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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十章 ステーションⅢ

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千二百六十二話 続1000年祭3

 世界一大きな建築物は何か尋ねられて即答出来る者は少ない。


 しかし、渡り廊下や地下で繋がっていたり離れだったり、敷地にあるすべての施設を1つの建築物として捉えて良いのなら、多くの者が王城と答えるだろう。


 隠し通路で繋がっているかもしれないからと憶測で王都全域や近隣の山々まで含めることは流石にないが、城単体で見てもそこそこの規模を誇っており、演習場や軍事施設、小さな公園などを包容する国の象徴を真っ先に思い浮かべるはずだ。


 詳細は公にはされていないが地下施設が存在していることも周知の事実。


 国宝の保管、兵器の研究、未知の生物との交流場、邪魔者の処理施設などなど、それっぽいものから眉唾を通り越して不敬と呼べるものまで様々な噂の原因となっているが、防衛上、城や敷地に関する情報は銀行の金庫並みに重要なものであり、潔白を証明するためだけに公表する国など存在しない。


 ――という建前で裏で好き放題やっていたりするのだが、本当に何もなかったとしても教えるわけにはいかないので、民衆の御想像にお任せするしかない。


 そんな怪しくも重要な巨大建築物を守る、超巨大な城壁の前で、俺は門番達と対峙していた。



 王城に入る際には身体&荷物チェックを受けなければならない。


 良からぬことを企む連中によって乗り物に細工されている可能性があるので、来賓や同行者ですら失礼のない程度に調べるのだ。どちらでもない俺達が素通りできるわけがない。


 しかも、竜車という危険物の持ち込みに便利なものに加え、人生初となる王城に舞い上がる一般人リンとノルンが同行している。


 周囲には、羨望だか同情だか暇潰しだか、よくわからない感情の籠った視線を向けてくる民衆。


 検査はかつてないほど長々とおこなわれていた。


 検査魔道具は日々進歩しているが、同時に隠すための魔道具も日々進歩しているため、ある・ない、やった・やらない論争と同じぐらい堂々巡りで所要時間は変わらないのだ。


 気が付いたら順番を最後にされていた俺の待ち時間は当然長くなる。


「なんだ? やんのか? おォ?」


 巨大門の左右で直立不動の門番達が知り合いだったこともあり、俺も最初はフレンドリーに話し掛けたのだが、モンパもディアンもこれをガン無視。


 ただし俺の一挙手一投足には注目していた。


 来客全員にこの対応をしていて、残る不穏分子が俺だけというなら納得もするが、2人とも一同のチェックをおこなう前から俺に、俺だけに注目している。


 何なら入城チェックを担当した彼等の上司のアシュリーも、魔道具と自身の勘を併用して検査する合間合間にこちらをチラチラ見ていた。


 まるで俺さえ警戒しておけば大丈夫と言わんばかりだ。


 自然と喧嘩腰になる。


「そもそも王家直属の親衛隊がなんでこんなとこで門番やってんだよ? どうせ俺の妨害するつもりなんだろ? だったら面倒なことやってないで掛かって来いよ」


「「…………」」


 いくら挑発しても2人とも無反応。


 これまでとは違う空気に戸惑いを隠せない。やりづらい。ヤンチャだった親戚の子供と数年ぶりにプロレスごっこやろうと思ったら「あ、いえ、遠慮しときます。そういうの卒業したんで」と言われた時のようだ。


「では最後の方……どうぞ……」


「いやだからなんでそんなガチっぽい雰囲気なんだよ。レオ兄達の時と態度違い過ぎだろ。周囲の目があるから他人行儀なのは良いとして、明らかに俺の時だけ空気違うじゃん」


 訝しんでいると、ノルンの検査を終えたシェリーからやたら神妙な様子で呼ばれたので、事情聴取しながら歩を進める。


 当然返答はない。


「てかお前等も参加するんかい」


 城門の中間。侵入にも逃走にも向かない閉ざされた空間に足を踏み入れた俺を待っていたのは、前後左右からの圧迫面接。


 最初から検査を担当していたアシュリーはともかく、モンパとディアンは意味がわからない。百歩譲って参加を認めるとしてもひと気が無い時だ。


「ほら、そこ、結構近くまで一般人が来てるぞ。門番ならそっちを警戒しろよ。チェックなんてアシュリー1人で十分だろ。それ用の道具もあるんだからさ」


 言いながら俺は背後の人混みを指差す。


 町中が混雑しているせいか、人々は空きスペースを求めて城壁の周りまで来ている。正確なラインは知らないがおそらく王城の敷地内だ。当然警戒の範囲内。


「我々の仕事は門番ではなく皆さんをお迎えすることです」


「じゃあなんで如何にもな雰囲気出して立ってたんだよ!? 迎えるべき対象と知っていながらチェックした理由は!? そして本当の門番はどこ行った!?」


「「暇潰し」」


 自身の存在意義を平然と否定したモンパに全力で噛みつくも、野郎共は声を揃えてさらに平然と言い放った。


 殴りたいこの真顔。


「ま、まぁまぁ、落ち着いて。貴方達が何するかわからなかったから警戒してたのよ。本当の門番は巻き込まれないように裏に控えさせてるわ」


 そんな彼等をフォローするようにシェリーが介入してくる。


「『貴方達が』じゃないだろ。『俺が』だろ」


「残念ハズレ。モンパとディアンとルーク=オルブライトの『3人が』よ」


「そこまでわかってるならこいつ等を俺に近付けるなよ。化学反応が起きない連中に任せれば良いだろ」


「有事の際に対応出来る人間が彼等だけなのよ」


「ザケんな。何が有事だ。そういうのはユキを対処出来るようになってからにしろ。どうせ不可能から目を逸らして俺を何とかする……てか俺に嫌がらせすることだけ考えてるだろ? 本人達も暇潰しって言ってたし」


