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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十八章 ステーション

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千二百三十三話 鉄道会議1

 王都でのリニア説明会に参加する予定だった者の多くがやんごとなき事情で不在となってしまったが、フィーネ達は説明役というより関係企業の代表として参加してもらっていたため、作業のほぼすべてを理解している俺が代役を務めることに。


 例えるなら記者会見するのが社長から専務に変わったようなもの。


 集まった人々も説明さえしてもらえれば誰でも良いらしく、説明会はこれといったトラブルもなく終了。


 俺は、この後に控えている『各社鉄道会議』に参加するメンバーと共に、会場へと向かっていた。


「他の連中がどんな鉄道計画を用意してるのか楽しみだな」


「楽しみ」


 セイルーン王家に手配してもらった馬車の中。


 リニアの出来や説明会、4時間ぶりの地上の感想もそこそこに鉄道会議の話を持ち出すと、パッと見はこの中で一番疲労困憊しているイブが反応してくれた。


 いつも以上に疲れているはずなのに声はいつも通り。つまりプラマイゼロ。やはり彼女にとって魔道具開発・研究は癒し効果があるようだ。放っておけばワクワク感で普段の元気を取り戻すことだろう。


 言い忘れていたかもしれないが、彼女が乗車した目的は、リニアの様子を見るためとこの会議に参加するため。


 最初はルーシーと一夜の超加速姉弟や白雪に頼んでリニアの後からついて行くと言っていたのだが、本人達に拒否されてしまい、開発者として見ないのも違うということで泣く泣く参加。それを知ったマリーさんに丁度良いからと説明役を任され、さらに嘆いたのは記憶に新しい。


 苦しみターンが終わった。待っているのは楽しみだけだ。そりゃあ元気にもなる。


 各社鉄道会議とは何か?


 文字通り各企業が作った、あるいは作ろうとしている鉄道を披露する場のことだ。


 便利な世の中に必要不可欠な『移動手段』という力は世界中が求め、作ろうとはしていたのだが、魔獣問題がネックで普及するまでには至っていない。


 そんな中で突然の「なんか世界中の地下に迷宮が生まれたみたいです」の朗報。


 それはコストや安全性の面から諦めていた理想郷であり、既にロア商会が動き始めていると聞いたら黙っていられるわけもなく、各国・各社一斉に地下利用に向けた事業展開を開始。セイルーン王家にも頼んで二層に分かれた下部分は俺達用(リニア以外にも鉄道で使うかもしれないし)に確保してもらい、俺達がリニアモーターカーという究極系を作っている傍らで、鉄道づくりに励んでもらっていた。


 未知と未知を掛け合わせてようやく作れるリニアは量産・複製が難しい、というか不可能だが、地下鉄はありふれた力と技術で生み出せるものになっているはず。


 ちなみに命名は第一人者(?)にして初の成功例を生み出した俺達にあやかって『鉄道』としているが、地下を移動する乗り物なら何でも良い。むしろ別のものウエルカム。



「風の噂で聞いたのですが、ドワーフが全面協力したのはウチだけのようですよ。他のところは丸投げあるいはソフトとハードを得意な種族ごとで分担、急行の存在を知らないまま独自で地下を移動する乗り物を作ったところも多いらしいです」


 さらに、物珍し気に外の様子を眺めていたノミドが、思い出したように会話に入ってきた。


「だろうな。リニアを見に来てた連中の中にも敵情視察してたヤツ多かったっぽいし」


 レールの有無で驚愕したり感心したりバカにしたり色々あったが、おおむね高評価だったように感じた。正解はもうすぐわかる。


 まぁそれはそれとして……新情報だ。


「それってドワーフ関係からの情報か?」


「いいえ? ニコさんですけど?」


 ノミドが隣に座っている資材提供者に目をやると、ニコは肯定するように頷く。


 たしかに、セイルーン王国の石材の物流を結構な割合で担っているエリックス公爵家なら、自社はもちろん近隣諸国の物流事情も自然と耳に入ってくるだろう。


 鉄道製作において技術者と並ぶ最重要人物と言っても過言ではない。だからこそこの会議にもエリックス家を代表して参加してもらっているわけだが……。


「俺もその場に居たってこと覚えてる?」


「あれ? そうでしたっけ?」


 わざわざ口にするということは知らない詳細が聞けると思ったのだが、単純に居たことを忘れていただけらしい。


 まぁ年寄りだから仕方……ゲフンゲフン。


 危ない危ない。俺の知り合いの年齢を上から順に考えるとエライことになるところだ。彼女が何歳かは知らないが流石にそこまでではないだろう。相対的に若者にせざるを得ない。


