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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十八章 ステーション

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千二百三十七話 鉄道会議5

『中央交通開発、総務部部長の≪マグノリア≫だ。話は聞かせてもらった』


 散らかった作業台の上に置かれたアインのケータイから現れた、アゴヒゲを生やした40代らしき責任者の男性は、最低限の自己紹介と共に俺達を睨みつけた。


 現れたと言っても転送されたわけではない。そんなことが出来るのはユキぐらいだ。男性はホログラムとして映し出されているだけ。引き締まった口元によって倍増された威圧感までばっちり再現されている。


 我ながら惚れ惚れする技術だ。


(しっかしアインのヤツ、凄い人呼び出してくれたな)


 総務部とは一言で言うなら『何でも屋』。経営陣も含めた社内のすべての部署と関係を持ち、疎遠になりがちな経営陣と現場を繋げることも仕事の1つなので、そこの部長ともなればまず間違いなく両サイドの事情を知っている。


 平社員が引っ張り出せる限界値と言っても良い。


 これで不機嫌でなければ、下々の者も気に掛けるフットワークの軽い優良企業の上司と思えたのだが、残念ながらお怒りのご様子。話し合いは難航しそうだ。


『興味本位で立ち入り禁止区域に侵入し技術を盗んだ挙句、本社の意向を無視して許可なく手を加えた失敗作が今後の鉄道業界に必要なので、世間や出資者達から批難されることを覚悟で世に出せということだが、間違いないかな? ミスターブラウン』


 まぁ怒ってる原因の大部分は、俺達が犯罪者で、従順な部下に良からぬことを吹き込んでイチャモンつけたってとこだろうけどさ。


 しかも名前は≪ブラウン≫という明らかな偽名、というかコードネーム。


 ちなみにイブはゴールド。ノミドはホワイト。ニコは画面外で待機なので必要なし。自称アイドル以外は髪色から来ている。心がクリーンだからホワイトらしい。鼻で笑ったら素敵な笑顔を向けられて震えあがったのは記憶に新しい。


 もちろん全員変装済み。


 オールバックにしてメガネを掛ければバレないという世の摂理に則った完璧な作戦だ。女性陣にはその辺に置いてあった炭素物質を再構築したエクステで髪型を変更してもらった。


 仕方ないんよ。ガッツとアインが機密情報を漏らしたとか馬鹿正直に言うわけにはいかないじゃん。俺が悪いことにすれば失敗しても迷惑掛からないじゃん。


 警備兵に突き出されたり、訴えられたり、大ごとにならない自信もある。


 今ここに集まっているのは各国の研究者や企業の代表。今後の関係を考えたらこれでも感情的になり過ぎなぐらいだ。国から派遣された視察団の可能性があるので強く出られないというのもある。最悪マリーさんに頼んでそうしてもらう。


「ええ。今すぐとは言いません。もう一度話し合って鉄道会議が開かれてる4日間のどこかで出してください。ベンチャー企業はチャレンジしてこそですよ」


『それを決めるのはキミ達ではない。我々には我々の都合がある。貴重な意見として有難く受け取っておくが、それをどう使うかはこちらが決めることだ。部外者が口出しするのはそこまでにしていただこう。当然ここで得た知識・技術の利用も禁止だ。すべての権利は我が社にある』


 ごもっとも。


 だがこちらにも言い分はある。


「これはまたおかしなことを言いますね。世に出さないのであれば盗むも何もないと思いますが? そちらが無かったことにするというのであれば、ウチが改良を加えて発表しても問題ないはずでは? もちろんそちらの名前は出しません」


『出さないとは言っていない。今回は不安要素が多いので見送っただけだ。将来的に出す可能性は十分にある』


 出た出た。部下や他人の手柄を奪う常套句。


 散々部下に仕様変更させてから「俺は元々こうしたかったし」とすべて自分のアイディアにしたり、改良品を発表した他人に「それウチからパクっただろ?」とイチャモンをつけたり。


 本腰を入れてるわけじゃないから金も労力も割かない。本人がやりたいと思ったらサビ残してもらえるし、成果が出なかったら「ほら見ろ、俺の言った通りだ」とマウント取れるし、取り合えず進められるから辞めるに辞められない。


 やる気があればあるほど、愛着があればあるほど、沼にハマっていく。最高効率の社畜生産体制だ。しかも決して悪ではない。言い方次第で経営努力に出来る。


 しかも周りへの牽制も可能。『そう言えばあの企業がこんな作業やってたな』と思わせたら勝ち。訴えられることを承知で努力するバカはいない。引き抜きでも同じだな。つまり他社の足を引っ張りつつ手柄を奪える。


