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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十九章 ステーションⅡ

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閑話 ヨシュアよいとこ一度はおいで3

 地上最強の生物ドラゴンに挑むためには、実力や戦意はもちろんのこと、ダメージを与えられる武器とダメージを軽減する防具が必要になる。


 自力ではどうすることも出来ない差を埋められるそれ等は言うまでもなく超高級品……というか手に入るかどうかは一国の王様でも運次第。


 金や権力に物を言わせて鍛冶師や素材を集めたり、奇特な冒険者に譲ってもらってようやくといった代物なので、値段なんてつけられない。


 それを自らの手でおこうのが冒険者という職業だ。


 実力を磨いて敵を倒し、手に入れた素材を装備品に換えて次なる強敵へ。志しや利害が一致した者とパーティを組んでさらに次へ。


 成長する喜び、人助けをする満足感、讃えられる感動、未知との遭遇、一生モノの出会いといった、普通に生きていては絶対に味わえない感覚に魅了された者達が命を賭けて戦うのだ。


 ただいくら過程が楽しくても苦労することに変わりはないので何かの拍子に壊れたら人生を投げ出したくなるし、盗んだヤツは●しても許されるぐらい大切なもの。


 もはや我が子と言っても過言ではない。


 我が子より大事にする人も居る。使うのが楽しすぎて異性に見向きもしない冒険者とか、結婚しても家庭を放り出して旅に出る冒険者は、そうだと思う。


 そして、その『何かの拍子』が高確率で訪れるのが、ドラゴンとの戦闘である。


 通用するかどうかはやってみなければわからず、通用しなかった場合は武器も防具も砕ける。家宝が無くなる。世界の宝が減る。1人の冒険者が不幸になる。


 でも最強とは戦ってみたい。安全に、損害なく、短時間で遊べるアトラクション感覚で、ドラゴンや一流冒険者の凄さを味わいたい。


 そんな一般人の身勝手な願望を叶えた夢のようなイベントに乱入してしまった私は、関係者に謝罪し、誠意を見せ、物理的には損害ゼロで離れることに成功した。



「はぁ……」


「クックックッ……貴様にも理解出来るか、この黒竜の素晴らしさが。遠慮することはない。存分に惚けるが良い。このような機会はそうそうあるものではないのだからな」


 私が精神的疲労からくる溜息を出すと、隣を飛んでいる漆黒をマントを身に纏った14、15歳の少女が何か別のものと勘違いして、ニヤリとした笑みを向けてきた。


 今、私が居るのはヨシュア上空。


 イベント戦闘していたレッドドラゴンやヴァイオレットドラゴンよりさらに格上の、ブラックドラゴンなるドラゴン界の最上位種の背中に跨っている。


 理由は単純。


 害鳥……もといハーピーさんに《メルちゃん》と呼ばれたこの少女が、各種イベントのための魔獣捕縛および送迎を担当していて、新たな犠牲者となったブラックドラゴンを運んでいたところをハーピーさんに呼び止められ、私の話を聞き、ドラゴン乗車体験がてら町まで同行させていただく羽目になったから。


 間違ってない。これは羽目にだ。ヨロ、おk、バビュンだった。断る選択肢がなかった。


 ドラゴンに乗ることが夢だったから途中下車しようとは思わなかったし、少女も痛々しい言動とは裏腹に割と真面目に自分や魔獣のことを説明してくれていて、疲労感に目を瞑れば充実した空の旅だから良いんだけど……。


 あ、ちなみにドラゴンライダーになる夢は諦めた。


 乗ってみたらわかる。これは無理。仲良くなれない。少女が居なかったら秒で食い殺されてる。例え実力で上回っても絶対に使役出来ない。ドラゴンは下等生物に従うぐらいなら死を選ぶプライド高い生き物だ。


(それをアッサリやってのけるこいつ等が異常なのよ。一体どれだけ実力差があったら受け入れるのよ。最強を死よりも恐ろしい目に遭わせるとかロア商会ヤバすぎでしょ)


「ククク……何を言っている。一時の労働で安息が手に入るのだ。さらに魔獣の地位向上と同時に人間達の技術と戦力も知れる。協力しない理由がないではないか」


「だから当たり前のように心を読まないで。対人関係で大切なのは距離感って学校で習わなかったの? 周りの大人から思いやりの精神を教えてもらわなかったの?」


 ハーピーと言い、この少女と言い、何故隙あらば相手の心を読んでくるのだろう。


 ロア商会に常識人は居ないの? 力を持った者に正しさを教えられる人間は居ないの? というか誰かに教わるようなものじゃないでしょ。相手の心を読むことがどれだけ危険か理解出来ないのかしら?


