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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
七章 商店街編
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閑話 トリプルS

 薄暗い密室で3人の女性が会議をしていた。


 とても、とても重要な会議だ。


「報告は以上です~。確実に悪化の一途を辿っていますね~」


 白いフードを被った正体不明な報告係が、残る2人に調査結果を語り、最後に「一刻も早い改善を」と言って締め括る。


 そんな報告を受けた2人は、予想以上に侵攻されている事に危機感と焦りを感じて愕然とした。


「ま、まさか・・・・それ、ほど・・・・だなんて。

 まだ、まだ5歳なのよ!? これじゃああの子の将来はどうなるって言うの!?」


 そう言って泣き出したのは息子を大切に思う母親。


 彼女はこの3人の中で最も調査対象の少年を心配し、白フードからの報告を一言一句逃すことなく真剣に聞いていた人物だった。


 そして聞いた話から数々の可能性を導き出したが、どの方向から考えても最悪の結末しか見えなかったのだ。


「思えば・・・・幼い頃から予兆はありました、ね。

 あの時、私がなんとかしていれば・・・・・・こんな事には!」


 生まれた時から一緒にいた犬耳メイドは「自分の責任だ」と言って後悔している。


 改善するタイミングなどいくらでもあったのだ。しかし誰もここまで悪化するとは思いもしなかった、誰もがいずれ治ると楽観視していた。


 そんな中で自責の念にかられているメイドを誰が責められるだろう。


「本当にどうすることも出来ないの・・・・?」


 自分と同じく泣き崩れる彼女を慰めつつ、母親はすがる思いで白フードに何度も確認して最終結論を待つ。



「はい・・・・」


 そんな白フードの女性は何度目かになる同じ返答をし、結論を述べた。




「ルークさんは・・・・ルークさんは間違いなく獣人萌えの『ケモナー』ですー!

 それも重症です~。もう人としてアウトな領域に居ます~」




 密室に集まっていたのは、


『情報収集』のユキ。

『依頼主』のエリーナ。

『被害者』のエル。


 以上の3名。


「うぅ・・・・こんな状態でルークを学校に入れたら、一体どうなってしまうのよ!」


 ヨシュアに限らず学校には多種多様な人々が集まる。


 その中には獣人の女の子もたくさん居るし、ルークがさらなる興奮を覚える要素を持った人だって居るかもしれない。


 エリーナは母親として息子の将来が不安で仕方なかった。



「昔から私の服が無くなる事が度々あったんです・・・・お世話になっているオルブライトの人達を疑いたくなかったですし、捨てる予定だったので気にしなかったんですが、まさかルーク様が犯人だったなんて」


「エ、エル。それは本当にルークなの?

 アランやマリクが自らの劣情を解消するためにゲスな行為に及んだって可能性だって・・・・」


 それが事実ならエリーナの鉄拳制裁が待っているが、エルは黙って首を横に振って否定する。


 どうやら犯人はルークだと断定しているようだ。


「いいえ、エリーナ様。先日の視察で服のリサイクルの話を聞いて確信しました。

 無くなっていたのは捨てる寸前のボロボロな服。しかもスカートやワンピース、耳あて等の獣人を感じさせる物ばかりだったんです! 一緒にあった下着類には一切手を付けていませんでした」


 被害にあった当時の事を思い出しつつ切実に語り始めたエル。


「これは異性としてではなく、女性の獣人が身に付けてヨレヨレになった尻尾用の穴や、モフモフな耳が常に当たっていて残り香の強いイヤーマフラーなどを狙った犯行と言う事です~」


 ユキやフィーネの監視の目を掻い潜って、エルの自室や洗濯場から衣類を盗むなど不可能。つまり犯人はオルブライト家の人間。


「・・・・間違いないわね。ルークよ・・・・ルークしか居ないじゃないっ!!」


 窃盗の犯人が息子だと知り、その動機を察して号泣しだすエリーナ。


「赤ん坊の頃からルーク様はいつでも私の尻尾に抱き着いていました。隙あらば、みみみ、耳まで触ろうと!」


 獣人の感覚では耳を触られるのは、胸を触られる事と同意義。しかもルークは本当の胸ではなく犬耳を狙っていた。


 これが胸ならば「母性を求めて」と言う説明がつくのだが、いくら赤ん坊でも母性や父性に無関係な獣耳と言うのは確実に変態行為である。


「それは私も知ってるわ・・・・あの子、エルと一緒に居る時は大体尻尾の近くに居たものね。てっきり感触が気に入ってるだけかと思ってたのに」


 子供が珍しい感触を好むことはよくあるが、ルークはそこに性的興奮を見出していたのだ。



「ウォシュレット作りで色々と情報を提供したんですけど、尻尾の位置や座ったときの動き等は実際に見せろと言われました。

 私が断ると、非常に悲しそうな表情をしながら何度も『本当にダメ?』と迫られましたね。捨てられた子犬を思い出して罪悪感で一杯になりました」


「・・・・・・ごめんなさい」


 息子の変態っぷりに母親のエリーナが代わりに謝罪する。




 では数々の変態行為に及んでいるルークは一体誰に似たのか?



