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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十九章 ステーションⅡ

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閑話 ヨシュアよいとこ一度はおいで2

「あ、あの、ごめんなさい……私、彼等が襲われてると勘違いしちゃって……。怯えてたし。怪我人も出てたし」


 ヨシュア郊外に現れたドラゴンは敵ではなくイベントスタッフ。


 攻撃対象にされたレッドドラゴンは何事もなかったように他のドラゴン共々大規模戦闘を始めたので、私は地上最強と言われているドラゴンがやられ役になったり乗り物として働くという泣いてる子供をあやすために肩車するヤンキーのような情けなくも微笑ましい姿を尻目に、イベント担当のハーピーに頭を下げた。


 例え助けに入るのが当たり前で、というかしないのが悪で、誰が見てもひと目でそういうイベントだとわかるようにしておかない方も悪いと思うけど、それとこれとは話が別。


 事情を知らずに手を出して迷惑を掛けたのは間違いない。


「気にしないでくだサイ。彼もスリルがあって楽しかったと言ってマス。演技であることがバレるのを覚悟で結界で防ぐべきなのか、リアリティを出すために防がずに激痛で暴れ回るべきなのか、はたまた演目を変更して参加者ガン無視で英雄vsドラゴンをするべきなのか、イベントを盛り上げるための最善手がわからずハラハラしていたそうデス」


「そ、そう……」


 ドラゴンは私が思っている以上に強くて賢くて器が大きかった。あとちょっと緊張しい。そんなのその場のノリで良いのにね。


 …………うん、なんかもうどーでもよくなってきた。


 ここではドラゴンが馬車並みにありふれた存在で、それを可能にしているのはそれ以上にヤバい連中で、戸惑う方がマイノリティ。


 現実を受け入れよう。



「ところでアナタ。さっきからなんですカ。人のことを呼び捨てにシテ。さんをつけろよ二流冒険者が」


「当たり前のように心を読まないでくれる!?」


 平和的な空気から一遍。ハーピー……さんが舌打ちしていないのが不思議なぐらい苛立って説教してきた。


 人でもないし、口にも出していないし、名前を知らないから種族名で呼んでただけで呼び捨てにしたつもりなんて微塵もないけど、人間で言うなら男性・女性みたいなものなんだけど、この怒りようからしてそんな言い訳は通用しなさそう。実はイベントを邪魔されたことを怒ってるのかもしれない。


 やっぱり悪いのは私なので素直に謝っておくとしよう。


「ごめんなさい。勘違いさせちゃったみたいで。まさか種族名を名前にしてるだなんて思わなかったの。もちろん悪気なんてないわ」


「やれやれ……謝って済むなら警備兵は要らないんですヨ。誠意を見せてくだサイ、誠意を」


「な、何させるつもりよ……」


 しまった。下手に出過ぎた。


 人間社会に適応した魔獣みたいだからそこまで無茶なことは言われないだろうけど、逆にその知識を悪用してギリギリを攻めてくる可能性はある。


「相手が男性の場合は『ごめんなさぁ~い。私っていっつもこうなんですぅ~。てへっ♪』と萌え声で謝り、女性の場合は『あ、そ』と素のトーンで言ってスルー、魔獣の場合は誠意が伝わるようにジェスチャーを交えて謝る。常識デス」


「悪意と偏見に満ち満ちてるわね……」


 身構えていた私に与えられた指令はなんとも反応に困るもの。


「というか大半が謝って済んでるじゃない。あと女同士でも謝っておきなさい。よほど仲良くないと嫌われるわよ」


 取り敢えずツッコミらしきものを入れておく。


「え? こんなどうでも良いことで謝るんですカ? 名乗ってもいない相手のことを心の中でどう思おうとその人の勝手でしょ? 『メガネ君』とか『巨乳』とか自分だけのあだ名つけるでしょ? 謝るのはそれを表に出した時ですよね?」


「おんどりゃああああああああッ!!」


 私は、レッドドラゴンに突進した時に勝るとも劣らない速度で、心底不思議そうに首を捻る害鳥に拳を繰り出した。


 コイツをここでシバいておくのが世のため人のためだ。


「HAHAHA~♪ 遅すぎて欠伸が出マ~ス」


 が、アッサリ避けられてしまった。


「人間の力では一生掛かっても無理デ~ス。ドラゴンを仲間にするのも無理無理デ~ス。強者に生まれ変わってから出直しなサ~イ」


 しかも煽られた。



(なるほど……よ~くわかったわ)


