていない。何故なら、自分の趣味を如何に上手に受け入れさせるかが恋愛の醍醐味だと思っているから。


 100%好みの異性を見つけるのは不可能に近く、恋人にするなんて夢のまた夢。


 なら自分の手で作れば良い。


 自分に合わせてもらう……いや、自分の好きなものを好きになってもらうために必要なものは好奇心と努力。なんでも楽しめる相手なら0からでも何とかなる。


 見た目は知らん。


 ある程度は努力で何とかなるだろうが生まれ持ったものはどうしようもない。俺が言っているのは性格や能力などの後天的にどうにかなるものだ。


 生き方も一緒。


 楽しいかどうかなんてやる前からわかる人間はない。やってみてから気付くことだ。まずやること。そして面白い点とつまらない点を見つけること。



 こうして俺の王女育成計画は幕を開けたのであった。

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