(チィ……)


 誰だ、今舌打ちしたヤツ。怒るし怒られるから出てこなくて良いです。誰も得しません。


「あと知人からの情報を風の噂扱いするな。ソースがちゃんとあるだろ」


「残念ですが口頭での説明を信じられるほどぼくは彼女と親しくありません」


「……ごもっとも」


 俺が聞いたシチュエーションも休憩中の雑談。資料を見せてもらったり数値を教えられたわけではなく、『そういえば』程度の情報だった。


 ニコとしても不確定情報にしたかったんだろうし、聞いたところでなので気にしなかったのだが、改めて言われるとソースとしては弱い。


「ぼくが信じるのは自分の目で見たものと自分への評価だけです」


「後半要らないなぁ……」


 どうせ頭に入れるのは可愛いとか凄腕とか良い評価だけで、悪評は聞かなかったフリするんだろうし。完成品についての文句は受け付けないとか言ってたし。意識高めだから全部受け止める可能性もあるけどさ。


「え? 可愛い? ふふーん。そんなこと言われなくても知ってますよー」


 あ、これ良い評価だけ記憶する……というか脳内変換して都合の良いように解釈するタイプだ。強いけど面倒臭いからもう触れない。


 とにかく以上4名が各社鉄道会議に参加する。


 話し合いが終われば強者も参加する。




「ぐああ……ト、トイレはどこじゃあああ……」


 マリーさんが手配してくれた会場近くの高級レストランの料理が合わなかったのか、1000年祭で賑わう町中を見ていたら猛烈にフライドポテトが食べたくなって買い食いしたのがいけなかったのか、はたまた無自覚に緊張していたのか。


 会場に到着すると同時に腹痛に見舞われた俺は、トイレへ急いだ。


 無駄に広いクセにトイレは狭く、1階と2階のトイレはどちらも混んでいたので、案内板に従い別館の奥にあるトイレへ駆け込む。


 ジャー!


「ふぅ……死ぬかと思った……。やっぱトイレって大事だな。もっと広くしないともう使わないって文句言っておこう」


「……っ……っっ!!」


「んあ? なんだ?」


 改めて治癒術師の重要性を実感しつつトイレから出ると、会場側の真逆、奥の方から喧噪が聞こえてきた。


 今回の会場。セイルーン王国の試作品のお披露目も兼ねており、大広間があるというので使わせてもらっているだけで、専用ホールではなく地下鉄計画の作業場だったりする。


 その別館となれば研究・開発もおこなわれているはず。


 もしかしたらこの後案内されるのかもしれないが、立ち入り禁止されていなかったこともあり、現場の声が聞けるのではと俺は声のする方へ進んでいく。



(ここ……だな……)


 小綺麗な会場から一遍。如何にも工場といった雰囲気の鉄の扉の前に到着した。声は中から聞こえる。


 キィ――。


 カギは掛かっておらず、見た目とは裏腹に片手でも開けられる軽いそれは、抵抗もなくアッサリと開いた。


 その直後、俺は声の正体を確かめるついでに無断職場見学をしようと興味本位にここまでやって来たことを後悔した。


「はぁ!? 今更仕様変更ってどういうことだよ!? 間に合うわけないだろ! この会議で披露するっつったのそっちだろうが!!」


「可能であればと言っただけだ! 公表はしていない! 大体欠陥を隠して世に出してどうする! 見せるなら完璧な形で見せるべきだ!」


「欠陥だぁ!? んなもんねえよ! アンタ達が気に食わないってだけだろ!」


 あぁ……これは面倒臭いやつだ……。


 世界で一番面倒臭い『人間関係のトラブル』の気配を感じ取った俺は、バレない内にそっと扉を、


「……誰だ、お前?」


「まさか会議参加者か?」


 もうダメだぁ……。

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