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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十九章 ステーションⅡ

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千二百五十一話 エレベーターの乱5

「と、とにかく! 儂はエレベーターが来るまでの暇潰しに誘っていただけだみゃ! 儂に声を掛けられるなんて光栄なことだみゃ!」


 想像を遥かに下回るしょーもない理由で仲間達に絡んでいた独特の訛りを持つアホ貴族、ヴュルテンブルク侯爵は、ロクでもない性癖を暴露したことによって凍り付いた空気を換えるべく、無理矢理に話を戻した。


「だからどんだけ自己評価高いんだよ。そんなわけないだろ。ここに居る連中は金や権力に魅力を感じないんだよ。迷惑してんだよ。顔見りゃわかるだろ」


 詳細を知りたい人間など居るはずもないので大人しく流されることに。


「でふふ。そんな人間居るわけないみゃ。労力に見合わない稼ぎをしている下々の者の嫉妬だみゃ。欲しても手に入らないから諦めてるだけ。いざ手に入れたら心変わりするに決まってるみゃ」


 自身の気持ち悪さに続き価値観にまで苦言を呈されたデブだが、ニーナ達の様子から俺の言葉が事実であることを知ってもなお認めようとせず、どちらも否定するように笑い飛ばした。


「おっぱいだってそうみゃ? 相手が居なければ触れられず、恋人の居る連中を羨ましく思っても認めるのが悔しいから『自分の時間がなくなる』『金が勿体ない』とネガティブなことばかり言って見下すみゃ? 例え相手が居ても、別のおっぱいに興味が出たと正直に言うと二度と触れなくなるから魅力を感じないと自分に言い聞かせるみゃ? そうやって理想を捨てて生きるのが下々の者みゃ?」


(くっ……痛いところを突きやがって!!)


 それどころか攻勢に出て下々代表である俺を戦慄させてくる。


 実際ノーリスクで手に入ると、触れるとなったら、男の99%は狂喜乱舞して飛びつくだろう。


 コイツは金や権力も同じと言っているのだ。


(……ちょっと待てよ。金や権力があるからこそ触れるんじゃないか?)


 なんとか言い返そうと頭の中にある各種ピースと睨めっこをしていると、ふとそれ等がピッタリとハマるのを感じた。点と点が繋がったと言うべきか。


(対価を払ったり、優遇したり、女の方から寄ってくる条件さえあればおっぱいは触り放題だ。愛はもちろん大事だけどそれだと1つ……いや2つしか触れない。でも互いの利害が一致していたら選び放題好き放題。つまりそれは男の夢を叶えるために必要な力ということにならないか?)


「でふふっ。おみゃあもようやく理解出来たようだみゃ。そうみゃ。金と権力ですべてが自由になるわけではないみゃ。しかしあれば自由になることは多いみゃ。理想を叶えるために必要なもの、それが金と権力だみゃ」


 そんな俺の様子から何かを察したデブは嬉しそうに口角を上げる。


(コ、コイツ……自分の力をわかってやがる! 分相応な生き方を心得てやがる! すべてを理解した上で『金と権力は魅力的』と言ってやがる!)


 今度こそ俺は本当に戦慄した。


 こいつは厄介だぜぇ。


「それで寄ってくるのは欲に塗れた人だけでしょ。愛を犠牲にしてるけど良いの? 常識ある人達からも軽蔑されるよ? お金も権力も簡単に無くなるよ? そうなった時絶対困るよ?」


「その気持ちが嫉妬だと気付けないとは愚かな猫人族みゃ。『いつか無くなるから怖い』『あればあるほど不幸になる』と妄想でマウントを取らないと平静を保てない哀れな連中と同じみゃ。

 それを言って良いのは実際に経験したことがあるヤツだけみゃ。金と権力を手に入れても昔の方が良かったからと自らの意志で手放せる、ありとあらゆる快楽を拒絶し、失う恐ろしさを受け入れられる、心の強い者だけみゃ。

