千二百六十五話 続1000年祭6
二十五話『フィーネ泊まる』を修正(追加)しました。
ガウェインさん達はラヴルートに進ませるためだけに俺を城に招いたらしく、受け入れた途端、もう用済みとばかりに城から追い出された。
直接手を下されたわけではない。
まだ話したいことが残っているのではないかと次なるトークテーマを待っていたら、全員に「は? なんで祭りに行かねえの? イチャつけっつったろ」と責めるような視線を向けられ、若干の言い訳と共に玉座の間を出るとモンパとディアンが扉の前に立ちふさがり、後戻りさせない状態のまま城を出るまでずっとついてきただけ。
もちろん寄り道も休憩も立ち話も禁止。
横道に逸れようとすれば瞬間移動と錯覚するレベルの速度で封鎖し、町の様子や庭の景色について触れたら無言で距離を詰めて急かし、顔見知りのメイドさんに話し掛けたら突然挙動不審になって逃げ出す始末。彼等が圧を掛けたとしか思えない。
最短ルート以外は使わせない強い意志を感じる。こいつ等の目的は案内ではなく連行なのではないかと思わずにはいられない。
さらに言うならそれは王城を後にしてからも続いている。
「「…………」」
筋骨隆々の親衛隊2人が門の両脇に立ち、周りの人々をガン無視して俺にだけ注目するという、王城に入る前とまったく同じ状況だ。
(ま、別に良いんだけどさ)
言い方は悪いが仕事をサボるつもりはないので、俺は早々に気持ちを切り替えてイブ達と合流するために動き出した。
俺(とモンパ達)以外は城内に残ったため、この広大かつ凄まじい人混みの中からイブ達を自力で見つけ出さなければならない。
こちらの用事がいつ終わるかもわからなかったので待ち合わせもしていない。
不可能ではないが中々難しい。
「――とでも言うと思ったか、バカめ! 俺達には文明の利器があるんだよ! 恋愛モノからドキドキが失われようが知ったことか! ケータイでチョチョイのチョイよ!」
「「…………」」
ノーリアクションの門番達を他所に、俺は懐から取り出したケータイを操作し、目的の人物に掛けた。
プルル……プルル……。
普段ならそんな発信音が聞こえてくるはずだが、
『ざ~んね~んで~した~。回線が混みあっているので使えませ~ん』
耳元に近付けた超便利魔道具から聞こえてきたのは、大多数の人間がブチギレるであろう非常に挑発的な機械音。
使いたい時に使えないだけでも不満度MAXなのに、その上で煽られたら誰だって天元突破する。人工密度が密度なので言わんとすることは理解出来るが、もしこれを採用しているケータイ会社があるのだとしたら、今すぐ変えた方が良い。
まぁ俺のケータイは自作で、回線も独自のもので、誰かが設定&介入しなければこんなことにはならないのでスルー安定。犯人の目星はついている。
『あれ? 気付いてなかったんですか? お2人のケータイに宿っていた精霊はとっくの昔に契約切れて居なくなってますよ。たま~に戻ってくることはありますけど基本的に回線は一般の方々と同じアンテナ経由です』
「マジでか!?」
『いつまでも、あると思うな、親の庇護と周りの信用と当たり前』
最後のなら良いけど他2つだったら嫌だなぁ。まぁたまにでも戻ってくるってことは、興味を失われたわけでも、信用を失ったわけでもないとは思うけど。
「てか当然のように会話成立させんな」
『何を言っているのかわかりませんね。これはすべて収録された音声。むしろ貴方の方が合わせてきているんですよ。やめてください』
この人ならこういう会話するだろうって事前に録音した音声流すとか、コイツはアリバイ作りでもしたいのか。証拠にならないレベルの出来だと推理や物語が破綻するぞ。違和感を抱かせろ。隠滅もするな。突きつけられたら動揺しろ。
『とにかく私達に責任はありません。限度を超えるほど使う方が悪いんです。電池切れ、逃げる途中で落とした、ぶつけて壊した時のように自分の足で探してください』