 少なくともエリーナの知る限り、オルブライト家や自分の実家にここまでの変態は居ない。居ないと思いたかった。


 しかし様々な調査を行った結果『ルークは父親に似ている』と言う事が判明。


「まさかアランが『おっぱいスキー』だったなんて・・・・ビックリしたわよ」


 エルやエリザベス等の親しい女性達のみだが、恥を忍んで夜の営みについて詳しく質問してきたエリーナ。ユキを通じてロア商会の女性陣にも情報提供してもらった。


 すると男女の性的な行為において、アランは通常よりも胸に関する割合が圧倒的に高い事がわかったのだ。


「ちなみにオルブライト家の皆さんのフェチは、アリシアさん『腹筋』つまりお腹、ルークさん『ケモナー』つまり頭と尻尾、ならレオさんは『お尻』か『足』ですね~」


 アランの血を受け継いでいるなら間違いないだろう、と3人が相談を始める。


 が、すぐに結論は出た。


「いえ、昔マリクが『女は尻』って自慢気に言ってたからレオは『足』ね。

 もちろんマリクはその後ぶっ飛ばしたけど。なんで私にそんな話をするのよ。好みのお尻を持った女性を一緒に探せと?」


 おそらく酒の入った勢いか、異性として意識していないので出た話なのだろうが、その手の話題に奥手なエリーナを相手に話したマリクが悪い。自業自得である。


 しかしマリクが『尻』だと言うなら、レオに残っているのは1ヶ所だけ。


「「間違いないですね~」」


 何故か3人が『長男のレオは足フェチ』という認識で納得した。




ガチャ。

「エリーナ居る~? 明後日の会議なんだけど・・・・な、何かな?」


 突然の来訪者『おっぱいスキー』ことアランは3人の女性からジーっと見られてたじろぐ。


(今まで下ネタ話なんてしなかったから知らなかったけど、この胸好きの変態!)


(アラン様、あんな優しい顔しておっぱいスキーさんだったなんて。エリーナ様の大きなお胸で●●●や●●●●を、挙句●●なんて事を!)


(おっぱーい、おっぱーい、おっぱーいぱーい)


