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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十九章 ステーションⅡ

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千二百四十六話 車両基地の乱

 キィィィッ――。


 絶賛製造中の各企業の摩擦を利用してブレーキをかける列車ならそのような音が鳴るだろうが、運動エネルギーの消失というプラズマならではの力で停まるリニアモーターカーは、音もなく大地に降り立つ。


 体感もない。


 気が付いたら重力から解放されていて、いつの間にか戻っている。


 そんな感じだ。


「魔力を切った時の感覚に近いですね~」


 毎度お馴染みとなった停車時の乗客のリアクションに満足しつつ語っていると、またもやユキから補足という名の簡略化がおこなわれた。


 当然すぐさま言い返す。


「だから身近なものでわかりやすく例えるのはやめろと何度言えばわかる。それをこんな大規模でするのがスゲェんだろうが」


「え? なんでおこってるの? ユキさんはほめてるんでしょ?」


 周囲に訴えるように言ったこともあり、荷物を何一つ持たずドアに向かっていたイヨが通り掛かりに反応した。


 興味深い意見だ。


「だって魔力ってわかんないじゃない。心と同じぐらい未知じゃない。それに似たものを作ったルークたちはスゴイって言ってるんじゃないの?」


「た、たしかに!」


「あ、いえ、私は感じたままに発言しただけですよ。そんな立派な考えは一切ありません。少しでも皆さんに伝われば良いな~とは思いましたけど、ドヤ顔で語っているルークさんをからかう方がメインです」


 そこは子供ならではの観点ってことにしとけよ。共感した俺も、肯定的に受け止めてくれたイヨも、お前自身も、誰も得してねえよ。世の中には明かさない方が良いこともあるよ。


 兎にも角にも、時速200kmで走る鉄の箱の運動エネルギーを一瞬でゼロにするこの技術は凄いのだ。未知を再現した俺達も凄いのだ。人体錬成や人工授精に成功したようなものなのだ。


「まぁもう二度と再現出来ないんですけどね~」


 やーめーろーよー。意識したら悲しくなるじゃねえか。


 良いんだよ。プラズマは役目を終えたんだよ。俺達も、プラズマが世の理として当たり前になった1000年後の世界に、『超えられるもんなら超えてみろ』ってメッセージを残せたから満足だよ。RPGで言うならエンディングなんだよ。


 ま、人生はゲームと違って死ぬまで終わらないけどな。


 次の課題なり騒動なり人間関係が発生して、努力したり苦労したり楽しんだり悲しんだりするだけ。得ようが失おうがイベントは容赦なく無数に同時進行し続ける。


 それが人生だ。




「「「おおお~~っ」」」


 王都から10kmほど離れた土地にある車両基地。


 その最下層に降り立った俺達は、線路上に停まっているリニアという世にも珍しい光景にそこそこ感動し、何の変哲もない洞窟の壁面にある唯一の違和感、物資搬入用の巨大門がズゴゴッと開いたことにだいぶ感動し、地上まで吹き抜けになっているその空間で慌ただしく動き回っている作業員や機器の数々に大いに感動した。


 つまり俺達のテンションはリニア乗車時に負けないほど急上昇した。


 何もかもが建築途中だがむしろそれが良かったりする。トラブル時に普段入れない場所を通って脱出するようなワクワク感がある。特別感半端ない。


「ねえねえっ、あれは何してるの!」


「凄く……大きい……」


 ほらな。


「はぁ~、人間ってここまで自然を蔑ろに出来るんですね~」


「うるさ~い。変なニオイがする~」


 …………。


「この調子だと建築期間は……になるから費用が……」


「最近、魔獣の被害が多発しているという話も……」


 ………………。


 ま、まぁそれはそれとして王都に移動だ。今の俺達は物資輸送に同行したただの一般人。長居したら迷惑になる。興味津々なのはわかるが我慢してもらおう。


 だから大人達。旅先にまで仕事を持ち込むな。視察したいなら今度やれ。


「あれ? 言ってなかったっけ? 僕等はここで少しやることがあるから遅れて合流するんだよ」


 俺の顔色から言おうとしていることを察したレオ兄は、工事現場から視線を外して、初出しの情報を公開。その直後、貴族やそういった作業に詳しい数人がカバンから資料らしきものを取り出し、自分もそうだとアピールしてきた。


