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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十章 ステーションⅢ

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千二百六十七話 続1000年祭8

「ったく……庶民グッズと高級品の両方渡すならあんなに悩むんじゃねえよ……」


 下町の衣料品店に入ってから、40分。


 望みの品を手に入れてルンルン気分(死語)で去って行く優柔不断男の背中を睨みながら、俺は悪態をついた。


 言わなくてもわかるだろうが店内にいた時間の大半がワンの待ち時間だ。


 アドバイスし、店内の改善案を従業員交えて話し合ってもなお時間を持て余したので、イブを2つ隣にある下着専門店に放り込んで彼女のセンスで好きに買い物させてようやく決まるぐらい、ヤツのプレゼント選びは長考となった。


 極めつけは退店時。


『いや~、マジで助かったわ。サンキュー。これとは別にドレスを用意してるんだけど、やっぱり流行には乗っておきたかったからな』


 そんな言葉を残して去って行こうとするワンのふくらはぎに回し蹴りを放った俺は悪くないと思う。オマケならオマケと最初に言っとけ。


 聞けば普段から優柔不断で、レストランの注文はいつも最後になるとか言うし、もう二度とコイツの買い物には付き合わないと心に決めたね。


「あのくらい時間を掛けるのが普通じゃないの?」


 ワンを一切責めることなく佇んでいたイブが首を傾げる。


 有意義な時間を過ごせたからだと思っていたが、どうやら最初から覚悟した上でのことだったらしい。


「……それ誰情報?」


「お城で働いてるメイドさん達」


 女性ならでは、財布の中身と相談する人ならではの買い物の仕方があるので、反応に困る。


 イブが自分で買い物することは滅多にないと公言している理由は、もしかしたらその辺りが原因なのかもしれない。


 慣れている人でそんなに掛かるなら自分には無理だとか思っていそう。


 まぁ容姿に対して無頓着で、何もせずとも自分に似合う品々がもらえる立場の人間からしたら、自分で選ぶという選択肢が存在しなくてもおかしくはないが――。


「人によっては有りだけど今回はどうかと思うな」


 彼女の将来および自分の主張を貫き通すためにも今回は否定させていただこう。


「たしかに俺達は贈る相手が目の前にいたから是非が一発でわかった。外してもまったく問題ない。お互いがどういう人間か理解してるから鑑定士も真っ青の眼力で良品を選んで、その中から相手に着てもらいたい衣類を提示して、着心地に問題なければ即購入っていう一部の層から怒られそうな行動を取った」


 その間、およそ20分。


 俺2着、イブ4着、計6着の衣類をその場で、しかも試着や雑談を交えつつ選んだ時間としては中々の速度だろう。


 店員に話し掛けるとリスト一覧がズラッと並ぶゲームよりは流石に遅いが、店内を歩いて各棚から気に入った見た目や性能の商品を選ぶゲームよりは早いと思う。


「対してワンは伸るか反るかの一発勝負。しかも物を大切にすると言うだけあって金持ちにありがちな『ここからここまで全部頂戴』からの『ぜ~んぶ貴方にあげる』はせず、1点勝負。慎重になるのも当然だし、さして広くもない店内を何周もするのも仕方がないことだ。

 ただ流石にちょっと悩み過ぎ。最後なんて、少し高級感の漂う黄色いバラの髪留めか、量産型のプラスチックの名前もわからない花の髪留めか選ぶのに5分も掛けてたからな。

 それでいて本命のプレゼントは別に用意してるとか、実はオマケでしたとかふざけんなって話よ。俺とイブのやるべきことも、やりたい作業も、周りの連中がやってもらいたいと思ってることも、全部わかった上でそれだからな」


「平気。楽しかったから」


 ま、結局のところそれに尽きるんだけどさ。


 良かったな、ワン。


 ただ次はないぞ。



「初めての割にやけに馴染んでたけど、こっそりメイドさんとシミュレーションでもしてたのか? お兄さん普通に買い物出来ることに驚いちゃったよ」


 お互いに頑張ろう……もとい頑張ってこっちに良い影響を与えてくれという他力本願を胸に別れ、下町をうろつき始めた俺達の会話は自然と店内でのことに。


 まず気になったのは、世間慣れしていない王女様ではあり得ないほど普通だったこと。


 あの立ち振る舞いを見て彼女が王女だと気付く者は少ないだろう。


 金を払わず商品を持ち出す、従業員が脱がしてくれるのを待っているなどの超ド級のポンコツはないにしろ、従業員がレジを離れていたら戸惑ったり試着した服をどうしたら良いか悩んだりサイズがわからずあたふたするぐらいのポンコツには期待していた。