 自社は安定志向、他社にはパクリ疑惑(時々真実)を掛けてウハウハ、さらには社員教育(笑)まで出来るなんて素晴らしい経営方針じゃないか。


 そうやって保留になったまま埋もれた知識や技術がどれだけあることか……クソがよぉ。


「(ぼそっ)ルークさん、顔怖いですよ」


 顔は画面(?)に向けたままなのに何故かこちらの表情を読み取ったノミドが、ほとんど口元を動かさずに小声で話し掛けてきた。


 俺も即座にその手法を取り入れて会話開始。


「そういうノミドだって」


「ぼくは怒った顔も可愛いと言われるので良いんです。むしろ待望されてます」


「俺だってそうだよ。滅多に怒らない俺の怒り顔とか需要の塊だよ。てかここで言い争いしてどうする。俺達は成果を生み出せない独占禁止を望む仲間だろ」


「たしかに」


 はい、和解。


「ところでイ……ゴールドさんは? 彼女もこちら側の人間のはずでは?」


「あの子はそういうの気にせず使うからどうでも良いと思ってるんだろ。文句言うヤツは周りの大人達が潰してくれるし。てか取り入るために提供されてるんじゃね。独占した知識や技術の使い道になってるんじゃね」


「なるほど。権力者の余裕というやつですか」


 微妙に違う気がするが説明するのも面倒なのでそういうことにしておこう。


 ノミドって権力者は嫌いでも実力があれば認めるタイプだし。ここ数週間でイブのこと完全に認めてるし。今更何かするってこともないだろ。



「要するに欠点を無くせば俺の精霊蒸気システムは採用されるってことだな! よっしゃー! やるぜー!」


「本気で言ってるなら俺はお前を殴る」


 で、まんまと社畜化したガッツを睨む。


「じょ、冗談だって……」


 なら良し。


 いや良くない。


 今は遊んでる場合じゃないだろ。誰のために交渉してると思ってるんだ。もちろん自分自身のためでもあるけど、お前等のためでもあるんだからな。真剣にやれ。


「おい、こら、部長。俺はこれまで指示通りに作業してきた」


「は?」


 ヤンキーっぽく本社のエリート様に絡むガッツだが、その発言に不満を持ったアインがすかさずツッコんだ。まぁここまでの話を聞く感じ、指示通りではないな。


 しかしガッツは無視して話を続ける。


「だが、要望はいつも『納期が厳しい』とか『修正に割くリソースが無い』とか、難しい言葉で流されてほとんど聞き入れてもらえず、問題があったら全部こっちのせいにされてきた。『日々挑戦』だとか『皆で成長』だとか、くだらない理念を並べやがって! 『日々゛心と体の限界に”挑戦』して『皆で”社畜に”成長』の間違いだろ!? 現実を見やがれ! ゴミみたいな意見を取り入れたせいでどれだけの遅れと没作品が出てると思ってるんだ! もううんざりだ!」


『……それ本当にウチか?』


「覚えてねえ。たぶんそうだ」


 たぶん違うんだろうなぁ……。


 最近誕生したばかりの鉄道計画で納品する機会なんてそうそうないだろうし、責任を取らせるタイミングもないし、本人『たぶん』って言っちゃってるし。


 前の職場かな。


 割とハードな人生送ってんな、このドワーフ。


 というかなんで地下に引きこもらなかったんだよ。画期的な移動手段生み出したいなら地下の方が良かっただろ。ドワーフ族は昔から鉄道技術持ってたんだからそれ使えよ。発想力の問題か? 誘われたから何となく出てきただけか?


「とにかくもううんざりだ! 改悪だろうと改善だろうとこの仕組みを完成させたのは俺だ! 文句は言わせねえ! 今すぐ使わないなら俺はこの技術を持って他社に行く!」


『違約金を払うことになってもか?』


「……いくらぐらい?」


 弱ッ! 意志弱ッ!


 い、いやまぁ、正しいんだけどさ。今後の生活を考えたり、自分をちゃんと制御出来てるのは立派なんだけど……物語的にちょっとな~って感じはする。


『自分の都合で突然辞め一大プロジェクトの進行を妨げて金貨10枚。一部とは言え提供された知識を持ち出して金貨20枚といったところか。むろん退職金は無しだ』


「ぐはあああッ!!」


 金貨30枚……ロア商会でも稼ごうと思ったら2年は掛かる大金だ。


 しかもただ払えば良いというものでもない。縁がないので忘れがちだがこの世界で裁判を通した罰金は実刑。強制労働で稼いだ分から支払われる。


 機密情報漏洩を内々で済ませる可能性はほぼゼロ。


 懲役5年は固い。



 ま、和平を望まなかった罰だな。大人しく俺に任せておけばいいものを。


 いや、助けるけどね。なんか俺達まで巻き込まれそうな雰囲気だし。

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