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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十九章 ステーションⅡ

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千二百五十話 エレベーターの乱4

 当たり前のことだが乗り物には乗る者と降りる者が存在する。


 建築途中の車両基地という不特定多数の人間が出入りする場所にあるエレベーターともなれば、そりゃあもう1日に何百回とくんずほぐれつ出会いと別れを繰り返す。


 俺達の便に乗り込もうとする者は偶然居なかったが、あと3回は最下層と地上を往復はすることになるエレベーターは、高確率で作業員が乗ろうとするだろう。


 そして満員なことを知って両者気まずい空気を出すことだろう。


 まぁそれは全員が覚悟した上で利用しているので良いとして――。


 貸し切っているわけでもなく、例え貸し切っていたとしても誰も乗らない下降中なら自由に使ってもらって構わない、というか遠慮したら許さないという過激派効率厨なので、降り口で乗客が待っていても俺達は全然気にしない。


 気にするのは、乗り降りとは関係なく……いや、関係はあるかもしれないが論点が『移動』ではなく『それを使った人間』に向いていた場合。


 ぶっちゃけ何かしらの恨みから絡んでくる連中だ。



「いくつか確認しておきたいことがある」


 先に地上に到着していたニーナ達が絡まれていることを知った俺は、鉄格子の隙間から見える光景から目を離さず、この後の行動を決めるべく苛立ちと面倒臭さを入り混じらせた口調でファイ達に尋ねた。


 何にでも首を突っ込むユキや、曲がったことが大嫌いなヒカリならともかく、人見知りかつ他者と関係を持つ必要性を感じていないニーナが自分から接触することは絶対にない。リリやトリー、サイなど危険察知能力が高い大人達も止める。


 つまり向こうから接触してきた。


 絡まれている。


 処理しなければ。


「誰かの知り合いか?」


 と言っても俺は野蛮人ではない。話し合いで片付けられるならそれに越したことはない。知り合いだとしたら責任は一緒に取ってもらうがな。


「知り合いというほどではないが、ヴュルテンブルク侯爵だな。王都周辺の土地を管理する貴族の1人だ」


「ですわね。最近は暇なのかヨシュア郊外の事業にも口を出してくるようになりましたわ。町を拡大する時にも色々ありましたわ。たしかステーションの建築にも関わっていたはず……ここに来た理由もおそらくそれですわね」


 これに対し、情報として知っているだけのピートが淡々と、実害を被ったらしきアリスが露骨にトゲを見せながら答える。


 本心を表に出すことは貴族社会のタブーとされているが、それだけここに居るメンバーに心を許しているのだろう。愚痴を言えてこその友達だ。


 それを本人に言ったりもしないしな。


「他人事のような顔をしていらっしゃいますけど、ルークさんも間接的な関わりがありますわよ?」


「あ~……心当たりが多過ぎてちょっとわかんないな」


 身の回りで起きたトラブルはすべて穏便に片付けているが、それがいくら正しいことだろうと不利益を被った……というかモラルを無視して違法でなければ問題ないと宣ってきた、あるいは揉み消してきた連中にとっては、甘い汁を吸えなくなっただけ。逆恨みされるのはどうしようもない。


 そのせいで生活が苦しくなったとか、周りの目が冷たくなったとか、同じ方法で楽してたのに出来なくなったとか言われても知らん。


 俺は自分が正しいと思ったことをやって胸を張って生きるのだ。


 自称正義の味方の前に顔を出してしまったことを悔やむが良い。


「バーナード=ローレンス。覚えていません? ヨシュア東部の農場で就業者を犠牲にすることで地上げをおこなっていた犯罪者なのですが」


 忘れるわけがない。アリスの従者と違って俺の人生に大きな影響を与えたヤツだ。言うまでもなくネガティブな意味で。


 昔この部屋で自殺した人が居て入居者も次々に不幸になるから格安という、ありふれた怪談話ならそんなこともなかっただろうが、それ等の原因を自らの手で作り出していたとしたら話は変わってくる。


 それをマリーさんとした農場見学の1つでやっていたのがそいつ。


「働き手が足りないのも、実りが悪いのも、全部魔獣のせいだから補助金たんまりよろしくって宣っていた連中の指導者だろ。反省して強制労働送りになったから許しはしたけど、楽に利益を出すために死者を出した事実は変わらないし、近年稀にみる胸糞展開だったから覚えてるよ」


 事情を知らないファイ達への説明がてらアリスの問いかけに答える。


「まさかあのデブが大本か?」


「確証はありませんわ。しかしそこで得た利益の一部がヴュルテンブルク侯爵の元に渡っているのは確認済みです。技術提供のお礼と言われたら納得してしまうほど微々たるものですし、他の土地で確認された似たような事例もことごとく協力者を挟んでの間接的なものですが、無関係と言うにはあまりにも数が多いのです」


 話の流れからそうだろうと口に出すと案の定。


 有能なゴミほど鬱陶しいものはない。


「取り敢えず後のことはフィーネ達に任せて、俺達はドアが開くと同時にあのデブに全力ドロップキックをかますでおk?」


「「「ダメに決まってるだろう(ますわ)」」」


 チッ、対話か……。


 姿を消したってことはユキも手伝う気はないみたいだし。それどころか手伝おうとする強者を止めるだろうだし。自分達で解決させないと意味がないとか言いながら四苦八苦する俺達の姿を見てケタケタ笑うんだ。


 それで良いんだけどさ。


 悪いのは悪事に手を染める連中であって、それを何とかしようとする連中を助けないことは悪でも正義でもない。むしろ助けられて当然と思う心こそ悪だ。自力で何とか出来ない弱さも甘えも悪だ。


