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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
七章 商店街編
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閑話 美容品

 とある深夜の事、フィーネが寝ようとしているとエリーナが話しがあると言って部屋にきた。


コンコン。

「フィーネ、ちょっといい? 内緒の相談があるんだけど・・・・」


 この2人、朝から何度も会話していたのだが、わざわざ皆が寝静まったこんな深夜にやって来たのは、彼女の言った『内緒の』というのが関係しているのだろう。


 そんな自分を頼ってくれるエリーナをフィーネが断る理由など当然ない。


 寝ようとしていた、とは言っても別に『健康のため』や『適度な睡眠が必要』と言う訳ではないのだ。


 その気になれば数ヶ月休むことなく行動することが出来るフィーネは、ルークの生活時間に合わせて行動している。なので人々が寝静まる時間帯には同じく寝るようにしているだけ。


 もちろん快くエリーナを部屋に迎え入れた。


「どうされました?」


 就寝時のフィーネは決まってゆったりとしたワンピース姿だ。エリーナは貴族の嗜みネグリジェ。


 そんなセクシーな恰好のエリーナは何故か酒を両手一杯に持っている。


 そして内緒の相談が始まる。


 ・・・・酒を飲みながら。




「ユゥキはいぃのよっ! 精霊だから・・・・。

 でもフィ~ネは絶対お肌の手入れの秘訣を知ってるはずなのよっ!! そうでしょっ!? そうなんでしょっ!? そうだと言ってっ!!」


「あの・・・・エリーナ様? お酒を飲みすぎでは?」


 彼女が相談したい事と言うのは『美容について』だった。


 ベロンベロンになりながら「若さって何かしら?」と訳の分からない事を言っている。


「精神的な意味の『若さ』でしたら、過去を振り向かない事だと思いますよ」


 と律儀に返答しつつ、自分のベッドに陣取り暴れているエリーナを鎮める。


「そんな事はどうでもいいのよ!」


 だったらなんなのだ? というツッコミはさて置き、取り合えずお肌が気になるらしい。


 彼女も30歳を超え、嫌が応にも年齢を自覚してしまうようになってきたのだ。


「以前にも言いましたが私は何もしていませんよ。オルブライト家の皆様と同じ食事をして、同じお風呂に入り、同じ石鹸を使っています」


 石鹸は全員色違いの物を使っているが、成分はほぼ同じである。


 ありのままの事実を告げたフィーネだが、綺麗になりたい妙齢な女性がそれで納得するはずも無かった。


「・・・・しょれは何!? 私が綺麗になるのは無理だってか!?」


 エリーナは絡み酒で間違いない。


 納得できる回答が得られるまで文句を言い続けるだろう。


「・・・・(ボソッ)単純に種族の差だと思いますが」


「なんか言ったぁ!? あぁん?」


「いえ」


 流石のフィーネでも若干鬱陶しくなってきたのか、扱いが雑になっている。



 その後もエリーナの愚痴は朝方まで続いた。




 翌日、というかエリーナが倒れるように眠ってから2時間後。


 付き合わされたフィーネには当然寝る時間などなく、酔っ払いを寝室に送り届けてそのまま朝の仕事に取りかった。


 しかもエリーナが二日酔いにならないよう体内の循環を整える有能具合である。寝室で寝ていたアランを起こさないように隠密で。


「おはようございます」


「・・・・おはよ、私いつまで飲んでた? もしかして迷惑かけちゃった?」


 朝食の時間になり、ようやく起きてきたエリーナが朝の挨拶をすると共に謝って来た。もちろんフィーネのお陰で酒は残っていない。


 彼女に昨夜の記憶など残っていないが、遅くまで愚痴り続けたのは理解しているらしく、その時の様子を聞いてくる。


 フィーネに嘘をつく理由も無いので、朝の4時まで飲食を続けていた事を告げると「・・・・ホントごめん」と落ち込む。


「いえ、私は大丈夫ですが・・・・(コソッ)悩んでおられる美容には悪い行いだと思いますよ」


「うっ・・・・そ、そうよね」


 美容の相談をしに行って朝まで暴飲暴食、睡眠時間も削り、消化不良のまま無理に寝たのだ。本末転倒もいいところである。




 別に迷惑ではないのだが『今後も同じような事が続けばエリーナ様の求める美とはかけ離れてしまう』と考えたフィーネは、さり気なくルークに相談することにした。


「・・・・つまりロア商店で販売する女性向けの美肌用品を作れ、と?」


「間違いなく売れると思いますよ。実際、洗顔用の石鹸を求める声も多いですし」


 顧客のニーズに応えるロア商会は常に意見を募集している。


 その中で最も多い『ロア商会で働きたい』と言うのは一先ず置いといて、次に多かったのが『美容品』なのだ。


 商品としては実質トップである。


「でも男の意見としてはシャンプーと石鹸があれば十分だしな~。そもそも俺はそっち方面に詳しくないし・・・・」


 しかしルークはあまり乗り気ではないようだ。


 まぁ彼の求める豊かな生活に必要不可欠と言うほどではないので、仕方がないと言えば仕方ないのだが。



 それでもなお「必要だ」と言い続けるフィーネの意見を受け入れ、結局ルークは製作に取り掛かった。




 そして完成した品をエリーナ31歳の誕生日にプレゼントした。


「これは?」


「なんかフィーネが『ロア商店に必要だ』って言うから作った美容セット。試作品だけど使った感想とか意見が欲しいからあげるよ。一応31歳おめでとう」


