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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十八章 ステーション

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千二百三十四話 鉄道会議2

 リニア試乗会は何事もなく終了し、下車直後の点検でも問題は見つからず、直前の試運転もクリアしているため試行回数が少ないとは言え成功率100%を誇るこのリニアは、実際の運行プランに従って走らせてみて一応の完成を迎え……るかどうかは完全自動循環システムを組み込んでから判断する。


 一部の人間しか知らないが実はこのリニアモーターカー、今は予備電力で動かしているようなもので、その都度充電が必要だったりする。


 仕方ないじゃん。急だったんだもん。システム自体は出来てるんだよ。というか現状とそこまで変わらない。唯一の成功例を変に弄って大惨事になったらイヤだからそのままにしただけ。言わば安全策だ。やろうと思えば出来た。


 苦労して手に入れたプラズマを失う可能性が高いから躊躇したのは内緒。


 充電担当は今回裏方に回ったコーネルとパスカル。


 俺とイブが注目を集めている間、一足早く王都に来ていた彼等が今晩点検と称してやってくれることになっている。帰りは俺達に代って乗車予定。俺では出来ない&しないような彼等ならではの話が聞けることだろう。


 ちなみに1日空ける理由は単純に便の関係だ。


 今はヨシュア-王都間だけなので1日3往復は可能だが、将来的にはセイルーン王国中を駆けまわることになるので、1日1本片道運行にならせざるを得ないのだ。


 駅が完成するまで定期的に試乗会を開いて様子を見るし、改善案を思いつけば手を加えるし、今後も整備や講習会には付き合うが、今ほどガッツリは関わらない。


 つまり俺達の手を離れる。


 嬉しくないと言えば嘘になるし寂しくないと言っても嘘になるが、そんな話はさて置き――。


 今、俺は修羅場に立ち会っている。




「お前、俺達の話聞いたよな?」


 小柄だが態度は大きい三十代らしき男性が探るような視線を向けて来る。


 この服の汚れ具合、ノミド達ドワーフ族のそれにそっくりだ。この場所の雰囲気や身長、会話の内容からしてまず間違いなく製造関係者だろう。


 が、それを馬鹿正直に口にするわけにはいかない。


「何も聞いてません。たった今来たところです。トイレが混んでてウロウロしてたら迷ったんです」


「製造担当のドワーフ《ガッツ》と、技術担当のオレ《アイン》が、急行列車の仕様変更で揉めていたことなど知らないと? 欠陥品を今日披露目する・しないで言い争っていたのをまったく聞いていないと?」


「巻き込む気満々じゃねえかッ!!」


 ガッツと同い年ぐらいのスーツ姿の男性に、懇切丁寧にあらすじを語られてしまった。自己紹介までされてしまった。


 これで知らぬ存ぜぬは通用しない。


「会議参加者を身内のゴタゴタに巻き込むなよ。勝手にやってろ。別に披露しようがしまいがどっちでも良いよ」


「「そうはいかない」」


「……何故?」


 最終手段『それがどうした』を発動して立ち去ろうとするも、2人は声を揃えて阻止。仕事では合わなくても性格的には相性バッチリのようだ。


 腐れ縁の幼馴染と言われても納得する。


「俺とコイツで1対1。このままじゃどこまで行っても平行線だ」


「どうするかはオレ達の主張を聞いてアンタが決めてくれ」


「だとしても何故俺!? 他にもっと適任のヤツ居るだろ!?」


「まず俺からな。これまでも散々アインのヤツには文句言われたんだよ。『俺の術式を活かしきれていない』『こだわりを捨てろ』『やり直し』って」


「話聞けよッ!!」


 こちらの意志を無視して主張に入ったガッツ。


 堪らずツッコむ。


「「…………」」


「な、なんだよ……その『話の邪魔すんなよ』みたいな目は。俺が悪いみたいな空気は。勝手に巻き込んだお前等の方が悪いに決まってるだろ」


「はああぁぁ……ガッカリだよ。都会人は心が荒んでる、他人に興味を示さないって噂は本当だったんだな。面倒事から目を逸らすとか人生楽し過ぎだろ。困ってるヤツが居るんだから助けろよ。急ぎの用があるわけでもないクセによ」