 しかし、頼れる相手が近くに居た衣料品店はもちろん、下着店でも1人で難なくこなしてしまった……と思う。チラッと様子を行った時はトラブってなかった。


「クラスメイトやメイドさんから話だけは聞いたことがあったし、ロア商店には何度も行ってるから。サイズは体調管理の一環で定期的に測ってる」


「なるほどね」


 ホームセンターを雑貨店と呼んで良いのかは戦争になりそうなのでやめておくが、衣類および下着を販売している店であることはたしか。売場を通り掛かった時に雰囲気は掴んでいたらしい。


 あと俺が思っていた以上にまともな学生生活を送っていた。ニコ達のお陰だな。ワンとスーリ、ニコとイブ、同性の2人組最強。


 どっちかが休んだ時は地獄と化すがな! 先生と組むか、さして仲良くもない連中の輪に入れられて気まずい時間を過ごすことになるがな!


「でも嬉しい」


「ん? 何が?」


 淡々と説明していたイブが突然喜びのオーラを放ち始めた。


「珍しくルーク君に一般常識で褒められた」


「あ~、それはしゃーない。イブは世間を知らな過ぎる。そして興味が無さ過ぎる。こんな機会滅多にないからその分触れたくなったんだよ」


 捨て猫に優しくしてる不良みたいなもんだな。元が低すぎて普通のことをしているだけでも凄いと言われてるだけ。というか褒めてすらない。なんでそんなことが出来るんだと聞いているだけ。貶しているまである。


 本人は褒め言葉として受け取ってるから言わないけど。


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、イブは探るような視線を向け、


「突然店員さんに話し掛けられてビクッてなったけどそれでも馴染めてた? その後の受け答えも上手く出来なかった」


「あれは大多数の人間が苦手とするもんだ。逃げ出さないだけで十分過ぎる」


 それが嫌で店に入れない客も少なくない。好きに選ばせろ。ゆっくりさせてくれ。いっそ客から声を掛けるまでは絶対接客しない店を作ってもらいたい。


 ――って、それはそれで凝視されたり忙しそうにしてたら声掛けられなかったりで、別の不満が出てくるだけなんだろうけどさ。


 ま、全部売上のための努力ですわ。



「にしても驚いたよ。イブがこんなに服のセンスがある人間だったとは思わなかった。しかも男女両方」


 俺は抱えた紙袋の中身を思い出して感心した。


 購入したものはもちろん、候補にあがった品々も、類似品を持っていなかったら間違いなく購入していたような商品だった。イブが買った4着も、半分は俺が選んだ品だが、もう半分は彼女が自分で選んだ品だ。


 面倒or必要がないからやらないだけで、やろうと思えば出来るらしい。


 王族教育の一環というわけでもないだろう。コーディネートや流行りに関する教育があったとしてもイブは無視する。彼女はそういう子だ。


 世間の若人は雑誌やら会話やら情報を集めて、流行りや自分に似合う品を見つけようと必死だというのに、生まれ持った容姿とセンスでアッサリ成し遂げるイブさんマジパねえっす。


「それ、皆から言われる。私はふぁっしょんりーだーになる才能があるって。流行の最先端になれる女だって」


「……それって本当に褒められてるのか? 流行りって奇妙と紙一重なものだぞ。みんなが真似し始めたら『流行り』で、そうじゃなかったら『変』になるんだぞ」


 と言いたかったが、彼女を王女らしく仕立て上げようとした大人達が何とか捻り出した策かもしれないので、黙っておくことにした。


 褒められて嫌な気持ちになる人間は少ない。


 それが世間で受ければなおのことだ。


 流行りとは大抵がメディアか権力者の方針によるもの。


 王族に近い貴族達がこぞって身につけるようになれば他の貴族達も真似し、国の中心で流行れば他の地域でも真似する者が現れ、数が出ればコスト削減したり劣化品を作るようになって庶民も手に入れられるようになる。


 自分の感性より大多数の感性。


 そういった人間社会の基本理念を用いた作戦かもしれない。


「私、それを言われる度に『なんで自分の好きなようにしないんだろう』って思ってた。周りの意見に従う必要なんてないのに。それを先導したり強要するようなことはしたくないからずっと断ってた」


 まぁ彼女には逆効果だったみたいですけどね。ドンマイ。


 何にしても今重要なのは、イブのセンスが俺に合っていたという事実。変だろうが凄かろうが彼女自身と俺が気に入っていればそれで良い。


「てか思っただけ? 言ったりはしてないの? 断る時にその理由伝えた?」


「ちゃんと言った」


「なんて?」


「他の人はどうでも良い。自分のことだけしてたい」


 ……もしかして、この子、すれ違いや勘違いのせいでこんな引きこもり人生を送ってたりしない?


 いやまぁ自分で望んでないとここまではならないだろうけどさ。

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