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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十八章 ステーション

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千二百二十九話 ステーション3.5

「さて……このプラットホームですが、先程も申し上げたように客が車両への乗降をおこなう他、貨物の積み下ろしもおこないます」


 それは運輸については事前説明会でもされた質問。


 人が運べるなら物だって運べる。


 しかし地下鉄道はリニアとは動力も製造方法も異なるもので、開発に着手すらしていないのだから、具体的にどの程度の質と量と速さがあってどのぐらいの経済効果を生み出すのかなんてわかるわけがない。


 そもそも今回はあくまでもリニアのお披露目。駅だの地下鉄だのは付属品だ。今日のところは今後の展望を聞いて納得しやがれ。


 ――というのが俺達の言い分だが、出力やら製造期間やらコストはさて置き、構想はそれなりに整っていたりする。


「今から話すことは公式発表ではなく計画の再確認、あるいは改善案を出すための議論と思ってください」


「それは構いませんが……説明会でもそう言えば良かったのでは?」


 保険を掛けると記者の1人が『何故ここで?』と首を傾げた。


「皆さんのやる気があればやってましたよ。でも不確定情報をあーだこーだ説明されて退屈そうにしてたでしょ。確定情報であるリニアの理屈すら理解するのを諦めて説明された通りのことをメモってたでしょ。面倒臭そうに」


「つまりこちらの対応を見て内容を変更したと?」


「そうですね。あと何度も言いますけどリニアを知ってもらってからの方がやりやすかったので。よほど積極的でなければしないつもりでしたよ」


 もしこれがステーション計画の説明会なら責められても仕方のない蛮行だろうが、本題とは別のほのめかしだとしたら割と普通なんじゃないだろうか。


 やるかやらないかはその場のノリ。今じゃないと思えばしない。


 それだけの話だ。


「俺が求めていたのは『浮遊という究極の安定性を持つリニアほどでありませんが、馬車や竜車とは比較にならないぐらい人とモノを運べます!』と言われて、『なるほど! 期待してます! ところでリニアですが――』とどんな些細な情報でも受け入れられる、流せる、心の広さだったんです。

 あの場でそんなこと言ったら絶対『具体的にどのぐらい?』と質問してたでしょ? そういうんじゃないんですよ。今しようとしてる話は。

 『こういう計画があるので実現に向けて動いています。いつ成功するか、そもそも成功するかすらわかりませんけど、首を長くして待っていてください。これはそのための用意です』を期待感で終わらせられる人達なら話してましたよ」


 と、幾重にも圧を掛けたところで話を戻そう。


「リニアは速過ぎる上に積載量もないので無理ですが、数と量と適度な速度を兼ね備えた地下鉄なら人とモノを同時に運ぶことが可能になります。

 1本の列車に客車と貨車の両方を連結したものを『混合列車』、貨物だけを乗せて運行するものを『貨物列車』と呼び……あ、列車というのは文字通り列をなす車両のことですよ。2両またはそれ以上の鉄道車両が連結されたもので、少なくともそのうち1両は機関車であるものを指します。

 車両全体が動力のリニアは微妙なところですが、地下鉄は先頭車両が動力装置を有していて、駆動をおこなわない他車を前から牽引する形になる予定なので機関車となります」


 この辺りや改札関係は説明会でも話しているので大まかで良いだろう。


「これだけ安定した走行が可能なんです。木材・石材・石炭などの荒荷も、液体燃料や化学薬品などの危険物も楽に輸送出来ます」


「具体的にどのぐらいですか?」


「……いい加減にしないとぶっ飛ばすぞ。勘違いじゃ済まないんだよ。どう考えてもわざとなんだよ。その言動は」


 三歩あるくまでもなく忠告を忘れた記者Bを睨みつける。


「これは私ではなく他社さんから質問しておいてくれと頼まれたものでして……」


「それを口に出すかどうかはお前次第だろうが! 記者ならもっと取材相手に配慮しろ! やめろって言われたことを人のせいにしてやんな!」


 まるで融通の利かない新人だ。


 上司からやれと言われたことは先輩に注意されてもやり続ける。やれと言われていないことはしない。やるなと言われたら客が求めていてもやらない。


 わからないなら聞け。不安なら相談しろ。全員が満足のいく結果を求める心を捨てるな。


「ですが今後のことを考えると断るわけにも……」


「イチ出版社と世界的大企業&王国&関係者一同、どっちを優先すべきかなんて子供でもわかるだろ!!」


「そ、そうですね……」


 コイツやコイツの勤め先と交流を持つつもりはないが、頼んだヤツだって出来れば程度で考えていたはず。なら普通は僅かな利益より敵対関係をなんとかする。


「仕方ありません。ここで得た情報をあることないこと付け加えてリークしましょう」


「お前本当に記者か!? 実はセイルーン王国やロア商会に恨みのある組織からの刺客じゃないのか!?」


 安堵したのも束の間。記者Bは勘違いでは済まない発言をおこなった。


「表に出されても問題ないから話すのではないのですか?」


「公式発表にすんなって言ってんだよ! 捏造もダメ!」


 心底不思議そうに首を傾げる記者B。


 コイツは注意しておかないと絶対に『コッソリ教えてもらったんだけど実はこういう計画が進んでて~』と確定事項のように話す。注意しても話す。


 つまり排除あるのみ。



「お前フィーネの取材してろ」


「それはちょっと……」


「俺はお前が拒否することを拒否する」


 コイツが居たら話が進まん。


 あとその反応もダメだ。フィーネの取材はイヤだと言っているようなものじゃないか。


 コイツ、本当に記者か? 自分のことを記者だと思い込んでる一般人だったりしない?


