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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
七章 商店街編
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九十二話 ロア商店

『あの大人気商店がヨシュア最大級の新店舗を作った! 品数は数百倍!!』


 ヨシュアはここ数週間ずっとこの話題で持ち切りだった。


 今日は皆が待ちに待ったロア商店のオープン初日。


 当然混雑することも容易に予想できたので、俺は様子見もせず家でのんびり過ごした。


 露店で販売経験もあるメンバーが多いし、視察も合格だったので問題ないだろう。


「ふぅ・・・・お茶が美味い」


 庭に出ると周囲からロア商店の話が聞こえてきそうなので、静かな家の中で優雅にティータイムだ。


「なんでルークはこんなにジジ臭いのかしら?」


 だまらっしゃい! 母さんだって俺の用意した饅頭食べてるでしょ!


 俺が3時のおやつを食べていると、何処からともなく母さんとアリシア姉がやってきて饅頭を強奪していった。しかも母さんに至っては余計な一言でバカにして!


 そんなのんびりした日常を送る俺とは違い、フィーネとユキは店が気になるようで、1日中「心配ですね~」や「トラブルは無かったのでしょうか?」などと言って落ち着きがなかった。



 俺は侮っていたのかもしれない。


 心のどこかで「きっと何とかなる」って思ってたんだ。



 閉店時間になり、初日を乗り越えた従業員の様子を見に行こうとするフィーネ達についてきた俺は、対策を打たなかったことを後悔することになる。


 いつまでもフィーネ達を頼られても困るので、今回は応援無しで営業させたんだけど、まさかそれが裏目に出るとは・・・・。



 閉店しているので客は居らず、静まり返った商店へとやってきた俺達。


 しかし静かすぎる。


 トラブルが多くて意気消沈しているのか、売り上げが少なくて絶望しているのか、もしくは後片付けに追われて死屍累々なのか。


 まぁ入ってみればわかる事だな。


「みんな、お疲れ様! 初日どうだった~?」


 なるべく明るく挨拶したつもりだ。従業員を励まし、労うのも上に立つ人間の仕事だからな。


 売り上げなんて気にするな! トラブルは皆で解決していこうじゃないか!



 でもそんな俺の気遣いは取り越し苦労だった。



 俺達を見たボロボロな従業員が、店長ノルンを先頭に勢いよく駆け寄って来て、


「もう限界です! 応援を! 応援をお願いしますっ!」

「助けてくれ! あんな奴等を相手に出来る訳がない!」

「ごめんなさい・・・・数量制限だから品切れなんです・・・・・・無いんです・・・・・・ごめんなさい」


 と、泣き言を言い出した。


 何故か全員が傷の手当をしながら口々に弱音を吐く。そのほとんどが救援要請だ。


「皆さんお疲れですね~」


「やはり我々も初日から手伝った方が良かったのでしょうか?」


 そんな従業員達を慰めつつ明日の対策を考える。


 まぁ対策と言うか、フィーネとユキが応援で参加するってだけだけどさ。


「だ、だな・・・・この様子だと明日は応援が必要そうだ。

 しかし『もう』って言われても、まだオープン初日だぞ? 一体何があったんだ?」


 俺が『フィーネとユキを出動させる』と発言すると、全員から神様でも見るような尊敬と感謝の眼差しを向けられる。


 そ、そんなにか・・・・。



 そして事情説明と言う名の苦労話が夜遅くまで続けられた。


 中には常識では考えられないような行動をする客まで居たらしいけど、まぁ相当大袈裟に言ってるんだろうな。


 とにかく大変だと言う事はわかった。




 流石にあれだけ泣き言を言われれば店の様子が気になったので、オープン2日目は俺も開店前から店内が見渡せる場所に来ていた。


 開店前から(主に女性による)長蛇の列が出来ていて、ヨシュア中から人が集まっているようだった。


 ロア商会の知名度から言えば他の地域からわざわざやってきている可能性すらある。


「俺、こんなに多くの人見るの初めてだよ」


 俺はマリクに肩車をしてもらいながらその列を離れた場所から見つつ、他人事のように言う。


 人数もそうだが、戦闘素人の俺から見ても明らかに殺気立っている人・人・人!