 まぁ儂から言わせれば心の弱い者だけどみゃ。人は楽しむために生きているというのに何故それを手放すか理解出来んみゃ。楽するために頑張っているんじゃないのかみゃ? 使役されることを喜ぶ者も多いみゃ。性癖はもちろん仕事が無ければ下々の者は生きていけないからみゃ。上に立つのも必要なことみゃ」


 ヒカリには悪いが、俺も割とデブ……いや、ヴュルテンブルク侯爵寄りではある。


 流されたわけではない。それによって誰かを犠牲にするのは違うが、相手が合意していればある程度の無理は認められるべきだとは昔から思っている。


 すなわち正当な対価だ。


「まぁここに居る連中はその心の強い者だから、お前の価値観を全否定するけどな。金も権力も手に入れた上で『別に要らない』って言ってるし、手放しこそしないけど最低限懐に入れたら他の誰かの幸せのために使ってる。イベント開いたり募金したり自分と世界のためになるもの作ったりな」


「なんだとみゃあああああああああああ!?」


 これまでの話を全否定されて絶叫するデブ。


 どうでも良いけど語感悪過ぎない? 「なんだとぉぉ!?」とか「マジみゃああ!?」の方が言いやすくない? 無理してない?


 ホントどうでも良いから話進めるけど。


「たんまり稼いでバンバン使うのが贅沢なら、稼がないのも立派な贅沢だ。お前の価値観を押し付けるな。金や権力に魅力を感じない人間も居るんだ。だからお前は嫌がる女性に無理矢理言い寄る変態。通報待ったなし。制裁待ったなし」


「も、もう一度蹴ってるみゃ!? それで十分じゃないかみゃ!?」


 腰を落としていつでも飛びかかれる体勢を取ると、デブは護衛達の後ろに隠れながら、制裁は済んでいるはずだと訴えかけてくる。


 怒っただけで仕返しする様子がなかったのは、事情を知って納得したからだったようだ。


 まぁこうしてる間にも続々と登頂者(?)が現れ、往復したエレベーターからこちら側の人間であろう連中がゾロゾロ降りて来ているので、劣勢であることを悟って言い出せないのもあるだろうが……。


「言っただろ。お前みたいな変態貴族に、金と権力っていう好きでもないものを好みと勘違いされて押し付けられる暴行と、セクハラを受ける苦痛は、世界でもトップレベルに気持ち悪いものだって。蹴りの一発で終わるわけないだろ」


「全部おみゃあの嫉妬だみゃ!? 彼女達は一言も許さないなんて言ってないみゃ!?」


「当然だろ。それ以上関わりたくないんだから。心の中ではもっとやれって思ってるよ。だから俺が代わりにやるんだよ」


「だからそれ全部おみゃあの勝手な妄想みゃ!? 代理って名目で儂を攻撃したいだけみゃ!?」


「いいや違うね。これは気を遣ってるんだ。空気を読んでるんだ」


「都合の良い言葉ではぐらかすんじゃないみゃ! とにかく儂はこれ以上の暴力は認めないみゃ! 謝罪しろと言うならまずおみゃあからやるみゃ!」


「ところでお前がステーションに関わってるってマジ? ホントだとしてもなんでここ来たん? 車両基地ってステーション計画とは別物だぞ?」


「……おみゃあが求めているものが和平や交流ではなく情報というのはわかったみゃ」


 ならさっさと言え。こっちだって暇じゃないんだ。アリス達との雑談時間を犠牲にしてやってんだ。感謝しろ。謝罪しろ。暴露しろ。


 役に立たない情報出したらぶっ飛ばす。


 それが許されるのが弱肉強食の世界だ。




「チッ、情報力5のゴミが……」


「例え本当のことでもそういうこと本人の目の前で言わないの」


 全員が到着するまでの30分近くをやりたくもない交流と情報収集に充ててみたものの、得られたのは『詳しくないから自分の目で確かめろ』という情報のみ。


 これで吐き捨てるなという方が無理がある。


 現にレオ兄達もデブと関わる必要性を感じないのか、普段なら「わたくしこういう者でして」と名刺交換じみたことをやるところ、旅行客ABCDとして家族が暴行したことの謝罪のみに留めている。