 実力差を示すように空中を瞬間移動し続ける害鳥を睨みながら、私は納得した。


 彼女はロア商会の人間で、彼等と関わること自体が間違いなのだ。天災と同じ。私に出来るのはほどほどの対策をして過ぎ去るのをジッと待つことだけ。


 ヨシュアの人達はそれを理解しているから触れないんだ。


「関係者というだけで所属はしてませんけどネ~」


 別れを告げるより先に害鳥が次なる話題を振ってきた。


 終わりだ。全身から『私が満足するまで逃がさない』のオーラが噴き出している。無視しても意味がない。


「だから心を読まないでって言ってるでしょ。ロア商会は関係者を含めてヤバい連中って噂なのよ。そもそもこれだけやっておいてヤバくないは通用しないわよ」


 そのことを瞬時に悟った私は諦めて付き合うことにして、種族名でまとめられることを「どうでも良いこと」と一蹴した相手なら大丈夫だろうと、本心を語った。


 本心をぶつけ合ったことで距離が近づいたという見方も出来なくはないけど、認めたくはないし、もうすぐ終わるので触れない方向で。


「いえいえ、大事なことですヨ~。ワタシのような魔獣が所属していると思われたら商会の名前に泥がついてしまいマス」


「あ、そういうことね。ごめんなさい。やっぱり大企業になると風当り厳しいものね。イチャモン付けられないように気を遣うのは当然――」


「というのはもちろん冗談! そんな細かいことを気にしてる人なんて居まセ~ン。イチャモンをつけようとした人は何故かことごとく不幸になりますけど、それを気にする人も居まセ~ン。所属していないのは本当ですけど役立ちそうな時は勝手に名前使っちゃってマ~ス。このイベントも無断でロア商会主催にしてマ~ス。

 ちなみにアナウンスや垂れ幕といったひと目でわかる掲示をしなかった理由は、アナタのように勘違いして乱入してくれる人を願ってのこと! トラブルは待っていても来ません! 自らの手で起こす、もしくはそうなるように仕向けるもの!」


「どっせえええええええええええええッ!!!」


 正面からの攻撃がダメなら視覚外からの不意打ちよ。


 私は全力で害鳥に切り掛かり、それをオトリにして彼女の背後に生み出したフレイムアローで攻撃を試みた。


「え? 今何かしました?」


 が、自慢の剣も、8本の火の矢も、害鳥に正しいストレッチをさせるための指南棒となって空を切った。端的に言うとアッサリ避けられてしまった。


「喰らってあげても良かったんですけどネ~。アナタ程度の技量ではどんなに凄い武器を使われても痛くもかゆくもありませんシ~。攻撃を止めたのだってドラゴンが『防ぐ』を選んだ時に剣が壊れるからですシ~。生身でないと通用しないのに自分の技量を理解せずに特攻して、破損して、このイベントのせいだと騒がれたら面倒だったからですシ~」


 しかもまた煽られた。




「とにかくイベントの邪魔して悪かったわね。この後も頑張って。じゃあね」


 知りたかったことから知りたくなかったことまで色々わかったし、害鳥も満足気なオーラを出し始めたので、今度こそと私は別れを告げてその場から立ち去った。


 一見、彼等と親しくなった方が目的達成は早そうだけど、弄ぶだけ弄んで何も得られずただ時間を無駄にする可能性の方が高いから、こうするのが一番。


 夢は誰かに叶えてもらうものじゃなくて自分の手で叶えるものだし。


「ではワタシはそれを邪魔しま――」


「あああっ、レンタル剣が壊れたあああ!! 弁償!? これ弁償ですか!?」


「あ、大丈夫ですヨ~。気にしないでくだサイ。ダイヤモンドなんて腐るほどありますから。アドバイスさせてもらうと使い方が悪かったですネ。剣に魔力を宿しながら攻撃しないとドラゴンの鱗に弾かれちゃいますヨ。剣術が出来れば話は別ですけどアナタは苦手そうですシ。そこのお姉さんと同じで」


 無視無視。


 聞き捨てならない発言があったけどイベント参加者の悲鳴にかき消されたし、害鳥もそっちに飛んでいったから隙だらけ。今が好機。


 技術の発達によって脆くて武器に向いてないダイヤモンドも魔術で3倍以上圧縮すればそこそこ使える武器になることが判明したけど、そんなに大量のダイヤモンドを用意出来ないし、出来ても作る力がないし、作れても恐れ多くて使えないから机上の空論となっていて、そんな超高級品が壊れたっていうのにボランティアの人をちょっとハラハラさせたのと同じ対応だろうと気にしない。


 煽りには慣れた。


「ヴォ?」


 圧倒的実力によっていち早くイベントを終わらせた紫のドラゴンが『え? もう行っちゃうんですか?』って顔でこっち見てるけど、無視無視。


 他の参加者とゴチャゴチャやってる害鳥の代わりにのっしのっし近づいてき始めたけど、それ以上の速さで遠ざかれば関係ない。競歩には自信がある。


「くくっ、貧乏人め。ほ~ら。貴様では一生掛かっても手に入らないダイヤモンドの山だ。くれてやる。あさましく拾うが良い」


 一瞬で私を追い抜いた害鳥が、破損したダイヤモンド剣をさらに砕いて、ゲス顔で私の目の前にばら撒いたけど無視無視。


 片言ですらなくなってるけどキャラづくりだったりするんだろうか、という疑問も頭の中からポ~イ。


(……でも1個ぐらいなら)


 私は靴ひもを直すフリをしてその場にしゃがみ込み、砂浜の綺麗な貝殻でも拾うように中くらいのダイヤモンドを手にして、何事もなかったように立ち上がった。


「ちなみにそれ。炭素を加工しただけなので市場に出回っているダイヤモンドとは別物ですヨ~。売れるような代物ではありませんし、時間制限付きなのでもうすぐ土に還りマ~ス」


 チクショウめ!!

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