「たしかに役割分担と言っても質問事項が書かれた紙の通りに話を聞くだけで誰がやっても変わりませんし、決め方もジャンケンでしたし、最終的には自社の都合の良い様に書き換えて記事にしますけど、私にもプライドというものがですね……」


「欠片も見当たらないが!? 今の説明のどこにプライドを抱く箇所が!?」


「え? 都合の良い様に書き換えるための努力とか。真実ではない、しかし嘘でもない、そんな絶妙なラインで訴えられないよう情報改変するのが我々の責務です」


「お前記者辞めろ。てかお前等か。まともな情報を出す気のない出版社は滅びろ……いや、俺がこの手で滅ぼしてやる」


「携わった事業の情報を自分達の都合の良い様に改変しようと、ロア商会幹部出版業界に宣戦布告……と」


 クソッたれが。言い方に悪意しかないが間違いではない。鬱陶しい。大人の手口だ。権力者のやり口だ。誰だ、剣よりペンが強いなんて言ったヤツは。世の中こんなのばっかになってるぞ。どう責任を取るんだ。


 まぁ白黒ハッキリさせる方法あるから良いですけどね。


「好きにしろ。精霊裁判で潔白を証明するだけだ。良いからさっさと退け」


「え~」


 不満たらたらの様子ながら、暴力に訴えられてはかなわないと大人しく席を立った記者Bの代わりに現れたのは、


「チョリーッス、シクヨロー」


 プリンのような頭をしたボサボサのロン毛男が、目元ピースをキメながらやる気なさげに挨拶してきた。スーツですらない。ともすればジーンズがずり落ちそう。


 ねぇ、歴史的イベントの取材になんでこんなゴミを寄こしたの? 出版業界大丈夫? 今のところ記者Aしかまともな人居ないよ? 残り1人だよ? そもそもこんな人居た? 入れ替わってない?


「「「…………」」」


 なに今の間。



「真の姿を見せろ!! カァッ!!」


「「「くっ……!」」」


 幻術だか変装だか知らないが彼等が本物の記者でないことを察した俺は、気合一閃、車内に荒らしを巻き起こして勘違いされやすいタイプの記者Bとチャラ記者C、巻き込まれただけの真面目な記者Aの仮面をはぎ取った。


「ドッキリ大成功~♪」


 元記者Bことユキは慌てることもなく、いつも通りニコニコと子供のような笑みを浮かべながら、背後から『実は私達も乗ってました~』と書かれた台詞と内容が逆のプラカードを取り出した。


 ちなみに残る2人はイヨの両親。チャラ男がパパさんで、真面目がママさん。たぶん里を出てから半年経ったとかで様子を見に来たんだろう。


 エルフという希少種が3人も集ったら騒ぎになるはずだが、乗客達はそういうイベントと思っているのか、一向に騒ぐ気配がない。幻術が二重で掛けられていて力ある者にしか彼等の本当の姿が見えてない可能性もあるな。


「大失敗だよ。本物の記者達はどこへやったかの説明は良いから今すぐ連れて来い。そして謝って来い」


「了解で~す」


 そう言ってユキは先程まで座っていた椅子を回転。前を向いている椅子との間のデッドスペースを綺麗に埋めていた3人の記者を助け起こした。


 イブ達を取材していた1人は本物だったらしい。入れ替わったタイミングは不明。答えるつもりもなさそうだ。


 ……で、なんなん、このイベント? 本当に必要だった? 記者も4人じゃダメなんですか? もう1人ぐらいその辺に居たでしょ?


「声は掛けたんですよ。でも皆さん『行けたら行く』ばかりで、参加してくれたのがお2人だけだったんです~」


「忘れていたら殴る」


「お久しぶりです。クララです。こっちは夫のフリーザ」


 見目麗しい男女が、片や高慢に、片や気弱に名乗りを上げた。


 片方は脅迫だったが覚えているし、何故彼等がここに居るかより他のメンバーの参加する気のなさの方が気になるので、正直どうでも良い。


「そんなことよりなんですか~。このイベントは必要ですよ~。私の娯楽と、車内トラブルの保険と、イヨさんのご両親がやって来たことの周知のために」


「1000%お前の暇潰しだろ。トラブルはフィーネが居れば何とかなるし、2人を周知する必要はない。ヨシュアに戻ってから会えば済む話だ」


「デメリットゼロなら良いじゃないですか~。ほら、すぐ後ろですから、皆さんにも私達の話聞こえてましたよ。二度手間にならずに済みますよ」


「どこがゼロだ。人生の貴重な時間が無駄になったわ」


「余った時間で何しようか考えてたクセに~」


 チッ、これだから強者は嫌いだ。


 たしかに、ステーションについて詳細に説明しても、王都到着までに暇な時間があったのは事実。その時間を楽しく埋められたのも事実。サポートが充実して安心したのも事実。優しいフィーネと違ってエルフ族の率直な意見を聞けて嬉しいのも事実。


 ぶっちゃけユキを責める理由が何一つ見つからない。


 だからこそ悔しい。


 自分でやろうと思っていたことを完璧にされた。格の違いを見せつけられた。気が付いたらレールを敷かれていた。


 悔しい!

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