千二百四十二話 可能性
「ふぅ……」
イブ達に遅れること20分。
体内とは別のところにあるエネルギーを感じられなくなり、それを終了の合図と受け取った俺は、達成感と若干の寂しさを入り混じらせた溜息を吐き出した。
長い付き合いだったわけでもない。
絶対に必要だったわけでもない。
ただ俺達が未知を求めたいから求めて、努力して、成果と引き換えに唯一無二の力を失っただけ。他に使い道もなかった。すべては最初から決まっていたことだ。
しかし悲しいものは悲しい。
「ライトニングボルトを放てる機会が永遠に失われたってことだもんな……」
「痛々しい遊びをするために貴重な力を使うんじゃない」
女性陣が首を傾げる中、唯一俺の言っていることを理解したコーネルが的確なツッコミを入れてくれる。
やはり『プラズマを攻撃に利用するとしたらどんなのが良い?』という、子供心を忘れない大人から子供まで幅広く使えるトークテーマで語らった相手は違う。
中二力(想像力)の足りないコーネルはそんなもしもトークでも実現可能な範囲で考えて、共感もしてもらえなかったが、伝わりはしたようなので良しとしよう。
神速の雷撃で敵を貫くサンダーボルトも捨てがたいが、一度やったことのある技より新技の方がテンションは上がるので、俺が目指すのは天空から無数に降り注ぎ大地を雷の海に変える広範囲殲滅魔術。攻撃終了後にバチバチなってたら最高。発生は魔法陣か雷雲か異空間からドビャーか悩むところだ。
使ってみて決めようと思っていたのだが、その機会がたった今無くなった。手が届きかけた夢が潰えた。悲しいじゃないか。
「その貴重を当たり前にするのが探究心であり研究者の使命だろ。リニアを作らずにプラズマを世の理にするために頑張ってたら、もしかしたら引力への理解が進んで、1000年後じゃなくても普通に使えるようになってたかもしれないじゃん」
あの時、神様が無理と断言していなければ、あったかもしれない未来だ。
つまりこの状況は神様のお陰でもあり神様のせいでもある。
まぁもしもの世界のことなんて誰にもわからないんだから、絶対に受け入れられないこと以外は満足と言うしかないんだけどさ。
(……いや、1人居たな)
俺の脳内に、常に目を瞑っていて心の目しか使わず、世界から認識されず、実力はないが強者感しかない、すべてを見通す女性の姿が思い浮かぶ。
イズラーイール=ヤハウェ。
あの人ならプラズマを別のことに利用していた世界がわかるかもしれない。
(おっと、そこまでです。それ以上神の領域に踏み込むなら容赦しませんよ~。私の決定は絶対。私が白と言えば黒い物も白くなるのがアルディアという世界です。疑ってはいけません。過ぎたことをゴチャゴチャ言っても仕方ないでしょ~)
(わかってますよ。言って……じゃなくて思ってみただけです)
突然の神からの圧に屈したわけではない。
過去の選択を悔いても仕方ないという意見に同意しただけだ。
知ったところでどうにもならない。むしろ羨ましくなるかもしれない。そんなことを望むのはNTR願望のあるヤツだけだ。俺は『今』で良い。
(知ろうとするのを止めたってことは成功してたってことだけどなぁ~)
(ちち、違いますぅー。別の世界線を見られるとこっちとしても色々困るんですぅー。あの人は言っても聞かないので諦めてるだけで基本ダメなんですぅー)
と、言いたいことだけ言って、神様はそれ以上の追及を避けるように姿を消した。
もしかしたら本当にプラズマの使い道はリニア以外にもあったのかもしれないが、真実は闇の中だ。探究するつもりもない。
「質問があるのですが、あたし達のプラズマ付与の量や質、速度は何の差なんですか?」
疲れていないが、なんとなく気分的にレール(リニアの方は回路のようなものなのでこの表現が正しいかは微妙なところだが)の上に座り込むと、しばし休憩と捉えたパスカルが、その詳細を知っているであろうユキ達に尋ねた。