 15歳で成人してからは誕生日など何の意味も無い日なので、祝うという文化がない。


 それでも母が喜んでくれるであろうプレゼントを渡すときは祝いの言葉を言うべきだと思ったルークは素直な気持ちを口に出した。


「はい。これで新しい商店の成功は間違いありません。良かったですね、エリーナ様」


 事情を知っているフィーネは『やってやりましたよ!』とエリーナだけに見えるようにグッドサインを出した。


「ありがとう・・・・フ、フフフ。これさえあれば私だって・・・・フフフ」


 この日からエリーナ改造計画がスタートする。




「えっと・・・・まず朝の洗顔は、この液を使うのね。

 ・・・・うわっ! 泡立ちからして違う。泡も弾力があるわ!」


 説明書通りに洗顔液を使い始めたエリーナ。


 そんな一心不乱に説明書を読む母親の下へアリシアがやってきた。


「母さん、何それ!? 面白そうね!」


「ダメよ! これは私が使うの!!」


 特殊な液体を自分にも使わせろ、と興味津々なアリシアを押しのけ、自ら独占する母の風上にも置けないエリーナだった。


 もちろんアリシアは拗ねた。


「母さんの意地悪! そんな事したって小じわは減らないんだから! ふんっだ!」


「待ちなさいアリシア! 聞き捨てならない事を言ったわね!? 私に小じわなんてありません!!」


 というひと悶着もあったが、美肌計画は順調である。



「次に化粧水・・・・これね。なになに、ふんふん・・・・保湿の役割!? 凄いじゃない!! え? つまり温泉に入った時と同じようなピチピチな肌になるって事でしょ?」


 顔中にベッタリと塗りたくりたいエリーナだが、『逆効果になる』との注意書きがあったので指定された量で我慢する。


 当然ルークはこの母の行動を予想済み。


「最後に保湿液。これはその名前の通りね。塗った後にパックをして10分置けば完了っと」


 ぬりぬり、ぺたぺた。


「・・・・ちょっと人には見られたくない姿ね」


 エリーナは顔面真っ白なパックを付けて鏡の前で固まる。



「ぎゃー! ば、化け物が!!」



 そこへ通りかかったアランが妻の変貌ぶりに思わず叫び、その声を聞きつけた一家全員が集合したので、結局エリーナは事情を説明することになった。


「なんだ、ルークの考えた新商品だったんだね。ビックリしたよ」

「母さんばっかりズルい! 私も使いたい!!」

「・・・・後で私にも分けてくださいね」


 エルはともかく、若さあふれるアリシアには絶対に使わせないと断言したエリーナはその後も毎朝、毎晩、美容セットを使い続けた。


 当然、自分を化け物呼ばわりしたアランはボッコボコにする。


「女の影の部分を見た報いよ・・・・」


 努力を惜しまず綺麗になるまでの過程、それは苦労と珍行動の連続である。


 いくら『美しくなって周囲に自慢する』と言う目的だとしても、身近な人物からどう思われても良いわけではないのだ。




 あくまで試作品なので1週間ほどで使い切る。


「で、どう? 何か変わった?」


 開発者として意見を聞きたかったルークだが、この1週間エリーナは一切その事に触れなかった。


 少なくとも不満は無いらしい。


 しかし商品にする以上、無くなるまで使ったエリーナの感想を聞かなければならなかったので面と向かって尋ねてみたのだ。


「・・・・変わった? 変わったかですって!?

 見てわかるでしょ!? このハリ! このツヤ! 段違いだわ!! これ、いくらで売り出すの!?」


 するとエリーナは嬉々として己の肌を見せつけてきた。


 どうやら彼女としては何も言わなくても気付いてもらいたかったようだが、母親の肌の変化など気にするわけもないルークには理解されていなかったらしい。


 そもそも1番初めに気付くべき夫であるアランが何も言っていないのが悪いのだ。


 しかしエリーナは明らかに綺麗になっていた。



 その効果抜群の商品がいくらで手に入るのか尋ねている。


「ん~。銀貨3、4枚? あ、セットならね。個別で使いたいって人も居るだろうから銀貨1枚ぐらいになるかな」


 製造工程はそれほど難しくもないが、量産するには別工場を作らないといけないので現状販売数が限られると言う。


「止めなさい、戦争が起きるわよ。その倍で良いわ・・・・買占めも厳禁にしなさい」


 それほどの品らしい。


「ちなみにここ数日、知り合いの女性達からは必ず『どんな美容法なの?』って質問されるわ。違いがわかる人にはわかるのよ。なのにウチの男共ときたら・・・・ブツブツ」


 自慢したいけど1人占めもしたい。

 気付いてもらいたいけど自分からは言い出せない。


 そんな複雑な乙女心をルークに向かってグチグチ言い始めた。



「大衆向けの商品として考えたやつだから、ユキが素材を入手してくれればもっと上の商品も作れたけどね・・・・面倒だから止めた方が良いか」


「・・・・・・」



 そんな事を呟いたルークは、この日以降、事あるごとにエリーナから「母さん、美容品が欲しいな~」とか「知り合いの獣人の女の子紹介してあげようか?」など言われれるようになる。


 そんな母を見てルークは単純に『気持ち悪い』と思ったそうな。


「良かったですね、エリーナ様」


 面倒ごとが片付いた、と安堵の表情を浮かべるフィーネの姿がそこにはあった。


 やはりエリーナの絡み酒は鬱陶しかったようだ。



「俺に押し付けんじゃねぇよ!」


 美を求める女性の怖さの一端を思い知ったルークであったとさ。


 おしまい。

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