千二百四十一話 ラストプラズマ
リニア試乗会から1ヶ月が過ぎた。
その間に三度おこなわれた試運転も無事成功。ヨシュア-王都間に次ぐ王都-デメトレ(ヨシュアとは反対側の都市だ)間でも成功したことで、運営会社からは早く運行させてくれと言われるまでになっていた。
つまり現状の充電式は完璧。
あとは動力を自動循環するようにすれば、俺達4人が全力でプラズマを付与すれば、俺達のリニア計画は終了を迎える。
失敗? するわけないじゃないか。何のために1ヶ月も掛けたと思ってるんだ。リニアとプラズマの研究に費やした時間と労力を侮らないでくれ。引力やプラズマタイトの謎を解明することは叶わなかったが、自然界の仕組みに『器』を入れ込むことぐらい訳はない。
このリニアはもはや動く大地だ。
「さて……いっちょ派手にやるか!!」
俺はそれなりに形になった乗り場で、支配者面で鎮座しているリニアモーターカーと対峙し、最終工程を共にする仲間達に合図を送る。
「ああ」
「任せてください」
「頑張る」
コーネル・パスカル・イブの3名は、俺の声に応えて各々にやる気を見せつつ、力が干渉しないように離れて瞑想したりボーっとしたり。開始の合図を待つ。
ぶっちゃけ合わせる意味はない。気分だ。しかし大事なものだ。
で、気分という点において最も左右すると言っても過言ではない周囲環境だが、乗り場の奥または上、具体的に言うなら駅は……まぁ察してくれ。鉄道よりは進んでいる。あっちは乗り場どころか車体製作も洞窟整備もまだまだだ。
こちらが先に抑えていたせいで資材や人材が自由にならなかったり、運行出来なければ意味がないと各町の準備が整うまで待っていたり、慎重派の貴族が足並みを揃えられなかったり、鉄道会議の段階では多くの企業が理論しかなくある程度目途が立つまで着工出来なかったり、その内容に感銘を受けて迷走したり、仕方のないものから自業自得のものまで理由は様々。
理論だけ? ガッツ達はユキが提案した冷却動力の製作に失敗したのか?
いやいや、成功している。しているからこそ頓挫したのだ。
熱気と冷気を利用するあの仕組みが気候の影響を受けることは作る前からわかっていたのだが、その影響および調整難易度は俺達の想定を遥かに上回った。
予定通り会議で発表、絶賛され、手軽に試せる難易度だったこともあり多くの国や企業がこれで行こうとなったのだが、実際に動かしてみたところ熱帯・寒冷地方から「言われた通り術式を組み直したが動かない」との連絡が。
地上ほど気候の影響を受けない地下なら……いや地下だからこそ自然界+αの調整が必要だったことが判明し、気候の変化で動かなくなるなら無意味がないということで、ユキの冷却動力は安定した気候でのみ採用されることになった。
もちろんそれもテストの話。実際にどうなるかは1年通して運行してみて決まる。その間に画期的な仕組みを作れるかもしれないしな。
それ以外の地域や遠距離移動する列車には、環境に左右されないものを運行することになり、今は各社がその製造を頑張っているところだ。
まぁ良い落としどころだと思う。
独占いくない。
逆に、市場独占を目論んでいたかもしれない中央交通開発から何か言われるかと思ったけど、そんなことはなかったぜ。
ま、一部とは言え採用はされてるしな。例えテストに落ちたとしても不合格を言い渡されるまでは国家事業の第一線で活躍出来る。注目される。十分だろう。
「すぅ……はぁ……ふッ!!」
黒と銀というシックなカラーの車体の内側。無数に連結されて遠くから見れば模様のようになった青色に輝くプラズマタイトの1つに手を添え、すっかり慣れた感覚で異世界の力を引き出す。
これまでも最大出力を出したことは何度もある。
しかし今回はすべてを絞り出す。
最初はいつも通り緩やかに、徐々に激しくしていき、普段ならエネルギー切れでしぼんでいく光をそのまま維持。
「う、お、おおおぉぉーー!!」
これまで越えなかった一線を越えるべく気合を入れて叫ぶ。
「うるさい。黙れ。邪魔だ」
隣で付与を頑張っているコーネルから文句が飛んでくる。どうやら彼はこういう時にグッと踏ん張るタイプのようだ。
しかしそれを他人に強要するのは如何なものか。
すかさず言い返す。
「え~、俺なりに全力を出してる感を演出したんだけど~」
「演出と言っている時点でアウトだ。残された力をすべて使い切る意志さえあれば際限なく引き出されるものだろう。大人しく集中しておけ」
「むしろ叫ぶことで出力を低下させるまでありますね」
「いやいや、何をおっしゃいますやら、パスカルさんよ。ドッバドバよ。なんかもう俺1人で良いんじゃないかってぐらいの量と質のプラズマが流れ込んでるよ」
「え~、今のところ一番多いのはイブさんの1万2500Pですね~。ちなみにこの『P』はプラズマとポイントを掛けたもので量と質の総合値となっています。今思いつきました。次がパスカルさんの9600Pで、その次がコーネルさんの9000P、だいぶ離れてルークさんの――」
「おっしゃああ!! まだまだいけるぜぇぇ!! 後半追い上げ型の実力を見せてやるからなぁぁ!!」
「だから叫ぶな……」
3000P近く離れても付かなかった『だいぶ離れて』が俺にだけ付いた。
つまり俺のPは……い、いや、大丈夫、実はそんなに引き出されてる感じしなかったし。ちょっと誇張しただけ。普段より付与出来ないことを不思議がってたっていうか、詰め込むのに違和感を抱いてたっていうか、大雑把な作業苦手っていうか、細かい作業は得意だからお前等が埋められなかったところ任せてくれって感じよ。
「ルーク様。お気になさらずに。ユキのいつもの冗談ですので。実際はイブさんに負けず劣らずの1万2200Pです」
「だよなー。俺もそう思ってたんだよ」
でもちょっと集中したいから黙るね。
競うようなもんでもないけどやっぱ一番を目指すのって楽しいしさ。
(その精神、最近の地球の人にはないものですね~)
くっ、流石神様。絶妙な話題を振ってきやがる。
これはスポ根について語らざるを得ない。
(語りたくて振ったクセに~)
ふっ……やはり神はすべてお見通しというわけか……。
敵わねえな。
(友情・努力・勝利って感動の三原則だと思いません?)
