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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十章 ステーションⅢ

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千二百六十八話 続1000年祭9

「あのぉ……ちょっとよろしいでしょうか……」


 新作魔道具の発表会会場を一応の目的地としてラヴの気配を探しながら歩いていると、横手から間延びしきった声が掛かった。


 今、俺達が居るのは、メインストリートを何本も逸れた路地。


 ひと気も皆無ではないが、ソーシャルディスタンス……もといフィジカルディスタンスが守られているので、誰に向けられたものかは一目瞭然だ。


「なんスか?」


 これが勧誘や高慢な態度なら無視しているところだが、相手はおっとりした雰囲気なのにサド心はくすぐられない小動物チックな女性。しかも瞳にうっすらと涙を浮かべている。


 俺は若干の警戒心を胸に応対した。


 俺が足を止めたからか、イブも立ち止まって事情を聞く姿勢を見せる。会話は完全に俺任せの空気だが応じただけ偉い。


 ところで話は変わるけどソーシャルディスタンスって誰が考えた言葉なんだろうな。直訳すると『社会や社交性と距離を置こう』なのに、今更「人と人との社会的な繋がりを断たなければならないという誤解を招くので名前変えます」とかおかしいだろ。最初にわかってたことだろうに。


 カッコ良さを重視しちゃったか?


「あの……無視しないでください……」


「無視してない。事情尋ねたのに中々話さないから考え事してただけだ。時は金なり。タイムイズマネー。用件がないなら俺達はもう行くんで」


 明らかに年上だが関係ない。


 引き留めておいて「まだ心の準備が……」や「あ、なんでもありません」などとほざくようなヤツは、辛辣な対応をされても文句は言えない。


 見ず知らずの相手に声を掛けて良いのは引き返さない覚悟のあるヤツだけだ。


「困っている相手を見捨てるんですか!?」


「相談すら出来ないヤツは自分で解決するしかないしかないだろ。チャンスをもらっただけ有難いと思え。それを活かせなかった自分が悪い。次から気を付けろ。世の中はアンタが思ってる以上に厳しいぞ」


「すでに見捨てている!?」


「んじゃあラストチャンス。3秒以内に説明しろ」


「無理ですぅ~~!! せめて『説明を始める』にしてくださいぃぃ~~!!」


 せめても何もそれが出来ないなら暴力に訴えてでも見捨てる。執行猶予がついても改善されないならそうするしかないじゃないか。


 俺達は赤の他人の覚悟が決まるまで待っているほど暇ではないのだ。




「え~、では改めまして……幸せになれる壺、買いませんか?」


 そういって女性は、カバンから取り出した手のひらサイズの木箱、そしてその中に納まっていた壺を見せつけてきた。


「貴族相手に詐欺とは良い度胸だな。警備隊に突き出してやる。こっち来い。安心しろ。仲間がいるなら一緒に潰してやるから。俺、国中の権力者と仲良いから」


「詐欺って決めつけないでください! 本当に幸せになれるかもしれないじゃないですか!」


 あまり関わりたくはないが見て見ぬフリをするわけにもいかないので、有無を言わさず手を引っ張ると、女性は逆ギレして壺を突きつけてきた。


 力ではなく言葉で抵抗するつもりのようだ。


 おそらく泣いていた理由もそれ。中々売れないor話を聞いてすらもらえないor初めてで緊張しているだ。


 が、俺には通用しない。


「俺、魔道具開発者で精霊術師だけど?」


 必ずしもそうとは限らないが、基本的に超常現象は『魔力』『魔道具』『精霊』のいずれかによって発生する。


 それぞれには互換性があり、画期的な魔道具を作る人間は他2つに詳しかったり実は強かったり、魔力を極める過程で魔道回路や精霊術を学んだり、精霊術師が戦い方や製作のアドバイスをしたりなんてザラにあること。


 その内の2つを仕事にしている俺に『かもしれない』は釈迦に説法だ。


「なら理解出来るはずです。この壺の素晴らしさが」


「どう見ても機械で作られた量産品だな。原価銅貨4枚ってところか。効能ゼロ。精霊なんて1ミリも宿ってない」


「ふっ、嘘ですね。万物は精霊によって構成されています。宿っていないなんてことはあり得ないのですよ」


 勝利を確信した笑みを浮かべる女性。


 彼女がここまで商品に絶対の信頼を置いている理由は定かではないが、世間一般の常識と見ず知らずの相手の意見、どちらを尊重するかは考えるまでもない。


「まぁ信じないならそれで良いよ。俺にはこれが詐欺だってわかってるから、お前を警備隊に突き出すだけだ。真偽はそこでハッキリするだろ」


「……私にもわかるような根拠を示せますか?」


 第三者に判断を委ねる方針が功を奏したらしく、あちらの主張が本当だったらマズイことになると、女性は不安そうな顔で尋ねてきた。


 もしかしたら何も知らずに加担していたのかもしれない。先程のやり取りはすべて上からの指示で、俺のように断言しなければあの手この手で正当性を主張して売りつけていたのかも。


