表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十九章 ステーションⅡ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1517/1659

千二百五十六話 初夏の旅路4

 初対面の王女から「私は今ネタに飢えている。面白いネタを提供しろ」と言われて出来る人間はそこそこ居るだろうが、それはご機嫌取りという目的があるからで、この場限りという条件が付いたらその数は間違いなく激減する。


 ネタは日常生活限定で、一歩間違えば愚痴や批判として家族を巻き込む大惨事になりかねない状況なら、0になってもおかしくはない。


 よほど自信があるならやるかもしれないが、イブはヨイショされて喜ぶような子ではないし、貴族は交流する可能性がある相手のことを調べていることが多いので、ピート達も彼女がどういった人間かぐらいは知っているはず。


 俺が思うに一同の共通認識は『魔道具以外の話は-50点』だ。


 間違いでない。間違いではないがすべてでもない。


 彼女が求めているのは役に立つ情報だ。


 知識だったり技術だったり即物的なものが重要視されがちだが、笑顔になれる話や羨ましいと思える話が嫌いなわけではないし、聞いてもらいたいことがないわけでもない。


 つまりファイ達が勝手にハードルを上げているだけ。


 まぁ「リニアに乗せてやるから一緒に祭り行こうぜ」と、旅行気分でついて来た連中に大丈夫だからと根拠のない自信で強要するのは酷だし、聞き耳を立てられていては出来るものも出来なくなるという意見はもっともなので、敵情視察&作戦会議の時間を稼ぎがてらイブに先陣を切らせることに。


 最近の行動もそうだが、イブの才気にも興味がある。


 ハッキリ言って彼女は異常だ。


 前世の知識を持ち強者の協力によって再現することが出来た俺や、大精霊を専属アドバイザーに雇って最新設備を独占して素材研究に励んでいたコーネル、幼少の頃から他者とは異なる世界の見方をしていて目的達成のために同レベルの者達が集まる魔道都市で切磋琢磨していたパスカルと違い、彼女は完全に独学。


 なんとなく人付き合いが苦手で1人で遊べる方法を探していたら魔道具と出会い、家の力は使っただろうが金さえ払えば手に入る素材や機材を自力で作り変えて、チーターと言っても過言ではない俺達と同格になった。


 その要因を探すべく何度か私生活について尋ねたことがあるが見つけられず、最近の同居生活でも研究者であることを考慮すれば普通。時間の使い方が上手いわけでも、効率が良いわけでもなく、やること成すことが高確率で上手くいく。


 才能と言えばそれまでなのだが、その発想力や技術力は何かしらの経験に基づいたものなのではないか、それこそ夢の中で別世界に行っていて転生者紛いのことをしているのではないかと思い、面白ネタとして近況報告を求めてみると、


「本を読んでた」


 イブは思い出す素振りも見せず淡々と答えた。


 話したくて仕方がない様子はなかった。いつも即答出来るほど頭の回転が速いわけでもない。好きだから覚えていただけだ。興味のない部分……例えば今朝の食事の内容を聞いても彼女は答えられない。俺も答えられない。


「貴重なやつ?」


「市販されてるもの。恋トラ。最近終わった」


 恋のトライアングル。略して恋トラ。


 ベルダンに暮らすホモ蛇シュナイダーの代表作にして、世界的大ヒットとなっている冒険&恋愛小説のことだ。


「あれは良い物ですの」


 俺よりも先にシィが食いついた。


「最後に主人公がライバルと協力してヒロインを助けるところ良かった。魔王がサラリーマンになったのも秀逸」


「わかりみですの。しかもあれは外伝に期待出来る展開ですの。私の大好物ですの。魔獣と和解して平和になった世界で彼等がどう生きていくのか興味津々ですの」


 ネタバレは犯罪ですよ。まだ読んでないんだからそれ以上楽しみを奪わないでください。



「……案外普通なんだな」


「そ、そうね。人嫌いで魔道具一筋って聞いてたからもっと固い印象があったんだけど、流行りの本を読んで、あたし達みたいな貴族見習いとその内容を語り合うぐらいフレンドリーなのね」