 世界中の人が相手の心を読めるようになったら人類が滅びると思うのは私だけじゃないはず。


 じゃあ人間社会が出来てるかと言われたら返答に困るけど、自分達のことは棚に上げて言わせてもらうわ。


「ふっ、我等は魔の者。学び舎に行くわけにはいかぬ。そして周りの大人は率先して他者の心を読み、弄び、面白おかしい人生を送っている。我等はそれを羨ましく思いながら育った。他者に気を遣ってばかりで己の人生を楽しめないのでは本末転倒だからな」


 読まれることを覚悟した上で辛辣めに指摘すると、少女は特に気にした様子もなくニヒルな笑みを浮かべて大前提が間違っていたことを告げた。


 ダメだ。完全に負の連鎖が出来上がってる。


「それと勘違いしているようだが思いやりの精神は持っているぞ。だからこそ我は貴様の疑問に答えたのだ」


「貴方がやったのは返答じゃなくてトドメよ」


「む……たしかにネタバレという意味ではトドメだな。悪かった。貴様はその方法を知るために我が領地に足を踏み入れたようだ。とすれば我が言うべきことではなかった」


 なんか色々違う。


 あと町の中が凶悪な魔獣で溢れてるっていうのは事実なんだ……。


「安心するが良い。北部だけだ。貴族共に禁止されてしまったからな」


「へぇ~」


 またナチュラルに心を読まれたけどもう気にしない。今回は有益な情報だし。


 やれば出来るじゃない。権力者なんてゴミばかりだと思ってたけどそう捨てたもんじゃないわね。


 それはそうと……。


(北部……どうしようかしら)


 たぶんドラゴンないし力を手に入れるならここだ。


 何も成さないのであればヨシュアまで来た意味が無い。でも北部に近づいたりイベントに参加したらロア商会の関係者に絡まれた挙句何も得られず蚊帳の外。今すぐ引き返しても故郷の連中にバカにされる。ただこんな機会は二度とないかもしれない。


 問題は私の精神が持つかどうか。


 今後の私の冒険者人生がここで決まると言っても過言じゃない。


「まぁそれもルーク達が戻ってくるまでだがな。責任者不在で事を成すのは流石の我等でも気が引ける」


 ……おや?


「貴族共からも責任者が居れば好きにやって構わないと言われている。むしろやってくれと頼まれた。それまでは町の外と北部で我慢するのだ」


 ダメだぁぁ~~!! この町はもうダメだああああ~~ッ!!


 彼女達が武力に物を言わせてトンデモ企画を実行したのかと思いきや、まさかの乗り気。町を滅ぼすような強敵を使役してるなんて話聞いたことがないし、その力を使ってイベントを盛り上げようなんて話ももちろんない。というかあり得ない。


 ワクワクを前面に押し出した少女の様子に、私は本日一番の戦慄を覚えた。



「言っておくが我はまともな方だぞ」


「そ、そうなの……?」


 来週になればさらに大規模なイベントが開催されるという情報に不安と希望を抱いていると、会話が止まったと思ったのか、少女は先程の話題を掘り返してきた。


「うむ。他者を見下すことで辛うじて今の状態を保っているが、同格相手だと気を遣ってばかりだ。正論パンチを喰らったら動揺して一言も喋れなくなるし、大人数だと空気を悪くしないように黙っていることが多い……」


 この少女。これまでの発言内容からも片鱗が見えていたが、やはり『間』というものが苦手らしい。


 やっていたことが会話のキャッチボールではなく主張なのだ。それが出来なくなった時はスンッとなると。自らを秘密を暴露してでも話題提供に走ると。


 このまま情報を引き出すのもありっちゃありだけど、これ以上戦意喪失してドラゴンの管理を放り出されては堪らないので、高貴なヴァンパイアのロールプレイが崩れ始めた少女をフォローすることに。


「会話なんてテキトーで良いのよ。面白いこと言おうとしなくて良いのよ。地雷を踏まなければ言いたいこと言って良いのよ。沈黙は敵じゃないわ。適度な休憩時間よ。例え気まずい空気が流れても相手から新しい話を引き出せば良いだけ。新しいことも知れて二度美味しいし」


「……難しい」


 呟くように言う少女……もといメルちゃん。たぶんこっちが素。


 まぁこればっかりは実際にやって慣れるしかない。


 周りが面白い人ばかりでそれが普通と思ってるのかもしれないし、彼女が弄られキャラでいくら上手くやっても「ないわ~」と言われ続けているのかもしれない。


 ただこのままだと空気が悪いので、彼女が喜びそうな話題を振って場を盛り上げるとしよう。



「このブラックドラゴン、攻撃手段はやっぱり黒炎? 私的にはダークネスやブラックといった古代方面も、漆黒や悪といった現代方面も、どっちも味があって良いと思うんだけど貴方はどう?」


 彼女は俗に言う中二病。


 彼女ほど無意味に痛々しい言動を取る人は滅多に居ないけど、それに憧れたり効率よりカッコ良さを重視する人は多い。


 で、私も強くなるためにそういった方面も勉強しているからそれなりに話せる。


 魔術は想いを形にする力で、敵と戦う時は最強の自分を思い浮かべるから、冒険者は自然とそういう連中が多くなる。


 本当よ。嘘だと思うなら実力ランキング一桁の連中に聞いてみなさいよ。全員痛い技名とか術名つけてるから。決めポーズとか挨拶とかサインとか二つ名とかあるから。


 まぁ極めれば効率的になるんだけど。


 私で言うなら、奥義の名前が『真空裂破』で、得意魔術が土と風を混合したオリジナル魔術『エアーインパクト』、1日1発の強力魔術が『テンペストフェザー』。


 ちなみに中二病っていうのは『十二歳病』が鈍った俗語よ。じゅうにびょう。ちゅうにびょう。中二病。思春期の中頃って意味もあるらしいわ。いつの間にか浸透してた。


「物理法則で光と対になってるところとか良くない? どちらかを生み出したらもう片方も生まれる。大小も比例してる。魔術視点で見ても複合しないと生み出せないから上位魔術でカッコいい。制御が難しいけどだからこそ強い」


「ク~ックックッ! わかっているではないか!」


 メルちゃんは当然のように喰いついた。

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