 だとしたらまだ救いはある。


(ただなぁ……精霊が宿ってない証拠とかどうやって伝えろってんだよ)


 まぁ頑張ってみよう。


「たしかにアンタの言うように万物には精霊が宿ってる。でもそれは生活のために仕方なく棲んでる場所。俺達プロは失っても構わないと思ってるものを『宿る』とは言わない。抗うほどの愛着をもって初めてそう言うんだ」


「この場合、言葉では無意味ですよ」


 ですよねー。



「なんで私達に声を掛けたの?」



 と、ここで山が動いた。


「なんでと言われましても……なんとなくですが? お金を持っていて、幸せに飢えているとまではいかずとも求めていそうな人が、御2人だったんです」


「まさかアンタ本物の神官か?」


 女性の恰好は巫女と僧侶を二で割ったようなもの。


 神殿関係者か医療関係者、治癒専門の冒険者にありがちな格好だが、そういった服を異業種の人間が着用してはならないなんて法律はないし、お古を着回すこともよくあるし、前者なら直接上に言うだろうと思い彼女を後者認定していたのだが……どうやら違ったらしい。


 彼女は俺達が来る前からこの辺りをウロウロしていて、それなりの人通りのある中で的確に俺達を選んだ。


 この世界の『勘』は基本的に精霊を感じ取って是非を見分ける力。


 精霊の視覚化は出来ていないようだが、助言してもらえるor自分で力の大小に気付ける程度には世界に愛された人間と思って良いだろう。


 そういうことなら話は早い。


「いえ、これはただの趣味です。仕事は今年の春から商人見習いをやってます。1人で手売りするのは初めてで緊張してました」


「そ、そっか……」


 あるある。物事を深刻に考えすぎて逆にトラブルの種になるやつ。


 まぁ神殿がヤバい場所でないとわかって安堵したし、彼女が15~16歳で初犯であることもわかったので、結果オーライってことで。


 俺は気を取り直して周囲を漂っている精霊達に命じた。


「精霊達、この壺で一生過ごしたいと思うなら何もするな。過ごしたくないと思うなら粉々にしろ」


「え? わっ!?」


 女性が俺の発した言葉を理解するより早く、彼女の手の中で壺が砂に変わった。


「なな、なんですか、これ!? どうなってるんですか!?」


「今何か感じたか?」


「え? えっと、嫌悪感のようなものなら……」


「そう。それが精霊達の気持ち。勝手に人の名前使ってんじゃねえよって怒りと、この壺に宿りたくないって拒絶だ。そして他の感覚はなかったはず。魔力や精霊術で何かしたわけじゃなくて自然にそうなったってアンタならわかるだろ?」


「…………私、詐欺に加担していたんですね」


 無言で頷いた女性は、手の中にある大量の砂をジッと見つめ、諦めとも納得とも取れる溜息を漏らして自分が間違っていたことを認めた。


 これにて一件落着。めでたしめでたし。


(になるわけないんだよなぁ~)




「んじゃあ警備隊に伝えて組織ごと潰してもらうか。明日から無職になるけど頑張れ」


 ファミールと名乗った女性は当然のように助けを求めてきたが、俺達に出来ることなどそのぐらいしかない。知らなかったとは言え加担したのは事実なのだ。


「ま゛って゛く゛た゛さ゛い゛ぃ~~~!!」


 が、歩き出した直後、ファミールさんがすべての発音に濁点をつけた悲鳴をあげながらしがみ付いてきた。


 ……ゴメン盛った。


 正確には腕を掴んできた。


 そのぐらいの勢いだったんだ。ありがちなシチュエーションだからこう表現した方が伝わりやすいかなって。彼女はちゃんとフィジカルディスタンス守ってたぞ。イブを彼女と思って遠慮したのかも。まぁだとしたら演技ってことになるけど。


「んなこと言われてもどうしようもないだろ。大丈夫だって。自首したら罪は軽減される。いくらでもやり直せるって」


「恨まれたらどうするんですか!? それに私の同僚達はどうなるんですか!? 手売りだから名簿を控えているわけでもないんです! 弁償も出来ません!」


「無知は罪だ。加担してたのが悪い。とにかく俺達にはどうすることも出来ない。自分のことぐらい自分で何とかしろ」


「そんなことはありません! 私の勘が御2人に頼れと言っています!」


「味を占めんな。てかその勘を頼りに自分で何とかしろ」


「間違えました! 私の勘が御2人も手を貸すべきだと言っています! きっと良いことが起きますよ!」


 その発言自体が詐欺の常套手段なのだが、残念ながら今の俺達に見過ごすという選択肢は存在しなかった。


 だって――。


(明らかに彼女の上司っぽい人が凄い形相で駆け寄って来てるし)


 ここからどうやればラヴに持って行けるかは知らないが、彼女の勘が正しければ何とかなるはずだ。


 俺は大人しく上司の到着を待った。

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