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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十九章 ステーションⅡ

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千二百五十四話 初夏の旅路2

 領土の広さだけで言えば世界有数のセイルーン王国だが、技術力や生産力が伴っていないため地域格差が激しく、インフラがバッチリ整っていて造りやすさや使いやすさよりデザイン性を重視した建物が立ち並ぶ町の隣にベニヤ板を張り付けただけの家ばかりの村があったりする。


 街道が出来るやいなや昔からそこに住んでいたかのように不法占拠して退かされる、みたいなことも多いと聞く。


 まぁそれはセイルーン王国に限った話ではないし、商業や産業、政の中心となる場所に力を入れて、物資なり金なり人材なりを安定供給出来るようになってから地方へという考え方は至極真っ当なものだ。


 実際、国の中心の王都ともなればかなりの優先度で整備されるが、魔獣という脅威が存在する外界は作っても作っても壊されるため、主要な道路を除いてまともに整備されていなかったりする。


 ぶっちゃけド田舎と変わらない。


 今、俺達が歩いている平原もそうだ。ところどころ雑草が生えている、大半が土で構成された、辛うじて『交通路』と呼べる代物である。


「あっ、可愛い!」


「ただのトカゲだろ」


「違うって。あのモチモチの肌はフォルエントカゲ。とっても貴重な種類で――」


 今の商店凸凹コンビの発言を聞いてもわかるように、周りの草むらから野生動物が飛び出してくるような環境だが、個人的には人工物しかない町中より半々、何なら7:3ぐらいで自然多めの場所の方が好きだったりするので一向に構わない。


 それがその土地らしさじゃん。旅行ってそれを感じるためにするもんだしさ。気候もバッチリだし。夏前って一番テンション上がる。最高潮に達するのは汗だくになる真夏だけどな。


 可愛いものをやたら可愛がる自分をカワイイと思ってもらいたいヤツなら皮肉の1つでも言ってやっていたが、ノルンはガチっぽいので置いといて――。


 ほぼ地元と変わらない自然界に秒で馴染んだ少女からの人生相談をなんとかするとしよう。




「具体的にどこがわからないんだ?」


 内容が内容だけに大人達も気になり始めたのか、それとも平穏無事な時間に飽きたのか、それなりの人数の意識が俺達に集中しているが、そんなことはお構いなしに俺は授業内容を尋ねる。


「ん~、いろいろあるけどやっぱり漢字ね! 『人』って、どう考えてもかたほーが楽してるのに、ささえあってるって教えられたわよ!」


 あるあるだ。おそらく誰もが一度は通った道だろう。


 それ故に答えやすい。


「あれは元々は完全に均等で△だったけど、書く時に微妙にズレるのが気に入らなくて今の形になったと、俺は思ってる。曲線を入れた方が美しいってのもあるな」


「わかるぅ~。直線って書くの難しいよね。ちょっと間違えると『入』になっちゃうし。だったら左右非対称にして特徴出した方が良いよね」


「わかりやすさは大事」


「たしかに、考えてみれば曲線の入ってる字で左右対称ってないニャ。一とか六とかそれっぽいけど微妙に違うし、凹凸はカクカクだし。あそこまで行けば直線でも良いかなってるから作ったのかもニャ」


 ヒカリを皮切りに周囲の人間が次々に同意を露わにする。


 ちなみに抜粋したのはニャンコ一家。1人2人の絡みは多いが3人勢ぞろいは珍しい気がする。食堂でも担当違うから同時って難しいし。


 やっぱり家族は良いですね。エロい意味ではなくてね。親子丼的なことではなくてね。断じて違うよ。リリの見た目が実年齢より若いからってそれは無いわ。ただでさえ若い時期が長い種族に加えて病気で時間止まってたからって無いわ。


 さ、勘違いされないように釘を刺したし、話を続けよう。


「他にも書きやすい&見やすいように変えたものって多いと思うぞ。個人的には『入』もわかりにくい。もちろんヒカリとは違う意味でな」


「その心は?」


「どこかに入るなら手荷物や土産を持ってるんから差し出している様子を表した『犬』の方が適当だし、去る時は敷居を跨ぐから『太』だ。人偏を入れても良い。『伏』と『㑀』」


 ちなみに『㑀』という漢字は中国でしか使われていない。『たい』と読む。もういいです、という意味らしい。


「ま、そういうものってことで納得しとけ。わかりやすいさより使いやすさ重視だ。言葉とかもそうだろ。なんでも一言で伝えようとするだろ。全部の意味を持ってるからって詳細を曖昧にしようとするだろ」


「ニンゲンっておろかね!」


「否定出来ないし、するつもりもないけど、お前はそういう部分を含めて学ぶために人間界に来たんだろ。根底を覆す気がないならお前も愚かになれ。その辺をちゃんとしようと頑張る連中の輪に入っても良いけどたぶん無理だし」


「なんでよ!?」


「だってお前バカじゃん。ナチュラルに説明省略するじゃん」


「なあっ!?」


 予想だにしない発言だったのか、イヨは肩まである緑髪をバサッと翻して仰け反り、驚愕を露わにする。


 ただそう思っているのは彼女だけ。彼女以外の全員が『あ~あ、言っちゃった』って顔している。これまでも事あるごとに言ってるんだけどな。


 まぁ俺は一言で伝える愚か者ではないのでその度に詳細に説明してやるけど。


「自分の考えを持ってるけどそれを他人に伝えられなかったら意味なんだぞ。覚えてる熟語やことわざも色々間違ってるし、同年代の子供に比べても普段から漢字使えてないし、起源を気にするより先にまず基礎を身につけろって話だろ。そういうことを考えるのは使いこなせるようになってからにしろ」


「いっときのクツジョクをなめろってことね!」


 たぶん『一時の屈辱』と『靴を舐める』と『苦汁を舐める』が混ざったんだろうな。そういうとこよ。


 イヨの国語力……3点!


