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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十八章 ステーション

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閑話 使者

 試乗、説明、見学。様々なイベントが終了し、ひと気のなくなったリニア乗り場に、3つの人影があった。


 1つは影すら白く見える雪の体現者。


 1つは雰囲気こそオドオドしているが揺るぎない信念と母性を兼ね備えた緑。


 1つは体格も態度も大きめの緑。


 普通ならイベントが終了しても後片付けや点検、工事中であれば続きの作業がおこなわれるはずなのだが、3人の周りは誰も居ない。


 最優先で調べるべき車体や乗り場にもかかわらず辺りは静寂に包まれている。


 そういった指示が出されているわけでも、活動が少なくなる深夜というわけでもない。実際耳をすませば辛うじて作業音は聞こえる。


 あくまでも自然に生まれた空間だ。


「どうでした~? 今のルークさんはお眼鏡にかないました~?」


 そんな空間でユキがいつも通り朗らかに、しかしどこか神妙な様子で、他2人……クララ・フリーザ夫婦に問いかけた。


「……はい?」


 が、返って来たのは純粋な疑問。フリーザに至っては関心のすべてをリニアモーターカーに向けているため反応すらしない。


 まぁ彼の場合、女同士の会話に混ざるタイプではないため、ユキの対応は基本的に妻に任せるつもりのようだ。一言で言うと友達の友達状態。


「ダメですよ~。そこは乗ってくれないと~」


 そんなクララの反応にユキは不満そうな声を上げる。


 いつもならこんな無意味な冗談にも乗ってくれる者が1人は居る。スルーという形だろうとツッコミという形だろうと何かしら反応してくれる。素で返すことはない。


「乗れと言われましても……私とフリーザがセイルーン王国に来た理由にルークさんは無関係ですし……そもそも乗ったところで反応してくれる人も居ませんし……」


 さして親しくもない相手から突然ぶつけられた負の感情に戸惑いながらも、ハッキリと自分の意見を言い、正当化を図るクララ。


 彼等は、人間界で暮らし始めたイヨの様子を見るついでに地下鉄でやり過ぎないようセイルーン王家に釘を刺しに来ただけ。どうせ王都に行くならと誘いに乗った一般人だ。誰が乗っているかすら知らないでお眼鏡にかなうも何もない。


「言い訳しないでください! プラズマの調査や妊娠ブームで忙しくて使者が居らず半ば強引に代役にされたからって、任された以上はちゃんとしないとダメでしょ! 私と対面したら意味だの効率だの考えずにボケに付き合う! 常識です!」


「ええぇぇ……」


 理不尽極まりない主張に堪らず批難じみた声を上げるクララ。


 が、即座に罪(?)を認めなかったことによって(??)、ユキの怒り(???)は爆発した。


「誰も見ていない時こそ頑張るものでしょ!」


「そ、それはそうですけど……」


 仕事や鍛錬ならわかるけど冗談はなんか違わない?


 そう思いつつも否定するのもそれはそれで違う気がしたクララは、大人しく自分の非を認め、「次からは気を付けます」というやる気があるんだかないんだかわからない発言でお茶を濁した。


(こんなことなら仕方なく通話で済ませようとしていたミナマリア様に、「近々イヨの様子を見にセイルーン王国につもりなんですけど予定早めましょうか?」なんて進言するんじゃなかったなぁ……)


 今更後悔しても遅い。



(まぁ私は見てますけどね~)


 と、ここで受け取り手のいない神託が届けられる。


 暇だから反応しただけとも言う。


「あと神様は見てると思いますよ~」


 受け取られないがタイミングを合わせることは出来る。ユキは神の声を代行するようにクララの『反応してくれる人が居ない』発言を否定した。


「全知全能の唯一神を楽しませることなんて出来るんですか? 私達の反応すら予知されてるんじゃ?」


(いえいえ、録画だろうと何度見ても面白いものは面白いので、イズライールさんと同じで視えていたとしても楽しめますよ~)


「クララさんは一度読んだ本は二度と楽しめないんですか~? 違うでしょう~? 展開がわかっていても面白いものは面白いです。読み返して楽しいなら予知してたとしてもキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!となりますよ~。待ちに待った出来事ですよ~」


「た、たしかに……!」


 もっともな意見に久しぶりに精霊王の偉大さを感じたクララであった。



(ルークさんが私達の好き勝手に抵抗感を抱くようになって何よりです~。これまで活躍し過ぎちゃったせいで『仕方ない』で受け入れてましたからね~)


(誰ですか~。私の心情を勝手に語るのは~。そんなこと少ししか思ってませんよ~)


 言うまでもなく神である。


 それは彼等がリニアモーターカーに乗り合わせた理由の1つであり、誰にも伝わることのない精霊王の気遣いなのだが、彼女にだけはお見通しだったようだ。


(神なら神らしく大人しくしてなさ~い。これ以上干渉するようなら私も神界に乗り込みますからね~)


(敵襲ー! 敵襲ー! 反逆者が現れたぞー! 襲来に備えろー!)


(くくく……慌てろ慌てろ。貴様が好き勝手出来る時代はもうすぐ終わる。これからは私の時代だ。アルディアは時代の敗北者じゃけえ)


(ハァハァ、敗北者……? 取り消せよ、今の言葉! 私は敗北者なんかじゃない! この時代の名がアルディアだっ!!)