(思うどころか実際そうですよ~。心を動かされるものに憧れないわけがないですし、出来ることならやりたいと思います。実際やって出来たら嬉しいです)
しかし最近は時代錯誤とバカにされるようになった。
おかしくない?
別に良いよ。他のもので感動するっていうなら。
ただそれが何か教えてくれよ。
天才が努力せずに勝利する物語で泣けるのか? 弱小高校が友情の大切さを知っただけで強くなって、でも一番じゃなくて良いからと手を抜いて、号泣するのか?
科学の発達によって判明した人体に悪影響なことを禁止したり、教育上よくない鬼コーチや体罰を禁止するのは良いよ。
でも気持ちまで萎えさせるのは違うじゃん。
頑張って成功したら感動。失敗しても涙を流す。
そういう心まで失わせる意味がわかんねえよ。
(いくら気持ちを表に出すのが恥ずかしい風潮だからって、世間の目を気にして泣いたり笑ったり出来ないのは、単純に熱意が足りないからでしょ? 本当に頑張ってたらそんなものなんか気にせず感情的になるはずでしょ?)
(ごもっとも!)
人体に悪い? 間違った指導方法?
頑張らないための言い訳じゃないのか?
感動出来ない自分を認めないための責任転嫁じゃないのか?
(そもそも詳しくなったのなら、効率的になったのなら、もっとたくさんのことが出来るようになるはずですよね~。肉体には限界ありますけど脳にはないんですから)
(それな)
多方面に手を出してそこで得た力を他で活かす。
何故それをしない? 何故努力する時間を削る? 逆だろ? 増やせよ。一杯努力してたくさんのことをして、昔の人の何倍も感動しろよ。便利になるほど手を抜くんじゃねえよ。そんなことのために便利な世の中にしてるんじゃねえんだよ。
(結局、頑張らないための努力をしてるだけなんですよね。人間って)
(おまいう)
……俺は頑張ってるよ? 自動絞り機と化している今は違うかもしれないけど。
(あ、ところでリニアってこれで大丈夫ですよね? ちゃんと稼働しますよね?フィーネ達全然教えてくれなくて)
(答えを求めるなど怠惰の極み! 言語道断です!)
ただの冗談じゃん。怒んなよ。
「……ルーク、お前、いつまで付与しているんだ?」
俺達のやり取りが終わるのを待っていたわけではないだろうが、一足早くすべてえを出しきったコーネルが、プラズマタイトから手を放して尋ねてきた。
よく見ればイブとパスカルも放している。
「え? 全然残ってるけど?」
「…………」
「そんな申し訳なさそうな顔しなくても大丈夫だって。気にすんな。まさか100m走の勢いを維持したまま42.195km走り切るなんて思わないよな。叫びながらやってたら同じタイミングで終われてたと思うけど、別に急ぐ用事もないし、最後だし、この時間も楽しもうぜ。反省するっていうなら止めないけどさ。他人に自分の正義を押し付けるの、お前の悪い癖だぞ」
「そうですよ~。気にしちゃダメです~。ルークさんはズルしてますからね~。途中から付与速度落ちてましたよ~。まだコーネルさんの8割程度です~」
俺は悪くない。
全部神のせいだ。あんな面白そうな話題を振って来たのが悪いんだ。
「まぁルークさんの総量が桁違いというのは間違いないですけど~」
ほらね。
(まぁ神力が凄いだけですけどね~)
隙を生じぬ二段構え。
わかってるよ。俺の力は特殊五行の適性がなかった時点でこいつ等とは別物だよ。プラズマを引き出すために神力を使ったチーターだよ。
でも良いだろ。それが必要だってんだから。
感動と一緒だよ。
例えやり方は違えどその精神は認められるべきだ。