「入念にチェックした理由は人目があるからよ。平民も混じってたし、形だけでもやっておかないと示しがつかないでしょ」


「無視すんな」


「ナ、ナンテコトダー。こんな凄い門番がいたら好き勝手出来ないー。仕方がありません。大人しくしていましょう」


 ……フィーネにしておけば良かった。


 俺は、頭を抱えてわざとらしい台詞を吐いた挙句どうだと言わんばかりにチラチラこちらの様子を窺うユキから視線を逸らし、アシュリーの話に乗った。


 仕方ないんだ。じゃないと俺を巻き込んで有事を起こされる。しかもその責任を負わされる。コイツはそういうヤツだ。


 まぁ親衛隊が暇なのは平和な証拠だし、外部へのアピールの必要性も理解してるつもりだし、客人をもてなす人間が必要なのもわかるから良いんだけどさ。



「ならなんでフィーネとユキを秒で終わらせたんだよ。素通りと言っても良いレベルだったぞ」


「検査用の魔道具が反応したから良いのよ。人によって反応速度に差があるみたいだし。私の勘も大丈夫って言ってたし」


 色々察して引き下がると、アシュリーはわかればよろしいという顔をして無言で頷き、さらに話を続けた。


 言い訳クセェ……そして2人が何かやったクセェ……。


「やってねーし。やったっていうヤツがやってるんだし。仮にやってとしてもバレなきゃセーフだし」


「やってるんじゃねえか」


 再びユキのターン。


 不貞腐れながら今日日小学生でもやらないような言い訳を始めた。


 自供とも言う。


「え~? でもザルじゃない門番とか門番じゃないでしょう~?」


「た、たしかに!」


 と思ったらぐうの音も出ない説得だった。


 物音が聞こえたり違和感を感じたらすぐに味方に注意喚起し、1人は出入口を塞ぎもう1人は片っ端から見て回り、戦いになったら普通に強く、変装も言い訳も賄賂も通用しない。


 そんな門番は居てはならない。


 調べるなら形だけ。


 彼等は理想の門番だ。



「おっと、オイラを忘れてもらっちゃ困るぜ」


「お、お前は!?」


 またまたユキのターン。


 口調が変わっただけだが、おそらく語らなかったザル門番あるあるの擬人化なので、取り敢えず乗っておくのが優しさというものだ。主人公に必須のスキルだ。


「へへっ、久しぶりだな。そう。オイラさ。犯人を勘違いする『決めつけ門番』さ」


 非協力的な村人や本職優先で手を貸さない味方とならぶ厄介者のお出ましだ。


 ただイベント進行には必要な存在なので邪険には出来ない。


(ってことは、まさか……)


「あ、貴方アウトです。結果は出てませんけど自分にはわかります」


「ええ。これはダメですね。試すまでもありません。時間の無駄です」


 ユキの合図、そして俺の考えがまとまるのを待っていたかのようなタイミングで、モンパ達が俺を不審者と断定。ここから先は通さないと言わんばかりに立ちふさがった。


 つまるところ喧嘩を売ってきた。


 喋りながら手を動かせば良いのに、会話が終わってから魔道具を起動したからおかしいと思ったんだ。


「上等だ、この野郎! また敗北の悔しさを味あわせてやるよ!」


「犯罪者になる覚悟があるならどうぞ」


「ぐっ……」


 過去の妨害は門番達の気分によるものだった。


 しかし今回は検査魔道具という善悪を客観的に決めるものが存在している。


 その判定(?)に異議を唱えるのは罪以外の何物でもない。


「って別に困らないじゃん。元々王城には行きたくないって言ってたんだからむしろ有難いわ。んじゃ俺はこれで。祭り楽しんで来るわ」


「(ボソッ)負け犬」


「(ボソッ)マジつまんねぇ」


「ハッ、何とでも言え。俺を戦いの土俵にあげなかったのはそっちだ。自分達でリベンジの機会を潰してりゃ世話ねえよ。お前等は一生不戦勝で勝った気になってれば良いよ。じゃあな」


 アッサリ受け入れて去ろうとすると、2人から引き留める代わりの挑発が入るが、そんなものに乗るような俺ではない。


「その先でおこなわれるイベン――」


「さあ、やろうかっ!」


 踵を返すのがあと1秒遅れたら間違いなく気絶ルートに入っていた。しかも時間が無駄に過ぎるだけでイベントは一切進行しない。あって仲間達の有無のCG差分。


 ただの強制イベントじゃねえか。


「いやだからそれ普通に犯罪……勝ったら勝ったで問題だし……」


「リン。ここは他人のフリをしたまま王城に入るのが正解よ」


「そうだね。そのぐらいルークもわかってるだろうから適当に手を抜いて敗北するはずだし、門番達も装置の誤作動だったことにするんじゃないかな。もしくはルークが魔道具に精通した人間であることをアピールして壊されたことにするか」


 ママン、レオ兄、ネタバレやめて。


 本当の決着は人目につかない王城内でつけるから。


 いや本当とか無いけど。たぶんこいつ等とは今後も会うたびに争うけど。


「それは無理です。我々は今月いっぱいで退職しますから」


「嘘だろ!?」


「ええ、嘘です」


 戦いの火蓋は切られた。

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