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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十九章 ステーションⅡ

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千二百四十四話 リニアの乱

「かしきりでしょ! なんで遅られ、遅らさせれ、遅せら……ないのよ!」


「そーだよ! そうとわかってたらもっと早くに来てたよ!」


「ぶすぅぅ~~」


 いくら貸し切りとは言え運行計画に影響が出るほど好き勝手にして良いわけもなく、未完成の駅や初めて見るリニアモーターカーに夢中になっていた子供達(と一部の大人)の説得に『置いてけぼり』という有無を言わさぬ最強カードを切って連行したのだが、当然のように一同は不貞腐れ、


『皆様、本日はリニアモーターカーをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。目的地セイルーン王都までの移動時間は出発後2時間50分を予定しております。座席にお座りになり、今しばらくお待ちください』


「「「ふあっ!?」」」


 アナウンスを聞いた瞬間にその怒りを忘れた。


 ニワトリは3歩歩いたら忘れるというが、人間は何かしら情報を入れたら忘れる生き物らしい。どちらが馬鹿かは意見の分かれるところだろう。


 俺はどっちもだと思う。


 まぁだからこそ楽しい人生を送れるってことで。


「ケータイはマナーモード! 周りのお客様のご迷惑とならないように!」


「タバコは喫煙ルーム! 4号車と8号車にございます!」


 ただでさえ社員旅行というイベントにウキウキしていた子供達は、元々あるかも怪しい恥や外聞をさらに無くし、アナウンスを繰り返して何が面白いのかその都度爆笑している。


 絶対人生楽しんでる。楽しみ過ぎていて時々不安になるのは俺だけではないはず。周りに迷惑掛けないかとか、その気持ちを失った時にどうなるかとか。


(あ~、なるほど、これが父性か……)


 と、1人で納得しながら、楽しそうにはしゃぐ子供達を見てニッコリ。


(ロリコンと紙一重ですけどね~)


(紙一重だろうと正義は正義だ。そうやって何でも悪い方向に捉えるのは悪しき風習だぞ。人間の弱さでもあるな)


 ちなみに正義の反対は悪ではなく『弱さ』だ。


 主張できない弱さ。納得させられない弱さ。正義を貫けない弱さ。それを力で押し込めたり見下したりすることで自分が正しいように錯覚するのもまた弱さ。


 面倒なのは今のユキのように無関係な第三者として口を出してきた場合。


 押し付けるわけでも見下すわけでもなく、何なら善悪や是非の判断すら他者に委ね、事の成り行きを見守って楽しんでいる厄介者はどうしたものか……。


(無視して話を進めれば良いのですよ。まだ何かをしたわけではありません。貶められた場合のみ抗えば良いのです)


(でもそれだと面白くないじゃん)


(……そうですね)


 まぁここはフィーネ大先生の意見に従っておこう。名も実も楽しさも得るなんて所詮は夢物語よ。



「試乗会の乗客は大人しかったんだけどな~」


 試乗会の時とは微妙に違うアナウンスは続き、子供達のテンションに引っ張られたのか無理矢理誘われたのか大人達もはしゃぎ出し、収拾がつかない状態に。


 次はどんな注意事項が飛び出すのかでクイズを始めた一同を目の当たりにして、思わず溜息交じりの批難めいた声が出る。身内だけでなければ許されないノリだ。


「それは歴史的大イベントかつ知らない人だらけだったからだニャ。取材陣の居ない身内だけの移動ならこんなものじゃない?」


 背後からユチの指摘が届く。


 旅行の醍醐味の1つ『あらぬ方向から話し掛けられる』だ。


 彼女達も俺達と同じく席の向きを変えて4人席にしているので、今彼女は背もたれにのしかかるように身を乗り出している。萌えだ。思春期の男子がこれをやられたら90%惚れる。バレンタインやクリスマスなどのイベント日の遊びの誘い99%、ボディタッチ95%、調理実習に試食をお願いされる92%に次ぐ惚れポイントだ。


 裏ルート『ふとした瞬間に下着のチラ見え100%』を除けば、な。


 あれはダメだ。惚れる惚れない以前に意識してしまう。例えパッとしない女子だろうと500%増しで美化される。むしろ「コイツなら行けるんじゃね?」と自己評価激高でお手軽感覚で挑戦してしまう。中学生男子なんて性を発散出来れば何でも良いのだ。胸と尻を揉みたいだけのケダモノなのだ。