「別にそれは良いよ。今やんなって話。そういう顔は俺達と別れてからにしろ」


「たしかに。それはそうだね」


 さして悪びれた様子もなく苦笑したレオ兄は、社会人然とした気難しい顔をやめて息子&兄&父親の顔に戻り、旅行で浮かれる一同に溶け込んだ。


 資料を取り出してやる気満々だった連中もそれに続く。


「と言ってもあとは地上まで直通のエレベーターに乗るだけなんだけどな」


「そうだね」


 再び苦笑したレオ兄は、壁面に沿って動くエレベーターの中から見事人間用を見抜き、乗り場へ移動。こちらに向かっている箱の前で待機した。



「第十二回『駆け上がり選手権』を開催しますよーーッ!!」


 待ち始めて5秒も経たない内にユキが叫んだ。


 わかりきっていたことだが彼女は何もしない待ち時間が苦手らしい。


 誰かが何かを話していたら違う展開になっていたのかもしれないが、エレベーターの待ち時間とか今いる階層を示すランプをボーっと見るし、エスカレーターに乗ってる時も移り変わる景色ボーっと眺めるじゃん。


 全員それになってたから無理よ。


「ルールは至ってシンプル! 自力で、誰よりも早く、周りに迷惑を掛けないように、このエレベーターの到着地点に辿り着くこと! 1位の人はこの旅行中の食費が無料になります! エレベーターより遅かったら罰ゲーム!」


 その大声と勢いが迷惑以外の何物でもないのだが、地下鉄の階層辺りを動いている鉄の箱は8人も乗れば定員オーバーになりそうなほど小さく、これだけの人数……しかも多少なりとも荷物を持ってかさ増しされた質量が移動するためには何往復もする必要があるので、別の移動方法を用いる点においては賛成だ。


 しっかり周りに迷惑を掛けないことを条件に入れているし、修行と考えれば悪くないやり方だと思う。


 日本で言うなら、影を踏まずに歩くとか、階段でやるグリコ(ジャンケンで勝った手に応じて歩を進める遊び)とか、石を蹴りながら帰宅するとかがそれだ。


「参加する人はこの指とまれ!」


「「「はいはいはい!!」」」


 腕に覚えのある者達は当然のように参加を希望した。


 俺は……どうしようかな。


 このメンツに勝てるとは思わないけど、素人の中では凄いってところを見せたい気持ちもあるし、知り合いだけの大会に参加したい気持ちもあるし、獣人が全員参加するなら触れ合う機会多そうだし、落っこちたところを助けたら好感度爆上がりだし、最近運動不足だったので体を動かしたい気持ちはある。


 金には困っていないが万が一1位になれたら嬉しいし、自慢出来るし、奢ってやれば好感度上がるし、鳳凰山で判明したけど結構こういうの得意っていうか割と自信ある。


 あとレオ兄達ほど真剣ではないがこの施設が気にならないと言えば嘘になる。エレベーターに乗っているだけでは見れない・気付けないことも多いだろう。


「それ参加しないって選択肢ある?」


「ない」


 俺はヒカリの隣から手を伸ばし、幾重にも重なった手の上に自分の手を重ねた。


「あ、ごめんなさ~い。参加上限になったので締め切っちゃいました~」


「そ、そっか……まぁ仕方ないな。飛んだり跳ねたりするスペースって限られてるしな。ここの人達に迷惑掛けないことが大前提だしな。うん。仕方ない仕方ない。大丈夫全然気にしてないから。楽しんでくれよ。応援してるぞ」


 ……ぴえん。

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