「なんか大規模戦闘の前を思い出すんだが・・・・」


 そんな俺の感想にマリクが戦慄した表情で補足する。


 あ、やっぱりアレが殺気ってやつなんだ。




 オープンしてからも凄かった。凄すぎた。


 扉が開くと同時に猛ダッシュする客たちは、我先にと限定品売り場へと殺到する。


 まるで見取り図でもあるかの如く一瞬の迷いもない彼女達の機動力は、洗練された兵士すら上回るかもしれない。


 たぶん初日で店内地図を作製した人が配布でもしたんだろう・・・・。


 当然、数量限定の商品を手渡す従業員はたまったもんじゃなかった。



「お一人様1つ限りです! 順番に! 順番にぃーーっ!!!」


「邪魔するんじゃないよ!」

「ほ~ら! 脇がガラ空きだよ! そんなんで限定品を守り切れると思ってるのかい!?」

「もっと腰を落として、腹と尻に力入れないと吹っ飛ぶよ! こんな風にねっ!」


「「ギャーーーーッ!!!」」



 オープン数十分で俺が見る限りでも2人、空を飛んだ。


 普通ならここでリタイアだけど、ダメージが軽減される結界が張られた店内では見た目ほどの威力はなく、再び襲い来る魔の手(客の事だ)に勇敢に立ち向かう従業員。


 なんだこの悲惨な状況は・・・・。



「・・・・やべぇな」

「ああ・・・・完全に狩人の目だ。戦場と変わらない熾烈な攻撃や怒号がそこら中で従業員に向かって放たれている。これが解き放たれた女の力か」


 余裕があれば店内を見て回りたいな~とか楽観的に思ってたけど、あそこに足を踏み入れるなんて絶対に嫌だ。


 腕輪の防壁があると言っても殺気までは消してくれない。絶対恐怖で漏らす。


 ボロボロだった理由はこれかよ。そりゃ販売員も怪我するよな。


 ってか誰か注意しろよ! 普通に人を殴ってんじゃねえよ!




 この戦乱の中、応援組のフィーネとユキは上手くやってるのか?


 あの2人がサービス品を求める女達に押し負けるとは思わないけど、あの客達が簡単に諦めるとも思えない。絶対に揉めるだろう。


「貰ったー! オラァッ!」


 1人の中年女性が雄たけびを上げてフィーネへと拳を振るった。


 いや、文章からしておかしいからな? なんだよ『雄たけび』って、『拳を振るう』って。ここ雑貨屋だぞ?


「お一人様1つ限りの品ですね。ありがとうございます」


「クソっ!」


 おぉ! 流石フィーネだ。殺意に満ちた客たちの連撃を受け止めつつ、丁寧に商品を手渡している。


「チッ・・・・手練れか。奥さん左右から、いつもの行くよ」

「クックック、我々の挟撃。捌けるものなら捌いてみな!」


「「ツインブーストォォーーーーーッ!!」」


 なんか主婦の2人が必殺技を繰り出してきた。


 え? 限定品を手に入れる猛者ってこういう事出来るの?


「こちら、お一人様1つ限りの品となっておりますので」


 そう言ってフィーネは今までと変わらず(おそらく歴戦の強者)2人同時に商品を手渡す。


「「何ぃ!?」」


 たぶん今までならこれで確実に商品をゲットしていた主婦たちは、防がれた事に動揺しながらも必殺技が通用しないと理解したのか引き下がっていった。


「や、やるじゃないか・・・・」

「しかし我々に勝ったと言って浮かれるんじゃないよ。ここにはヨシュアの、いや! 国中の剛腕たちが集まってるんだからね!」


 何故か戦友を称えるようなセリフを吐いて、目的の商品を受け取った2人は大人しくレジへと並びに行く。



「フェッフェッフェ。まさか『あの』ダブルドラゴンを退けるとはね。

 しかし奴等は所詮は咬ませ犬だよ。ワシの『イリュージョン』から逃れる事の出来る品はない」


「待ちな。アタシの剛力が唸るのが先さ。立ちふさがる者全てをなぎ倒す自慢の『タックル』であんな貧弱な女、一撃だよ」


「あら? わたくしの『闇の波動』で穏便に無力化してさしあげますわよ。筋肉ばかり鍛えてもわたくしの前では無意味ですわ」


 なんかバトル漫画みたいな展開になってきている。


 きっと四天王とか2柱神、三銃士、裏番なんかが出てくるんだぞ。


 まぁフィーネなら問題ないか。




 さてユキの方は?