 もちろん100点満点な。



「確率の計算とかもちょっとアレだニャ」


 同学年の妹を持つユチは、同じような相談を受けているのかどこかで小耳に挟んだのか、苦手科目として挙げていないにもかかわらず算数の話題を持ち出した。


 どちらかと言えば彼女自身が抱いている不満の気がするし、足し算や引き算に苦しんでいるであろうイヨには早過ぎる議題だが、わかりやすく説明すれば大丈夫かもしれないので続けてもらうことに。


 ダメなら俺達だけで盛り上がれば良い。


 おそらくユチが言おうとしているのは『変化のある現実』と『普遍的な数字』の問題。説明役を奪う気はないから大人しくしておくけど。


「サイコロってあるじゃん? あれって――」


「それ以上言葉を発したらステーションに吹き飛ばすニャ」


 ちょっとした冗談じゃん。怒んなよ。


 と、心の中で言い訳して、フィーネ特製の空中に字が書けるペンも渡して、早めの再放送開始。


「サイコロは6面だから1回振って1が出る確率は1/6ニャ」


「「「ふんふん」」」


 やはり子供にとっては文字より絵の方が見ていて面白いらしく(まぁ大人もだが)、先程の俺の講義より興味深そうに眺める少女達は、理解したように頷く。


 教師が悪いわけではない。題材の差だ。


 もしユチがこうなることを読んでいたとしたら策士過ぎる。あえて先手を譲ったとしたら怖過ぎてもうセクハラ出来ない。何かあるんじゃないとかビクビクしちゃう。


(……あれ? 興奮する?)


 何か閃きそうになっている俺を他所に話は進む。


「でもそれはあくまでも確率で実際は6回振っても出ない可能性もあるニャ。逆に2回連続で出たりもするニャ」


「よくある!」


「じゃあそのリスクを負ってまで挑戦するかって言われたらどうかニャ? 例えば自分の腕次第で何とかなるダーツと、スイッチ1つで確実にどこかに止まるルーレットと、出るか出ないか運次第のサイコロ。的は6分割されてる。つまり全部確率は一緒。イヨちゃんはどれやる?」


「ダーツにきまってるじゃない」


 自分なら確率を100%とは言わずとも90%以上には出来る。


 イヨはそう言わんばかりの様子で即答した。


 そう。確率は必ずしも一定ではないのだ。条件次第で変わる。


 しかし学校で教える数学はその辺りの可能性を排除する。


 例えばケーキ。


 誕生日の人が多めに食べたりイチゴやチョコプレートをもらったり、皆より少し多めに金を出したらその分多く食べたり、親と子供、甘党とそうでない人で生まれる差を考えず、1つのケーキを3人で均等に分けることが正しいとしている。


 ゲームをやっていたら食べられたとか、好みの味じゃなかったからあげるとか、お腹いっぱいだから持って帰るとか、現実で起こり得る可能性を排除して『正解』という1つのものに向かって突き進む。


 確率だけではない。


 A液とB液を混ぜた時の量は? 化学変化によって量が変わるなんてよくある話だ。気化したり硬化しても変わる。移す時に溢すかもしれない。実はA君が飲んで減っているかもしれない。


 計算では役に立つけど現実では役に立たない。


 何故なら現実は条件が一定ではないから。


 意味がないとまでは言わないが、古文や微分積分と同じでそれを必要とする者にしか有難くないし、計算だなんだと難しいことをゴチャゴチャ考えるより、ジャンケンに勝つ方法や、相手の苦手分野で勝負するにはどういう交渉をすれば良いかといった、少しでも自分の利益を増やす方法を考えた方が建設的だと俺は思う。


 言うなればゲームだな。


 いくら強くなろうと現実では何の意味もない。せいぜいゲーム仲間にドヤれるぐらいだ。それが通用するのも小学生まで。男は大学生まで。


 大事なのは現実でどうするか。


 数学はそれを手助けするための技の1つでしかない。



「つまりやらなくてもイイってことね!」


「「「違う(います)」」」


「う? う、ううぅ……」


 イカン。自分の中にあった結論がことごとく否定されて混乱している。一気に詰め込みすぎた。このままでは爆発する。


「イヨ! あれを見ろ!」


 とっさに道端に咲いていた季節外れのタンポポを指差す。


「タンポポの古代言語は『ダンデライオン』。由来は大きく広がる花弁をライオンのたてがみに見立てた……からではなく、タンポポの葉っぱが歯のようにギザギザだから!」


「なんですって!? どこが歯なのよ!? 普通の葉っぱじゃない!」


「俺に怒鳴ってもしかたないだろ。文句は昔の連中に言え」


 よし。なんとかなった。


「勉強も一緒。その知識が必要か必要でないかを判断するにはお前はまだ幼過ぎる。知識を持っておけって言ってんだから今は大人しく学んどけば良いんだよ。今はゴミか宝石かわからない石を集めるターン。判別したり疑問を持つのはその後だ。

 人間とエルフ。周りの考えと自分の考え。そういう差を理解した上でやれ。相手の考えを尊重しながら研究しろ。決して周りに流されず、妥協せず、当たり前を疑い続ける。それが『外の世界を知る』ってことだ。お前がやろうとしてることだ」


「わかったわ! とにかくガンバレってことね!」


 俺の30分がぁぁ……。

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