 王女が思ったより普通の少女でビックリしたらしく、ピートとベアトリスはネタバレ全開で盛り上がるイブ達に聞こえないほど小さな声で下々の者会議を始めた。


 一応言っておくと彼等も十分上流階級だ。最近まで七光りしてたし。通用しなくて止めたみたいだけど。俺達の前では、がつくかもだけど。


 王女と比較したらそうなるって話。


「当たり前だろ。お前等イブのことなんだと思ってんだ。彼女は王女である前に年頃の女の子なんだからもっと気楽に接して良いんだよ」


 何にしても緊張がほぐれてきたのは良いことだ。


 まだ会話に割って入れるほどではないのか、オタクトークについて行けないのかは知らないが、この調子でゆるゆるになってもらって全力を出せるようにしておこう。久しぶりの再会でファイ達も若干ぎこちない。緊張は伝染する。


「そもそも、研究に没頭するだけの財力があれば問題ないって常日頃から公言してるし、豪華絢爛なパーティより作業の邪魔にならない栄養食、旅行に行くなら観光地より未知の土地、絵画より新しい機材を欲しがるタイプだぞ。

 王女なんて地位は鬱陶しいものとしか思ってないに決まってるじゃないか。気を遣ってばかりだとむしろ嫌われるぞ。自然体で行け、自然体で。もちろんヨイショとか自慢話とか貴族の普通じゃなくて仲良しグループでの自然体な」


「そ、そうか。そうだな。気負い過ぎたな」


 良い感じだ。


「そうそう。あとエルフだって強者である前に1人の生き物なんだから――」


「それはイヤ。話し掛けられたせいで閃きが吹き飛んだら怒る」


「アタシもよ。被害がなくても馴れ馴れしくしてきた時点で殴るわ」


 積極的になりかけている2人をさらに勢いづけようと話を続けようとした矢先、温まった空気を一気に冷やす絶対零度の拒絶爆弾が投下された。


 犯人はイブとルナマリア。


「「…………」」


 当然のように2人は固まった。


 その硬直具合は彼女達の正体を知った時の比ではない。うつむいて誰とも目を合わせず、気配を消すために無言になり、ただただ嵐が過ぎるのを待っている。


 さらにさらに、関わり合いを持つ気のないルナマリアはさっさと先へ行ったが、学生達から面白いネタを聞いていないイブは『次はお前等の番だ』と要求する空気を醸し出す。


 緊張の度合いも先程までの比ではない。



 まぁそれはそれとして、彼女は毎回こうなのだ。本当に何もしていない。好き勝手に生きてなんとかなっている。努力が必ず報われる。


「をい……」


 アルディアという世界は、努力が報われるのではなく、そこに籠められた想いが報われる。


 いくら頑張っても成果が出ない時は出ない。


 しかしその功績は何かしらの形で報われる。


 別の事業で実を結ぶのか、褒められるだけなのか、赤の他人を喜ばせて一銭にもならないのかはわからないが、相応の満足感は得られる。


 イブの場合はそれが自分の成果になる。


 運命の女神から寵愛を受けているようにすべて自分に返って来る。


 俺も大概だが彼女ほどではない。


「おい!」


「なんだ?」


 語り部を中断してやたら絡んで来るピートを見る。


「頼むから進行役を勝手に降りないでくれ。この流れは無理だ。ネタ提供は俺とベアトリスがする予定だったがこれはキツイ。なんとかしてくれ」


「あ~、なるほどね。ファイ達はネタを探してたんじゃなくてお前等に譲ってたわけか。良きところで語らせようとしてたわけか」


 肯定するように無言で頷くピート。


 だとしてもそれを本人の口に出すのはアウトな気がするが、今の2人はそんなことすら気付かないほど動揺しているらしい。


 イブが再び申し訳なさそうな顔をしているがそっちはヒカリがナイスフォロー。彼等がイブと親しくすることは二度とないだろうがこの場はなんとかなりそうだ。


「でも俺、お前等とそんなに仲良くないし。言っちゃなんだけど近況報告聞きたいのファイとアリスとシィなんだよ。あと面白い話って言われると萎えるっていうか、俺が聞きたいのは何かネタになるものがあればラッキー程度の普通の日常なんだよな。こっちはこっちで聞くから、そっちはそっちでやっててくんね?」


「ファイ達も登場するから! 主役が俺達ってだけだから!」


 しゃーない。聞いてやるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