これは通話を切らなかった俺が悪い。
そもそも俺も同じことを考えていた。
アナログ世代を舐めるなよ。『取り敢えず行ってみる』を当たり前にやっていたんだ。目的の人物が不在だったとしても1人で遊ぶ、あるいは同じことを繰り返す、根気強さと発想力を持つ世代には余裕のよっちゃんよ。
これは時間の浪費ではない。
自由気ままに生きているのだ。
『わかってるならさっさと切ってください。貴方みたいな人が居るから回線が混むんです。大体、目の前に居るのに通話したり、なんてことのない確認のために通話する世の中ってどうなんですか。監視社会って息苦しいと思いませんか。ネット社会のダメなところってそういう――』
ピッ――。
俺は延々垂れ流される自動音声(笑)を無視し、ケータイの通話終了ボタンを押し、イブが居るであろうひと気の少ない魔道具の発表会の会場へと向かった。
イブが王都中央で開催される大規模イベントを目的とした第三班に所属した理由は、彼女はヒカリやニーナと違い、『大規模』ではなく『そこで開催されるイベント』に興味を持つ人間だから。
イベントホールの大半は貴族が自分達の力を示すために作る。貸出による信用獲得はもちろん、社交パーティや社員研修などで利用出来るのだから当然だろう。
そして利便性と土地持ちアピールを両立するためには王都中央が一番。
つまりイブは仕方なく王都中央の混雑に紛れたのだ。さらに言えば最初から単独行動するつもりで第三班になったのだ。
地下鉄ほど世間の注目を集めているものならまだしも、方程式や術式の発表および議論が中心となるマニアックなイベントに人が集まるわけもなく盛り上がりは雲泥の差。
おそらくヒカリ達とは別行動しているはず。
(まぁだからって馬鹿正直に大通りを移動するわけないけどな……っと、ほ~ら、やっぱり)
推測に推測を重ねてひと気の少ない裏路地を移動していると、案の定、イブの姿を発見した。
何に変装しているのかわからなかったので注意深く見てまわっていたのだが、まさかの帽子オンリー。しかも被っているだけ。セミロングの髪型丸わかり。
「ルーク君。さっきぶり」
逆にバレにくいのかもしれないと無理矢理納得していると、こちらに気付いたイブがボケのような真面目なような挨拶をかましてきた。
「おう……って何してんだ?」
何かしらボケ返そうと思ったのだが、それよりも気になることがあったので、結果的につまらない対応になってしまった。
まず1つは彼女が1人ではなかったこと。
ワンと一緒だ。
まぁ仲良しトリオで行動すると言っていたが、第三班であることに変わりはなく、イブとも仲が良いので、買い物に手間取っているニコ達を待っているところなのだろうと考察出来るのでこれはまだセーフ。
問題は立ち寄っているor立ち寄ろうとしている店。
下着店だ。それも女性物専用の。
「買うのか? それとも贈るのか?」
「なんで分けた!? 俺が着用するとでも言いたいのか!? というか違うからな! 移動中だったんだ! 偶然ここで立ち止まっただけなんだ!」
「あ~、あるある。ラブホ街は近道。留守中の異性の住居侵入は来客or工事の人。無断外泊は旧友との再会。エログッズは買い間違い。よくあるよな」
「やーめーろーよー! マジなやつ混ぜてくんなよー! 例えそうでなくても勘違いされんだろ!」
「これ以上勘違いされたくなければさっさと弁明した方が身のためだぞ。本人の前で言うのはなんだけど、イブともっとイチャつけって怒られたばかりでな。恋のテンプレ『ライバルに嫉妬』からの『奪い合い』も辞さない覚悟だ。てかマジでデストロイする3秒前だ」
「ニコに告白するためのアイテムを探してました!!」
「あ゛? 勝手にラヴ始めてんじゃねえよ、この野郎。俺達の影が薄くなるだろうが。空気読め」
「理不尽ッ! あまりにも理不尽!!」




