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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十九章 ステーションⅡ

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千二百四十八話 エレベーターの乱2

 運命の悪戯によって長い長いエレベーターの旅を共にすることになった俺達、思春期組。


 ヒカリが駆け上がり選手権で不在の上、ピートとベアトリスという高校からの友人が居るので基礎学校時代の再現とはいかないが、久方ぶりの学友との邂逅には違いない。


 移動手段は同じでも、人混みに紛れたり乗っている車両が違ったりなんやかんや忙しくて会いに行けなかったりと、今の今までロクに話せていなかったのだから、これは紛うことなき偶然の出会い。邂逅だ。


「……本当にこれに乗るの?」


 懐かしさに震える俺とは違い、ファイは目の前にある仮設と言っても差し支えない簡素なエレベーターを怯えた目で見つめ、震え、今更の質問を繰り出してくる。


 エレベーターのドアをドラゴンの口と、入れば死ぬものと思っているような言動だが、気持ちはわかる。鉄格子のエレベーターって怖いよな。


 例えるなら扉が空きっぱなしの観覧車。


 風とかモロに受けるし、その分揺れるし、言っても鉄柱だから折れたらと思うと足がすくむし、そもそも乗り慣れてないのに初めて来た場所で試すようなものじゃない。


 だがやる。


 階段もあるにはあるが遠回りになるし、吹き抜けになっていないので全体を眺めることは出来ないし、後発組のために安全性を示しておく必要もある。


 それが嫌ならヒカリ達みたいに自力で登れって話よ。


「当たり前だろ。大丈夫だって。何かあってもこれだけ強者が居れば何とかなるって」


「ボク等はエレベーターの安全性じゃなくてルークと乗ることの危険性を訴えてるんだけど?」


 複数人を指すその言葉の意味するところは自分自身とアリスだろう。


 シィからは苛立ちと面倒臭さと共にファイを守る強い意志を感じるし、ピートとベアトリスはそこまで疑心暗鬼になる理由がわからずに戸惑っている。


「文句は迷惑掛けられてから言え。もちろん俺が引き金になったやつだけな。俺が原因で起きたトラブルに巻き込まれても面白さが勝ったらダメだぞ。あとエレベーター限定だから。降りたら終わりだから。お兄さんとの約束だ」


「幾重にも保険を掛けたね」


「今ファイがするべきことはツッコミじゃない。俺とエレベーターに乗るのか乗らないのかの選択だ」


「…………」


「沈黙は肯定と見なすぞ。後がつかえてるんだ。あまり時間を取るな」


「わかったよ、乗るよ……どうせ乗らないを選んでも無理矢理乗せるんだ。トラブルが起きたらここで使った時間のせいだとか言って責任転嫁するんだ。最初から文句受け付ける気ないんだ」


 流石親友。わかってるじゃないか。


 ちなみにそういうのも含めて風評被害だ。俺が原因じゃないのに俺のせいにされている案件は結構ある。何も起きないことだってある……はず。ちょっと思い出せないけどたぶんある。大体は巻き込まれてるだけ。




「……ひとまず大丈夫そうだね」


「ですわね」


 恐る恐るエレベーターに乗ったファイとアリスは、開閉用の2つのボタンと目的地別の5つのボタンを手慣れた様子で操作する俺の姿と、その数秒後に見た目に反して静かにスムーズに何事もなく上昇し始めたことに安堵し、胸をなでおろした。


 失礼な話だ。


 このエレベーター自体は俺や知人の作品ではないが、仕組みを作ったのは俺で、彼等もそれを知っているのだから、ある意味俺も製作者同然。


 そんな人間の前でその反応は如何なものだろう。


「てか何がそんなに怖いんだよ。乗ったら異国や異世界に飛ばされるとでも思ったのか? そんな経験俺だって一度しかないぞ」


「一度でもあったらダメでしょ」


「まったく……これだから常識にとらわれた人間は困る。気付いてないだけで実は結構あるかもしれないじゃないか。記憶の整理とか言われてる夢だって、寝てる間に意識だけ別世界に飛ばされて、そこで体験したことかもしれない。

 それとも何か? お前はそんなことはないって根拠を示せるのか? 示せないだろ? 可能性はあるだろ?」


「そうだけど、それを怖がることとはまた別の問題だよね?」


 ごもっとも。


 冷静に対応出来るなら良いんだ。大事なのは平常運転すること。俺もそれを見極めるために意見したみたいなところある。


 なにせ、積載量ギリギリなので途中で止められたとしても他者が乗り込んで来ることはないし、貨物用と違って緊急を要することもないので譲れと宣うバカも居ない。トラブルが起きるとしたら到着後だ。


