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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十八章 ステーション

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千二百三十一話 ステーション5

『本日は、王都セイルーン行きリニアモーターカーをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。車内販売のお知らせをいたします』


 ステーションについて取材を受けていたというか講座を開いていたというか、とにかくバタバタしていた俺の耳に、車内アナウンスが届いた。


「ちょっと遅れましたけど暇潰しイベント第二弾が来たみたいです」


 アナウンスのタイミングは1号車と6号車に入る前。


 まだ車内販売のワゴンは影も形も見えないが、もう間もなく係員と共に姿を現すだろうと、話を中断して記者達に車両前方を見るよう促す。


 と同時にワゴン登場。


 発動当初と違って人混みもない。


「……ああ、そういうことですか」


 通路に身を乗り出す形で背後を振り返った記者の1人が、そんな車内販売の様子を見て何かに納得したように声を上げた。


「道理で乗客の皆さんが何も持たずに戻ってくるわけです。数量限定品を販売するのはこの車内販売ではなかったんですね」


「その通り。これはあくまでも飲食物を取り扱う供食サービス。俺は一言も車内販売がこの1回きりなんて言ってません。乗客が勝手に勘違いして群がっただけです」


 ワゴンは通路の半分を占拠するがすれ違えなくはない大きさ。


 しかし、数量限定品があるというアナウンス(というか俺の発言)を聞いて駆けていった者達は、人波やワゴンに押しのけられたかのようにトボトボ戻って来ていた。


 記者達はそのガッカリした表情から、お目当ての品が手に入らなかったに違いないと予想していたようだが、そもそも売られていないので自らの意志で戻って来ただけ。


 ちなみに限定品の販売は、この車内販売が全車両を往復し、次のイベント終了後に予定している。もちろんオフレコ。さらに言うと数も全員に行き渡る分は用意している。1人2つは買えます。それ以上欲しいって人は前の方じゃないと難しいって話。


 流石に売り切れは出せんよ。クレーム必至だ。


 まぁそれを言わない辺りが商売なんですけどね。


 ここで買っておかないと、と思わせたら勝ちよ。


「しかし何故そのような真似を? そう説明すれば良かったのでは?」


「実験ですよ。初めて関係者以外を乗せて走るんです。どういう先導をしたら乗客はどういった行動を取るのか。今後のためにも知っておく必要がありました」


「な、なるほど……」


 広告、数量限定の車内販売、魔道具の使用解禁。


 こちらが用意した暇潰しイベントに狂喜乱舞する暇人……もとい乗客達は、いつの間にか秩序を失い、当初からは考えられないほど自由奔放な振る舞いを見せている。


 ぶっちゃけマナー違反が横行している。


 ニセ情報だと知って落ち着いた車内販売はともかく、車両ごとに違う広告や、それを見に行くついでに撮影・通話可能な環境は中々のものだ。もちろん皮肉。


 それが決してプラスに働くことはないと悟った記者達は、冷や汗を垂らしながらこの後待っているであろう制裁に震えた。



「ところでさっきからアナウンスのタイミング良すぎると思いません?」


「ええ。ルークさんもそれを合図に動いているように感じました。何かあるのですか?」


 記者達は一瞬フィーネの方を見るが、俺はそれを否定するように言葉を紡ぎ出す。


「実はこれ、全車両に監視カメラがついていて、こちらの様子を見ながら進行してもらってるんですよ。逆にこっちが合わせることもあります。俺達なら何が起きても対処出来ますけど、大事なのはフォローされなくても運行出来るかどうかですからね」


