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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十八章 ステーション

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千二百三十話 ステーション4

「あのぉ……大変恐縮なのですが、駅の説明を続けていただいてもよろしいですか?」


「アンタ等それで良いのか!?」


 強者達によって特に意味もなく拉致監禁された記者の1人が、怒るでも嘆くでもなく、むしろ盛り上がっているところを邪魔して申し訳ないといった様子で進言してきた。


 残る2人……いや3人も是非にと言わんばかりに頷いている。


 堪らずツッコむ。


 言ったのが協力者の中身が入れ替わっていることを知らなかった記者Dなら、他社の人間の不満より仕事優先したのだろうと納得も出来るのだが、拉致された本人達が率先し、記者Dが『お前等がそれで良いなら……』と半ば従うような形で賛同するのは反応に困る。


 取り合えず冗談っぽく弄ってみたが、後日訴えられても不思議ではないし、そこまで大ごとにはせずとも独占取材などを要求される可能性はあるので、気が気ではなかったりする。


(勢いで『構いません』って言質を取ろうとしてるクセに~。後から何か言われても、一度許したことを蒸し返すな、と跳ね除けられる力を得ようとしてるクセに~)


(だまらっしゃい。元はと言えばお前のせいだ)


 非協力的な犯人を擁護しなければならない弁護士の苦労を実感しつつ、ハラハラしていると、


「慣れていますから」


「記者の仕事は理不尽な目に遭うこと。上辺だけの取材なんて意味がありません。トラブルに巻き込まれてこそ本物です」


「この業界では逸話が多いほど一流とされています。なのでこれは勲章ですよ」


 一同はそんな俺の不安を取り除くように笑顔で答えていく。


「フッフッフ~。迷惑を掛けて良い人かどうかちゃ~んと見極めてるんですよ~。乗車許可もその辺を基準に出しました~」


 さらにユキが続く。


 その気遣いや労力をどうして他のところに活かせないのか……。


 まぁこれ以上ないぐらい言質取れたし、本人達も気にしてないみたいだし、良いんだけどさ。むしろ有難い。


「あ、それと今後はタメ口で良いですよね? ルークさんは皆さんの恩人になったわけですし。正直やりにくかったんですよ。表舞台に立つような人じゃないのでマナーとか敬意を払うとか面倒臭いと言いますか」


「「「全然OKで~す」」」


 軽い。ツッコミ所満載だがそれもすべて受け入れている。


 これが……記者……!!




「え~っと、どこまで話しましたっけ?」


 駅の説明を再開しろと言われたものの、度重なるゴタゴタで話すべき内容を見失った俺は、記者およびマリーさんに情報提供を求めた。


 ブラインドに映っている画像は、フィーネが描いてくれた各種駅舎で止まっている。そこの利用方法を話していたことは覚えているが詳細がわからない。


 無駄に、ほんっ~~と~~に無駄に時間を消費したので最初から話すのは難しい。


「プラットホームが、乗客が乗降する以外に貨物の積み下ろしもする場所ってところまでよ。貨物駅や車両種別の説明はまだよ」


「どうも」


 ネタバレのようなそうでないような微妙なラインを攻めたマリーさんだが、単語を理解していなければ予告だろうと納得し、情報提供に感謝。説明に入った。


「これだけ安定した走行が可能なんです。木材・石材・石炭などの荒荷も、液体燃料や化学薬品などの危険物も楽に輸送出来ます。それ等は巨大コンテナで管理し、積み下ろしの手間を極限まで削ります。鉄道は他の輸送手段に比べて馬力も頻度も速度も桁違いですからね。成功すれば産業に革命が起きますよ」


「ルークさん!? タメ口はどうしたんですか!?」


 反応したのは記者達ではなくユキ。


 あり得ない状況を目の当たりにしたような悲痛な叫び声と顔をこちらに向けて来る。


「知るか。お前が勝手に言っただけだろ。別に困ってない。説明の邪魔すんな」


 ツッコミで役に立つのはたしかだ。無礼講と言われてはっちゃけたら怒られたみたいなことにならないだけで有難い。仲良いヤツには大人だろうが老人だろうがタメ口を使う。


 しかし敬語が使えないわけではない。というか適度な距離感を保つためにも基本こっちで行かせてもらいたい。


「そ、そんな……年下の天才にタメ口を利かれても一切気にしない人材探し頑張ったのに……一流ではないけどルークさんのやりやすさを優先しようと我慢して誘ったのに……」


「今回のお前の気遣いは見当違いさヤバいな。取り合えず謝っとけ」


「あ、気にしないでください。そのお陰でこうして取材出来ているわけですし」


 先程と変わらない笑顔を見せる記者A(と他3人)。


 ココロ広ぉ~。懇意にしようかな。表舞台に立つ気ないからしたところでな気はするけど。



「コンテナというのは、皆さんも御存知の、出荷や保管時に荷物を傷つけないための“あの”コンテナです。ただサイズはワイバーン便の倍。この車両と同じサイズのものを10ほど連結させて一度に輸送します」