 3人は、いや2人が「所詮男は性欲の塊だ」とアランの評価を大幅に下方修正する。


 その点ユキは伊達に長生きしていないので、耐久力が違うらしく普段通りだった。



「「・・・・・・」」


「エリーナとエルは、なんでゴミを見るような目で僕の事を見てるの? 何かした?」


 知らぬが仏である。




「と、ところでユキはなんで室内でフード被ってるんだい?」


 唯一冷酷な目で自分を見ないユキに助けを求めて話題を振るアラン。


 一刻も早くこの空気を変えたかったらしい。


「これですか~? 『諜報員』の変装ですよ~。折角フィーネさんに買ってもらったんで、被ってみました~」


 視察の最後にあった疎外感から、結局あの後ロア商店でフード付きマントを買ってもらったユキ。


 彼女の脳内イメージではフードを目深に被った正体不明の人物らしい。


 変態男への脳内非難はさておき、ユキの格好は興味のある話題だったらしく女性2人がそれぞれに感想を言い出した。


「それ余計目立つわよ?」

「ですね。私はてっきり新しい服を自慢してるんだと思ってました」


 似合っているが諜報員ではない、と言う味方から裏切り発生。


「え~。エリーナさんが『内密に』って言うから正体がバレない様に顔を隠したんですよ~」


 どうやらこの格好でロア商会の面々に聞き込みをしたらしく、一応ユキなりに諜報活動を頑張ってはいるようだ。


 姿は見えなくてもこんな奇行をするのはユキぐらいだと思った従業員は普通に接してくれたのだろう。


 しかしそれによって「自分の変装は完璧だ」と彼女は勘違いしてしまった。


「内密? 何をやってたんだい?」


「まぁ、後で話し合いましょう。

 じっくり、ゆっくり、時間をかけて・・・・ね?」


「ははは、は、はいぃぃぃーーっ!」


 自分が何も知らないのを良い事に好き放題やった夫への恨みが殺意となって放たれ、本能的な恐怖心から震え出すアラン。



 その夜オルブライト夫妻の寝室から悲鳴が木霊したが、ユキによって防音されていたので誰も助けには来なかった。




 次の日、晴れ晴れした表情のエリーナは昨日と同じくメンバーを招集して、声高らかに宣言する。


「ではこれより『トリプルS』を決行します!」


「「おー!」」


 S『性癖を』

 S『修正』

 S『作戦』


 作戦名『トリプルS』開始。



 すでに1人の男性の性癖を修正、いや粛清したエリーナを先頭に、一行はまず修正すべき対象への接近を試みる。


「あぁ~。ヒカリの耳は今日も柔らかいな~。プニプニのフワフワだな~。シャンプー作って本当に良かった」


「も~、くすぐったい~」


「「「・・・・・・」」」


 エリーナの心など知る由もないルークは今日もケモナー街道まっしぐらだった。



 しかしいつまでもそんな息子の変態行動を黙って見ている訳にもいかないエリーナが話しかける。


「ルーク、大切な話があるの。そうね・・・・将来についての話かしら」


 まず「マリクと訓練してきなさい」と言ってヒカリを部屋から追い出し、次にエルの盗難事件について犯人を言及する。


「・・・・な、何の事かわからないな。俺がやったって証拠でもあるのか?」


 当然身の潔白を主張するルークは、若干の動揺を見せながらも弁解。


「そう、白を切るのね。ユキ!」


「フッフッフ~。ルークさん、上手く隠したつもりでしょうが、ネタは上がってるんですよ~。

 転移魔術に必要なのは『座標軸』と『自己形成』、そして『微精霊の操作』なんです~」


 情報収集係に任命されたユキは自信満々に転移の話を始めた。


「そ、それがなんだ?」


 ユキ以外使えない転移魔術について語られてもどうすることも出来ず、黙って話を聞くしかないルーク。


「精霊の私なら世界中に存在する微精霊とお話する事が可能。つまりルークさんのお宝だって一瞬で見つけれるのですよーっ!」


 そして今すぐ証拠を突き付けてやると言うユキが転移魔術を発動しようとした時、ルークが動いた。



「・・・・『たこ焼き』と言う料理を知ってるか? マヨネーズを使ったお好み焼きに似た料理だ」



「マヨ?」


 優秀な捜査官が一瞬でマヨラー精霊に戻ってしまった。


「いけないっ! ユキ! 耳を貸してはダメよ!!」

「ユキ、正気に戻ってー!」


 トリプルSのメンバーが大声で呼び掛けるが、それよりもルークの小さな囁きの方がマヨラーの耳には入ってしまうのか、先ほどから2人を無視してマヨマヨ言っている。


「お好み焼きは色々な具材を入れる事で完成するが、たこ焼きに使う具材は少ない。何故かわかるか? 他が立ち入る隙など無いほど完成した料理だからだ」


「ユキ、耳を塞ぐのよ! いえ、私が!」


 マヨラーを味方に引き込もうとするルークを妨害しようとして、エリーナは自らの手でユキの耳を塞いで誘惑を聞こえなくする。


 聞こえなければルークがどんな話術で誘惑をしても無駄。その事に安心するエリーナにルークが問いかけてきた。


「なら母さんは代わりのマヨネーズ料理が出せるって言うのか?

 俺はいくらでも出せるぞ。ツナマヨ、かつ丼、エビマヨ、炒飯・・・・さぁ、母さんは?」


「くっ・・・・!」


 貴族としては希少な存在、料理が作れるエリーナだがマヨネーズに合う料理はエルがすでに作れるだけ作っていたのでネタ切れだった。今から考えても完成する料理がルークの作る料理に勝てるとは思えない。


 その事実を突き付けられたエリーナは何も口出しできなくなる。


 そしてユキは彼女の手を振りほどき、ルークの話を聞き始めてしまう。


「マヨマヨ~」


「そうだ。マヨネーズだ。

 カリッカリの衣で包まれた中にはフワフワした食感の生地が詰まっていて、ジューシーなタコのエキスが噛むたびに溢れ出てくるんだ。

 ソースはお好み焼きと同じだが、今ならユキのためにマヨネーズに合わせた特製ソースを作ってやろう」


「・・・・マ、マヨ・・・・・・マ、ママママ、マヨ」


 ルークからの情報だけでどんな料理かを想像したユキが喜びと感動で震え始めた。



「でも残念だな。ユキはこんなに美味しい、美味しいたこ焼きを食べたくないと言う。仕方ないから俺1人で食べる事にするよ」


「ユキ! 聞いてはダメ! あれは悪魔の囁きよ!!」


 しかし、そんなエリーナの叫びは最後までユキに届くことは無かった。



「私の協力はここまでのようですね。もう何も口出しする事はありません」


 ユキ陥落。



「ユキ! せめてルークの犯罪を暴いてからにして! 証拠品を転移するだけで良いの!! その後でたこ焼きを食べれば良いじゃない!」


フルフルフル。

「NO」


 もしもルークの機嫌を損ねて、たこ焼きを食べられなくなってしまっては大問題だ。


 断固拒否すると言う姿勢を崩さないユキは、エリーナの要求に対してただただ首を横に振るだけだった。


「ユキぃいぃいぃぃーーっ!!」


 これで物的証拠を突き付けることが出来なくなり、ルークの盗難容疑は無罪放免となってしまった。



 どうなるエリーナ!


 息子の明日はどっちだ!?

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