「それも実験の一部というわけですか……」


 しょーゆーこと。


 これまたオフレコの情報だが車内販売は利益を求めていない。


 飲食物や雑誌などの暇潰しアイテムは乗車前に買えば良い。日本でもそうしているし、そうしているからこそ車内販売が廃止されている。


 しかし急に欲しくなる時もある。


 そんな乗客が1人でも居るからこそ、俺達は採算を度外視した経営をおこなっているのだ。プラスを減らすことでさらなるプラスを生み出す。これぞ経営の極意なり。


 すべてはお客様の満足と快適さのために。


「ここでしか販売されない限定品を取り扱うことで、強引に需要を生み出してるだけですけどね~」


 後部座席から暇を持て余したユキが顔を出して批判的なコメントを放った。


「だまらっしゃい。破格でもなければ無理強いもしてない。いくら以上買わないと売らないなんてこともない。欲しいヤツだけが買う。至極まっとうな商売じゃないか」


 すかさず言い返す。


「経営方針について話し合ってる時、そういう話結構出てましたけどね~。売上のためには満足度の減少は致し方ない的な~」


「……マリーさん。あとで話があります」


「私は止めたわよ」


 ジト目を隣に向けた瞬間、マリーさんは王女らしからぬ……いや王女らしい有無を言わさぬ態度でNOを突きつけた。


 まぁ実行されていないということはそういうことなんだろうけどさ。上手くいくかわからない以上、各種予算計画を準備しておくのって大事だけどさ。


 ただ限度はあるよ。




『ただいまよりビンゴ大会を開催いたします。皆様の前方にございます網ポケットをご覧ください。座席を回転させていらっしゃるお客様はご協力をお願いいたします』


 切符売り場やら改札口やら、これまた事前説明会ではしなかった計画段階の駅情報を出していると、暇潰しイベント第四弾が発令された。


 マナー違反をしていた者達も多少大人しくなってアナウンスに耳を傾ける。


『各社パンフレットに混じって赤いカードがあるかと思います。そちらを車両後方にございます改札機にお入れください。ビンゴカードが出てまいります』


 車掌の言葉に反応して車両前方のモニターが切り替わる。


「「「おおおおっ!!」」」


 映し出されたのは鉄道内部。


 自分自身がリニアの速度で大地を駆けているようなその光景に、一同がかつてないほどの盛り上がりを見せる。


 カード交換に行くか、景色を見るか、戦力は半分に分かれた。計画通りだ。


『こちらは鉄道内部となっております。今からこちらに数字が表示されるので、お手元のカードに同じ番号があれば穴を開けてください』


 と、次々にビンゴおよび大会ルールを説明していく車掌。乗客達は目と耳と手元のカードと後方の改札と、どこに集中すれば良いのかわからず混乱しっぱなしだ。


 ただそれも次のアナウンスが発せられるまでのことだった。


『ただしこちらのビンゴ大会、参加出来るのはビンゴカードをお持ちのお客様のみとなっております。お持ちでない方は数字を見ることすら出来ません。

 それではどうぞ赤いカードを改札機にお入れください。“限度を超えたマナー違反をされていないお客様のみ”発券されます。マナーについては鉄道パンフレットの5Pをご覧ください』


「「「――っ!?」」」


 車内に衝撃が走る。


『また、出札されないお客様に関しては、到着後、事務所……はまだございませんので記者の皆様の前でお話を伺う可能性がございます。座席は完全予約制。どなたが改札機を通されていないかもこちらで把握出来るようになっておりますのでご注意ください』


「「「――っっ!?」」」


 それは車掌の一言でさらに激しくなる。逃げることも言い訳することも出来ない制裁に震え出す者も多発する。


 精霊術を利用したこの魔道具。


 良心による魔力の質の変化を利用した嘘発見機のようなもので、精霊裁判ほどキッチリしてはいないのだが、そうとは知らない乗客達は完全に善悪を問われると勘違いして顔面蒼白で慌てている。


 たぶん全員大丈夫だ。世界初で浮かれた気分を咎めるつもりはないので、今回は相当緩く設定している。


 今回は、な……。



 処刑台に向かうような罪人から意気揚々とした子供まで、多種多様な反応を眺めること3分。6号車全員のカード発行の儀が終了した。


「へ、へへ……大したことなかったな」


「あ、ああ……ぜぜ、全然余裕じゃねえか」


 と、仲間同士で現行犯逮捕を免れたことを喜ぶ(?)若者も居るには居るが、次から今回のようなマナー違反をするとは思えない。


 正直脅しはやり過ぎなぐらいが丁度良い。


 万が一があるかもと思わせたら勝ちだ。


「まさかこのシステムも……?」


「もちろん他の鉄道にも付けますよ。乗車時間が2時間を超える特急だけですけどね」


 口うるさく言うつもりはないが最低限のマナーは必要だ。


 定められたルールの中で楽しめないならそれはルールが間違っている。その時は民衆が不満の声をあげれば良い。しかしこれは違う。一般常識の範囲だ。


「ちなみに、警察や裁判所とも密接な関係を築いているので、何かあったらすぐに精霊裁判行きです」


「それは国庫が潤いそうですね」


 だから言い方ぁ……なんでコイツ発券されてんのぉ……。


 あ、自分を悪だと思ってないからか。納得。

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