「待て。もしかしたら田舎者かもしれない」


「だとしたら最悪だな。田舎なんて心のゆとりと周囲との交流のしやすさしか長所ないじゃねえか。どんな生活送ったら全部失うんだよ」


「どちらにしても鉄道会議参加者というのは致命的だな。どこを直すのか、どのような過程があったのか、他社のことには一切興味を示さず結果だけを求める者が参加するなど考えたくもない。運営は何を基準に選んでいるんだ。この向上心の欠片もない研究者は一体どこの所属だ」


 うぜぇぇ……拒否権を奪った挙句、正論パンチらしきもので殴ってくるコイツ等うぜぇぇ……。


 あと田舎バカにすんな。もっと良いところあるわ。すぐには思いつかないけど沢山あるわ。


 ――と、戦争するのは容易いが、俺はそこまで愚かではない。


「んじゃあ向上心の欠片もない研究者は消えることにするよ。頑張って納得のいく答えを導き出してくれ」


「ちょ、待てよ。拗ねんなよ。冗談じゃねえか。ちょっと俺達の話を聞いて意見を言うだけでお前は自分の誇りを守れるし、情報が手に入る。俺達は揉め事が解決するし、課題も見つかるし、鉄道会議もスムーズに進む。win-winの関係でいこうぜ」


 が、またしてもガッツが俺の前に立ちはだかる。何なら馴れ馴れしく肩を組んで来ようとする。アインが扉にカギを掛けたのも見逃さない。


「バカにどう思われようと俺の誇りは傷付かない。試行錯誤の資料は全部提出しろって言われてるだろ。後で見て納得するからどうでも良い」


「いやいやいやいや。クソ真面目に全部提出するヤツなんて居ないって。ガチでトラブったところは隠すって。『そこそこ上手くいってる』『開発スタッフ全員仲良い』『報連相出来てる』とか言って少しでも多く開発費を貰おうと必死だぞ」


「その通りなんだろうけど参加者に言うなよ。ウチは本当に順調だから共感しないぞ」


「出た出た。テスト勉強してません。全然モテません。苦労した甲斐がありました。自慢とマウントは聞き飽きたよ。良い子ちゃんもほどほどにしないと嫌われるぞ。てか同業者どうせいからは嫌われてるぞ」


 同業者と書いて同性と読むな。


 同族嫌悪は間違いなく存在するし、同じフィールドで戦ってるから同業者っちゃ同業者だけど、全員が同じとは限らないだろうが。ぶりっ子見てもイラつかない女子も居るよ。たぶん。


 少なくとも俺は、優秀なヤツや心までイケメンを見てイラつくことはあまりない。自分の領域を侵されなければな。


「大人しく認めとけ。本当のこと言ってるヤツも居るんだ。全人類が自分と同じフィールドに居ると思うな」


「へっ、綺麗ごとだけで生きていけるほど世の中は甘くないぜ。今のところお前は上手くいってるみたいだけどな。その時になってみれば俺達の気持ちがわかるぞ」


「いやぁ、この男には一生来ないだろ。見てみろ、この希望に満ちた目。職場環境最高で仕事がしんどいなんて思ったこと一度もないんだぞ。あ~あ。なんでオレの上司もコイツんとこみたいじゃなかったのかな~」


「どこで失っちまったんだろうな、俺達……」


 なんかゴメン……お前等も大変なんだな……。


 おそらくこの様子からして同僚も上司と似て無能、あるいは向上心の欠片もないことなかれ主義、もしくは取り込まれてしまったのだろう。意見を求められる者が存在しないのだろう。


