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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十章 ステーションⅢ

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千二百六十一話 続1000年祭2

 車両基地に残って仕事をしていた貴族組は、旅の楽しみを道中ではなく目的地に見出し、竜車でバビュン。アッという間に俺達に追いついた。


 アレだ。購入する品や売り場のことを事前に調べて一切寄り道せずに帰宅するか、半日使う覚悟でショッピングモール内をあてもなくブラブラするかの違いだ。


 絶対に失敗したくない&効率主義のレオ兄達は前者。


 未知との遭遇を楽しみたい、現物を見てから決めたい、買い物に失敗してもネタになるし全然オッケーな俺達は後者。


 どちらが良いというものではないし、意図せずどちらかになることもあるのでこれ以上触れるつもりはないが、兎にも角にも入場手続きでゴタついているのか今しか味わえない空気を楽しんでいるのかわからない人々を尻目に王都入りした俺達は、予約している宿屋へと向かって……いなかった。



「それじゃあまた後で」


「おう。荷物よろしくな」


 ひっきりなしに馬車や竜車が走る大通りの片隅。


 歩道との境目に停めた竜車から降りようとすると、それより先にレオ兄が別れの挨拶をしてきたので、俺は車内から半身を出した格好で応じた。


 国の中心ともなれば50人泊まれる宿屋は山ほどあるが、前々から開催が決まっていて毎秒キャンセル待ち、宿を取れなかった連中が路上で寝るような状態で、団体様のご利用は言うまでもなく難しい。


 まぁ難しいだけで不可能ではないのでロア商会や王族の力で何とかしたんだが、今回俺達がしているのは社員旅行であり家族旅行であり学生旅行であり仕事であり勉強……端的に言えば『祭りを楽しむための旅行』だ。


 ずっと50人でまとまって動き回るわけにもいかず、ただでさえ難しい団体行動を気を張っていないと10秒に1回他人とぶつかるような混雑の中、友達の友達とかいう微妙な相手とする意味がない。


 よってここからは班別の行動になる。


 まだまだ元気な俺達はフェスティボーにヒアウィゴー。


 長旅の疲れたであろう愛息子の休息に加え、一服したら俺とイブの婚約の件やらステーション計画やら来訪の挨拶やらで王城に出向くというレオ兄達は、一同の荷物を宿に預けるという使命を託されたので一旦お別れ。


 服装も心持ちも所要時間も何もかもが異なるのだから仕方がない。


 アレだ。旅行先で宿屋に到着した直後にひと休憩するかしないかの違いだ。


 ってまんまだな。


 まぁ楽しみ方は人それぞれってことで。


 さらに、お祭りピーポーの中でも目的や方角、メンバーの親密度でさらに細分化される。というか既に分かれている。


 王都強襲の栄えある第一班となるイヨ達とは王都に入った直後に別れた。


 彼女達はあてもなくブラブラする派閥の中でも、どれだけ時間を掛けても隅々まで見る『徹底派』。時間が足りなくて人気スポットに行けず後悔することも多いが、隠れた名店やマイナーなアイテムを発見しやすいというメリットを持つ。


 第二班は、そこからさらに10分ほど移動したところで別れた、中規模イベントと祭りを効率的に楽しむための情報収集、それ等を利用した飲食が目的の『保守派』のサイ達。


 俺達第三班ほど冒険はしないが、第一班ほど徹底もしない、良くも悪くも安定を求めた連中だ。


 そして既にネタバレしたが、大規模イベントや人気スポットなどの最大級を目当てとした俺達第三班『一か八か派』は、王都中央で降りることになっている。


 歴史的なお祭りの雰囲気を堪能出来ると同時に、無理だと思ったら即リタイアしてほどほどに楽しむ方向にシフトするので、己との戦いを求められる派閥だ。


 まぁいつでも方針を切り替えられるという点ではどの派閥も同じなのだが。


 あ、あと、あくまでもそういう方針ってだけで班はさらに細分化されてる……はず。ファイ達学生が少女達と一緒に行動するとは思えないし、酒飲み連中が研究所勤めの陰キャ共と一緒に行動することもおそらくない。



「なに他人事みたいなこと言ってるのさ。ルークは第四班だって言っただろ。僕達と一緒に王城に行くんだよ」


「ノゥ」


 俺はレオ兄の発言を即座に否定し、掴まれた左手をバタバタさせながら車内から出した足に力を込めた。もちろんバレないように。


 あくまでも自然な感じで竜車から降りれば、レオ兄ごと引っ張り出せば、晴れてヒカリ・ニーナ・イブと同じ第三班になれる。


 カップルは絶対別行動するし、夫婦や家族はついて来ないし、逆にフィーネはついて来るから実質ハーレムだ。


 たぶんね。


 ビリーブ自分。


「え? だってこの後ステーションを見学するんだよね? なら打ち合わせしないと」


 王都入りする時に乗り合わせた徒歩組から聞いたのか、レオ兄は不思議そうな顔をしながら仕事の重要性を説いてきた。


「ステーションの件はやるけど今じゃない。ここで王城に行ったら貴族社会の闇を垣間見た挙句、世の中の理不尽で宿屋に戻れなくなるんだ。期間中、王城で暮らす羽目になるんだ。てか宿屋の予約名簿に俺の名前無いんだ」