「それが積み下ろしの手間の削減……ですか」


 残念そうな顔をする記者達。


「たしかに凄いですが検査や詰め込み、積み下ろし作業のことを考えると誇張表現では?」


 というか記者Bが実際に口に出した。


 実はユキ達の変装は本人を基にしていたのかもしれない。だから記者Dが気付かなかったとか。他社のことなんて詳しくないだろうし真似が必要かは不明だが。


「いいえ、まだです」


 だが彼等の疑問は願ってもないもの。


 俺はニヤケそうになる口元をなんとか抑えて説明を続けた。


「まず検査ですが、レジスターのスキャンシステムを利用して、装置を通すだけで中身が判別出来るようにします。コンテナも専用のものを用意します。当然詰め込みもしやすいものを。

 さらに積み下ろしですが、『クレーン』という、これまた専用の魔道具で楽々おこなるようにします。コンテナや行き先ごとに管理出来るので余計な積み下ろしがなくなるわけですね。

 例えば『ロア商会(研究所)』と記載されたのコンテナが運ばれてきた場合、その箱ごと昇降口に乗せて、コンテナ専用土台を取り付けた馬車や竜車で研究所に持ち帰って、中に入っている素材やら資料やらを分けるだけで済みます」


「まさかゲームセンターにあるクレーンゲームというのは……」


「その通り。理屈は同じです。規模の関係であちらが先になってしまいましたが一応アイディアとしてはこちらが先なんです」


 イブ関係のゴタゴタが無ければ触れようと思っていたものだが、なんやかんや忙しく今の今まで放置していた。


 近い内に今度友人達と行こうと思う。


「それ等を実現するためにプラットホームには専用の場所を設けます。通称『貨物駅』。商店で言うところのバックヤードだと思ってください。人も乗る混合列車と乗らない貨物列車で分けないといけないので。

 ちなみに車両の整備や点検なんかも積み下ろし作業と並行しておこなう予定です。地上・地下鉄・リニアの三階層に分けたことで必然的にエスカレーターやエレベーターが設置されるので、貨物などの運搬も楽におこなえるんですよ。お年寄りや障害者にも対応可能ですしね」


「ほ、ほほぉ……」


 だから記者B。お前は何故戦慄する。素直に感心しろ。どこのライバル企業だ。やっぱり同じか。ちょっと盛ったor本心を曝け出したのがユキ達の姿だったのか。


 と、約1名の態度が気になる者も居るが、他は至って真面目なので彼等に迷惑が掛からないよう、こちらも真面目に説明を続ける。



「その実現に必要不可欠なのが用途別の便です」


 タッチパネルに『特急』『急行』『普通』という3つのワードを書く。


「特別急行列車、縮めて『特急』は、主要な駅にしか停まらない長距離移動向きの列車です。他2つと比べて速度もあり、車内設備も整っているため、特別料金が掛かる……言ってしまえばVIP向けのものです。

 『急行』は、特急ほどではありませんが停車駅を絞って速達性を優先させた列車です。これも特急ほどではありませんが追加料金が掛かります。

 『普通』は普通列車のこと。一部の駅を通過することはありますが、基本的に全ての駅に停まる列車です。急行などと比べて速達性に劣ることから『鈍行』などとも呼ばれて……ではなく呼ぶかもしれません。安さが売りで通勤・通学向きです」


「つまり、国外への旅行や輸送は特急を、国内なら急行を、隣町なら鈍行を利用するということですね。その後の流通コストを考えたりしながら」


「その通り!」


 コストなんてものは、停車駅付近に支店があるか否かで大きく変わるし、町の規模や人気度によって便を手配出来るかどうかでも変わってくる。稼げるとわかったら他社も多少の損を覚悟で参入してくるだろうしな。


「逆に言えば製品や産業に自信があればいくらでも広めることが出来ます。これまで輸送の難しさから世に出回らなかった良品が沢山見つかるでしょうし、土地を余らせていた地方は格安で提供すれば工場地帯になれるので人員不足で手が出せなかったものも沢山生まれるでしょう。『田舎暮らしがしたい。でも仕事も大事』みたいな人は遠方から通勤出来ます」


「なるほど! 納税アップと地下鉄使用料で国が潤うわけですね!」


 言い方ぁ……そうだけど言い方ぁ……。


 せめて産業拡大による発展と公共交通機関の整備って言ってぇ~。


 あと何度も言うけど絶対広めないでぇ~。


 特に記者B~。

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