「うぅううう・・・・病気の息子から頼まれたんです! どうか! どうか10個お願いします!!」


「そうなんですね~。でもこれ、美容グッズの詰め合わせですよ~? 別に病気は治りませんよ~?」


「えっ!? そ、そそその・・・・さ、最後に綺麗になった母親が見たいと言ってたんです」


「そうですか~。では息子さんが元気になるように、このドラゴンの肉を食べさせてあげてください~」


 そういって美容品の代わりに、どこからともなくドラゴンの肉を出現させて手渡すユキ。


「あ・・・・あの・・・・・・やっぱりいいです」


 ワイバーン程度なら受け取っただろうが、流石にドラゴンは受け取れないようで、主婦はすごすごと立ち去った。



「くっ・・・・さっきから力押し、泣き脅し、クレーム、恫喝、その全てが受け流される」

「我々の美容のためにはアレが必須だと言うのに」

「王都で銀貨50枚、それを上回る品が銀貨5枚だなんて買うしかないじゃない! でも数量限定で1個しか手に入らない!」


 ・・・・・・まぁフィーネ同様、大丈夫そうだ。


「聞いたかい? ダブルドラゴンやイリュージョン婆がやられたそうだよ・・・・昨日とは違う。おそらく幹部連中に応援を頼んだね」

「くっ! ロア商会の幹部は化け物か!」

「あの2人から奪い取るのは至難の業だね~。しかし! 突撃あるのみ!」


 そして再び戦地へと赴く客達。



「なぁ。なんであんなの作ったんだ?」


 マリクはセット販売について疑問みたいだ。


「母さんがどうしても必要だって言うから・・・・本当は洗顔用品だけのつもりだったんだ。そしたら銭湯にも人が行くと思って。

 でも特製の美容品をプレゼントしちゃったんだ・・・・しちゃったんだよ」


 後はわかるだろ? 温泉だけでもあんだけハイテンションな母さんだぞ?


 俺の愁いを帯びた顔を見て、マリクは全てを察したらしく何も言わなくなった。


 帰りに黙ってジュースを渡してくれた。泣きそうだった。




「ただいまよりぃぃ! 本日のぉぉ!! タイムサービスを開始いたしまーーーーすっっ!!

 特製サンドイッチと食器をセットにして銅貨5枚! 銅貨5枚ぃぃーーーーー!!!」


「「「なんだってぇぇーーーーっっ!!!」」」


 ノルンの宣言と同時に客達が殺到。


 うわぁ・・・・凄い事になった。


 フィーネとユキが居なければ、昨日と同じく死屍累々の惨状だっただろう。


 しかし今日は鉄壁な2人が居るお陰で全員が1個しか確保できていない。


「くそ! 昨日とは段違いだ!!」

「バ、バカな・・・・どのラインも崩れないだと!?」

「アタシのタックルが効かない!」

「魔術が発動しませんわ!」


 おい、最後のやつ。なんで店内で魔術使おうとしてんだよ・・・・。


 フィーネかユキが散らしたから不発だったんだろうけど、昨日は見事に炸裂させたんだろうな~。


 食堂と同じく全ての什器が強力な素材で作られてるし、試合用の結界が張られてるから大事にはならないけど、人や商品は傷つくから止めてもらいたい。



 地球でも同じようにサービス品を求めて怪我する人も居たし、少しでも安さを求めて血反吐を吐きながら駆け回る生き物なんだろうな、人間ってやつは。


 『数量限定』『期間限定』『地域限定』などなど、限定って言葉が付くともうアウトだろう。




 そんなこんなと色々大変そうだったけど、そのお陰で2日目の売り上げも凄い事になった。従業員の疲労と共に。


「う・・・・うぅ・・・・ア、アタシ、店長無理かも。だ、誰か・・・・変わ・・・・って」


 倒れる寸前のノルンが縋るような目で周囲を見渡すけど、全員が目を背ける。


 それを見届けたノルンは一言「薄情者~」と呟いて静かに意識を手放した。


「良かったなノルン。夢にまで見た自分の店だぞ」

「店長、今は静かにお休みください。そして明日からも私の変わりにクレーム対応しながら迫りくる拳を防いでください」

「僕達にはノルン店長しか居ないんです。人柱として真っ先に矢面に立っていただける店長しか・・・・」


 結構酷い事言われてるな。


 頑張れノルン店長! 負けるなノルン店長!


 皆が君に期待してるぞ!



 しかしこんな状態にも関わらず限定販売を実行するのは流石だ。


 そこまでしなくても行列は出来るだろうけど、オープン期間で好印象を植え付けるために色々やってるのは凄いと思う。


 まさにプロ根性!




 ちなみにレジ専門のソーマ夫婦は割と元気だった。


「だって商品を通してお金を受け取るだけだし」

「攻撃されなければそんなに疲れないにゃ」


 そりゃそうか。トリーの言う通り、従業員の疲労のほとんどは物理的なモノだしな。


 昨日の夜にノルンが「なんで殴る蹴るの暴行が犯罪行為として扱われてないんだよ!」って愚痴っていたけど、商品を受け取る際『たまに』接触することがあるだけなので不問らしい。


 ぶっちゃけ見て見ぬふりだろ? 警備隊も関わりたくないだけだろ?


 マリクに確認したら「じゃあルーク様が大きくなったら止めるんだな?」と言われて黙るしかなかったよ。


 あの惨状に介入する? 無理無理。



 とにかく新商店は大成功!

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