 仕方ない。これ以上やさぐれられても困るし、間違ったことをしているわけでもないので、2人のこれまでの言動を許して話を聞いてやるとしよう。




「さっき言ったのは鉄道以外の話でな。アインは昔っからあれしろこれしろってゴチャゴチャうるさいんだ」


 そう前置きしたガッツは、改めて主張を開始した。


「ようやく回って来た大仕事はこれまで以上に張り切って、あーしろこーしろ文句ばかり。『俺の言う通りにすればもっと良い鉄道が作れる』なんてくだらない言葉に踊らされるばかりで一向に進みやしない!」


「ふざけるな。進みが遅かったのはガッツ達が『出力をもっと上げろ』『多機能にしろ』、術式を組んだら今度は『思っていたのと違う。元に戻せ』と文句ばかり言ったからだろう。その度にどれだけ上との交渉に苦労したかわかっているのか?」


 自分だけ悪く言われるのは気に食わないと、すかさずアインの主張が入る。


「良いもんが出来るならいくらでも従ったさ! でもあれは違うだろ! それっぽい計画書作って現場に丸投げしてるだけだろ! 俺は最善を尽くしただけだ! 好き勝手にされたくなければもっとちゃんとした計画書持って来い!」


「お前なら出来ると思ったからオレがあえてそうしたんだ! すべてガッチリ決められたらやる気を失うとわかっていたからな!」


 まぁどちらもよくある製作裏話だ。


 というかホント仲良いなコイツ等。


「それでも何とか進めて、もう少しで完成って頃になって今度は『上からNGが出た。披露は取り止めだ』だと? ふざけるな! 理由を説明しろ!」


 あ~それはいかんわ。説明ないのはいかんわ。現場を知らない上の決定ってのもいかんわ。


「何度も説明しているだろう。お前が素材を妥協しなかったせいで製作コストがトンデモナイことになっていると。必要なことならばと受け入れていたが、こちらの意向を無視して出力を上げたとなれば話は別だ」


 あ~それもいかんわ。依頼された品とは別の物を作ったらそりゃ怒られるわ。ましてやそれを発表したいとかクビにされても文句は言えんわ。


 と、公平な立場で話を聞いていた俺を他所に、2人はさらにヒートアップしていく。


「とにかく速度と車体強度は下げてもらう。こんな品を大衆の前に出すわけにはいかない。今回の披露は無しだ。出来ないというのなら車体製造は別の者に頼むことになる」


「ッハ、な~にが『こんな品』だよ。ハッキリ言ったらどうだ? 頭の固い研究者様より良い案を出したってよ! 画期的な技術で注目を集めるはずだったのに、鍛冶しか能のないドワーフに改善されちまったのが恥ずかしいから、無かったことにしようとしてるってよ! こんな野蛮なやり方ぜってぇ思いつかねえもんな!」


 うわっ、出た出た。手柄を独り占めしようとする無能。どうせ権力者の子息だったりするんだろ。しかも最終的にガッツのやつを採用するけど『基礎はわたしの息子のです』とか言うんだろ。


 あ~ヤダヤダ。それが進歩の妨げになってるってなんで気付かないかね。


「非の打ち所のない改善ならオレだって抵抗していたさ! しかしお前のは欠点だらけだ! 車体が長持ちしない、今の術式では安定しない、精霊術師からは精霊を衰弱させるからやめておけと言われる……方々に喧嘩を売ってまで世に出すようなものではないんだよ! 罰金を科せられなかっただけ有難いと思え!」


「俺を言い訳に使うんじゃねえよ! この鉄道は元々そういうもんだっただろうが! たしかに酷くはなったさ! でも許容範囲内だ! その証拠にお前だって上の連中からダメ出し喰らうまでは前向きだっただろうが!」


「出資者の意向に従うのが社会ってもんだ! 給料を貰うってことだ!!」


 あ~はいはい。そういうことね。コイツ等の上司だか指導者だかがアレって話ね。だからアウトローvs社会の歯車してるわけね。


 取り合えず作った急行列車を見せていただきましょうか。


 話はそれからだ。

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