「そんなわけないでしょ。ちゃんと貴方の分も予約してあるわよ」


 ママン。否定するなら全部否定しろ。いくつかある疑問の中で1つしか答えないのは、他は正解と言っているようなもんだぞ。


 嘘の可能性もある。


 それを確かめるためにも俺はこの軟禁状態を脱し、自らの意志と足で宿屋に赴く必要がある。真偽を確かめた途端に実力行使に出られたら堪らないからな。


「フッフッフ~。流石はルークさん。鈍感系主人公を装って助言に留めている他人の出来事と違って、自分のこととなると察しの良さを隠そうとしませんね~」


「やめろ。やりにくくなるわ」


「大丈夫ですよ~。私なら何を言っても冗談で済ませられますし、例えそれが真実で周りの人が信じても冗談にするだけの力がありますから~」


 そもそも言わなくて良いじゃん、というツッコミは置いといて、俺と双璧を成すトラブルの元凶の登場に、俺の中にあった疑惑が核心に変わった。


「お前がその仕掛けた罠に獲物が掛かりそうになってる時みたいな顔をする時は良くないことが起きるんだ」


「フッフッフ~。これも流石と言っておきましょう。ただ少し違いますね。これは獲物が罠に掛かった後の顔です」


「なん……だと……?」


「ここで同行拒否したらそうなると言ったらどうしますか? 大人しく同行すれば皆さんと宿屋に泊まれると言ったら?」


「――っ!!」


 証拠を突きつけるかのような死刑宣告に、俺は王都前の混雑とは比較にならないほど真剣に戦慄した。


(くっ……この精霊王、シュレディンガーの猫と悪魔の証明を合わせたような地獄の選択を迫ってきやがって……!)


 何が嘘で何が本当かわからない。ただ信じておけば裏切られた時に「嘘ついたな!」と批難することは出来る。


 そう考えた人間はリスクを考えて同行することを選ぶ。


 しかし実はそれが罠。


 何故ならコイツは批難されることを構ってもらっていると感じるハッピーガール。冷たくしたら冷たくしたで氷リスペクトと喜ぶ。敗北を知らない女だ。


 逆に選ばなければ俺が悪者になり、発言の真偽はコイツの気分次第なので、どちらにしろ俺に勝ちはない。


「なら俺は同行しない道を選ぶぜ!! 少なくとも祭りは楽しめるからな!!」


「あっ!」


 俺はレオ兄の手を振り切り、竜車から逃げ出した。


「その先でおこなわれているイベントを見られると困るので~」


「ぐはぁ!?」


 僅かな頭痛と抗いようのない力の奔流。そして言い訳じみた説明。


 俺が意識を取り戻したのは王城に到着する直前のことだった。




「イテテ……お前さぁ、ホントいい加減にしろよ? 俺は1000年祭を楽しむためにここまで来たんだ。皆とも後で合流しようって話してたんだ。王城でどんなイベントが待ってるのか知らないけど、こっちの都合を無視して強制すんじゃねえよ」


 フィーネの背中で意識を取り戻した俺は、痛みはまったくないが殴られたせいで意識を失いましたとアピールするためだけに片手で首を抑えるポーズを取り、犯人を咎めた。


 積んでいた荷物や人数の都合上で使用していたもう1台の竜車、第三班の面々の姿はない。


 つまり最終フェイズに入っている。


 もうおしまいだ。


「安心してください。言ったでしょ。私はオオカミ少年だって。同行拒否したら王城に軟禁されるなんて冗談です。そもそも『~~と言ったら?』と言っただけでそうなるなんて一言も言ってないじゃないですか」


 『言う』のゲシュタルト崩壊が始まりそう。


 まぁすぐに終わるイベントのようで何より。


「というのが冗談だったりして~」


「ぶっ殺すぞ、このアマ」


「結末を知ろうとする方が間違ってますよ! やってみなければわからないのが人生でしょう!? 自分の人生ぐらい自分自身の力で変えてみせなさいよ!!」


 逆ギレされた……しかも正論パンチ付き。



「ところでお前等なんでこっちに来てんだよ? 祭りを楽しむんじゃなかったのか?」


 これ以上の問答は時間の無駄だと話題を切り替えることにした俺は、何故か同行しているリンとノルンに話を振った。


 おそらく彼女達が乗っているせいで俺はフィーネに背負われる羽目になったのだ。乗っていなければ車内で膝枕だったはず。


 まぁそれは良いとして……気になるのは理想の石鹸を作るために勉強がてら研究所で広報をしているリンと、町一番の品揃えと品質を誇る商店の長に見せかけて副店長のサイに支えられて何とかなっているノルンが、王城に赴く理由。


 広報活動なら最近王族や貴族達とベッタリの俺がやれば良いし、流通や商売の話はノルンではなくサイやフィーネがやれば良い。


「え? なんか面白そうだから。王城に入れる機会なんて二度とないかもしれないし」


「アタシ、実はお姫様に憧れてて……一度で良いから煌びやかな空間でTHE王族みたいな人達と会ってみたいなって」


 普通に個人的な理由だった。


 あとどっちも失礼。


「リン、王城は面白い場所じゃない」


「だとしても貴重な経験であることには変わりないよ。このメンツなら何か起きそうだしさ」


 俺とフィーネ、ユキ、レオ兄、父さん、母さん、リン、ノルン。


 う~ん、ノーコメント。


「ノルン、冠やマントを脱いだら威厳ないとか本人達の前では絶対言うなよ」


「言うわけないじゃん。思ってもないし。アタシが見たいのは絵本に出てくるようなマジモンの王族なの。よれよれのパーカーを纏ったイブちゃんは何か違うの」


 お前イブとは結構会ってるだろ、と指摘する前に言われてしまった。


 見た目はともかく威厳や言動が王族っぽいかと言われたらNOだしな。てかちゃん付けしてる時点で対等だしな。何なら見下してるしな。

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