 結局告白せずに「いや~あの時行けたな~」とモテ自慢にするまでがデフォ。


「こいつ等は取材陣しか乗ってなくても騒いでたくね?」


「否定はしないニャ」


 今でこそ冷静だが、乗車前に工事現場で誰よりも熱心に聞き込み調査をしたり提案していたのは彼女だ。生まれついての金儲けの精神が刺激されたのだろう。


「な~に他人事みたいに言ってるのよ。昔、アクアに旅行した時、ルークも似たような感じだったわよ。忘れたの?」


 そんな俺達の会話を聞きつけた母さんが、通路を挟んだ向こう側から指摘を入れてくる。父さんとマリクとエルのTHEオルブライト席だ。


 ちなみにユチはヒカリ・ニーナ・リリで猫の手食堂構成。


 背後から感じる猫の波動にノックダウン寸前です。口に出したら空いている席に移動されるので素知らぬ顔をしています。頑張っています。


「魔力を授かってハッスルしてた頃だから仕方ないだろ。人生初の家族旅行だったし。酒が飲めるようになったばっかのヤツぐらい浮かれてたんだ。多少の好き勝手は許されて然るべきだ」


「社員旅行で大勢の知り合いと1000年祭に参加っていうのも負けず劣らずじゃない?」


 それは言わないお約束。




「ひま~」


「飽きた~」


「退屈~」


「ったく……んじゃあ地下鉄の説明してやるからこっち来い」


 いくら画期的でも所詮は高速移動する鉄の箱(とは違うがわかりやすい表現として使わせていただく)だ。見る分には楽しいが中の者達からしたら苦痛だ。


 イベントを早めるより知識を付けさせた方が将来の役に立つ……かどうかは知らないが個人的にやりたいので、俺は発車数十分で暇を持て余した少女達を集めた。


「その情報、各車両に居る皆さんに共有します~?」


「どうしたんだ!? 風邪か!?」


 わかりやすく説明するべく件のブラインド型タッチパネルを利用しようとしていると、ユキが協力を申し出てきた。


 もちろんそんな機能はこの魔道具には備わっていない。彼女の力で今だけ実現する夢の講座だ。役に立とうとしている。驚愕以外の感情が出てこない。


「いえいえ、フィーネさんの邪魔をしたかっただけで他意はありませんよ~。先手必勝。やったもん勝ち。後出しジャンケンは負け~」


「他意しかありませんね」


 いつも通りだった。


 まぁ助かるけど。


 あとフィーネとのゴタゴタはそっちで解決してくれよ。活躍の場を奪われてイラっとしてるじゃん。俺の隣っていう特等席も奪われて倍賭けドーン。



「まず現在決まっている便の運行計画な。ダイヤグラムはこんな感じで――」


 交代でやるという見事な落としどころを見つけて数秒。俺は安堵して窓のブラインドを下ろして線図を描いていく。


 するとそれを見た少女達の顔が固まる。


 ルイーズはまだマシだ。その隣、俺の正面に座っているイヨと、その後ろから先程のユチのように顔を出しているチコココンビは完全に無だ。授業で脳が理解を拒む問題が出てきた時の顔だ。数学の文章問題とか。


「ルークはいじめっ子。わたし達が求めてるのは専門知識じゃなくて知り合いに話せる豆知識。見てて楽しい図形。もっとわかりやすい話して」


「そんなことはわかってるよ。これを理解しろなんて言ってないだろ。俺はお前等がわからないことをわかってた。もうちょっと待ってろ」


 注意してきたニーナがどちら側の存在かは今更言うまでもないだろう。完全に理解した上で子供達を思ってのことだったら俺は主人公の座を下りる。


「で、ここに描かれた便が、トラブルなく動けばこうなる」


「「「お~っ」」」


 図面にカラフルな線がいくつも引かれると、子供達にもなんとなく伝わったらしく、感嘆の声が漏れ始めた。


「立体図にします~?」


「……頼む」


 ユキが有能過ぎて怖い。


 が、有難いことは間違いないので俺はその戦慄を心の奥底に仕舞い、鉄道の下にリニアの路線を描いていく。


「リニアの運行計画としては王国中を3日掛けてグルッと1周。都市や観光名所、あるいはそれ等に成り得る場所が停車駅になる。そこから太陽マークみたいに急行や特急の線路が各地に広がっていく。環状線は鉄道もあるぞ」


「つながった!」


「上と下もぶつかってる!」


「そう。このぶつかったところがメインのステーション。今後大きくなる予定の土地だ。リニアの乗り場と鉄道の乗り場があるから駅も大きくなる。当然人や物資も集まりやすくなる。もちろんやり過ぎは禁物。

 例えば水の都アクア。あそこは観光名所だけど、船や陸路、飛行船と各種交通手段が整ってるから、塩の流通に影響のない程度に特急を週に数本、近くの町まで出すだけで留める予定だ。今あるもので何とかなるならそれでやるべきだからな」


 便利になり過ぎるというのも考え物なんですわ。


「「「なるほど~」」」


 わかってもらえたようで何より。

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