 所詮この世は弱肉強食。


 勝てば官軍、負ければ賊軍。自分の正義を貫きながら絶対負けないなどという究極の力を求めるなら、それ相応の覚悟と努力が必要だ。


 俺はどっちもあるつもりだ。何なら力も。


「ところで先制攻撃って提案を否定しなかったシィさん。全責任を俺が取るからやってくれって言ったらやってくれます?」


 下等生物にツッコミを入れるのも面倒という辛辣極まりない理由である可能性もなくはないが、賛成していて、ファイに迷惑が掛かるから動かないだけだと仮定して進言してみると、


「他人を頼る時点で弱者ですの。力ある者は自分の手でやりますの」


「ですよねー」


 結局お前がやれと言われてしまった。


 まぁ出来るって言ったのは自分なのですけど。


「その代わりにゴミ一族が潰れたという話は尾ひれを付けて広めてやりますの」


 ……任せた。




「でふふふ……儂は獣人がボロボロになって泣きながら命乞いをする姿を見るのが大好きみゃあ」


「死に晒せえええええええええええええッッ!!!」


「みゃあ!?」


 嫁達(予定)に迫る変態の顔面にドロップキックをお見舞いする。


 吹き飛んだ先にいた護衛達に支えられて転倒を免れた男は、でっぷりとした図体をのたのたと回転させ、こちらを睨みつけ、


「なにするみゃ! 儂をヴュルテンブルク侯爵と知ってのことかみゃ!」


「知るか! 俺は獣人を愛する者! SMと虐待の区別もつかない変態は生きている価値無し! 貴族だろうと王族だろうと神獣だろうと関係ない!」


「いや、神獣も獣人じゃないかみゃ」


 ……たしかに。


「でも獣人だからって同族を虐げて良いわけじゃないだろ。キッチリ叱って、更生させた後で愛でれば良い話だから、やっぱり誰だろうと関係ない。そもそもお前は人間だ。権力にものを言わせて人権を無視するクソだ。死ね」


「更生させる気ゼロみゃ!? 人権も無視してるみゃ!?」


「嫁に手を出されて黙ってるほど俺は優しくない。声を掛けただけでアウトだ。キモいヤツはそれすらも許されないんだ。落とし物拾っただけで気持ち悪がられるし、一緒の当番になったら嘆かれるし、ボーっと見てるだけで通報されるんだ」


「た、大変だみゃ……強く生きるみゃ」


 なんで俺同情されてるんだろ。実体験じゃないのに。お前がそうだって言ってるのに。


 あ、わかったぞ。金持ちは容姿関係ないからだな。擦り寄ってくる連中は権力や金っていう明確な目的があるから本心なんて絶対出さない。だから自分が気持ち悪いってわからないんだ。自覚ゼロなんだ。


 ならコイツにもわかるように言ってやろう。


「気持ち悪いお前に迫られるという精神的苦痛を与えられた嫁達の代わりに、俺がお前に肉体的苦痛を与える。豚のような悲鳴をあげながら臓物をぶちまけて絶命しろ」


「そっちの方が精神的苦痛じゃないかみゃ!?」


「んなわけないだろ。どんだけ自己評価高いんだよ。お前の性癖聞かされながら脳内で汚されるなんて世界中の汚物集めても非じゃねえよ。旦那や親友を金儲けのために殺された挙句、復讐のための資金稼ぎで娼婦になって、客から移された性病で死ぬ間際の美女の悲しみぐらいじゃないと釣り合わないよ」


「興奮するシチュエーションだみゃ」


「「「死ね」」」


 流石に我慢しきれなかったらしく、そこら中から軽蔑と殺意の波動および罵詈雑言が飛んでくる。もちろん俺も口に出した。これ以外の言葉は伏字にしないといけないので語らないでおく。


「じょ、冗談だみゃ。その女が殺し屋を雇わずに直接来て、負けて、悔し涙を流しながら儂に犯されるシチュエーションは大好物だみゃ。でも儂の関与しないところで死ぬのは悲しいみゃ。世界から唯一無二の宝石が消滅するのと同じだみゃ」


「創作物でのみ許されてるものだけどな」


「そ……うだみゃ……」


 冷や汗を垂らしながら目を逸らすデブ。


 やってんのか、オイ。さっさと訂正しないとロア商会とセイルーン王家が全力を挙げて調べるぞ。もう割と黒だぞ。


 性欲と違って悪党の死は自分が関与しないところで起きて欲しいもの。帰り道に魔獣に襲われてもらいたいと願っちゃうぞ。叶っちゃうぞ。



(それはそうと……コイツ、自分で手を下したいタイプっぽいな。なら魔獣に襲われることが前提の地上げ事件には関与していないのか? 男だけを狙って殺せるわけでもないし、復讐に怯えてる感じでもないし)


 男は何とか良い言い訳を捻り出そうと悩んでいるが、こちらもこちらで男の台詞から悪のランク付けをしたいので有難い時間だ。


 おそらく、この男はそこで何が起きているのかは知らず、土地や人材を融通して金だけ受け取った小悪党。しかもこの様子からしてかなりの無能。というかバカ。


 ステーション計画に蔓延る汚職や、あんなゴミのような地上げ方法を思いついた真の悪党を暴くためには、男に協力してもらった方が良さそうだ。


 もちろん協力者じゃなくてこの場限りの情報提供者として。時間が足りなければここに残って仕事をすると言っていたレオ兄達に任せるだけだ。

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