 あとトドメを刺しているのはヒカリな気がする。


「本当のことって断言するのはどうなん? メッチャトゲがあるじゃん。『そういうことは本人の前で言わないの』で良くない? 実は鬱陶しいナンパのされ方にイラっとしてたりする?」


「ただ単に無能であることを自覚してない、改善する気もない、それどころか他人に押し付けてくる人が嫌いなだけだよ」


 デブがここに来た理由。


 1つ、『屋敷から出れば働いてる気になれる』という仕事内容や成果より周りからの評価重視のもの。


 2つ、『たしかこの辺りも自分の管理地だった』という今後も担当区画を覚える気がないの丸出しの台詞と共になんとなく。


 3つ、『有能な執事に言われたから』と言われたことしかやらない無能っぷりを遺憾なく発揮。


 向上心の塊として日々努力しているヒカリに嫌われるのは当然と言えた。


 管轄外というならわからなくもないが、専門分野のことを聞いても「見ることが仕事みゃ」とかほざきやがるしな。


 それをやって良いのは現場や計画がちゃんとしていて口出しすることがない時だけだ。進行具合もわからずボーっとしているのは仕事とは言わない。


「それと、わたしの見た目が好みじゃなかったらしくて、あんまりしつこくなかったから後者に関しては別に」


 そう言ってニーナ達に目を向けるヒカリ。


 天真爛漫な雰囲気が苦手なのか、逆に落ち着いた雰囲気が好きなのか、年齢的なサムシングなのか、本能で彼女の好戦的な性格を見抜いたのかはわからないが、主な被害者はこちらのようだ。


「……? わたしは選手権に集中してたから」


 デブとは別の意味で見ていたニーナは特に(というか一切)気にしていないご様子。顔はデブの方を向いていた気がするが心の目は吹き抜けに向いていたらしい。


 無視もナンパの正しい対応の1つだ。


 手を掴んできたり行く手を塞いだりしたら殴れ。少なくとも俺の前では正当防衛が成立する。いやさせる。


「私達も困ってはいたけど面倒な客の相手は慣れてるし、あそこまで貴族貴族した輩は珍しいから珍獣を見るような気分で楽しんでもいたニャ」


「ですね」


 苦笑するリリとトリー。


 肝っ玉母ちゃんズの強さよ。


 久しぶりに女として見られて嬉しいって気持ちもありそうだ。この年になったらナンパなんて滅多にされないだろうし。例え特殊性癖の持ち主だとしても嫌な気はしないとか……ないな。キモいもんはキモい。


 全然キモくない俺でもウザがられるし。


「つまり蹴ったのはルークの独断ってことだね」


「そういうことを本人の前で言うんじゃないよ。スカッとはしただろ。アイツのおこないは善悪で言えば間違いなく悪だろ。なら良いじゃないか」


「まぁね。ああした方が警戒されずに話聞けたしね」


「ありがとう、で良いのか?」


 下手に出ずに多少強引な態度で接した方が良い時もある。


 聡い彼女のことだ。自分が手を出せばどうなるか理解しているだろうし、その後の対応も含めて俺に任せた可能性が高い。


 相手(というか護衛達)がどんな能力を持っているかわからない以上、不用意に千里眼を使ったりはしないはずなので、純粋な聴力でエレベーター内の俺達の会話を聞いていたのかもしれない。


「御自由に」


 ニッコリと微笑むヒカリ。


 流石だ。



「くっ……有能の座まで……やはりルーク様とのラヴには、ロア商会会長やエルフ族という栄誉は邪魔でしかありませんね」


 こらこら、嫉妬しないの。会長はともかくエルフ族はどうしようもないって。というか引退したとしても元会長ってだけ十分な攻撃力を誇るよ。


 と、どこからともなく聞こえてきたフィーネの嘆きに心の中で応えつつ、俺は予定を若干変更して建設途中の駅、そしてその周辺のステーションをジックリタップリ覗くことにした。


 こんな無能が携わっている場所は調べるしかないじゃないか。


 どうせテキトーにやってチェックしたとか言ってるんだろ。上もその報告信じちゃうんだろ。支えてるヤツが有能だから勘違いしちゃうんだろ。

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