 結果がわかるのは3分後。


 トラブルが起きるかどうかも定かではなく、何が起きるかもわからないことを気にするなんて時間の無駄。人生においては大きな損失だ。


 というわけで、当初の予定通り、車両基地トークで有意義な時間を過ごさせていただこう。知識を身につけるお勉強タイムだ。



「ところであのリニアはどうするんだい? 超加速しか出来ないなら王都に停まるのも難しくない?」


 と思っていたら、余裕が生まれたからか、ファイが徐々に小さくなるリニアに目を向けて尋ねてきた。


 自分から質問出来るのは優秀な生徒の証。先生は嬉しいです。


「どうするも何もあれは俺達が帰るまであのままだぞ。王都もヨシュアもリニア乗り場が工事中だからな。言ってなかったっけ?」


「それは聞いた。ボクが尋ねてるのはこの基地の存在意義だよ」


「あ~そっちか」


 俺達の車両では説明したことだがもう一度やっておくか。


「ファイの言う通り、初速で最高速近くに達するリニアは10kmなんて短い距離で停まるのは無理だ。だからここを利用した場合は、ヨシュアに引き返すか、王都の向こう側まで行く。王都には停まらない」


 大きな声では言えないが、整備したばかりの車両を国の中心で試運転するわけにもいかない。リニア乗り場が微妙に町から外れてるのもそのためだ。


 ちなみに、リニアも列車も整備後はヨシュア方面に進むことになっているのだが、その理由の1つにロア商会があるからという噂があったりなかったり。


 技術目当てか、強者目当てか、その両方かはわからない。


「あ、引き返したり出来るんだ? ボクはてっきりその方向転換をこの車両基地でおこなうものだとばかり」


「もちろんそれも出来なくはないけどな。いくらリニアが環状線を前進するからって、路線の事故とかでバック走行が必要になる時もあるだろ。その時のために後方車両を前にする機能はつけてるんだ」


「帰路は座席とかモニターとかどうしてるのさ? 逆だろ?」


「客車として使わないから問題ない。こんな使い方をするのも各駅が完成してない今だけ。特別中の特別を堪能しろ」


「あまり嬉しくない特別だけどね」


 帰路の乗り心地の悪さを想像したのだろう。


 ファイは苦笑しながら話は終わりと言わんばかりに眼下に広がる車両基地に目をやり、すぐにこちらに戻して、それ等の説明を求めるような空気を醸し出した。



「実はここに至るまでにひと悶着あったがなかった」


「意味がわからないね」


「だろうな」


 ただ間違ってはいない。説明不足なだけだ。


「自然に形成されたこの洞窟って、下の階層は高低差も曲がりくねりもほとんどない車道が整備された大平原みたいな造りで、上は立体交差が出来そうなほど高低差があったり急なカーブが連続してたり必要に応じて埋め立てなきゃならない、まるで別人が作ったみたいに真逆の造りをしてるんだ」


「みたいだね」


 丁度、上……鉄道の階層に差し掛かったエレベーターから見える光景に、ファイは俺の説明が正しいことを認めて頷く。


「で、その階層は一切繋がってなくて、上下での交差や並走することも少ないから、例え大規模施設だろうと両者を同じ場所で管理するのは難しい。おのずと建設場所は限られる。

 それが手間暇に見合わなかったらリニアと鉄道は別々で管理してただろうけど、数少ない選択肢にあった場所は、開拓のしやすさ・土地の強度・輸送の利便性などなど、一切問題のない最適な土地だった」


「それがこの車両基地だと」


「そゆこと。下の階層をリニア専用にしたセイルーン王国はこの1ヶ所だけだけど、リニアを運行しない他国ではその階層を特急列車用にするらしくて、狙ったかのように国境間際にある交差地点をどう使うか、貨車・客車・混合列車で入国審査をどうするかとか、一時下車するか乗り換えさせるかとか、色々話し合ってるみたいだぞ。移動時間が何倍も掛かる代わりに本数を多くするのは決定みたいだけど」


「「「へぇ~」」」


 まぁそれは政治家の皆さんが頑張ることだ。


 俺達はやりたいようにやる。

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