(いえ、世界の名前はアルディアですけど、時代の名前は無いでしょ。あるとしたら精霊王である私の名前じゃないですか。百歩譲って活躍した国の名前)


(ですよねー)


 こうしてノリが近い者同士の終わらない雑談がスタートした。


 実は歴史的にも珍しい精霊王と神の邂逅だったりするのだが、当然それを知る者は誰も居ない。知ったところでどうにか出来るものでもない。むしろ知らない方が良いまである。主に威厳的な意味で。




「はー。どれほどあくどいことをしたらこのような贅沢で欲塗れな所に住めるのだ?」


 急用を思い出した、と突然姿を消したユキと別れてから数十分。


 豪華絢爛な貴族街でも似たような発言をしていたフリーザだが、王城の内装を目の当たりにしてその内容はさらに過激化していた。


 案内してくれる従者が居ようとお構いなしだ。


「そんなこと言ったらダメだよ。目がチカチカしたり物によっては吐き気がするけど、それは私達の価値観であって、人間にとって贅沢は良いことなんだから。大事なのは中身じゃなくて見た目。何百年と掛けて自然で作られた石より人工的に作った宝石。その価値観に則って民は信頼の証にそういった品々を献上してるんだよ」


(あ、贅沢ってそういう意味なんですね……)


 相手は一応使者なので不用意に説教するわけにもいかず、知らんぷりをしながら前方を歩いていたメイドは、クララの補足でフリーザの褒め言葉が『無駄に手間暇かけた品物』という意味だったことを知り、唯一の希望すら失って悲しみに暮れた。


 ただ内心2人と同じことを思っていたので嬉しくもあった。


(やっぱり悪趣味ですよね。他国からの頂き物とかさっさと仕舞えって感じですよ。私達が清掃にどれだけ気を遣ってると思ってるんですか。傷つけただけで首が飛びますよ、物理的に。そんな私達の苦労を見て喜んでるドS権力者は絶対居ますって)


「では中間をとって突然物質が崩壊、自然に還るというのはどうだ?」


(あ、良いですね)


「良くないよ。私達の仕事は言伝を届けること。自分の不満や職場の人間の不満をどうにかするのはその後ゆっくり考えて、可能な限り破棄して、適度な距離感を保つ努力をしようよ。バレなきゃ良いは犯罪者の理屈だよ。ルールが無かったら何しても良いって人の考え方だよ」


(ごもっともな意見です。あと気になったんですけど、私の心の声聞こえてます? あ、答えなくて良いので全部忘れてください。無理なら一生表に出さないでください。お願いします。何でもしますから)


 エルフ怖っ。価値観うんぬん以前に力の差があり過ぎる。知能指数は20違うと会話が成立しないというが実力も同じのようだ。


 人類がエルフ族と上手く交流出来ない理由を痛感したメイドであった。


 余談だが、このメイド、これを切っ掛けに何かとエルフ族と接点を持つようになり、20年後にはセイルーン王国でも有数のエルフの理解者として、他種族との会議には必ず同席する懸け橋となる。


 目を付けられただけとも言う。



「アールヴの里からの使者、フリーザだ」


「同じくクララです」


 人間への理解を深めつつ王城内を練り歩くこと数分。


 地下鉄計画に深く関わっているマリーや国王ガウェインをはじめ、セイルーン王家が数多く集った玉座で、一同は相対していた。


 昔からこの国がエルフ族と交流があることを知っているのはごく一部。ほとんどの者は上位者の突然の来訪に驚きながらも平静を装って応じた形だ。


「地下鉄だが新規開発するな。今ある洞窟だけでやれ。あれは自然界を乱す。万が一俺様達エルフ族に影響が出るようならそれ相応の対応を取らせてもらう。以上だ」


「勝手に終わらせないで」


 旦那のテキトーな仕事に呆れながらもツッコミを入れたクララは、さらに話を続ける。


「ステーションもです。製作サイドからも言われているはずですが、自然との調和を目指してください。どちらかに偏るようなことがないように。言っておきますが調べもせず注意されるまでは大丈夫なんて甘えた考えは捨ててください。我々は手しか出しません。そして出された時はこの国の終わりと思ってください。計画段階でアウトです」


「今は……いえ、何でもありません」


 現段階の評価を聞きそうになったガウェインは、それも自分達で調べることだと思い直し、慌てて口を閉ざした。


「これは地下鉄に限った話ではありません。今後起こるであろう技術の進歩でも同じです。皆さんが世界への感謝を忘れた時、我々は容赦なく介入し、力を奪います」


 力……武力・知識・財力・富・名声・命、すべてを指しているのだろう。


 人類史上類を見ない格上からの干渉および圧に、王家一同は震えあがった。



「あとヨシュアで暮らしている俺様の娘に何かあっても許さん」


「「「それは違くない!?」」」


 王族達はシリアスからの親バカ炸裂に思わずツッコんだ。


 エルフと交流がある数名だけだが、その全員がツッコむというのはそういう一族と思って良いだろう。反応に困っている者達も慣れれば盛大にツッコミを入れるはずだ。


「は? イヨは6歳なのに何でも自分で出来る子だが? 困るなんて国が悪いとしか思えないが? 滅ぼされたくなかったらもっとエルフに適した法律を作れ。今すぐに」


「「「国に帰れ」」」


 今度は全員がツッコんだ。


 もう慣れたようだ。


 辛辣に扱われたフリーザだが、彼は彼で下等生物からどう思われようと意に介さないので、結局よくわからない空気のまま話し合いはお開きとなった。

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