取り返しのつかないことは無視するが、未来への投資というなら話は変わってくる……のは俺以外の連中だけ。
特殊五行の力を代償にしてプラズマを引き出した3人とは別の、神力という俺にしか出来ないやり方で引き出したせいという事実は、知られるわけにはいかない。
「もちろん適性ですよ~。特殊五行との相性はもちろん、それを引力……あ、重力とは別の異空間からプラズマを引き出す力に変換したり、引き出したプラズマを如何に上手に付与するかだったり、色々関係してるんですよ~」
ナイスだ、ユキ。
木を隠すなら森の中。事実の中にひと匙の嘘を混ぜることで完全犯罪が可能となる。習得こそ出来なかったが器になった俺の適性が高くても自然。これは騙せる。
実際パスカルも納得したような空気を出している。
ワースト争いをしていたコーネルと共に不服そうな顔ではあるが、そこは問題ではない。大切なのは矛先がこちらに向かないことだ。
ちなみにトップは俺の5万7000Pで、2位がイブの5万3900P、コーネルが3万9800P、パスカルが3万9700Pだった。
俺は言うまでもないがイブが凄い。ダブルスコアだ。伊達に二属性習得していない。それでいて終わるのは一番だった。俺達が蛇口だとしたら彼女は滝。いつの間にか誰よりも使いこなしている。
それはそうと――。
「もしかしてお前等って『引力』を、世界の核や異空間からエネルギーを引き出すための力みたいな意味合いで使ったりするのか? てかそのための力が引力か?」
「ぴゅふゅひ~♪」
下手なのか上手いのか評価に困る口笛が響く。
つまりそういうことだ。
早々に世界の核=プラズマに気付いて、プラズマをリニアではなく引力の研究に使っていれば、俺は今頃ライトニングボルトを乱発出来ていたかもしれない。
世界の理を変えるまではいかずとも、特異点としてプラズマ引き出し放題の肉体を手に入れていたかもしれない。
(まぁ99.99%死にますけどね~。生き残っても人間ではなくなりますし~。神獣として人間の何十倍もの出会いと別れを経験する人生の幕開けです~)
(センキュー神様。止めてくれてありがとう。導いてくれてありがとう)
俺は100年足らずの人生が良い。
前世を経験したというのも大きいだろうが、短すぎず長すぎず丁度良い時間だと思う。極められないけど頑張る価値はある。そんな絶妙なバランスだ。
「……ふふっ」
「ん? どうしたフィーネ?」
「いいえ、何でもありません。それよりもう馴染んでいるはずですよ。早速動かしてみましょう。本日はそのために知り合いの皆さんをお呼びしたのでしょう」
何かに堪えきれずに漏らしたような不思議な笑いを見せたフィーネに注目するも、彼女はすぐにいつもの微笑に戻ってそれ以上の追及を拒絶。話を進めた。
「……うっす」
気になりはするが、こうなってはテコでも動かないことを知っている&話術で勝てないことは理解しているので、俺はその強引なドリブルに付き合うことに。
これからおこなうのはリニア完成記念の貸し切り運行。
事故上等のイカれた野郎共が集うパーリーナイツの始まりだ。
「事故はダメ。体は平気でも私達のプライドが傷付く。このリニアモーターカーは完成品。失敗は許されない」
「わ、わかってるよ。冗談だって。成功すると思ってるからこそのやつだって。テスト勉強メチャクチャ頑張ったヤツがいう『全然自信ないわ~』のやつだって」
「……? なにそれ?」
初耳のあるあるネタに首を傾げるイブ。
そりゃそうか。王女相手にマウント取るバカなんて居るわけがない。やるとしても「この分野得意です! 自信あります!」と好感度目的でアピールだ。
「僕は聞いたことぐらいあるが」
「あたしもあります」
……ただ単にイブが周りに目を向けていないだけだった。




